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語部夜行 〜カタリベヤコウ〜コミュの「蜃」

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ある雨が永く降りすぎた日の夕暮れ

唐紅なる夕日の光なく、灰色の段幕が空を覆う

ただ、シトシトとした小雨がまだ続いていた


館の明かりがともる頃、通う聴衆の姿がまばらに現れた頃

一人の記者が、館のそばに車を止めた

彼の名は三堂圭一

しがないフリーライターである

彼が現れるところ事件が発生するというトラブルメーカースキルを持つ男だ


彼が車のドアを勢いよく閉め、雨に濡れないように館に飛び込もうというときに

女性が一人、館の玄関に佇んでいた

女性は、開放された扉を前に、小雨と同じ水気をその眼に、頬に孕み、めそめそと泣いていた

「どうしたんすか?」

圭一が問う

しかし、女は顔を両の手で覆い隠し、ただ、左右に首を振るばかりであった

困った圭一だが尚も声を掛ける

「お一人サマッすか?…そうか、わかった、アナタ館が初めてなんでしょう?」

「だから、入るに入れずにここから中の様子を眺めていたのでしょう?」

女は動かない

圭一はぐいと女のそでを引っ張って館の中へと連れ込んだ



「やぁ、圭一いらっしゃい」

出迎えたのは管理人代行の夜子

彼女は今夜来館する聴衆のために、バスタオルを用意している所だった

「こんばんわ、夜子さん、あ、そうそうお客さんがいましたよ」

「お客さん?」

圭一がくるりと振り向くと、しかしそこには誰もおらず

夜子が怪訝な表情を浮かべるばかりだった

時を置かずして地響きと共に大きな衝撃が館を駆け抜ける

暗転する証明に聴衆は動揺の色を見せるが、夜子の一斉で皆が静まる

「何事!!?」

夜子の声に答えたのは副管理人の黒崎

彼は二階の一室からひょっこり姿を現すと、圭一に質問を投げかけた

「圭一君、君、誰か連れてきた?」

「ん?あ、はい、入り口で入れずにいた女性を入れましたが」

黒崎はさわやかなスマイルで告げた

「それが元凶だ」

「え?」

圭一はきょとんとしている

もしくはまた何かやったのかと、思考の深みに落ちている

「結果から言うのは君の悪い癖だぞ、相棒」

夜子が横から助け舟を出した

「何があったか説明するんだ」

夜子が黒崎を見上げると黒崎は肩の力を抜いてやれやれといった表情で説明を続けた

「圭一君、ここはマヨヒガということは以前にも説明したね」

「はい、それでこのカメラもらったんすよね」

圭一は懐から先日修復が終わったばかりのカメラを取り出す

「今回は、マヨヒガのもうひとつの性質の話だ」

「…と、いうと?」

夜子が話をつなぐ

「マヨイガは客を選ぶんだ、目的として目指していないのに迷い込んでしまうのがマヨヒガであり、来ようと思ったものが
来れるものではない、増して館に害を成そうとしているものなら館が侵入を拒むだろう」

「あー、つまり、私が招きいれてしまった…と」

「そういうことだね」

「あーなるほど、すいません」

圭一はバツが悪そうにあたまをかいた

場を取り成そうと質問をする

「で、あれはいったいなんなんですか?」

圭一の問いに黒崎が答えた

「君もよく知っている御仁だよ…」

「へ?」

圭一は考えた、館に拒まれる知り合いって一体

「と、言っても最早、その構造の一部だがね」

言って黒崎はひょっとこの面を取り出した

「それは、先日の?」

「そう、おたふくと対をなす鬼の面だ」

「じゃあ、原因はその鬼の…」

黒崎は首を横に振ると「いいや」と続けた

「先にも言ったがとある構造の中の話なのだ」

唐突に別の声が割ってはいる

答えたのは鬼の面だ

「よう、久しぶりだな」

圭一はいやな記憶がよみがえり、ファイティングポーズをすかさずとる。

「オマエはあの時の!!いいぜ、語り部としては三流でも逃げ足だけは一流ってところを見せてやるよ、いいね、いい人生だよ」

「あ、あのねぇ」

それを頭痛をこらえながら宥める夜子

「立ち話もなんだ、お茶を用意するから降りてきなよ」

夜子はソファーに促す

「そうですか、では僕はダージリンでお願いします」

ペラリとページをめくりながら本に見入っていたのは霊侍君

彼もまた、語り部館に通う語り部である

「霊侍君、いつからそこにいたっすか」

「この本を読み始めてからですから…かれこれ昨日からいました」

問う圭一に答える霊侍

夜子に至っては『いつからいたんだろう、気がつかなかった』と内心で思いながらティーポットを持ってきた

ソファーに居並ぶ四人

そして静寂

外のシトシト降る雨音

屋内ではソファーの古いスプリングがきしむ音と、夜子がお茶を注ぐ音だけがよく聞こえる


「さて、」

霊侍がパタンと本を閉じると、今度は目の前の物語に興味を示す

「黒崎さんの話を纏めると…


現れたのは人形(ヒトガタ)

多分、人の幸と不幸の念が入り混じったものだろう

だが、この人形には顔がなかった

多分溜まったエネルギーにベクトルのはけ口がなかったのだろう

良にも悪にもなれなかった思念の塊

エネルギーがあっても、役がなければ使い道がない

そのうち、何らかの形で爆発するだろう

本当に爆発がおきるかはたまた周辺で不幸が続くか

想像は出来ないがね」

パチパチと黒崎がわざとらしく手をたたく

それを見ていた圭一も「おーすげぇ」と手をたたく

「ご明察」とこれは黒崎

「けど、オタフクの役というベクトルならエネルギーがいい方向に向かうんじゃあないすか?」

と圭一

「さて、それが吉と出るか凶と出るか」

霊侍が続ける

夜子は俯き、ただ黙々と茶葉を変えお茶を淹れ直し、聞き役に徹している

「はじめは、いい事をするかもしれない

しかし、時が経てば面が感化されやがて別な役になるかもしれない

もしくは、いいエネルギーだけを吐き続け、悪いエネルギーを凝縮させるかもしれない

あるいは、不適合で共倒れ、という可能性もある」

「あんまり、そんな悪い話ばかりせんでくれ」

ガア、と人外の咆哮で猛ったのは鬼の面

「これは…、口がいささか野暮でした」

沈黙が辺りを支配した

それを打破するように鬼の面が口を開く


人形は流されたものが凝り固まったもの

あれさえ何とか出来ればのう

鬼の面が過去を語りだす



わしらは元々「蛤」という一対の貝じゃった

毎日、海のそこで流れ着くものを食べては

それらの生きてきた情景や記憶を吐き出し

綺麗な琳(珠)にしてそらへ打ち上げた

ある日流れてきたもの

それは、一組の恋人であった。




とある街道の裏道

波潮猛る海際になぞる様にして出来たその道を

男と女が身を寄せ合って歩いていた

この二人、大きく異なるものひとつ

共通するものひとつ持っていた

異なるものは生まれである

男、桐生 寅信は呉服問屋の嫡男にして東海道沿いに三つもの店を構える大棚であり

対して女、お富は口減らしのため呉服問屋に預けられた町人の末っ子だった

この二人の共通するものとは、お互いへの気持ちであり

二人が、そして、お富に宿ったもうひとつの命が、

気兼ねなく暮せる未来を目標としていた


男は女を守るため地位と権力を捨てた

女はそのことに対しうれしがった



道は険しいが、そのことすら二人は楽しかった


しかし、二人はある者から追われていた

男の父であった

本来は祝福する立場の一人なのだろうが

男の父は男に、幼き頃から自分の総てを叩き込んだ

この恋愛は、英才とも言うべき教育を施され、跡継ぎという逃げれぬ立場から、ボンボンで生まれ育った男の初めてにして大きな親への反抗でもあった

しかし、男の父はそれを許さなかった

その日のうちに最低限の荷物を纏めると男と女はその町を後にした




男と女はある噂を耳にした


とある半島の最北に

朝にだけさらにその北にこの世のものと思えない京が現れ、そこに住むものは笑い声が耐えないという

誰も拒まないと噂されるその都に向かって夫婦は歩いていた




とある夜、

山に降った雨が、一匹の濁流となりて海へと進行する

その暴れる自然の猛威のせいで二人が行こうとする道が塞がれる

月もぽっかり西の空

仕方ないということで、二人は断崖に根を下ろす松の大木の根元の洞に今宵の宿を決める

降りしきる雨、しかし二人は互いで満ちていた

こんな二人は狸も狐も食べやしない

夜は更ける



寒さを凌ぐ為ふたりは抱き合ってその夜を過ごす

ふと、男が目を覚ます

どうも、雨音とは違う音がする

夜の向こうにめを凝らすと

どうやら向こうから明かりが見えた

それも一つや二つではない

男は更に聞き耳を立てると

「いたか」「いない」だの

「やれその影は」「やれどこいった」

だのと声がする

男はそこで直感した

親父が放った追っ手だと

オレを連れ戻しに来たんだと

男はこもを目深にかぶり、目だけを外に向ける

松明の篝火が更に数を増し、幾重にも見える




だめだ



この人数では到底逃げ切ること叶わない

果たして我一人囮になって逃げようと、身重の妻を置いていけるわけがない

いっそ、このままアマのその先へ一緒に身を投じようか

しかし、最愛のものに宿ったもうひとつの命を日の目見る前に絶やしてしまうのは忍びない

男は、深く息を潜めると妻をきつく抱きしめた

シトシトと霧雨降りしきる夜

幸いにも松明の火が消える

これは僥倖

男は喜ぶも、追っ手の歩みは止まらず

暗くなって尚一層、追っ手達はその辺りを入念に、虱潰しするように探っていった


いよいよ追っ手達は男のいる腹に手を掛ける

男は目を見開くと固唾を飲んだ

やがて、追っ手達は徐々にその距離を縮める

そうして幾人かの者が洞に気づく

追っ手たちが洞に手を掛けようとした、正にその時

東の空から太陽が昇る

追っ手達はその日の光に驚き、後を振り向くと

しかし、そのあまりの眩さに思わず手で目を覆ってしまう

その黄金色の瞬きが終わりそうな最中、男の目には朝もやに映る京が見えた

あれこそ正に目指していた京

これはいかんとしたことか

夜の帳で見えなかったのか

そこには確かに京があった



男はこれぞ好機と思うやいなや、洞を飛び出す

追っ手達はあっと驚き、手を伸ばすが

その手は寸での所で届かない

やがて、朝焼けの日差しが最高潮を迎える


眩い


一瞬、瞬いた追っ手達の目には果たして

京と男たちの姿は突然と消えた

いや違う

確かに虚空に道があり、それが京に続いている

追っ手達は逃がしてはなるものかと

ここで逃がしておめおめ帰郷したならば

どんなひどい仕打ちにあうか

追っ手達は果敢に男たちの後を追った

だがしかし、朝の黄昏は一番鳥の鳴き声よりも早くに終わる

追っ手たちが飛び出した先、

そこには道はなく、ただ、断崖絶壁が切り立っていた

日は昇り、水平線のちょっと上

夫婦は二人

笑顔になりて





ひとつの事象に対し二つの主観

これが我らが生まれた理由

そうしてその後、ワシらはいつしか人から離れ

二転三転して面の形となり今に至る

「では、あの人形は何の関係もなく?」

そうだ、ただ昨今の浄化しきれないいろいろな想いが集まって出来たものじゃ

「どうして、オタフクさんを被っていったんすか?」

それがのう、はじめヤツはワシを狙って言ったようなんじゃあ

ところがアイツワシをかばって

何もない鬼の二つの空洞から水滴が垂れた

その水滴の行方を、四人は黙したまま眼で追った

細目なく鬼の面

屋外の雨がそれに呼応するかのように、一層強く降り始めた。






夜が明けた






「話は聞かせてもらったぜー」

バターンという騒音と共に開く玄関

朝日を背に現れたのは

「お、おまえたちはーーーーー!!?」

湊と圭一の姉である咲の二人の姿があった



続く

はぴ様作 琵琶法師異聞
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コメント(2)

後半は、短い話になるはずだったのです。
でも、持病の『文章が簡潔に纏まらない病』が再発したと言い訳します。

怪談部分の結末の、ああ追手には気の毒だけどハッピーエンドだなぁ……でも、あれ?といった感じの不安感が印象的でした。

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