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バトル仮面舞踏会コミュの13.「もみじのほっぺ」 みたらし

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「樹(たつき)、あんた今年も行かないの?」
「行かない。高校生にもなって梨狩りなんて楽しくないし」
 この時期になると、梨農園を営む母の実家に、家族みんなで行くのが我が家の決まりになっている。でも、僕はどうしても行きたくない。だって、母の実家に行けば優美(ゆみ)に会わなきゃいけないから。

「おばちゃん、たっちゃん来てるってー?」
 ガラッと勢い良く開けられた玄関に、中学校の制服を着た優美が立っていた。優美はじいちゃんちのお隣さんで、僕と同い年の女の子だ。この頃は優美に会いたいがために、車で二時間もかかるじいちゃんちに毎年ついて行っていた。
「みんな墓参り行ってるよ」
 僕は面倒くさそうに、玄関のすぐ横の居間から顔を覗かせた。
「たっちゃん、なんで行かなかったの?」
「ん?寝坊して置いてかれた」
「馬鹿じゃないの?」
 僕と話しながらズカズカと家に上がり込んできたかと思うと、優美はドカッと縁側に腰を下ろす。僕もさっきまで見ていた地方のローカルテレビを消して、隣に座りながら、制服姿の優美に尋ねた。
「部活だったの?」
「うん。帰りに家の前通ったら、たっちゃんちの車があったから、お母さんに訊いてきたの」
 嬉しそうにに笑う優美に「あ、そう」と、心無く応えたはずの僕の顔は、さぞかし緩んでいたことだろう。
「にしても、帰郷してきて一人でテレビ見てるなんて、良いご趣味ね」
 憎たらしく優美が言うもんだから、僕は縁側から見える裏山をボケーッと眺めていた。すると、優美が
「この縁側から見える紅葉が一番綺麗なの。今は所々紅いだけなんだけど、もみじが全部真っ赤に染まったら、次は山の上から全体を黄色が包んで黄金に輝くの」
 生き生きとそう話しながら、足下に落ちていた庭の紅葉を拾って、僕の前にスッと差し出した。 あの時、僕がちゃんと言っていれば、あんな結末にはならなかったんだよな。優美が差し出した紅葉の裏側。僕から見える方に、うにょうにょと元気な虫がくっついていた。
 でも、優美が笑顔で僕の方を見つめるから、何かドキッとして二人して黙っちゃって。また、その紅葉を優美がスカートの上に乗っけちゃうし。なのに、僕は目が離せなくて、優美のほっぺが赤く染まっていった。
「優美のほっぺ、紅葉みたいな色」
「何それ、嘘でしょ」
 そう言って、自然と唇を重ねようとした時。初めてのキスだったのに、さっきの虫が優美の足をつたったもんだから、優美がガバッと立ち上がって、必死にスカートをひらつかせて虫をはらいだしたんだ。

 初めてのキスだったのに。何かもっと綺麗な思い出になるはずだったのに。虫に気付いた時に、僕が一言優美に言ってあげればよかったのか。失礼だけど、こんな女の子らしさの欠けた優美なら、虫くらい触れると思ってたなんて言ってしまえば、言い訳だけど。

 その後は、家に帰ってお風呂に入るとか、制服をクリーニングに出すとか喚き散らして。女の子ってわけの分からない生き物だ。あの優美がここまで虫を嫌がるなんて。僕はこの日から女を嫌いになった。一生恋なんかするもんかって。優美の虫嫌いが直接の原因ではないをだけど。

 キスしようとした時、スカートをはらいながら優美が言った言葉が、自分に言われたみたいで。被害妄想だってことは分かってるんだけど、初恋で、初キスで。恋愛を美化しすぎていたとは思うけど、あまりにもショックだった。

 あの時優美が、半べそかきながら叫んだんだ。
「いやー!気持ち悪い!!」

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