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伊藤 喜多男コミュのもみくちゃ人生

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     ウエスターン時代 (一)


オペレーターは、親切に手伝ってくれたり、
そのマシンの症状を細かく話ししてくれたり、夜食を出してくれたり、
それは自分の子供を医者に見てもらうような姿で接してくれのです。
マシンはピカピカに磨いてあります。
床には塵一つ落ちていません。
映写室はその人の城なのです。
音響装置は武器なのです。
何れも性能が落ちれば落第と相成るのです。

そうした映写室へ乗り込むのですから、
不真面目では勤まりませんし、相手に対して無礼があってはなりません。
愛器という詞が当てはまる実体を見せつけられました。
ウエスターンの装置は、
オペレーターが触られる箇所を細部に渉って制限してますから、
操作する上のスイッチ、ノブ、ドア以外は、
いかなることがあっても弄ってはいけないのです。
それを許されるのは、
ウエスターンのエンジニアーに限っているのですから、
当方に相当の権威がなくてはなりません。


今はない芝園館(現=港区芝二丁目)にあった話をしましょう。
私が慶応に通っていた頃、
映画の休憩時間に前田環がバイオリンを持って指揮をしたオーケストラ聞かせてくれた館です。
名画を次々に上映して、昭和の初期には学生や若者の間では人気があったものでした。
装置は当初のまま3A41Fシステムで、終段管は205DのPP、出力は2Wなのです。
それにWE555のレシーバー(ドライバー)にホーンのついたもの1個。
WEでは最も小出力のものなのですが充分に観客たのしませる音量が出ていました。

この館も、丸の内にアミューズメント・センターという東宝系の立派な館が澎湃(ほうはい)として
開業されるにつれ、邦画館に格下げして衰退し、
WEの装置の経費の負担に耐えかねて、装置を取り外す事になる日がきたのです。

オペレーターの名を忘れましたが、
サービスに訪れるたびに近所から中華丼を出前させ、
御馳走してくれたのです。その最後の日の深夜にも、
何時もの通りその冷め切った
お世辞にも旨いとはいえない夜食を頂いたのですが、
いつも煙管(きせる)を取り出して刻み煙草を旨そうに吸っていた
老オペレーターが涙を浮かべて、
「伊藤さん、こいつと別れるのは辛いよ」と沁々言いました。

毎日黙々ととして働いてくれた、毎日磨き込み、拭き込んだマシンに
別れることが肉身との別離のように辛いと嘆いてくれたのです。
こんな人は出世を致しません、これは私自身にも言えることです。
しかし、こんな人がいるから何十年も大過なく働くマシンがあるし、
また高価な装置の存在価値もあったのです。

別れを告げて館外に出ると、
頬を撫でる夜風が涙の後に沁みて冷たかったことは忘れられません。
勿論撤去には立会いませんでした。とても見るに忍びなかったのです。

 銭にならないことはしたってしようがない、
という近代的、合理的な思想からは理解できないでしょうが、
こんな些事(さじ)に感激して生きて行くことは、
それで現実の労苦から救われる人間だけができることだと、今も思っています。
205Dのあの球型の真空管を手にするたびに、思い出すことです。


           昭和五十九年三月三十日発行  伊藤喜多男 著

 

コメント(10)

>こんにちは・・slothさん

この本は立派なほんとに装丁が立派ですね
意気込みみたいなモノを感じます
中華丼の話はこころ温まるお話ですね
二十年目の再会・・は名古屋の映画館のA11ラックマウントアンプ?のお話だったでしょうか?
そうだとしたら・・これも職人冥利って云ったら失礼かも知れませんが
そんな感想を持ちました

さーて・・困ったさんなんですヨ
ロンドンのシクテムは中々聴くチャンスが少なかったですね
井の頭線の沿線にH氏が住んで居られまして
その方・・6L6pp系のラックマウントのロンドンアンプ?で鳴らしてました
SPが594系システムでした
アンプ・システムは唯一の経験ですかね
そんな訳でとてもトーシロー・・コメントなんておこがましい・・

>史上最強の真空管アンプだと思っています。
それは良かったですね
最終と思われるシステムと出会いが一番ですね
何方が云ってましたが
自分が一番の測定器だと・・
色々の意味が含まれると思います
それまでの経験が決定するようにも思います
トーシローにとってはとても貴重なアンプと思いますので「労わって」なんて言葉が浮びます





>こんにちは・・slothさん

正確な情報ありがとうございます
A11は力の有るアンプですね
トーシローは家庭向けのBOXに入ったロンドンユニットの2WAYを聞きました
輸入からBOXの中身のチェックまで何故か絡みまして・・
これで聴くズートのレデイ・デイはとっても好きでした
ノイマン系のPLとプリだったと思います
後にWE系も繋いで聞いてましたが中々素晴らしかった
それぞれにいいですね
電球テトさん・・・こんばんわ

貴重な情報ありがとうデス
数寄者は一冊持っていたい処ですね
こう言った、数寄者しか知らない様な本が、再発売されるとは、
ある意味で良い世の中になったのか、それを望む方が増えて来た
のか(悪い世の中)、どちらかでしょうね!!

電球 ユニコーンさん・・こんばんわ

トーシローにはバイブルです
晩年を迎えた喜多男氏がこんな数寄者もいたんだよって残したような気も致します
この本からオーデオが人生の真ん中にどっかり座っていたように映るのはトーシローだけかな?
達人の生き様が描かれているように思います
伊藤ファンは持っていたい一冊には間違いない処でしょうか

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