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語部夜行 〜カタリベヤコウ〜コミュの裏山

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「子どもの頃の不思議体験って良く聞くよね。僕はまだ分からないけど」

「そりゃ現役の子どもだからね」

「若さか…」

「子ども時代か…」

「ま、大人には大人のお楽しみがあるさ」

「酒!タバコ!っ…」

「おっと、そこまでだ。さ、美珠ちゃん大人達が感傷やら何やらに浸りきる前に早く始めてしまうんだ」

「うん、ありがとう。えーっとね…」



■■■■■■■■■■■■■■■

その人には子どもの頃、たっちゃんと言う友達がいたの。

たっちゃんは少し変わった子だったんだって。
その日も、虫取り網と虫かごを持った虫取り少年スタイルで家にくるなり、一番にこう言ったの。

「こうちゃーん、りゅうとりに行こう!」
「うん、行くー!」

その人は何の疑問も持たずに、直ぐ返事をしたの。

たっちゃんのこういう言動には慣れっこだったから。
たっちゃんは、いつも何の説明も無しに突然オリジナルのごっこ遊びを始めるんだって。
始めは戸惑たけど、たっちゃんがあまりに当たり前の様に言うのと、不思議なごっこ遊びが楽しくて直ぐに慣れちゃったんだってさ。

それで、その日もたっちゃんと一緒に虫取り網と虫かごを取っていつもの裏山へ繰り出したの。

「今日はいっぱい飛んでるぞ!」
「お〜凄いね!」

何が?どこに?なんて聞かないよ。りゅうを取りに来たんだから、りゅうに決まっているもの。
ごっこ遊びの気分を壊すのはつまらないし、そもそもたっちゃんには無駄だから。

たっちゃんは歓声を上げながら、くるくると踊る様に虫取り網を振って楽しそうに駆け回ったの。
その人も真似をして、虫取り網をあべこべに振りながらはしゃぎ回ったんだって。

たっちゃんが「とったとった!」と言って虫取り網から何かを虫かごに移す仕草をすれば、その人も「取れたー!」って言って虫取り網から何かを虫かごに移す真似をして。

さんざん駆け回って疲れた頃、たっちゃんはにこにこしながら虫かごを覗いたの。
「いっぱい取れた!」
「取れた取れた!」

それを見て、その人はふっと疑問に思ったの。

たっちゃんはずいぶん多く取っていたように思う。
飼うには多いハズだが、そもそも一体なんの目的で取ったんだろう。

「それ、どうするの?」
「食べるんだよ!天ぷらにするんだ。あと薬にもなるって」

…なんだか随分イメージと違う。

「それ…本当にりゅうなの?」
「ばあちゃんはそう言ってたよ」

けろりと答えたたっちゃんの顔を思い出して、その人はこう思ったんだって。

ー今思うと、あのごっこ遊びはたっちゃんがおばあちゃんから聞いた昔話を彼なりに解釈した物だったのかもしれない。


それから、その事をお母さんと電話している時に、ふっと思い出して聞いてみたんだって。

「そう言えば昔さあ、たっちゃんって友達いたよね。あの子、今どうしてんのかな」
『たっちゃん?うーん、そんな子いたかしら…』

お母さんはたっちゃんの事を全く覚えていないみたいで、その人は少しイライラしながら説明したの。

『いたじゃん。たしか、小学校に上がる前だよ。良く裏山に遊びに行ってさあ!』



『裏山って…この辺に山なんてないじゃない』



ーあ。



そうだった。

あの辺りに、山なんて無いじゃないか。

あまりに自然な記憶だったから、すっかりその事が頭から抜け落ちていた。

でも、確かに覚えている。
あの山の風景を。古小屋の秘密基地も、おししの通った獣道も、みずちのつくった洞窟もー…


ーあれ、でも

ーどうやって行ったんだっけ?


『もしもし?ねえ、大丈夫?きっと子どもの頃の事だから、夢と現実がごっちゃになってたのよ。それより今度の休みは…』    





結局、たっちゃんは一体何者だったんだろうね。

たっちゃんと遊んだ裏山ー

それは、どこの?裏?山だったんだろうね?



■■■■■■■■■■■■■■■



「こういう話って大体は夢なんだろうけど、中には本当に…ってこともあるんだろうねー」

「子どもは見える、とも言うからね」

「はは、トトロ的な?」

「子供のときにだけ〜あなたに訪れる〜♪」

『不思議な出会い〜♪』

トトロと聞いて唐突に歌い出した美珠に数人が何となくハモリ、軽い笑いが起こった。

「となりのトトロ トトロ トトロ トトロ
もしも会えたなら すてきな しあわせが
あなたに来るわ〜♪」

すっかり歌に夢中になった美珠の明るい歌声が響く。
館は和やかな雰囲気に包まれ、次の語り部はこの空気をどう凍り付かせてやろうかと渾身の怪談を探して頭を捻った。






二度とたどり着けなかった場所、誰も覚えていない友達。
確かに覚えているのに、肝心な部分が思い出せない思い出。

子どもの頃にしか出会えない、不思議な物。

となりのトトロの歌詞は、もしも会えたなら素敵な幸せが来ると歌う。
しかし、出会ったのが他の何かなら、訪れるのは素敵な幸せとは限らないのだが…。

もしかしたら、曖昧な記憶の中では既に、
人生を大きく変えてしまう『何か』と出会ってしまっているのかもしれない。

コメント(7)

お久しぶりです!…本当に。
そろそろ色々書いて行きたいなあと思って、リハビリがてら前から考えていた不思議系の話を一つ。
最後に成る程!と思う様な話も好きですが、こういう雰囲気重視の不思議系の話も好きです。

聴衆の配役はぼんやりとしか決めていないので、これがあの人かな?と思ったらそれが正解です。

次は多分草子の予定です。…多分!
>>[2]

美珠節w
子どもの世界に潜む怖さ、と言うのも興味深いと思って題材にしました。
大人になってから気がつく怖さとか、当時何の疑問も感じなかった不自然さとかを書いてみたかったです。
神隠しってあんな風に起こるんだなぁと思いました。

りゅうの天ぷら、どんな味がするんだろう?
食べたら家に帰れなそうですが
二度と辿り着けない場所、誰も覚えていない友達。
実はそっちが本物で、今が間違っているとしたら・・・・・・


などと派生して考えてみたり。


それはさておき、沢山のりゅうが何故かタツノオトシゴで脳内変換されてしまいました。

タツノオトシゴの天ぷらって美味いのかな?
>>はぴさん
りゅうの正体?は考えていません。何かスタンダードな不思議なもの…と思って適当にw
味はどうなんでしょうね?

>>らぶはさん
それも怖いですね。
今まで信じて来た物が根本から全部ひっくり返る、と言うのは中々に絶望的な恐怖だと思います。
山の中、空中に沢山のタツノオトシゴ…。

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