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I am NOT神子!コミュの【きっと聖夜】

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「いらっしゃいませ、こんにちは〜♪」

店内にはクリスマスソングが流れ、あちこちには『メリークリスマス!』と書かれたPOPが貼ってある。世間では恋人と過ごすロマンチックな日だとか、子供達にサンタがプレゼントを持ってやって来る日だとか、家族でチキンを囲って食すだとか、何か楽しそうなイメージだが、私はバッチリフルタイム出勤だ。今年はイブである24日が日曜日ということで、客をかきいれる為のイベントをするにはもってこいだな・・・とか何とか考えてるあたり、とても店想いだと思う。

・・・あ、誰だ『夢がない』とか言ったやつ!

普段からマスコットのような店長も、今日はサンタクロースになってお客さんを迎えている。天然でほわわんとした店長さんの人柄に、サンタの衣装はピッタリと似合っていた。

「もぅ〜♪店長さん可愛い〜〜〜♪♪」
「ありがとうございます〜〜って、な・・なに言ってんだかっ」

店内ですれ違った時に素直な感想を言ってみたけど、・・・・何か、冗談だと思われたのかな。「(またこの子はもう!(照))」みたいな反応された。本当に可愛いかったのだけど。

私にとってみたらいつもと変わらない日曜日だけど、店内に流れる曲が全てクリスマスソングなことや、ケーキとかフライドチキンとかローストチキンとかがよく売れているのを見ると、「(あー・・クリスマスかぁ)」なんて思ったりする。昔は12月になった途端にクリスマスが楽しみで楽しみで仕方なくて、24日なんていったら朝からそわそわしていた。中学校に入るまで信じていたあたり、“我が家のサンタクロース”はとても上手くやっていたのだと思う。でももう大学生になったんだ。去年もその前も、もうサンタは来なくなった。

・・・・・・・・・今年も何事もなく終わるんだろうな。


*****


「お疲れ様ですーー」
「お疲れ様〜〜♪あ、これ差し入れ!一本ずつわけて!!」
「ありがとうございますっ♪」


バイトが終わった時には、もう空も真っ暗だ。少し雲がかかっているがそれほどに寒くはない。浮かれポンチ・・・・じゃなくて“家全体で”クリスマスを満喫している民家を眺めつつ、青果のおばちゃんが差し入れでくれたバナナを一本握り締め、家路をたどっていた。

「(・・・・昔は家族みんなでケーキ食べたりしたなぁ・・・私がエレクトーンでクリスマスソングを演奏して、アホみたいに皆で大合唱したり・・・とか・・・・・。)」

バイト先は結構、遠い。遠いので、ボーーーーっと色々考えていた。


「(きっと、神子達は今クリスマスパーティをしてるんだ)」

とか



「(きっと今頃、弁慶さんは綺麗なイルミネーションの中、
  花火を見ながらガーベラの花束を望美ちゃんに・・・)」



とか・・・・・・・・・・・。












「・・・・・あーあ・・・」


クリスマスなんて、本当はイエスキリストとかという人の誕生日なんだよ。そしてイブは確か前夜祭みたいなもんなんだ。ケーキとか食べるのだって、きっとその人のハッピーバースデー♪って事だよ。カップルが甘くロマンテック☆な日を過ごすとかいうのは、日本が浮かれポンチなだけなんだってばよ。

・・・・・1つ大きな溜息をついて、クリスマスに対して悪態ついてみる。

まぁ、きっと日本でクリスマスを祝う人はそんなことどうでも良くて、ただ「難しい事はほっといて楽しいからOK〜!」って楽しんでいるのだと思う。ここで今更「本当はキリストの〜〜」とか言う人は、恋人がいなくて寂しかったり、家族で楽しく過ごすこともなく、友達と騒ぐこともできなかった人が、「くっそー!!楽しそうにしやがって!!」っていうひがみなんだ。

そんなことを考えながら自転車をこいでいると、彩雨の揺り篭の着信音が流れ始めた。個別設定してあるので、すぐに母だとわかる。メールを開いてみると『父危険 機嫌悪い』と、一言書かれていた。

「(・・・・今日もか・・・)」
その文章だけで全てが伝わる。母のメールは大抵、“今どこメール”か“父警告メール”だ。機嫌が悪い時は何かにつけて、当り散らす。今帰れば、私も餌食になることは間違いない。

「(まだ帰りたくないなー。・・・ちょっと夜間サイクリングしよ)」

私は家に向かう道の手前で、クルリと向きを変えた。


*****



特に目的があるわけでもなく、自転車をこいでいると、公園のベンチに座って1人空を見上げている人がいた。

「(・・・・・・・・・?)」




似ていると思った。“あの人”に。暗くて顔はよく見えないが、背格好や髪型・・・・ううん、それだけじゃなくて、何だか・・・・


――――キキキ・・・っ・・・


無意識に私は公園の入り口に自転車を停めて、木陰に隠れた。

「(・・・って!!何やってんの私っっ!!!!)」



その人は私に気付かなかったようだが、今から自転車のほうまで戻るのは確実に見付かる。別にやましい事なんてないけれど、他に人通りがないだけに・・・・行きづらい。

するとふと、その人の隣りにある花束が目に入る。




あれは・・・・・ガ・・・




「ガーベラっ!!!!!!!!って、しまっ・・・」


慌てて口を塞ぐが、声に出してしまったものはもう引っ込まない。“その人”も私に気がついた。気付かれたものは仕方ない。逃げるって選択肢もあったけど、ちょっと気になったのでゆっくりと近付いてみる。









・・・・・・・・・・やっぱり・・・・







「弁慶さんだ」


「・・・・君・・は・・・・・?」





「・・・・・・・・・・秘密です」





どうしよう、本当に弁慶さんだった。何でこんなとこにいるんだろう。マッチ売りの少女みたいに、幻を見ているのだろうか。私は座っている弁慶さんから少し離れた位置で立ち止まった。




「弁慶さん、幻ですか?」

「・・・いいえ」

「・・・・・じゃあ、私が弁慶さんの見る幻・・・?」





「・・・・・・・・いいえ、君もきっとここにいます」






自分でもとんちんかんな事を言ったなと思った。それでもちゃんと私の質問に答えてくれたのは嬉しい、と思う。



「弁慶さん、そのガーベラの花束、望美ちゃんに渡さなかったんですか?」

「そう・・・ですね。渡す時がなかったので」







弁慶さんにしてみたら、きっと聞きたいことがたくさんあったと思う。何故初対面で名前を知っているかとか、ガーベラの花束のこととか、何故自分のしようとしていた事を知ってるかとか。でも、何も聞かれなかった。もしも聞かれたとしても答えないつもりでいたから、それをきっと雰囲気で感じてくれたのかな、なんて。

ガーベラを持っているということは、クリスマスの分岐点までの絆の関は超えているということになる。・・・そして、望美ちゃんはクリスマスの分岐点で違う人を選んだんだ。

望美ちゃんは買出しのついでに、何が欲しいかを弁慶さんに聞いて・・・弁慶さんには欲しいものは思い当たらなくて・・・だけど望美ちゃんに贈る花束に迷う穏やかな時間のような“「普通」という平穏”こそが欲しかったものだと後から気付いて・・・

それで「ありがとう」って言ってたんだ。





・・・でも、ダメじゃん。

“贈る花束に迷う”っていう穏やかな時間だけじゃないでしょ。弁慶さんの欲しかったもの。どれを渡したら喜ぶのかな、っていうのが穏やかな時間の理由でしょ。だったらそれを望美ちゃんが笑って受け取ってくれるのが、きっと弁慶さんの1番の幸せだ。

渡せなかったら意味ないじゃないか。


・・・・望美ちゃんが別の人を選んじゃったら渡せないじゃないか・・・。






「・・・何故、泣いているのですか?」

「ガーベラの花束がここにあるからです」


ああ、本当に。
何で私は泣いてるんだろう。
弁慶さんが幸せに見えないからだろうか。
弁慶さんが望美ちゃんを見ているのがわかるからだろうか。



「ガーベラの花言葉は、希望とか神秘とか我慢強さ、だよ。
 望美ちゃんに渡してきなよ」

「・・・・・・・・・・・・。」

「私だって大好きな人がいて、その人とは絶対に幸せになれないって分かってて、それでもやっぱり大好きで、だからまだ諦めてはいないんだよ。

 ・・・・・・・・希望だよ希望」



「・・・いえ、もう今更遅いんですよ。


 ・・・・・もしよろしければ、君が受け取ってくれませんか?」



他の女の人を想って選んだモノを私に渡すか。いい度胸だコノヤロウ。










「諦めない君に、希望を」




「・・・・・・あ・・・ありがとう。
 ・・・・・・・・じゃあ、代わりと言っては何だけど・・・・

 これあげる。



 ・・・・ってか、今はこれしか持ってない」






















「・・・・・・本当に、不思議な人ですね、君は。」






ガーベラの花束を引っ掴んで、バナナを押し付けて、弁慶さんの最後の言葉なんか聞かずに、づかづかと大またで自転車まで歩いていった。




弁慶さんが見たのも、幻。



私が見たのも、幻。





聖なる夜の一瞬の出来事。





-終-

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