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語部夜行 〜カタリベヤコウ〜コミュの横断歩道は手をあげて

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「もしもし、葦谷ですけど。いま帰るトコですが」
背の高い女性がコンビニ袋片手にふらふらと歩いていた。
ぼさぼさした短髪がゆらゆら揺れる。
「明日の現場ー…例のアパートの退去清掃は延期?…はいわかりましたー」
ジャージにサンダルの足がぺそぺそと鳴る。
「時間余るな……あそこに行くか」

語部館。
眠れなくなるほどの怖い話をたくさん聞ける。

確かこの角を曲がって、あの信号を渡れば近道になるはずだ。


+++++++++++++++

あなたは交差点で信号待ちをしている。
信号を待つわずかな時間も退屈に感じ携帯をいじっていると、小学生のグループが話しているのが聞こえた。

「さっきも言ったけど、横断歩道は白いとこだけ踏んで渡るんだぞ」
「黒いとこ踏んだら」
「死ぬ」
「こえー」

あなたの胸に、微笑ましい懐かしさがこみあげる。
自分にもあんな時期があったと。

歩道のふちのコンクリートの上を歩くとか。
廊下はタイルの色の違うとこだけ踏んであるくとか。
どこのトイレも使うのは前から二番目だけとか。

そんなしょうもない事に一生懸命になった頃が。

これらの『自分ルール』を破ると死ぬ。
別に本当に死んだりはしないが、そういう設定と覚悟でもって動く。
…いい子ちゃん達には生暖かい目で見られたが。

あの小学生達も真剣な目で横断歩道と信号を睨みつけていた。
やがて歩行者用の信号が青になり、人の群れが一斉に動きはじめる。

「行くぞ」
「気をつけろ」
「おう」

小学生達は本当に真剣だった。
慎重かつ素早く、時には小さい下級生を庇い、時には立ち止まって反対側から来る大人をやり過ごし、横断歩道の白いとこだけを踏んで渡っていく。
あなたはもちろんいい大人なので、白とか黒とかそんなのは気にせず…

…気にせず渡ろうとしたけれど、ふとあなたの中の大人げない部分が動いた。
口元に思わず笑みを浮かべると、わざと横断歩道の黒いとこだけを踏む。

半分まで渡ったところであなたは小学生の一人と目が合った。
その恐怖に歪み、蒼褪めた表情。ついついぷっと吹きだしてしまう。
そのまま渡りきろうとしたあなたは、がくんと躓く。

足が、動かない。

押しても引いてもびくともしない。
まるで足が縫いとめられたように、いや、足が横断歩道の黒い部分、アスファルトの一部になったように。

「黒いとこ踏んだ」
「踏んだよ」
「死ぬ」
「しぬ」
「こえー」

小学生達が駆け抜けていく。
信号が点滅している。
何も知らない大人はいぶかしげにあなたを見ながらも足早に通り過ぎる。
あなたの足は動かない。

信号が赤になった。
そして自動車用の信号が青になる。

あなたの足は動かない。
そして。


+++++++++++++++


「そして、どうなったの?」
美珠が続きを促し、湊はにやりと笑う。

「どうなったと思う?」
「そういうのズルいと思う」

美珠と湊の間には椅子が一つ。
その椅子に圭一が座ったまま眠っていた。
仕事の疲れが溜まっているらしい。

「…ぅ…うう…足が…足が…」

眠れる圭一は眉間に皺を寄せ、うなされていた。
湊が耳元で横断歩道の怪異を囁き続けたからだった。

「それじゃ、こういうのはどうかな?」

湊は圭一の膝を勢いよくひっぱたいた。

スパァァァァァァン!!

「ギャーーーーーッ!!」
「あなたは病院で目を覚ました。医師が言う、あなたは交通事故に遭ったのだと」
「ちょっと何するんですかあああっ!?」
「命に別状はありませんが、両脚の方は……」
「痛いんですけどっ!えっ?何?まさか」
湊の無駄に厳かな口調に気を呑まれた圭一は、恐る恐るズボンの裾をめくる。

「残念ながら二本とも揃ってます」
「あんたって人はあああああっ!!」

けたけた笑って湊は逃げた。それを圭一が追いかける。

「二人とも大人なのに」
呆れて溜息をつく小学生。



大人気ない大人達はまだ気づかない。
美珠が湊の足首を凝視している事に。

見る力を持ってないから気づかない。
湊の足首を真っ黒い手が掴んでいる事など何一つ。

【終】

コメント(6)

挨拶代わりに書かせていただきました。
…某所で以前書いたモノの焼き直しですが。

キートさんの圭一君と、拳銃屋さんの美珠ちゃんをお借りしました。
いきなりあんな仕打ちをしてすみませんでした。
こういう自分ルール…やりましたよね。
身近な共感できうる物を題材にされると引き込まれて怖いです。
最後の美珠ちゃんの視線が怖い><

はぴさん語部参加ありがとうございました。
新しい風、こちらにも心地よく吹いてきましたよ!
これからも楽しみにしております。
おぉ、早速美珠を使って頂いて有り難う御座います(*^_^*)
面白い人ですね、湊さん(笑

怖い話の語り口と、館の会話とのつなげ方が面白かったです!
平気だって思っていたことが突然そうでなくなると、怖さも倍増ですよね。
では、これから宜しくお願いします(u‿ฺu✿ฺ)
自分ルール。
・自分以外の影を踏んで帰る。
・塀やフェンスといった地面以外の場所のみで帰る。
なんてのをやりましたね。

緩急のつけ方も巧く参考になります。

これからもよろしくお願いしますね。
いつも一人称で書くことが多いので、たまには二人称でと思いました。
あるあるネタと怪談は案外なじむものですね。
そして湊はあんな人です。

というわけで皆様よろしくお願いします。

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