山陽本線沿線観光コミュの原爆ドーム

　この建造物は、明治43(1910)年に広島県会で建設が決定された「広島県物産陳列館」でした。
　当時の広島県知事寺田祐之(1851～1917)は、前職の宮城県知事時代、チェコ人建築家ヤン=レッツェル(1880～1925)の設計した松島パークホテルを見て高い評価を与えていたため、彼に設計を任せる事を決めたとされています。なお、当時チェコ国家は存在せず、レッツェルはオーストリアハンガリー帝国国籍です。
　広島県物産陳列館は、大正４(1915)年４月５日に竣工、同年８月５日に開館しました。ドームの先端までの高さは約25mあり、ネオバロック的な骨格にゼツェシオン(分離派)風の細部装飾を持つ混成様式の建物でた。なお、日本とオーストリアハンガリー帝国は前年に交戦状態に陥っていたため、レッツェルは一旦帰国を余儀なくされています。
　大正８(1919)年３月４日から物産陳列館で開催された「似島(ﾆﾉｼﾏ)独逸(ﾄﾞｲﾂ)俘虜技術工芸品展覧会」では、日本で初めてバウムクーヘンの製造販売が行われました。これは、第一次世界大戦中に中華民国の青島(ﾁﾝﾀｵ)で日本軍の捕虜となり、広島湾に浮かぶ似島の似島検疫所内「俘虜収容所」に収容されていたドイツ人菓子職人カール=ユーハイム(1886～1845)によるものでした。ユーハイムは同年６月のヴェルサイユ条約調印後も日本に留まり、現株式会社ユーハイムの原型となった菓子店を創業する事となります。
　広島県物産陳列館は、大正10(1921)年に広島県立商品陳列所と改称し、同年には第四回全国菓子飴大品評会の会場にもなりました。
　さらに昭和８(1933)年には広島県産業奨励館に改称され、この頃には盛んに美術展が開催され、広島の文化拠点としても大きく貢献しました。しかし、大東亜戦争の戦局が悪化した昭和19(1944)年３月31日には奨励館業務を停止し、内務省中国四国土木事務所・広島県地方木材株式会社・日本木材広島支社等の行政機関・統制組合の事務所として活用されていました。
　そして、運命の昭和20(1945)年８月６日0815時、原子爆弾が建物の東150ｍ・上空約600ｍの地点で炸裂、建物は通常の日光による照射エネルギーの数千倍という熱線に包まれ、地表温度は3000℃に達しました。建物前面に衝撃波を伴う秒速440ｍ以上の爆風が襲い、350万パスカルという爆風圧、即ち１㎡当たりの加重35ｔに曝されたため建物は原爆炸裂後１秒以内に三階建ての本体部分がほぼ全壊しましたが、中央のドーム部分だけは全壊を免れ、枠組みと外壁を中心に残存しました。
　ドーム部分が全壊しなかった理由として、衝撃波を受けた方向がほぼ直上からであった事、
窓が多かった事により爆風が窓から吹き抜ける条件が整った事、ドーム部分だけは建物本体部分と異なり屋根の構成材が銅板であった事等が考えられています。銅は鉄に比べて融点が低いため、爆風到達前の熱線により屋根が融解し、爆風が通過しやすくなったのです。なお、原爆投下時に建物内で勤務していた内務省職員等約30名は全員即死したと推定されています｡
　建物ドーム部分は全体が押し潰される程の衝撃を受けなかったため、爆心地付近では数少ない被爆建造物として残り、その後暫くは窓枠等が炎上せずに残っていたものの、やがて可燃物に火がつき建物は全焼して、ついに煉瓦や鉄骨等を残すだけとなったのです。
　戦後の広島に於いて、ドーム状の鉄枠が残る産業奨励館廃墟はよく目立ち、サンフランシスコ講和条約が締結された昭和26(1951)年頃には既に市民から「原爆ドーム」と呼ばれるようになっていました。
　復興が進む中で全半壊した被爆建造物の修復あるいは除去が進められ、当初は産業奨励館廃墟も取り壊すべきだという意見も多かったのですが、広島平和記念公園構想が本格化すると、保存の声も高まり、昭和28(1953)年に所有権が広島県から広島市に移転されました。
　昭和30(1955)年に広島平和記念公園が完成しますが、この公園は原爆ドームを北の起点として原爆死没者慰霊碑・広島平和記念資料館が南北方向に一直線上に位置するよう設計されており、原爆ドームはシンボルとして一層際立つ事となりました。
　1960年代には風化が進んで崩落の危険が生じましたが、保存運動が高まり、昭和41(1966)年に広島市議会が永久保存する事を決議、翌年には保存工事が完成し、その後定期的に補修工事が施される事となりました。
　そして、被爆50年に当たる平成７(1955)年に国の史跡に指定され、翌年には「負の遺産」としてUNESCO世界文化遺産にも登録されたのです。
　広島駅から広島電鉄市内線で14分。原爆ドーム前下車。

＊平和記念公園
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