「中国政治論」を学ぶコミュの中国大国論議レジメ

「中国は、スーパードラゴン（超大国）になれるか～中国人の描く自画像と現実」
西倉一喜

☆スパードラゴン　リー・クアンユー・シンガポール元首相の言葉
　　　　　　　　　華人都市国家を日本に次ぐ生活水準まで発展させた実績
　　　　　　　　　鄧小平　中国人でもこのような近代的な国家が作れるのかと驚嘆
　　　　　　　　　社会の隅々まで徹底した管理とエリートによる経済発展政策
　　　　　　　　　同じ中国系指導者、実績　アジアの水戸黄門的ご意見番
　　　　　　　　　韓国、台湾、香港、シンガポール　４つのリトルドラゴン
　　　　　　　　　巨龍
　　　　　　　　　１０年以上前にやった中国連載企画「スーパードラゴンへの道」
　　　　　　　　　カンフー・スター　ブルース・リーの出世作　ENTER THE DRAGON
　　　　　　　　　
☆中国はどうなる　　二十一世紀は中国の世紀といわれる
国際社会で存在感を増す中国が一体どういう国になるのか
　　　　　　　　　世界各地の特派員に中国の実態とイメージを描かせた
　　　　　　　　　期待感と不安感の錯綜
　　　　　　　　　巨大な市場として世界経済に貢献
　　　　　　　　　強大な軍事力を持つ地域大国
　　　　　　　　　イメージは固定されたものではなく大きなブレ
　　　　　　　　　視る主体の立場によっても異なる
　　　　　　　　　中国崩壊論から超大国論
　　　　　　　　　中国脅威論から中国特需論
　　　　　　　　　中国ウォッチャーにもいろいろな見方が　反中国、親中国
　　　　　　　　　自分の願望や恐れを映し出す鏡のような存在
　　　　　　　　　外国人には中国のことはよく分からない
　　　　　　　　　では中国人自身は分かっているのか
　　　　　　　　　急激な発展と同時に貧富の差の拡大や環境破壊などの矛盾に直面
　　　　　　　　　転換期の中国の位置づけに戸惑う状態の中にある

☆大国論ブーム　　今年の春休みに中国を短期旅行
　　　　　　　　中国は大国論ブームの最中
　　　　　　　　「大国はどうあるべきか」「どのようにして台頭したのか」議論が熱中
　　　　　　　　きっかけは昨年１１－１２月に放映された歴史ドキュメンタリー作品
　　　　　　　　「大国崛起」１２回シリーズ
　　　　　　　　１５世紀以降の世界舞台に台頭した
スペイン、ポルトガル、オランダ、英国、
ドイツ、日本、ロシア、米国―９カ国を取り上げた
１５世紀、明朝は鄭和の艦隊をアフリカまで派遣したものの鎖国へ
賛否両論が沸き起こり、台湾や香港など華人世界全体で話題に
新聞や雑誌、ネットなどがこぞって「大国論」特集
北京と南京の書店ではＤＶＤ版が特設コーナーに山積みに
→ＤＶＤを上映、冒頭部分を見せる

☆内容を簡単に説明

第一集「海洋時代」では、大航海時代のポルトガルとスペインの盛衰を描く。植民地の争奪で栄えたが、商工業の発展に力を入れなかったために衰退

第二集「小国大業」では、オランダにおける都市自治と資本市場の発達に着目、ここで生まれた商業規範が世界に影響を与えた

第三集「走向現代」、第四集「工業先声」では、マグナカルタ（大憲章）などを通じた議会政治の起こりと産業革命を経て世界的な植民地帝国の道を歩む

第五集「激情歳月」ではフランス革命、人権宣言、ナポレオンの登場を経て戦後のドゴールの独自路線を生み出したフランス政治文化

第六集「帝国春秋」では、鉄の宰相ビスマルクの富国強兵の近代化政策が技術大国のドイツを生んだ

第七集「百年維新」ではペリーの黒船来航から明治維新後に大久保利通や渋沢栄一らが手がけた政治、経済政策を紹介し、アジアの非白人種の島国・日本がどうして経済強国になったか

第八集「尋道図強」第九集「風雲新途」では、ピョートル大帝から革命家レーニンに至るロシアの近代化と社会主義大国化

第十集「新国新夢」（新大陸とフロンティア）第十一集「危局新政」（大恐慌とニューディール）では、新世界に打ち立てられた米国の歴史、フォード生産方式や科学技術の発明と市場経済の発達が経済成長を促し、超大国を誕生させた

第十二集「大道行思」は総括編。大国のための重要な条件として思想文化を挙げる。真の意味で世界的な大国としてオランダ、英国、米国を高く評価する。ちなみにこれら三国は市場経済であり制度革新を積極推進した
　大国勃興の理由として?創意ある制度?国民資質の向上?ソフトパワーなどの要因を挙げている。
　この作品は中国の大国化の言及する部分は全くない。しかし、各国の盛衰の行方を探る視線は、その先に中国を「次の大国」と位置づける暗黙の了解がうかがえる。

☆ この作品の意図

　　この番組作成の意図は、それを放映したのが中国国営中央テレビ局（ＣＣＴＶ）であることがポイント。中国のメディアは共産党の完全な統制下にある
その中でも通信社の新華社、新聞の人民日報、テレビのＣＣＴＶは要（かなめ）的存在であるため共産党トップの意向が直接的に反映される。
→ダンボール肉まん事件の「やらせのやらせ」
　実は番組制作者も明かしているのだが、共産党政治局は過去数年にわたり「１５世紀以来の世界主要国家の発展史」の勉強会を行っていた。つまり大国論盛り上がりの火元は共産党指導部だったのだ。「後発の大国として世界の主要国の現代化と歴史的経験から学ぶことは中華民族の復興に役立つ」と胡錦涛・共産党総書記は、学習の目的と目標を明らかにしている。
　この作品を視て感じることは、その歴史観が伝統的なマルクス主義史観と大きく異なっている点である。つまり大国の台頭を植民地国からの略奪あるいは帝国主義国間の争いだけとしてみるのではなくて、暗にこれらの資本主義大国の政治経済制度の優越性を認めていることだ。
　これに対しては左派・保守派の方からネットを通じて、革命に対する裏切り行為だとか資本主義への投降だとかいう激しい反発が噴出した。そこで彼ら言及したのがもう一つの歴史ドキュメンタリー映画「河殤」だ。これは今から２０年前に同じくＣＣＴＶから放映されて大きなブームとなった作品で。　河殤とは中華文明の象徴である黄河への挽歌を意味する。それは黄河や万里の長城が象徴する閉鎖性を打ち破り、対外開放による中華文明再建を呼び掛ける内容だった。しかし、中華文明を否定的に扱うなど共産党指導部の一部保守派の不満を招き、「西洋崇拝」とか「歴史虚無主義」などの批判を浴びた。その制作に関わった人々の多く１９８９年の天安門事件の際に摘発され、一部は国外に亡命した。
　一方、右派改革派からの批判もある。それは作品が経済を中心テーマとし、政治思想に正面から取り組んでいないということに尽きる。ナチやソ連が滅びたのに、米国が生き延びたのは民主主義とは関係のないのかという声に代表される。この指摘は共産党の急所を突いているだけに現状では「ないものねだり」ということだろう。
　この二つの作品の間には２０年の歳月が流れているが、河殤は画面が暗いトーン（白黒）で国を憂える絶叫の叫びという感じだったのに対し大国掘起はコンピューターグラフィックスを活用した明るい画面で落ち着きが感じられる。そこには中国のその後の変化に対する自身が現われているようだ。
　中国青年報が掲載したアンケート調査によれば、「中国は台頭している」と回答したのは４９％、「まだ台頭していない」としたのは４７％で拮抗しているが、別の設問では８０％が「中国の大国化が近く実現することを望む」と答えている。
　ではどの分野で中国は既に大国と呼べる段階に達しているかとの設問には。イエスと答えた者が過半数となったのは人口（８２％）とスポーツ（６０％）だけ。他の分野は‥‥。
政治（２５％）、外交（３８％）、経済（３７％）、文化（２７％）、天然資源（２６％）、軍事（２５％）だった。中でも注目されるのは「国民の資質が大国の国民と呼ばれるにはふさわしくない」と答えた者が９６％にも達したことだ。
　共同通信北京支局が学者たちに取材したところ、「中国から発展途上国のレッテルをはがすべきだ」「国力は日本も欧州諸国も抜いた」との声がある反面で「多くの国民がまだ貧しいことを見れば強国とはとても言えない。多くの知識人には抜きがたい「弱国意識」がある」との醒めた見方もある。

☆ では統計でみた中国の大国度はどうだろうか。世界国勢図会（２００６－７年版）

人口?（１３億人）、国土面積?、
国際的地位は国連安保理常任理事国（拒否権を持つ５カ国の一つ）分担金２％　日本２０％
賃金　製造業　日本を１００とした場合、４％弱　約２５分の１
国内総生産（ＧＤＰ）　２００４年　?米国?日本?ドイツ?英国?フランス?中国
　　　　　　　　　　　　　　　　　　現在ではドイツの後の?に
　　　　　　　　　　　　　　　　　成長率過去２０年間平均１０％前後　高度成長期に
エネルギー　石炭?、石油は需要に追いつかず輸入国に
農業　第一次産業従事者４４％（日本５％）、
農業従事者一人当たりの耕地面積１ｈａ（日本の半分）
　　　農村の過剰人口、生産性の低さがネック
鉱工業「世界の工場」に
　　　粗鋼、アルミ、亜鉛、鉛、すず　１位
　　　造船?、自動車?（１００人当たりの台数は２台）、工作機械?、産業ロボット?
　　　電子機器　カーナビを除きほとんどが１位
　　　　　　　　カラーテレビ、ビデオデッキ、携帯電話、デジカメ、カーオーディオ
　　　　　　　　パソコン
　　　家庭用電気製品　冷蔵庫、洗濯機
化学工業　窒素肥料、化学繊維、セメント、ビール
貿易　輸出入とも３位（日本を抜いた）、米国も抜いて２位に？
外貨準備高　日本を抜いて１位に　日本とともに米国国債の最大の引き受け手
通信　インターネット・携帯電話利用料　?米国?中国?日本
生活レベル　１人当たりでは発展途上国レベルがほとんど
　　　　　　教育　対ＧＤＰ支出　２％　
アジアでも一番低いほう　義務教育がまだ普及していない
高等教育就学率　１９％（日本５４％）
生活格差　所得格差を示すジニ係数４５（日本３２）
沿海と内陸、都市と農村、社会階層間で急速に拡大中
軍事　核弾頭数　米、ロ、英、仏についで５位　
　　　国防予算　米、ロについで３位　対ＧＤＰ比１・８％、日本は０・９％
　　　兵力は世界１、２位だが、装備が旧式
　　　パワープロジェクション（海外への兵力投入）能力なし
　　　空母を含むブルーシーネイビー構想

結論　量はトップレベル(先進国)に追いつきつつあるが、中身の質が問題(発展途上国)

☆今後の大国への歩みで考えなければいけないこと
１９世紀あるいは２０世紀型ではない２１世紀型の大国を目指すのであれば

?暴飲暴食経済から持続可能な経済発展への切り替え
日本の高度成長期の酷似（中国の場合はグローバル化に乗る）
効率が悪い中国の経済発展
１９８０年代から２０年ごとに所得を４倍にする計画「翻両翻」
２５０ドル→１０００ドル→４０００ドル
２０２０年に日本に追いつき、２１世紀後半に米国に追いつく
西洋で産業革命が始まるまでの中国のＧＤＰは世界一だった
取らぬ狸の皮算用にならないために

CHINＡ　ＤＡＩＬＹの記事「中国の発展パターンを変えなければならない」
　中国は世界のＧＤＰの５・５％なのにエネルギー消費は１５％
　汚染大国になる　日本への酸性雨（硫黄分の多い石炭を燃やすため）
　１０年以内に地球温暖化ガス（二酸化炭素）などの排出量は米国を追い抜いて１位に
格差が拡大する危険→社会が不安定に
胡錦涛政権「調和のとれた発展」「親民政策」スローガン倒れにならないか
庶民の生活水準の向上
右肩上がりが終わった時に政治危機が訪れる

?政治の民主化
　選挙による指導者選び、複数政党制
　闘争ではなく、妥協による問題解決
　市民社会の形成、社会の多元化
報道、宗教、思想信条の自由と人権の尊重
メディアによる権力者の職権乱用の監視
　国防政策の透明化　周辺国の脅威感を緩和
　国権優先の後発型大国ドイツ、日本、ロシアの失敗の教訓
　パックス・デモクラティア（民主国家同士は戦争をしないという経験則）
　民主化の「第４の波」が中国に押し寄せる

?大国としてのおごりへの戒め
「夜郎自大」の傾向
改革・開放路線の総設計士、鄧小平「韜光養晦」（とうこうようかい＝脳あるタカはつめを隠す）と中国が時期尚早に大国の振る舞いをすることを戒めた。胡錦涛も「平和的台頭」を強調。しかし国連安保理でのミャンマー非難決議案への拒否権発動や欧米の批判を尻目になりふり構わずアフリカへの進出を図るなど「つめ」が徐々に現われ始めている

?超大国・米国、地域大国・日本との関係調整
　ライバルかパートナーか
　リアリスト的あるいは地政学的悲観的宿命論からすれば米中はいずれ２極対立へ
　ウイン・ウインの関係は可能か　相互依存と牽制
　「潜在的脅威」に対するヘッジ
　グローバル時代の大国間関係

　※中国が名実ともに世界の大国になれるかどうかの基準は台湾問題に現われる
　　武力で威嚇して統一を強制するのではなく
　　台湾人が自由意志で統一を求めてくるような魅力的な国になれるか
　　　
　ソフトパワー　米国のハリウッド
　　　　　　　　唐時代の中国の文化