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創作小説格納庫コミュのRecord of Reen Gurdian:春風の目覚 13

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県営N空港。
数年前まではこの地方の民間機乗り入れ空港としては唯一であり、国内線、国際線、貨物線の航空機がひしめいていた。
しかし、A県の南側、I湾に埋め立て空港ができたために、現在は小型の民間機と個人所有の航空機、航空自衛隊の輸送部隊や官公庁のヘリコプター、空港に併設されている重工会社などが利用する存在となっている。
この空港の一隅、民間航空会社の航空機を納める倉庫、いわゆるハンガーが立ち並ぶ一角に、その会社はあった。
割と大き目のハンガーを契約しているのは、使用している航空機が古いながらも大型の輸送機を保有していたからだ。
ロッキードC-130Hと呼ばれるその輸送機は、現在この空港と隣接するように存在する航空自衛隊K基地が配備する輸送機と同型だったからだ。
自衛隊が保有するC-130Hは、グリーンを基調とした迷彩か、くすんだ空色の航空迷彩に塗装されているが、その会社のC-130Hは薄いグレーを基調に、青いラインが胴体の中央、前から後ろにかけて両サイドに引かれていた。
垂直尾翼には跳ねて躍る赤い目をしたウサギのイラストが、描かれていた。
機体シリアルを追跡すれば判明するが、元々はアメリカの民間輸送会社がロッキード社から購入、その後この会社に転売された。
会社の名前は因幡航空輸送KK。
N空港が、この地方の主要空港から転落したときに、大手航空会社がもてあましたハンガーの使用権を取得、ついでに空港の使用申請も引継ぎしてこの空港を拠点として営業を行い始めた会社だった。
主に離島などの荷物や旅客を引き受けている会社で、営業を開始してから頻繁に「仕事」を抱えて空を飛んでいる。
使用する機体の元が不整地で運用する軍用輸送機のためか、頻繁に因幡航空輸送に仕事を依頼する顧客が多いおうだった。
中型トラックや小型のコンテナのまま輸送機に搭載できるというのも強みであった。

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そして、同じ輸送機を装備している自衛隊のパイロットや、現在はこの空港の管制を行っている自衛隊員の間では、この輸送機を飛ばしているのが機長・副機長とも女性であると知られている。
女性パイロットは現在の自衛隊にもそれなりの人数がいるのでそれほど珍しいわけではないのだが、二人とも若くて美しいとなれば話は別だった。
若い男性隊員の間では、一種の憧れでもって知れ渡っていたのだった。
ハンガーの中に今はそのC-130Hもしまわれている。
そしてハンガーの一角にこの会社の事務所が入っていた。
『・・・ます。繰り返しお伝えします。今日昼過ぎ、N駅周辺で原因不明の渋滞があり、この渋滞による事故が多発しております。警察は・・・』
事務所の応接室に据えられた32型液晶テレビが、臨時ニュースを流していた。
それを見入ってる人物が5人いた。
3人がけのソファーに女性が二人、一人がけのソファーに男が一人、その男の傍らに女性が一人立ち、事務椅子の背もたれを前にして男がひとり座って見ていた。
「・・・どうやら一つ目の『柱』かな・・・」
一人がけソファーに長い足を組んでふんぞり返って見ていた男が低い声で呟いた。
軽いウェーブのかかった長めの黒髪、長い眉毛の下の双眸は、知性を備えた漆黒の瞳だった。
やや浅黒く、中性的で端整な顔立ちで、中々の長身を持つこの男が、因幡航空輸送KKと書かれた濃紺の作業ジャンパーに、中は黒いネクタイを締めたワイシャツ、黒いズボンを履いていると妙なアンバランスさがあった。
男の名はクォージ・ザグリュイレス。
普段ここでは佐久 孝司と名乗っている、因幡航空輸送KKの社長を務めていた。
その傍ら、ザグリュイレスの横に立つ、小柄で線の細い少女のような見かけの女性は、金髪でウェーブのかかった長めのボブヘアーに白い小さめの顔と控えめな顔立ちだが、目は軽く閉ざしていた。
白いシャツに白いショートタイ、明るいベージュのタイトスカートを履いたいかにも秘書という風情の女性は、エリカ・レン。
この会社では社長秘書、蓮 江利花を名乗っている。
エリカは黙って番組の映像というより、アナウンサーの音声に耳を傾けていた。
「しっかし大丈夫っすかねぇ、春菜ちゃんは」
事務椅子の背に、腹でもたれかかっていた若い男が不安げにザグリュイレスに聞いた。
やや面長の顔つきに、のほほんとした顔つきの見るからに日本人の若者という風情で、グレーのつなぎのパイロットスーツを着て、因幡航空輸送KKとロゴの入った帽子を被ってる。
男の名前は堀越 錬治、因幡航空輸送KKの整備員と、機上整備士・機関士を兼ねている、飛行機整備・製造の達人だった。
「こればっかりはねぇ・・・。風呼びの力に目覚めるきっかけは作って上げれるけど、目覚めるかどうかは本人次第だもん」
3人がけソファーに座っていた女性・・・というより、女子高生くらいに見える少女がその見かけに相応しいしゃべり方で堀越に顔を向けて言った。
何か過去を思い出してる口ぶりだった。
東洋系の顔つきで黒髪をボブヘアに切りそろえている。
太めの眉毛に大きくクリクリとした茶色の瞳を持ち、細めの体つきに白いシャツにだらしなく締めた濃い赤のネクタイに、同色の短めのフレアスカートを履き、濃いグレーのニーソックスを履いている。
前をはだけて着ている、因幡航空輸送KKのパッチを左袖に縫いつけた濃緑のフライトジャケットだけが、彼女の役割を伝えていた。
C-130Hのコ・パイロットである、天城 アリスが彼女の名前だった。
「あんたも苦労したもんねぇ・・・」
アリスの横に座っていた20代中頃の女性は、姉語調の口調で話しかける。
濃い茶色の長い髪を横で束ねて前へ垂らしている。
形の良い眉毛は切れ長で、それに併せて切れ長の目つき、東洋系の顔立ちでシャープな顔つきは美しい狐を思わせる。
出てるところは出て、引っ込んでるところは引っ込んでいると表現できるしなやかな肢体を、オレンジのフライトジャケットに包んでる。
C-130Hの機長であり、メインパイロットである彼女は緋矢 舞といった。
「風呼びは貴重だからな」
ザグリュイレスは表情も姿勢も変えずに、低い声で言った。
それを横目でちらりと見た舞は、再び液晶テレビに目を向けて口を開いた。
「特に『四季の娘』だもんねぇ・・・あのコたち」
自分の「永年」の親友である彼女の「娘」たち。
永い永い間、苦楽を共に闘ってきた同志たち。
あの時は8人だった。
「で、どうするんです?ザグリュイレスさん?」
堀越が横目でザグリュイレスを見て話しかけた。
「準備はできてるのか」
「そりゃもうばっちり」
ザグリュイレスの問いに堀越は即答した。
ザグリュイレスは横目で舞とアリスを見た。
「飛行ルート、管制介入、シミュレート、全部できてます」
快活な声でアリスが返答した。
さも当然そうにザグリュイレスは再び液晶テレビの画面に目を向けた。
見てるというより眺めてる表情だった。
そのとき、4つある事務机の上に一台ずつ据えられてる電話が呼び出し音を鳴らした。
エリカが1コール目の途中で受話器を取り上げ電話に出る。
澄んだ声で二言、三言話すと受話器を置いた。
「・・・クォージさま・・・将様がこちらに向かっています・・・あと、10分以内とのことです」
静かでか細いが、液晶テレビから流れるアナウンサーの声にまったく邪魔されない澄んだ美しい声で、エリカはザグリュイレスにそう話した。
それを聞いたザグリュイレスはソファーから立ち上がった。
他の3人もすぐさま立ち上がった。

因幡航空輸送KKはこの「世界」でかれらの行動をサポートするために作ったダミー会社だった。
現在、この世界の知られざるところで繰り広げられている壮絶な闘いをできるだけかれらに有利にするための存在だった。

彼らは将やシンマたちと同じ、「輪廻の守護者(リーン=ガーディアン)」だった。
目的はただひとつ。
『唯一(ザ・ワン)』から宇宙に在する三千大千世界を守護することであった。

永遠と思われる時間で。

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