ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

まほろ王国コミュの音楽家と暮らしたら 〜第一楽章〜

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 カフェオレがたっぷり入ったボールを両手で包みながら、あたしはぼんやりしていた。まだ頭は目覚めきっていない。白いカーテン越しに差し込む、爽やかすぎる朝の光。珈琲の匂いでいっぱいの室内には、モーツアルトが小さく軽やかに流れている。今夜の演奏会で彼女がタクトをふる作曲家だ。
 軽くトーストしたフランスパンの横に、完璧なレア具合の目玉焼きを滑らせ、彼女は朝食のプレートをあたしの前に置く。ママンがちびっこにするみたいなキスをおでこにひとつ。「おはよう、お姫さま」「‥‥オハヨウゴザイマス‥‥」
「ねぇ。来年の拠点ね、ロンドンに移すことにした」 え? 
「引越しはクリスマス前でも、年明けでもいいんだけど。姫が決めて。
 あんまりゆっくりだったら、先に行っちゃうけど」 え?ええー!!
 一気に脳味噌が覚醒する。国内でも引越しは大変なのに、そんな隣町へ行くみたいに気軽にいわないでよ!
「来るよね、ロンドン。来ないとかいわせないから」彼女の目がいたずらっ子のように笑っている。あー、もういつもこうなんだから!最初はロシア、その次は、ぷらっとプラハ、気まぐれにウィーン、ちょっとパリ、でしばらく日本にいたかと思ったら、ほんとに落ち着きがないというか、グローバルすぎるというか。

 でもそこそこ人気のある指揮者である彼女にとっては、ロンドンなんて隣町くらいの感覚なのかもしれない‥‥

「今夜、演奏会くるんだったよね」ミルクもお砂糖も入れない、大人な珈琲を飲みながら、彼女は微笑む。「惚れ直させてあげるから楽しみにしていて」

 スコアを復習しに音楽室に去っていった彼女を見送りながら、どうしてこう音楽家って唯我独尊なのかしら、と溜息をついた。
 そんなことを思いながらも、頭のはしっこでは、英語を習いに行かなくちゃとか、ロンドンに住んでる友達に連絡取らなくちゃとか、バイトはいつ辞めようかとか、考えちゃってる自分がちょっと情けない。

 はーあ。
 でもね。タクトを振ってる彼女はほんとにかっこいいんだ。ほんとに素敵だから仕方がない。あたしは、今年ももう残り少なくなってしまったカレンダーを眺める。

 ロンドンで過ごすクリスマスもきっと素敵だわ。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

まほろ王国 更新情報

まほろ王国のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング