ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

語部夜行 〜カタリベヤコウ〜コミュの便箋

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
館に居た全員の視線が一斉にドアへ集中した。
場合が場合だけあって、思わず誰もがドアの向こうの何かにそれぞれ怪異を想像する。

――しかし。
「どうぞ」
黒崎はあっさりとドアの向こうへ、迎え入れる意志を伝えた。
それを聞いて、同じく怪異を想像していた圭一が緊張をといて呟く。
「はは、現実はそんなにお約束どおりにいくわけないか…」
それはホッとしたのか残念がっているのか、あるいはそのどちらともとれた。
けれどそんな圭一を美珠は何故だかイタズラっぽい笑みを浮かべて見上げて来た。
「あー、もしかして…やっぱりお約束だったりする?」
「え、マジ?」
隣で聞いていた湊も思わず口を挟んでくる。
そんな大人二人に注目されたのが嬉しかったのか、美珠はさらに笑顔を深めうん♪と頷いた。



「どうも、こんな夜分遅くにすみません」
ドアを開けて現れたのは何てことのない普通の人間――それも『郵便配達員』のように見えた。

パリッとした制服に身を包んだ何の変哲もない中肉中背の男。館にいた者の大半はそのように感じた。
そして勿論、圭一と湊も例外なく大半組であった。

「何か、全然普通に見えるんだけど…?」
「と言うか、そもそも見えてるし…?」
目をこすったり細めたりしながら、訝しげに郵便配達員らしき男を見つめてみる。もしかしたら自分達が見えないだけで、見える者には角でも生えて見えているのでは…などと思いながら。
一方。男は、そんな好奇の目に晒されながらまるで気にした風もなく泰然としている。
そして圭一の方…と言うより彼が持つ手紙を見て、あぁと声を上げた。
「やはりここに有りましたか…」
どうやら男は、圭一の持つ黒い手紙を追ってきたようだ。

「…で、どういう訳かちゃんと説明してくれるんだろうね?」
「えぇ、それは勿論。貴方が持つその手紙―」
夜子が問うと、男は圭一と彼の持つ黒い手紙を指した。
「実は、それは貴方宛の手紙ではないのですよ」
「へ…?」
圭一は一瞬訳が分からす疑問符を浮かべたが、直ぐに意味を飲み込むとわなわなと震えながら叫んだ。
「じ、じゃあ、この手紙って…配送ミスぅ!?」
「有り体に言えばそうなりますね」
男は呆れる程さらりと認めた。そのあまりのあっさり加減に、圭一は怒るより先にガックリ来てしまった。
「な、なんだそれ…俺の心配は何だったんだ…」
「まぁまぁ、それでも間違いの方がいいじゃないか」
肩を落とす圭一を夜子が慰めた。

「さぞかし不安な思いをされたでしょうが、何分宛名を書かれた方が――本当にもう残りカスのようなモノでしてね。今後はこのようなことのないように重々注意いたしますので、謝罪の意を込めまして…ほんの粗品ですが、どうかお納めください」
男はそう言って懐から茶封筒を取り出し、圭一に握らせようとした。
「ちょ、なんだよそれ!?そんなもん受け取れないって!」

謝罪で茶封筒と来れば現金を想像する。
しかしいくら妙な手紙だったからと言って、たかが手紙の配送ミスくらいでいきなり謝罪金を押し付けられたら誰だって怪しむ。
圭一だってそんな危なそうな金を素直に受け取る気にはなれなかったが、男もなかなか引かずに茶封筒を押し付つけてくる。

「いえいえいえ、ほんの気持ちですので是非受け取って下さい。使わなくても捨てても譲っても結構ですから」
「要らん要らん要らん、使わなくても捨ててもあげても、受け取ったら最後お先真っ暗なのがお約束パターンだ!」
渡す、要らないと言い合って二人は暫し茶封筒を押し付け合う。
と―

「ねぇ〜」

『?』
美珠の声が、圭一と男の攻防戦を一時的に中断させた。
「あのさぁ…」
美珠は二人のうち男の方に向き直り、ビシッと言い放った。

「こんなに嫌がってる物あげても、ごめんなさいの気持ちは伝わらないよ?」

めっ!とでも言うように真面目に男を諭す美珠に、館の大人達はポカンとした後クスクス笑い出した。
「そりゃその通りだ。美珠ちゃん、良いこと言ったね。

それから、美珠は更に男に言った。
「だからね、違う物を上げたらいいと思うよ」
「?」
怪訝な顔をする男に、美珠は間を空けず続ける。
「ここに居る人達ってね、みんな怖い話が大好きなの。だから、この手紙の話してよ!」

思いがけないその言葉に、何故か夜子だけは小さく噴き出していた。
一方、男の方は驚いた顔をした後、苦笑を浮かべた。
「お嬢さん、お客さんのことを話す訳にはいかないんですよ。一応個人情報ですから…」
「あのね」
男が言い終わらないうちに美珠は言う。
「さっきも言ったけど、ここにいる人達は怖い話が大好きなの。それでね、みんなで集まって怖い話をしてたの。そこに黒い手紙を持った圭一お兄ちゃんがきてね、その時丁度お話が始まろうとしてたんだけど…」

き、気にしてたのか!

笑顔で続けられる美珠の話を聞きながら、圭一は矛先が男に向いていることを知って黙っていることにした。

「そもそもね、郵便屋さんが間違えて手紙を届けなきゃ圭一お兄ちゃんは普通に入ってきて、普通にお話を聞くはずだったと思うんだけど。違うかなぁ?」
美珠は終始『笑顔』だった。
…子供ながら怖い。

「…そうですか、それは申し訳ありません。しかしどんな場合でもお客さんのことはお話出来ないんですよ」
男は少し考えた風に間を空けたが、結局首を縦に振ることは無かった。
「今回はどうかこれで…」
手渡しするとまたややこしくなりそうだと感じたのか、男は数枚の茶封筒をテーブルに置いた。
「そちらの黒い手紙はそのままで結構です。ことがすんだら残った紙は捨てるなり何なりして構いませんので」
それだけ言うと男はさっと身を翻し館を出て行ってしまった。

「むぅ、逃げたね…」
美珠は男の消え去ったドアを眺めながら呟いた。
そしてそれを聞いていた圭一は、こっそりと美珠から目立たない場所に移動した…。

「残念だったね、怖い話しが聞けなくて」
夜子が笑いながら美珠に言った。
言われた美珠も、少し腑に落ちない表情をしながらも夜子に笑い返した。
「うん、残念…でもまぁ、いいかな。これ貰ったし」
結局、美珠は茶封筒で妥協したようだ。

「…しかしこれ、一体幾らぐらい入ってるんだ?」
圭一が茶封筒を透かそうとしながら言う。
それを聞いた美珠は不思議そうな顔をした。
「あれ?これお金じゃないよ」
「え?」
試しに中を見てみると、茶封筒には真っ黒な便箋が入っていた。
それはただの黒い紙なのに、何故か皆ただの紙ではなく便箋だと感じた。
圭一は何となく嫌な予感がした。
「…あの、この便箋っていったい?」
「…………」
「一回サービス、ってことみたいだね」
「この便箋は『高い』。それを寄越したって事は、余程申し訳ないと思ったらしいな」
夜子と黒崎が落ち着いたトーンで怖い会話を交わす。
「…………」
圭一はそっと茶封筒をテーブルに戻した。
そして、はっと気が付いて慌てて美珠を振り返る。
「つか、美珠ちゃん!?それどうするつも…あ」
美珠のその手にはいつの間にか黒い便箋ではなく――黒い、紙飛行機が乗っていた。
「…えへへ♪」
美珠はイタズラっぽく笑った。
「これって人だけが使うんじゃないんだって」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

―憎い憎い憎い。

その女の人の心はその言葉でいっぱいだったの。

―アイツのせい、で私は全て奪われた。

―もう私には何も残っていない。

―何も…出来ない。この体ではアイツに復讐する事すらままならない!あぁっ憎い憎い憎い憎い…!

女の人の体はボロボロで、動くことも出来ないかったんだって。
だから女の人はずっとそこで恨み続けていたの。
毎日同じ恨み言を何回も繰り返し繰り返し呟きながらね。

その日も、やっぱり女の人は同じように恨みを吐き出していたんだって。

―アイツのせい、で私は全て奪われた。

―もう私には何も残っていな…

「そんなこと無いですよ」

気が付くと何時の間にか女の人の目の前には、男の人が立っていたの。

「あぁ、可哀想に。あなたはそこから動く事ができない。――せっかく、憎い相手に復讐出来たなら、その身がどうなっても良いと言う覚悟をお持ちでいらっしゃると言うのに…」

―お前は誰だ?何者だ!

「まぁまぁそう怖い顔をしないでください。私はあなたの為に来たんですから」
女の人の叫びに男の人はとびきり胡散臭い愛想笑いで応えたんだって。
「先ほど言いましたよね?あなたはまだ全てを失ってなどいないんですよ。壊れかけではありますが、まだ大切なものを一つ、持っている」

―大事な物?そんな物…大切な物なんてもう、私は何一つ持っていない!そんな物、アイツが、あの女があぁあ!

「まぁまぁそう熱くならないでください。では、それと引き換えに復讐を代行して差し上げます、と言ったらもちろん頷いて貰えますか?」

―何、だと?

「どうしますか?」

―やる!何でもやるから復讐を…アイツに!アイツにっ!

「…分かりました。では、これをどうぞ」
男の人は黒い紙を女の人に渡したの。
女の人は直ぐに黒い紙に今まで言っていた恨み言を書いたんだって。
「では、また後日…」
男の人は書き上がった黒い紙――手紙を受け取ると、何処かへ消えて行ったんだって。

それから、女の人はまた同じ恨み言を何回も繰り返し繰り返し呟きながら過ごしていたの。





何日ぐらい立った時かな?
「きゃああああ!!」
女の人の耳に悲鳴が聞こえたんだって。

―何だ?

誰かが向こうから誰か走って来くる足音がしてね。
「いやあああ!!」
また悲鳴が上がった時、女の人にはそれが誰だか分かった。
それは女の人がずっと恨み続けていた、あの女の人。
でも、女の人は動けないからどうすることも出来ない。
走ってきた女の人は狂ったように叫びながら何か怖がっている見たいだったの。
自分が『見えている』わけでも無さそうなのに何故?って不思議に思っていたら、もう一つ足音が聞こえて…知らない男の人が来たんだって。

その男の人のには何でか沢山蠅がたかっていて、手には斧を持っていたんだって。

悲鳴を上げた女の人が後ずさった背中に、女の人が根本に埋まっている木がぶつかって。
男の人は無言で斧を振り上げて…おしまい。


実はその後どうなったのかは、僕も知らないんだ。
これ、聞いた話なんだけど…僕に教えてくれたその人は途中までは見てたんだけど、そこで怖くて逃げちゃったんだってさ。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「その手紙を出したのはどんなモノなのかね?」
語り終えた美珠は圭一の持つ手紙に視線を移した。
「…あれ?」
そこで違和感を感じた。
「どうたの?」
圭一本人や湊は美珠の感じた違和感が分からないようだ。
「んっとねぇ…うわぁ」
手紙に近づいた美珠は顔をしかめた。
「始まったみたいだね」
圭一と湊も美珠と夜子の反応に、手紙に何かが起きつつあることを悟ったようだ。
「え!?始まったって何が!?」
「そん…つかこれ持ってて良いのか!?」
圭一は何となく持っているのが嫌で手紙をテーブルにおいた。

置かれた手紙は…微かに動いていた。
よく見ると、その表面から何かが這い出して来ているのが分かる。
モゾモゾとゆっくり、声もなくわらわらと薄い紙から這い出るそれは小さな黒い―蛆だった。

這い出した蛆はやがて一所に集まったかと思うと、一斉に蠅になった。

ぶぅわん

館の壁をすり抜け、黒い蠅たちは夜空に飛び立っていく。

「うわっ!手紙が真っ白になった!」
どうやら、蠅は見えた者と見えなかった者がいたようだ。
圭一と湊は見る間に白くなった手紙に興味津々。

そんな彼らを尻目に、美珠はからりと窓を開けて蠅の後を追うように紙飛行機を投げた。
「僕はこれ使うつもりないから。何時か、怖い話になって帰ってきてね」

夜と同じ色の黒い紙飛行機は滑るようにまっすぐ宙を舞い、直ぐに闇と混ざって見えなくなった。







それから暫くして、某所。

「少々手違いが有りましたが、手紙は無事に届きましたよ」
それはあの郵便配達員風の男。
男は暗い森の中、俯いて独り言を言っていた。
いや、独りではなかった。

ぶぅわん

俯いた男の視線の先には、地面から蠅のたかる腐った腕が突きだしていた。

「さて、では代価を頂きましょうか。人を呪わばなんとやら…それは穴に入った後でも変わりませんから、ね」

コメント(6)

これは合作の後編です!

キート⇔ゼトワールさん作の前編、『届』は此方ですよっ!
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=33331078&comm_id=2572875


さてさて、語り部パートが怪談にくらべもの凄く長いですね(^^;)
館の面々を書くのが楽しくて、何時もついつい長くなってしまうんですよ。
怪談ももっと頑張らねば!


ともあれ読んで下さった方、有り難う御座います(*^_^*)
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
美珠ちゃんLOVE!
ファンクラブでもつくろうかという勢いです、マジでw

黒い便箋の仕掛けや使い方が秀逸ですよね。
オチも思わずゾッとしました。
拳銃屋さんのお話は小物の使い方に色気があって大好きです。
凄く面白かったです!
キート⇔ゼトワールさん
そうなんですよねぇ、語り部パートがつい楽しすぎて長くなりがちなんですよ…(^v^;)

美珠、可愛いですかっ?有り難う御座います(*^_^*)

美珠は少し大人びてちゃっかりしつつも、なるべく子供らしさを忘れないように書いています。

紙飛行機の下りは自分でも子供らしさをだせたかな、と思ってるんですけどね。

最後に、今回遅くなって色々ご迷惑をおかけしましたが、合作して下さって有り難う御座いました(u‿ฺu✿ฺ)

司狼 雪月さん
おおおそれは光栄ですね(笑

怪談部分はこれ以上語り部パートで説明してもまた長く成っちゃうし、怪談で説明しちゃえ!と、言う感じで作りました。

オチの郵便屋さんのセリフは色々考えたんですが、あれにしてみました。
「人を呪わば穴二つ」が使いたかったんです(*^_^*)
でも既にどっちも死んで墓穴二つになっているので、死んだ後も…と付け加えました。

では、読んで頂いて有り難う御座いました!
この便箋の扱い方は、何か女性ならではという印象でした。

上手いんですよ!! これは、中々真似できない(笑)

なにせ俺は、クマの縫いぐるみを近所のコインランドリーに

放り込むようなヤツを語り部としてしまったので(苦笑)

いや、ラストまで一気読みでした。
dekaoさん
始めまして、読んで頂いて有り難う御座います。

女性ならでは!そうですかね?
普段女らしくないと言われている身には嬉しいお言葉(笑

神宮寺さんの今後のお話が楽しみです(*^_^*)
何時か私がしっかり把握できたら、美珠とも絡ませて頂きたいですね。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

語部夜行 〜カタリベヤコウ〜 更新情報

語部夜行 〜カタリベヤコウ〜のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング