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我が小説、世に憚る。コミュのsnow room  no.1

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今年の初日の出は雨だった。気温はとても低く、街ゆく人は皆、服の雪だるまのように膨れていた。まるで、自分たちの心を隠しているように、服を重ねて街を歩いている。
 今年になって初めての雪が降った。その雪は二日間降り続いた。そして、積もった。凍える体を温めてしまうくらい眩しく、真っ白に輝いていた。
 雪は次第に溶けてゆく。慌てなくても水となり消えてゆく。目を眩ませて、まるで幻想だったかのように跡形もなく、何事もなかったかのように雪は地面の中に吸い込まれてゆく。まるで、人の夢のように。人生のように。一瞬輝き、幻想のように消えてゆく。
 雪は思い出のようだ。その時は眩しく輝き、時が経つにつれて消えてゆく。雪は冷たい。忘れるという事も冷たいのだろうか?昔の夢を忘れていく事は冷たいのだろうか?

 雪の結晶は六角形である。


    三人


少し薄めで硬い黒のロングコート。そのコートの中にはグレーで無地のスーツを着ている明らかに就職活動ですという大学生の男が街を歩いていた。
何をしたらいいのかわからないまま、リクルートスーツで街を彷徨っていた。どこの会社に行くでもなくただ、日が沈むのを待っている。その夜の風は体を刺す。震えるつもりはなくても震える。人々の見ていない視線まで感じてしまい、ありもしない幻覚に凍え死にそうになる。
就職活動の時期はほとんどの学生が四苦八苦するであろう。悲しい事に、周りはうまく進んでいて、自分だけが取り残されている錯覚をしてしまう。人間という生き物は他を必要以上に輝かせたり、汚したりする。就職活動は特にその幻覚を見させる。その幻覚で自分を見失う者もいる。この学生はその中の一人である。
どこの会社に入りたいのかも、自分は一体何を考えているのかもわからず、ただ、積もった雪に足跡を残しながら街を歩いていた。




口の両端に割り箸を奥まで入れて低音、高音を交互に出します。これを毎日続けると音域が広がります。
浜崎あゆみ、宇多田ヒカル、大塚愛、aiko・・・。目指すは歌姫。
午後のまだ日が沈む前の時間、女子高生が短いスカートの中身を見せながら飛んだり跳ねたり、男子高生がドアの窓から見えない所(いわゆる死角)で隠れながら煙草を吸ったり、近所のおばさんグループが機械を使えず店員に文句を言ったり、中年サラリーマンが女子中学生の唾液を購入したりしているカラオケボックスの中の一つの部屋で、一人の女性が叫んでいた。
煙草臭い部屋の中で、小柳ゆきの「愛情」を腹の底から声を出して歌っている。次の曲も「愛情」その次の曲も「愛情」また、その次の曲も「愛情」・・・・
テーブルの上には烏龍茶、ストローの先が噛んである。ドアの窓から時々、客が覗く。その度に顔が赤くなる。一人で来るのは初めてではないのに、これだけは慣れない女性。




銀座は常に人で溢れている。三越、松屋、松坂屋。歩行者天国。小奇麗な服を着た奥様方。半袖短パンで首からカメラを提げた金髪の外国人集団。二階建てバスから顔を出す中国人。そんな銀座のとある路地裏にある小さな映画館。ここで公開されている映画は全国では公開されていない。単独公開である。
雪が最近溶けて、アスファルトがまだ乾ききっていない午前。この映画館で公開されているのはフランスのラブロマンスと日本のラブロマンス。日仏対決というテーマで公開されている。
「フランス人は自然だねぇ。」
「日本は温かみがあるなぁ。」
「演技がオーバーだよな。」
「演技が下手すぎる。」
「ストーリーがいいよね。」
「あの女優の名前なんていうの?」
「予告のあの中国映画面白そうだった。」
 映画が終わった後の映画館。静まり返ったロビー。本日の上映は終了致しました。またのお越しをお待ちしております。
 日本のラブロマンスを観終わり、余韻に浸りながら銀座の街を歩く少女がいた。現実逃避に似た余韻は少女を幸せに、少しでも辛い現実を忘れさせてくれた。
 


 後へも先へも行かぬ状況が何分続いただろうか。広い会議室の中で中年男性二人と着慣れないスーツの学生三人。その学生の一人が「あなたを一言で言うと?」という質問に答えられずにいた。
 一人の小太り中年が持っているボールペンを机にコツコツと叩きながら答えを待ってやっているという態度をとっていた。
 横並びの席の真ん中に座る学生とその両端から触らぬ神に祟り無しといった表情で見守る二人の学生。
「もういいや。はい。次の人。あなたを一言で言うと?」
「はい。私は何事にも・・・」
 頭の中が真っ白になっているのが、周りから見てもわかった。石になり、何も聞こえず、ただ時間だけが過ぎていき、この学生はその後三十分間、声を発する事はなかった。
 帰りのエレベーター、学生三人一緒に乗った。一人以外は達成感、満足感といった表情を浮かべていた。次は筆記らしいよ、あの面接官怖かったねなど話していたが、一人の学生はずっとエレベーターの階数表示を見上げていた。
 エレベーターのドアが開き、早足で一人の学生はビルから出て行った。その後ろで、陽気な笑い声を上げながら二人は話していた。学生は自分が笑われていると屈辱を感じながら早く二人の声が聞こえない、姿が見えない所へ行きたかった。
 やっとの事で書類審査を通過して、徹夜で練習した面接対策があっという間に泡となった。自分に自信がない。自分がわからない。対策本に書いてある自分でない自分を人に伝える事はできない。面接で頭の中が雪のように真っ白になるのは当たり前だった。
 


「はい。もう少し笑って。いいよ。はい。」
 目が眩み、一瞬、目の前が雪景色のように白くなり、すぐに写真屋のおじさんとカメラが見えてくる。
「きれいに撮れましたかね?」
「現像してみなきゃわかんねぇけど、お姉さんはもともと綺麗なんだから平気だよ。」
「・・・もともとの顔じゃダメなんです。」
 何度、書類審査で落とされた事か。私の歌を聴いてもらっていないのに落とされて納得いかない。一筋縄ではいかない事をこの女性は知っている。
 この女性は二人の自分で悩み苦しんでいた。ただ売れるため、有名になるために歌っている自分なのか、歌が好きで好きでたまらない自分なのか、前者なのか後者なのか疑心暗鬼に陥り、ただひたすら歌うしかなかった。
「あんた。やる気あんの?歌ってるの?歌わされてるの?」
「・・・悩んでます。」
「そりゃあ人間だから悩むときはあるでしょう。あんたはどうなりたいの?」
「歌で食べていきたいです。」
「今のあんたじゃ無理ね。あのね。歌で食べていきたいってことは、あんたの歌にお金を払う人がいるって事よ。悩んでいるぐらいで歌に影響が出るようじゃダメよ。意味わかる?歌で食べていくには毎日ベストを出せなきゃダメだし、人を感動させるって意識しなきゃダメよ。」
 歌で食べたいのか、歌を歌いたいのか、何のために歌っているのか、一人でカラオケに行って誰のために歌うのか、女性は自分という森に迷いこんだ。女性の頭には初雪が髪の毛に降り、溶けていった。
 

 キャラメルポップコーンを片手に指定された座席を探している少女。平日の午前中、都内のシネマコンプレックスは空いている。少女は指定された座席を見つけ座り、キャラメルポップコーンを二粒ほど食べて席を立った。Mサイズの烏龍茶を片手にキャラメルポップコーンを置いた指定席に戻った少女。
 時間になり、数えられるほどの客の姿が暗闇の中に消えてゆき、スクリーンには映像が映し出された。ありがちのラブロマンスだが、全国公開しているため、ランキングでは上位に入ってしまう作品。少女はそう思いながらも泣いた。あまり面白くないと思ったのに瞳から潮の味がする液体を流した。
 少女は学校に行っていない。親からお金を貰い、毎日のように映画館へ行く。家のパソコンで情報を仕入れ、あたかも自分のお金のように財布に入れ出かける。
 少女は、映画館のロビーにあるフカフカのソファーに座ってすすり泣いた。映画を思い出してではなく、今までの生き方を思い出したのだ。少女はおもしろくない映画を観た後は必ず、自分の辛い人生を思い出し、劇場で涙する。良い映画の時は現実逃避、悪い映画の時は辛い現実に叩かれる。映画に左右される少女の感情。
 外は溶けた雪が乾ききらず、太陽の光が道を乾かそうと必死に照らしていた。ただ、ただ、このままじゃいけないと思いながら涙目のまま濡れたアスファルトを踏みしめながら少女は歩いていた。

    部屋 
 

 木と革でできた椅子が三つ、洋式の部屋の真ん中に置かれていた。壁にはピカソの絵が飾ってある。
 頑丈そうな鉄のドアが開いた。不思議そうな顔をした学生が部屋に入ってきて、一番左の椅子に腰掛けた。周りをキョロキョロ見渡して溜め息をついた。
椅子はまるでこれから議論でもするかのように向き合って置かれていた。鉄のドアは脱獄させませんと強く、念入りに忠告しているようだった。ピカソの絵は、これから起こる事は計算できる、間違いない、といったイメージで、実際、何を表しているのか理解できないといった感じで飾られていた。窓はない。密閉されていて少し息苦しく感じた。
 風が吹いた。鉄のドアが開き、少女が俯きながら、部屋に新しい空気を運んできた。少女は俯きながら頭を左右に振った。知らない男性が一人、椅子に座っている事に気がつき、少しビクッとした。ほんの少し固まってから学生の右隣、三つの椅子の真ん中にゆっくりと座った。
 学生は人が来て少し安心した顔をして少女の顔を覗こうとしたが、少女は深く首を下げたままだった。
少女は肩を揺らしながら震えた声で
「・・・ここはどこですか?」
学生は一瞬ビクッとしてから答えた。
「・・・わからない。俺も今、来た。」
 少女は頭を下げたまま長い黒髪をかきあげ、右手の甲で涙を拭った。
 照明は小さなシャンデリアのようなものですごく明るく、単純に綺麗だった。学生は、この照明を見上げ、その視線のまま鉄のドアの方へ移動させた。
《待合室》
 洋式の部屋には似合わない墨で書かれた木の標札が掲げられていた。

コメント(3)

昔に書いた長編小説未完成のものです。
続きはまだまだあります。
ただ、読み返してないし、
変な部分が多々あるかもしれません。
次回掲載されるのは、
あなた次第です。
感想待ってまーす。
ありがとう♪

今の掲載してる中では、

俺も一番好きな作品だし、

すごい時間をかけて

書いてるからね。

けど・・・

まだ完成してません・・・。

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