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バトル仮面舞踏会コミュの37.『黒い箱』全裸でスクワット

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 アンナという西洋人形が言葉を話したのは、一ヶ月ほど前のことになる。金色の髪に白いドレスを着た、可愛らしい人形だ。アンナは死んだ父親の遺品だった。
「おかえりなさい。誠」
 部屋に入るとテレビの前にちょこんと座っていたアンナの姿が見えた。
「ただいま。今日も疲れたよ」
「今日はどんなお仕事をしてきたの?」
「二千個のロッカーにラベルを貼る仕事だよ。最高にハイな仕事さ」
 僕の会社が何をしているのか、全てを把握している人はいないだろう。
 そう思えるくらいこの施設は広かった。地上から見るとだだっ広い場所にのっぺりとした白い建物があるだけだ。しかし中は迷路のように入り組んでおり、三十万?の各フロアが地下千mまで伸びている。僕はその中の六畳一間を与えられ、モグラのような生活をしている。時折ドーンという地鳴りが聞こえるが、それが何の音なのか皆目検討もつかなかった。
 アンナを机に置き、僕は煙草を取り出し口に銜えた。
「あ、ダメよ。煙草は身体に悪いってテレビでやっていたわ」
 やれやれ。またアンナのお説教がはじまった。アンナは一日中テレビを見て過ごしている。有害な報道こそ身体に悪いと思うのだけど。
「この煙草は身体にいいんだ」
「嘘よ。だってその煙草には『あなたの健康を損ないます』って書いてあるもの」
 アンナが指差した煙草の箱には確かにそんな文句が書かれていた。
「煙草会社が嘘をついているのさ」
「そんな嘘をついても煙草会社は特をしないわ」
「それが違うのさ。人間は禁止されるとそれをしたくなる生き物なんだよ。煙草会社はわざと煙草を禁止にして、みんなを煽っているんだ」
「人間は不思議ね。ダメっていわれると逆効果なんて……」
 アンナはむぅと黙ってしまった。僕はその光景がおかしくて人差し指でそっと髪を撫でてみた。アンナの髪はカツラである。その日の気分によっていろいろな髪形のカツラをつけていた。
「それじゃあ誠! 明日からもっと煙草を吸っていいわよ!」
 アンナは嬉々として口を開く。
「おお、それはありがたいね」
「あっ、ダ、ダメよ。もう、禁止しても許可しても煙草を吸うんじゃない」
 ぷうっとふくれっ面をしてアンナは怒ってしまった。
 ドーン。
 どうアンナをフォローしようかと思ったその時、グラグラと部屋が揺れた。
「また地鳴り? ねぇ、誠。私怖い」
「何が怖いんだい?」
「わからないことが怖いのよ。この地鳴りもだけど、世界はわからないことだらけだわ。電話とか、テレビとか、パソコンとか。便利になるほど世の中は謎だらけになっていく気がするの。ねぇ、技術が進むにつれて人間の世界は終焉へと近づいているんじゃないのかしら」
「まさか。便利になって悪いことなんてないさ」
「そうかしら。私は本当にちょっとしたことから人類は終焉を迎えると思うわ。人間の作り出すものは素晴らしいけど結局のところミスをするのは人間だもの」
「ハハハ。アンナは考えすぎるから髪の毛が抜けちゃ――」
 しまった。アンナは禿なことを酷く気にしているんだった。
 後悔先に立たず。案の定アンナはワナワナと身体を震わせて、その目は完全に三角形となっていた。
「もう! 知らないんだから!」
 怒鳴り声を上げたアンナはそのままベッドの中へ入ってしまった。
 やれやれ。僕からしてみれば、人形が喋ったり動いたりする方がよっぽど不思議なんだけど。
 軽く憂鬱な気持ちで二本目の煙草に火をつける。
 ちょっとしたこと、か。
 核。
 そんなとっくの昔に禁止された言葉が脳裏をよぎる。
 アンナのいうとおりなのかもしれない。例えば今日僕がラベルを貼ったロッカー。そのラベルを張り間違えただけでこの施設は大惨事になり、世界は終焉へ――。
 なんてことあるわけないか。
 プッと思わず笑ってしまう。
 明日、アンナにどう謝ろうか。そんなことを考えているとドーンという今までより一際大きな音が木霊した。

コメント(26)

悲観的だがどこかふざけた質感が、異質を作りこもうとしていると言うよりは平易で小道具がうまく効いているなぁと思える作品だった。なんか濃いタッチの絵で漫画にしたい感じ。
投稿者:陸そ - 06/10 02:28

アンナ強いw
アンナの機嫌を損ねないように
言いくるめようとする彼は
ちょっと可愛いですよね^^
投稿者: ガビガビ - 06/10 17:55

最後のドーンは終焉じゃないですよね

アンナに謝らないといけないもの。終焉であってほしくないですわ
投稿者: 梨久 - 06/11 18:06

日常に異物が混じっている。けれどもそれが日常にうまく溶け込んでいて、すんなりと読む事が出来ました。
純粋に気になるのは題名の『黒い箱』。本文中には全く出て来ていないので、色々と想像を巡らせてしまいます。
投稿者:じゅん(シャケ弁) - 06/11 20:23


ブラックボックス。

確かに世の中はワケの解らない物ばかりですね。

初め、動く人形と読んで苦手なホラーかと敬遠してました。可愛らしい話だったんですね。
投稿者: みづの - 06/13 03:57

【甘口みづの】
アンナが可愛く、妙にアメリカンなセリフ回しの誠も良い具合。秀逸な掛け合いを楽しませてもらいました。

【辛口みづの】
秀逸なワンシーンであって、それ以上でも以下でもない。ストーリー性は低いです。
「特をしない」というのは誤字。
そして平方メートルを「?」と書くのは小説作法的にもまずいですし、それ以前にこれは機種依存文字では?(みづのからは無事に閲覧できてますが)

「三十ヘクタール」とすると、ずいぶん印象が変わりますね。ここは「平方メートル」が正解でしょうか。
アンナとの掛け合いは非常に軽妙で楽しめるが、
そっちが良すぎて、結末がおまけ程度になってしまっている。
いっそ、思い切って終焉云々はカットして、掛け合いだけでオチを付けてしまう手もあったのでは。
あと、折角、ちょっと不思議な世界観を作り上げているので、核という具体的な名称は出さないほうが良かったかもしれない。
爆発オチ? とでもいうのでしょうか。19の爆弾話と若干かぶる。うーん、今回はこういう微妙なかぶりっぷりが多かった気がします。鬘以外。
世界観がつかみにくかったです。というか、たぶんつかめておりませんorz 人形がしゃべるのと、あんまり風景が思い浮かばないでっかい施設に、ロッカーにシールを張る仕事、でも、タバコはある。で、昔に禁止された核。うーん、感覚が微妙につかめない。情報は多少あるけど、わからん。
そんなわけで、音が鳴ったという直接情報は歩けど、やっぱりおちがどこか間接的で、それがどういうことかは読者判断、で終わっちゃっているんですよね。
それでいいといえばいいんですが、読解力にいろいろ欠ける私には結局最後まですべてがつかめずじまい。うーん、申し訳ありません。
投稿者:MAO - 06/13 17:43

 寓話であります。
 なんとなくローゼげふんげふん。真ゲフンゲフンとジュゲフンゲフンと想起させますが、そういう読者側の思惑とは関係なくうまくまとまった感じです。このスマートさはいいセンスだと思います。
 ただ、真ゲフンゲフン、もといアンナが一ヶ月前に目覚めた、というのはなにかの伏線になっているのかと云うと、あんまりそうでもなさそうですが。まぁいいか。
投稿者:銀 - 06/14 04:53

喋る人形と誠との掛け合いで物語が終わってしまった。
軽妙な会話文のセンスの良さはさすがだと思いますが、その他の設定がすべて宙ぶらりんになってしまっている。
木造二階建てのボロアパートが舞台でも良いじゃないと思ってしまうんですよね。
2009/06/14 23:06
投稿者:とりしん

 アンナが生き生きしていて好きです。
 なんで、人形が? と思う隙も与えない展開が功を奏してます。
 なんだかほのぼのしました。でもドーンって……。(泣)
投稿者:snoop. - 06/15 18:39

アンナがかわいらしいですが、ちょっと怖かったです。

楽しめました。
投稿者:竜胆 - 06/16 08:41

 掛け合いが面白いです。ただ、煙草に関する会話が全てで、そこ以外の部分に何かそそられるものがない。
 分からないところ。というより気付かない内に張り間違え……、ドーン(したのかどうか)。うーん、ラストだけ浮いているような。
投稿者:hidesuke - 06/17 00:14

おもしろい。

しかしアンナの存在意義が薄いのがざんねん
投稿者:うなぎ - 06/17 12:46

約550m四方で地下200階ぐらい、と、つい計算してしまった。
ふくれっ面や、心労で毛が抜けた事など、この時点で既に『喋るようになった人形』どころじゃなくなっている。このアンナについて、ちょっと描ききれて無い感じ。
とは言え、世界観は面白い。提示されるヒントが抽象的でありながらも想像を膨らませるキッカケとして上手く効いてます。
世界の描き方は成功だと思う。謎の音も謎なままながら、存在感がある。最後の締めでまた音が鳴るわけだが、この音の正体を何と捉えるか、読者によって異なって来る。それによって、作品がどう伝わるか不確定な部分もあり、危うい。
内容は煙草についての色々だけだが、この背景となる世界観あってこそ、読者の中で話が広がる仕組みになってるんじゃないかな。この辺、非常に上手いです。
インパクトが弱く地味ではあるものの、私にとっては非常に印象深い作品です。
なんか食い足りない気もしなくもないが。

〔個人的感想〕
 ●●●●
投稿者:サンソン - 06/17 16:15

これ、いいんじゃないですか!
なんかこれと言って特定した時代設定がないし、近未来か遥か遥か未来か解らないところがいい。しかし、1600文字で書く物語にしては短いような気がする(笑)。個人的にですが。
ええ、ええ。
でも、人形が喋るようになるってまるで憑き物みたいですね(笑)。
投稿者:ゆきのしん - 06/20 18:17

 イメージによる掴みはOKです。面白いなと思いました。
 箱、地下、核、動く人形。読み手側としてはいろいろと想像力を刺激されますね。文章がすらすらと流れるように、読みやすく書かれているからすごく嬉しいです。
 さて、この話の中の謎めいた部分はどう転がるのか。いや、転がらなくてもいいのですが、どういう方向へ進もうとしているのか。音は暗示なのか、舞台装置でしかないのか、とても気になる。そこのヒントがもう少し欲しいです。
 魅力的な作品でした。
2009/06/21 18:51
投稿者:としあきα

個人的に感想を述べさせて貰うと、こういうオチを読者になげっぱなしな感じの話はあまり好きではありません。
雰囲気とキャラクターは魅力的でしたよ。
投稿者:うなぎ - 06/21 16:12

【投稿候補読み直し再評価】

世界観は秀逸なんだけど、毛が抜ける人形とか、電話やパソコンなどのキーワードとか、タバコの注意書きとか、俗っぽさが抜けきれてないのが惜しい。
シチュエーションはすごく好きなんだけどなぁ。
 うーん……アンナべつに動かなくてもよかった気がする。なんか途中から動けるようにしたように思えて、そこらへんで作者が顔を出してしまうというのはこういった作品においては致命的かなあ。動かなくてもいいものねえ、ベッドに入っただけだし。他にむくれようもあったろうし、動かなくてもいいなら動かないほうがいいよねえ。それか始めから動けることを明示しておくとか云々……

 雰囲気などしっかりしていておもしろい寓話だったが、とにかく動いたのだけがどうしても気になる。これは余計な部類の「気になる」です。なんらか意図したことがあったならたぶん納得しちゃいますけど。べつに言わなくてもいいですけど。いや、言ってもいいですけど。
投稿者:JACK - 06/23 16:42

書評たるモノは自信が無いので個人的な感想を。

完結してないな。いや、完結まで読みたいと言うのが率直な感想。
雰囲気は好きです(笑)
煙草のくだりだが、『アナタに死が訪れます』とか外国製の文句にして欲しかった(個人的に)。
私はいつも思うのだが不思議な世界をショートで作る時、一つに絞った方が読者は集中出来ると思うんだよ。どうも謎が多い。
でも好き。

楽しい作品をありがとうございましたw
2009/06/22 17:58
投稿者:百

アンナの髪が抜けたことも過去にあったであろう核戦争と関係があるのかな?と思いました。
不思議な話ですね・・・。
キャラクターは良いし、誠の勤める会社の謎めいた設定も興味をそそる。会話も面白い。面白いのですが……。

SFやFTの難しさは、読み手と物語世界内の認識のズレを、どのように修正するかだと思います。
この物語の舞台は近未来なのか、それとも全くの架空世界なのか、どちらにせよ1600字で書くにはもともと無理がありそうですね。
あらゆるキーワードや小道具が、物語の「筋」を理解するためにしか働いておらず、背景や世界観の理解を促すのには何の役にもたっていない。

細かいことはさておき、読み手の理解力のみに頼った、作者氏のそうした姿勢が気になりました。
投稿者:鈴猫 - 06/26 14:58

「黒い箱」

これは主人公が住む部屋の事か?
アンナが入っていた箱の事か?
さてはて……。

開けてはいけないパンドラの箱を除いてしまってような、そんな印象をうけました。
西洋人形と言われて、何故かバービー人形的なものを想像していたんですけど、調べてみたら全然違いますね。
それが動いてしゃべるのって、想像すると怖いです。
少なくとも初めて喋った時は、かなりびっくりすると思います。

そう考えると物語の印象もかなり変わってくるんですけど、でもそれを感じさせない二人のやり取りと雰囲気は良いと思います。
投稿者:古安 - 07/01 00:17

なんだかアンナの存在に疑問を持ってしまいました。
タバコについてやり取りしてるところなんかは、アンナらしい幼さが出ていて魅力的に思うのですが、その後がやけに飛躍しているように感じます。

「わからないことが怖いのよ」とあります。
一ヶ月間、六畳一間の空間で主人公と生きてきただけの存在に、「わからないことが怖い」なんてことが言えるのかどうか。
テレビがありますが、テレビから伝わるのはあくまでも情報であって、情報はあくまでも情報でしかない。
そこから漠然とした不安が芽生えるなどというのは、自分の体験と合わせることでしかありえないと思うのです。

私が気にしすぎなのかもしれませんが、読んでいて作品との距離を感じてしまいました。

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