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霜月邸  『萌え』殿コミュの告白 りう

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(大丈夫だと思って相談したのに……)

濡れ縁に腰掛けてお茶を啜りながら、溜め息をついた。





甘い、甘い日。





「…え、甘いもの?」

文机に向かって筆を走らせていた手を止め、振り返る。

円座にちょこんと静座する訪問客は、俯いたままでゆっくりと頷いた。

「甘いもの、っていうとお団子とかおまんじゅうとか…そういう和菓子しか思いつかないんです。でも…」

「求めてる甘いものはそういうものじゃない、と」

硯箱に筆を戻し、艶やかな長い黒髪を後ろへ払うと、声の主――凛は体の向きを変える。

「その…和菓子、じゃなくって…」

ごにょごにょと語尾を濁しながら話す訪問客――りうの様子に、凛はピンと何かを感じ取り、意味有り気に口角を上げた。

「ああ、洋菓子…それもチョコレート、でしょう?」

「……は、はい」

何だ、やっぱり。

内心で納得しながらも表情に浮かべるのは苦笑にも近い笑み。

明日は年に1度のバレンタイン。ならば妙齢のこの子なら、悩むのは当然ね。

そんなことを考えつつ、凛は口を開いた。

「あのね、りうさん。バレンタインだからと言って、何もチョコにこだわらなくてもいいのよ?」

「え?」

「大切なのは気持ちを伝えること。その手段として、たまたまチョコが用いられるようになっただけなのだと私は思うわ」

「……」

バレンタインの由来から始まればキリがないので、そこは割愛してとりあえず大事なところだけを説く。

…と、りうは凛をジッと見つめていたけれど、やがて何かに気づいたようにハッと我に返った。

「そっか…そうなんですね。大事なのは気持ちを伝えること…」

「そうよ。それにね、」

悪戯っ子のような瞳を見せながら、凛は続ける。

「贈り物ならもうあるじゃない。『りうさん自身』が」

彼女の鼻先をつん、とつつけば、その意味するところを理解したらしきりうの顔が瞬時に赤く染まる。

「ふふ…、きっと景時さんも喜ぶわよ」

「り、凛ねえさま!!」

最後の仕上げとばかりにからかえば、りうの顔は火を噴く勢いでさらに真っ赤に染まり、両手を拳に握り締めて困ったように眉を寄せて怒っていた。

「あはは…ふふっ」

その様子がよほど愉快だったのか、凛はひとりいつまでも笑っていた。





……ということが昨日にあって。





(こういうことの相談なら、やっぱり梓さんにすれば良かったかな…)

明らかな自分の人選ミスに、数え切れないほどの溜め息も零れてしまう。

溜め息の数だけ幸せも逃げていく――誰かからそんなことを聞いた覚えがあるけれど、これが溜め息を零さずにいられようか。

(凛ねえさま、絶対に楽しんでたもん…)

答えは「ノー」だ。

これで逃げていくような幸せならば、あってもなくても同じようなものだろう。

(…とはいえ、大事なことを教えてもらったのは確かだし…でもね、でも…)

脳裏で、大きなリボンで自分の身を包んだ――私がプレゼントです、と口にする自分の姿を想像し、ゾッと体を身震いさせながら勢いよく頭を振った。

「そんな莫迦なこと出来ないって…! いくらあの景時さんでもドン引きだよ…!!」

「ドン引きって何〜?」

「だから大きなリボンをつけて私をプレゼン…ト…」

そこではたと気づく。

(私…今、誰と会話したの…?)

嫌な予感に胸をドキマギさせながら、ギ、ギギギ…と乾いた音が聞こえそうなほどゆっくりと首を動かした。

「りぼん、って何?」

「か、景時さ…!」

ぷれぜんと、は贈り物のことだよね〜と相変わらずへらへらとした笑みを浮かべながら問う景時に、りうは酷い眩暈を感じた。

出来ることならば今、庭に穴を掘ってこの身を隠したい。

もしくは弁慶さんから外套を引っぺがして隠れて……いや、それはそのあとが恐ろしくて出来はしないけれど。

「あのぉ、な、何かご用ですか…?」

くらくらとするのを必死に堪えて問えば、景時は隣に腰を下ろしながら「う〜ん…」と唸る。

「用がなかったら、君のところに来ちゃ駄目なのかな?」

「え…?」

「あ〜…うん、いや、用ならあるんだよ?」

あからさまに、しまった、という顔をして頬を掻きながら言う。

りうは首を傾げる。

「いや、実はさ〜…その、今日は何をするのかな〜って」

視線を空に向けながら問うてくるのに、りうは怪訝に思いながらも「そうですねえ…」と口にした。

今日は年に1度のバレンタインだけれど。

(この世界には、そういう習慣はないから)

誰かのために作ることもする必要がないわけで。

せっかく凛に大事なことを教えてもらったけれど、それが身を結ぶことはおそらくないだろう。

心の中で凛に謝りながら、りうはうっすらと微笑みを浮かべた。

「…今日は別に、何もしませんよ。これを飲んだら凛ねえさまの元にいって、手伝うことがあればそれをして。あとは梓さんや恵さんを相手におしゃべり…ですかね」

「そう…なんだ」

声が小さく感じたのは果たして気のせいか。

何だろうと思いつつも湯飲みに口をつけて啜れば、向けられた視線を感じてあくまで自然に顔を逸らした。

「あの…そんなに見ないでいただけますか…? の、飲みづらいんですけども…」

「あ、ご、ごめん…!」

指摘され、景時は慌てて顔を逸らした。

ポリポリと頬を掻きながらりうを盗み見れば、彼女は手にした湯のみを手のひらの上で回しながら目を伏せていた。

(あ…)

その行動は彼女の一種の癖なのだと、凛に聞いたことがある。

確か…『りうさんはね、照れたり、恥ずかしい時に、手のひらでこう…くるくると湯のみを回す癖があるのよ』と。

珍しい癖もあるものだと、あの時は思っただけだったけれども。

目の前で実際にそれを見れば、少しは意識してくれているんだろうなと何となく嬉しくなって。

景時の頬もへにゃりと緩んでしまう。

「…あ、のさ…」

それを隠すように手のひらて口許を隠すようにしながら、声をかける。

と、りうは答えずにそのまま……下から見上げるように視線だけを送って寄越した。

「…っ…」

滅多に見られない上目遣いに、景時の心臓が跳ねる。

「あの…?」

「あ、あの…さ、今日は1日…君と一緒にいちゃ駄目かな…?」

「………はい?」

きょとんとした面持ちを浮かべるりうに、景時は苦笑する。

「えっと…うん、その…今日だけは一緒にいたいな〜…って思ってさ…」

「…はぁ…」

頬を赤く染めながら言う景時に、りうはその言葉の意味するところが分からなくって首を傾げた。

…と、その刹那。



「あら、ふたりとも。今日に限ってそんなところで並んで座ってるなんて、仲良しさんだこと」



うふふ…と小さく微笑いながら茶化すように背後からかけられた声に、ふたりはほぼ同時に振り返った。

「りうさん、悩みは解決したのかしら?」

「り、凛ねえさま…!」

慌てる様子にまだ解決してないことを悟り、凛は「あらあら…」と微笑みながら、着物の裾を捌いてふたりの背後に腰を落とした。

「ふふ、りうさんの悩みがまだ未解決だということは…」

言いながら、視線を景時に向ける。

すべてを見透かしたかのような強い視線に、景時は苦笑しながら参ったというように両手を広げた。

「やっぱりね…そんなことじゃないかと思っていたけれど……仕方ないわね」

「…凛ねえさま…?」

事情が分からないと首を傾げるりうに、凛の笑みも深くなる。そうして自分の袖口に手を差し込んできれいな布を取り出すと、いまだ不思議そうな面持ちを見せるりうの首にそれを通した。

「え、あの…?」

「いいから、ちょっと動かないでね」

「…?」

凛のしなやかな指先が、りうの髪を払う。と、一瞬だけふわりと揺れて舞い広がる髪に、景時の視線も釘付けになる。

目線だけを上に向ければ、凛の手が布の両端を上に持ち上げ、何かの形に結っているようだ。

(いったい何を…)

しているのだろうと思ったのと同じくして、凛の手がポンと、りうの頭に乗せられる。

「はい、出来た」

「あの、凛ねえさま? 何を…」

したの、と問おうとしたりうの唇に人差し指を宛がい、にっこりと、言葉を飲み込ませてしまうほどに美しい笑みを浮かべた。

「うふふ…はい、間接チュー」

唇から指を離し――こともあろうか、その指先を景時の唇に軽く押し当てたではないか。

これにはりうも、それをされた景時も驚いて。

「「!?!?!?」」

ふたり、声にならない声を発した。

真っ赤になってアワアワとうろたえるふたりを横目に相変わらずの微笑みを浮かべたまま、凛は腰を上げる。



「ああ、そうだ景時さん。今朝話した通り、りうさんからの贈り物は『りうさん』だから、ちゃあんと受け取ってあげてね?」



微笑んで告げられた言葉は、りうにとっては爆弾とも言えるそれで。

けれども凛はくつくつ笑いながら、そそくさとその場をあとにした。

「り、凛ねえさ――きゃ!」

「危ない!」

驚いた拍子に手にした湯のみを滑らせ、地へと落としそうになったところを景時の大きな手が掬い取り――思わず顔を上げた時のその至近距離にふたり同時に顔を赤くして。

「……」

「……」

りうの手の中から湯のみを取って安全な場所へ移動すると、恥ずかしさで顔を逸らした彼女の頬に手を伸ばし、引き寄せる。



「        」



重なり合う視線に耐えられないというように目を閉じたりうに苦笑すると、その耳元に唇を寄せて小さく囁き――そっと、唇を重ねた。















それを柱の陰で見ている人物がふたり。

「…やっとくっついたわね、あのふたり」

「ええ。すべては凛様のご計画通りに」

「…あら嫌だ、人聞きの悪いことを言わないで頂戴。私はふたりに幸せになってもらいたかっただけなのよ」

何食わぬ顔でそう言えば、彼女につき従う銀の髪の男は小さく笑う。

「左様で。なれば…りう様も景時様も、これで幸福でしょう」

「そう…ね。けど、明日から甘えて来られる時間も減って、何だか寂しいわ」

「巣立つ子を影ながら見守る親のようでございますね」

「ふふ、そうかもしれないわね」

銀の言葉に目尻を下げて微笑んでいたけれど――。

「ああ、嫌だもう、景時さんたら」

何度か口付けを交わしていたと思ったら、何とその場に押し倒したのを目に入れて、眉を寄せる。

「……注意して参りましょうか」

言う銀に、凛は嘆息する。

「…いいわ、今日は大目に見てあげましょう。ああ、そうだ、代わりに人払いをしておいてあげて」

「仰せのままに」

「それと銀」

頭を下げて背を向ける彼を呼び止めると、凛は袖を口許に添えてやんわりと瞳を緩めた。

「人払いが済んだら、部屋に来て頂戴。あなたにも…ね」

「…すぐにでも」

そう言い残してその場を去る銀の後ろ姿を見遣りながら、凛もまた、着物の裾を翻して静かに立ち去るのだった。







コメント(2)

ぷぷぷっ・・・

丙さんもりうさんも

「プレゼントはわ・た・し揺れるハート

なのね〜(にやにや)


艶やかなバレンタインで思わずニマニマしちゃいますよ〜


そして
「銀にも・・・ね」

なのね〜
うふふふ〜(爆)
う、うふふふふふ…(目を逸らしながら)



「銀にも…ね」



うふふふふ…(やっぱり目を逸らしながら)

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