あと洋書で気になっているのですが、
H.Stevens ”The Life and Music of Bela Bartok" (OUP)
E.Halaszti "Bela Bartok, His Life and Works" (Lyrebird)
の2冊について、内容などご存知の方いらっしゃいますか??
私にとってもタイムリーな話題です。
まずお薦めするのは次男ペーテル・バルトーク氏による回想録 "My Father" です。タイトルが示すとおり、父親としてのバルトーク像を掘り下げて書いてありますが、ある意味「バルトーク晩年の悲劇」と対を成す本だと思います。ファセットの著作は小説風で感傷的とも思える内容ですが、ペーテルの本は明確で、父がどういう人物だったかを、自分の経験や残された手紙をもとに、淡々と、時にはユーモアも交えて紹介してくれています。面白いエピソードが満載です。
一般の書店では恐らく買えません。Bartok Records のサイトから注文します。
詳細はこちらを読んで頂けると有り難いです。
http://www.musicking.co.jp/mt/trb_cla/archives/04_sheetmusic/my_father.php
バルトーク記念館所長のラーズロー・ショムファイ氏の本も凄いです。
Bela Bartok: Composition, Concepts, and Autograph Sources (Ernest Bloch Lectures in Music)
今読み中なのですが、バルトークの作曲過程を、数多くの自筆譜のファクシミリと譜例で解読しております。"My Father" でも触れられているのですが、バルトークは自身の作曲法について語ろうとはしませんでした。バルトーク曰く「ムカデに、どうしたら100本もの脚を縺れさせないで歩けるのかと質問したら、そのムカデは意識するあまりしばらく歩けなくなるだろう」というのです。しかしその几帳面な性格のためか、スケッチを含む膨大な資料が残されているようで、その資料を詳細に検討することで、謎に包まれた作品の成立史の一端を垣間見ようという、凝りに凝った著作です。
ハルセー・スティーブンス (Halsey Stevens) 著『バルトークの音楽と生涯』(The life and music of Bela Bartok) 紀伊国屋書店 (1961)
"My Father" を翻訳する際に、事項確認でもっとも役に立った本です。伝記部分と作品分析に別れていて、双方とも肝心な部分をきっちりと押さえている良書です。邦訳は絶版なので、古書を探すしかありません。
余談ですが、ニューヨークに発つ際、スイスに取り残した手稿譜などが入った手荷物がいつニューヨークに届いたかという記述に問題があって、スティーブンスとモルーの本が12月24日、グリフィス本が2月と矛盾しており、さらに "My Father" には 1月12日に「荷物を送って欲しい」とバルトークが電報を打ったという記述がありました。この矛盾点をペーテル氏に問い合わせてみたところ、「荷物の在処が判った日がクリスマスの頃だったはずだ」との回答を得られました。伝記も鵜呑みに出来ません。その点でも "My Father" は一次資料に匹敵する価値を持っていると思います。