一番印象に残っていた曲は「Stand」だった。 「おまえが今いる場所で立ち上がれ」なんてシンプルなこと歌ってる、それだけのことなのに、何故かいつまでも記憶に残る、そして気がつくと「Stand in the place you live 〜」と口ずさんでしまっている。音もシンプルで短くて、メロディアスでポップで、どこか懐かしいほっとするような、とにかくビッグサウンドが蔓延する中でその音は、とてもとても新鮮に響いた。
REMの足跡を少し振り返っておく。
イギリスでポリスのマネージャーをしていたマイルス・コープランド(ポリスのドラムのスティーブの兄)がアメリカでのパンクの状況に業を煮やし1979年にロスで設立したレーベルがIRS(International Record Sindicate)。 マイルスの共同経営者ジェイ・ボバーグは元々メジャーレーベルのA&M社でカレッジ・ラジオ局の担当者だった。 カレッジラジオ局は、ほとんどが学生たちのボランティアによって運営され、各大学の非営利のFMラジオ局は商業主義に影響されずに音楽を流すことが可能であることを知っていた彼はそこに目をつけ、このカレッジラジオのネットワークと協力関係を結んで、メジャーの商業主義的音楽に対し、独自の音楽性をもったバンドの発掘、この場合特に反メジャー的な等身大の、パンク的なバンドの発掘を始めた。 つまりメジャーなものに対するオルタナティブ、の発掘を目指した。
REMは南部のジョージア州アトランタ近郊のアセンズという町の出身であり、今でもそこを本拠として活動している。 上で触れたIRSから6枚のアルバムを出し、IRS最後の87年の「ドキュメント」を最後に600万ドルでメジャーのワーナーに移籍、88年「Green」、91年「Out of time」、92年「Automatic for the people」となる。ここまでのアルバムはどれも劣らない傑作ばかりだが、特徴を言えば「ドキュメント」あたりは政治色が強く、「Green」ではパンク色の強いコンパクトな曲が多い印象、そして「Out of time」ではストリングスやホーン・セクション、ペダル・スティールなどが取り入れられて幅が広がり、とてもポップで、中でもピーターバック(G)がマンドリンを使ったシングル「Losing My Religion」は全米1位を記録、「Out Of Time」は1000万枚を超える大ヒットを記録した。そして「Automatic・・」では一転、静の雰囲気を醸しつつもメロディーとボーカルの伸びやかさがすばらしく、前作をこえる1500万枚を記録、世界的なバンド、現代最高のロックバンドの名をがっちりと刻み込んだ。いずれも甲乙つけがたい傑作ばからいだが、アルバム全体の総合点でいうと「Automatic・・・」がやはりベストだろうか。昔は圧倒的に「Out of time」だったし、「Automatic・・・」は暗くて嫌いでほとんど聴かなかったが、10年経った今では一番好きなアルバムだ。なぜかふいにこのアルバムのことを最近思いだし、今聴けば絶対にはまるはず、と思ったらやはりそうだった。聞き手の年齢と共に聞こえ方が変わる、というか少し大人になるとよりわかるアルバムなのだろう。
REMのサウンドの魅力は、フォークロックやカントリーロックの要素とパンクの影響、それにポップなメロディーセンスがマイケルスタイプの伸びのある声と絡み合う時の何とも言えない雰囲気にあると思う。特にフォークの影響は大きな魅力のポイントになっていると感じるが、それはフォークというよりももう一つ前のフォークロアのようなエスニックな雰囲気にあると思う。「You are the everything」などはツェッペリンを思い出しまった。それはピーターバックのマンドリンやバンジョーと+αの編曲によってももたらされていると思う。 またマイクミルズのコーラスもバーズの影響が感じられて良い味を出しているし、彼ら自身フォークのジョーンバエズやNYパンクのパティスミスの影響を公言している。