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私設ムスタキ塾コミュのムスタキ自伝紹介

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ムスタキ自伝
『思い出の娘たち』〈Les Filles De La Memoire〉
山口照子訳 彩流社刊

今、私の手元には二冊のムスタキの著作がある。一冊は1973年に刊行された〈QUESTION A LA CHANSON〉と1989年に刊行された『思い出の娘たち』である。前者は昭和51年に角川書店から邦本実訳で邦題名『私の孤独』として発売された。後者は今回のムスタキ来日を記念して出版された。翻訳者の山口さんは70年代からのムスタキのファンだとそうだ。二人の子供を育てながら一年かけて訳したのだと言う。翻訳者のあとがきによると「不治のムスタキ病」に罹ってしまったのだそうだ。同じ「ムスタキ病」に感染している私は山口さんに敬意と感謝を捧げたい。

まず、73年の一冊だが、この原題が示すとおり・・・意訳すると「シャンソンとは何か」くらいの意味になるか・・・には主にシャンソン・・・ムスタキが言うには「歌われる詩」・・・についての考察を中心にしてショービジネスや音楽商業主義への批判、が主題になっていたように思える。歌い手と聞き手のヒエラルキーを否定して「誰だって歌える、この僕も含めて」と言うムスタキの言葉に音痴のくせにギターを抱えて、アマチュアコンサートのステージに立っていた私は大いに励まされたものだ。この本は何度読み返しただろう。茶色に変色した『私の孤独』は私の宝物。

さて、この『思い出の娘たち』である。これはいわばムスタキの旅の記録である。または、翻訳者の言うとおり、読むことでムスタキの世界を旅することでもある。215ページの本書を全て紹介するわけにはいかないが、時間をかけて少しずつ、印象に残る部分だけでも紹介したいと思う。もしあなたがムスタキのファンでなくても・・・詩や小説に興味があり、それらを読み、それらを創作している、また、したいと思っているのなら、まして、ギターを弾き歌っているのであれば・・・ムスタキのアレキサンドリアから始まる数え切れないほどの国々の友人、女性についての思い出の旅、その記録の中にあなたが共鳴共感出来る何かが見つかるだろう。見つかれば幸いである。


    『思い出の娘たち』 目次

 ? 僕の原点アレキサンドリア
 ? パリ、そしてエディット・ピアフ
 ? サンルイ島、楽しい仲間たち
 ? 断片、時代と恋と
 ? 家族、友達
 ? 人生の旅、果てしない旅


  序文はジョルジュ・アマド。

  作中に登場する主な人物。
ブラッサンス、ピアフ、ジャンヌ・モロー、ヘンリーミラー、ボリス・ヴィアン、アンリ・クローラ、ホセ・ピサ、トツキーニョ、バルバラ、ユジェーヌ、セルジュ・レジアニ、シコ・バルケ、カエターノ、ドリバル・カイミ、アレキサンドラ・スチュワート、ブレル、ゲーンズブール、アンジュ・バステアーニ、ドニーズ・グラセール、ミッシェル・シモン、ヴィニシウス・デ・モラエス、母親サラ・・・・・


今回は本文中より「独り言」と題された文章の一部を紹介して終わることにする。これは彼の歌い手としての立場を簡潔に語っているように思われるから。

「僕は歌手という高見の上の特権を与えられた観客。僕に答える静寂、微笑み、叫び声は、過ぎ去った感動の時代錯誤のこだま。ありふれた苦悩の看護人、ライトの下で苦しみ、有頂天になり、囁き、しかめ面をし、楽しませたり、途方にくれた聴衆の恐ろしく平凡な苦難に耐える男。」

さて、やはりムスタキとピアフの「なれそめ」は知りたい方も多いだろう。ムスタキ自身もパリでの出会いを描いた一章の中で、ピアフとブラッサンスには多くのページを費やしている。しかし、全てを紹介するわけには行かない。ここで紹介するのは41才のピアフと24才のムスタキが最初に結ばれた夜の事。ムスタキは淡々とした調子で書いている。

「パーティーはピアノの回りで幕を閉じる。エディトは尊大な君主のように、機転のきいた受け答えや中傷やおべっか使いの演説を、黙って楽しんでいる。時々、彼女は自分が歌うシャンソンの悲しみと同じくらい伝説的な、あの高らかな笑い声を爆発させる。
 夜が更けた。もうアパルトマンには人気がない。彼女がアメリカから持ち帰ったジャズのレコードを僕に聴かせているうちに、招待客たちはひっそりと帰って行った。僕は魅惑されてしまう。年齢の違う歌手が僕と同じ趣味を持っていることがあるなど、想像もしなかった。
音楽が僕たちを結びつける。夜明けの光がカーテンに届く時、いつも魔法がかけられる。
『もう寝ないと・・・・・・』
彼女が言い出す。戸惑い、憔悴し、僕は彼女について部屋に入って行く。」

次はムスタキの観た日本。ムスタキの観た日本女性。

「品物を包装したり、魚をおろしたり、メトロの切符を切ったり、ブーケ状に花をまとめたりする時に見せる名人芸とも言える日本人の身のこなしには、武術にみられる正確さが備わっている。極端なまでの礼儀正しさは、群衆の中を押し合いへし合いせずに動けるようにさせている。冷静な微笑みの裏には本物の親切がある。」

「粗暴で、抑圧的で、専制的な日本が存在していたことを僕は否定しない。国家の歴史や憲法がそれを証明している。社会の基本構成単位としての家族が、社会の生活上の強制的な法規を不滅にしている。競争主義はあらゆる残虐行為に向けて扉を開けることがある。自殺がしばしば恥辱や失策を解決する手段になることがある。
 名誉あるガイジンとしての僕の肩書きを考慮した上で、日本はその長所である礼儀正しい面しか見せてくれなかった。」

「日本での恋愛関係は我々ラテンや西欧の概念をもっては計る事が出来ない。挑発の術やそれをうまく交わす術、見せかけだけのあるいは本心から服従する術、理解に苦しむほとんど表面に出さない微笑の術。お茶目な日本女性は進取の気性と同様に忍耐をも器用に操る。彼女らの洗練された多様性はエロチシズムの神髄である。」

これで『思い出の娘たち』の紹介は終了させていただく。この他にも興味深いエピソードが多数あるが、やはり本書を直接読まれる事を希望する。訳者の情熱と労力に報いるためにも。

本書の注文先 株式会社 彩流社 電話 03(3234)5931 Fax 03(3234)5932

定価 (1800円+税)


※翻訳者の、山口さんにはお会いしたことがあり、
 また、ムスタキの情報等を交換したりしました。 
 お一人で自伝を翻訳された強い意志とムスタキへの愛
 尊敬致します。

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