語部夜行　～カタリベヤコウ～コミュの「回」

その日、私は美珠ちゃん相手にお話をしていた。
彼女は熱心にその話を聞いててくれた。

話題も尽きようとしたとき、美珠ちゃんは気を利かせ、学校から借りてきた本を一冊取り出した。

「なにそれ」
「じゃじゃ～～ん！『誰でも催眠術』ってお話だよ」
いや、あの…ものすげ～胡散臭いんですけど…

「それで、この本にはね～」
和やかにページを読み進めていく美珠

私は気取られないように、そーっと出口へ

がちゃん！

「じゃまするよ～」
「あぁ、湊姉ちゃん」

元気良く駆け出す美珠

そして、哀れ…私こと圭一は妖しい本の実験台として二人の女性に引きずられる。

強制的にイスに押し込まれると、美珠ちゃんが紐にぶら下げた五円玉を取り出した。

「へへん！そんな使い古された方法、この圭一様に効きますかな？」
「むぅ～見てなよ！！」
言うと、美珠ちゃんは五円玉を揺らし始める

「ふらふらユルベ、たまユラベ…」
「ふふんだ、効きませよ～」

「ふらふらユルベ、たまユラベ…」
「はっはっは、そんなんじゃあ効きませんよ」

「ふらふらユルベ、ふらふらユルベ…」
「ねぇ、三珠ちゃん…そろそろ…　…あきらめ…た…」

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「おにいちゃん、寝ちゃったね…」
「じゃあ圭一は放置しといて、私がお話してあげるよ」

夢現の中…圭一は今日話そうと思っていた怖い話を思い出していた。

●
あるところに、たった二人だけの兄弟がいた。

兄弟の仲は非常に良く、見ているだけでほほえましい気持ちに成れるほどだ。

何時の頃からか判らないが、弟が口癖のようにある単語を言い始めた

「いいな～」

どこで覚えてきたか知らないが、兄がボールを買ってもらうと「いいな～」
兄が幼稚園を卒業し、入学すると「いいな～」
兄が河原で遊んでいると「いいな～」

事あるごとに弟は「いいな～」を繰り返す

ある日、とうとう耐えられなくなった兄は弟に問い詰める。

「何がそんなに羨ましいの？」

弟は言う

「だって、ボクには一人もいないのに…お兄ちゃんには三人もいるんだもん！」

「何の話？」

「お供の人」

ボクは益々ワケが判らなくなり、知らなければ良かったであろうことを聞いてしまう。

「どんな？」

「赤レンジャーとお相撲さんと写真のおっちゃん」

「もっと詳しく！！」

「えっと、全身真っ赤な女の人と、ブクブクに太った唇紫の人と、仏壇の上に飾ってある写真の人」

ボクは弟が理解できない

「いいな～いつもお兄ちゃんの周りは楽しそうで」

○

「アナタの足は動かない」

ボクの足は凍てついた様に動かない…そして、三匹の霊たちはいたちごっこの様にボクの周りをぐるぐる回る。

そのうち、輪はドンドン小さくなり…終いには僕の足を…

スパァァァァァァァン！！

「ギャーーーーーーーー」

何？何が起きたの？

ボクは…いや、違う。

私は半覚醒の頭で女性の言うことを聞く

「命に別状はありませんが…」

何が起こったのだろう、半覚醒の頭ではそれすら咄嗟には思い出せない。

途端、半覚醒の脳みそに激痛という電気信号が遅れて走ってくると一気に目が覚める。

ただ、激痛の原因は足にしかなく、恐る恐るズボンの裾をめくった。

「残念ながら二本とも揃ってます」

恐怖と激痛が去ると、後からやってくるのは怒りだけ。

「あんたって人はあああああっ！！」

力の限り追いかける圭一。

どれくらい走っただろう。
結局、湊には「じゃあ、そろそろ仕事だから」の一言で逃げられた…。

ただ、不思議だったのは…

さっきまであったあの本が無くなっていたという事だ。

コメント(3)

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[2] mixiユーザー 02月03日 08:52

寝てしまう圭一さんに萌えてしまった…ｗ
彼のこういう癒し系な雰囲気大好きです。

[3] mixiユーザー 02月03日 23:27

あんたって人はああああっ…グッジョブですよ。
使っていただいてありがとうございます。

弟という生物は先天的にうらやましがりで欲しがりで、そしてしつこく望めばいつか得られるというのを本能で嗅ぎ取る恐ろしい生命体です(偏見)
弟くんがお供をゲットしてたら怖いですね。

そして学校の図書室で借りた本を紛失した事になるかもしれない美珠ちゃんのその後が心配だったり。

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