DNAポリメラーゼ DNA polymerase 【概要】 ヌクレオチドという小さな部品を繋げながら、1本鎖のDNAやRNAを鋳型に新しいDNAを作る酵素。DNAポリメラーゼαはDNA鎖の合成開始、DNAポリメラーゼβはDNA修復、DNAポリメラーゼγはミトコンドリアDNAの合成、DNAポリメラーゼδはleading鎖の合成に働く。逆転写酵素はRNAからDNAを作る。
DNAポリメラーゼ 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2010/04/29 06:19 UTC 版)
DNA ポリメラーゼ (DNA polymerase; -ポリメレース) は1本鎖の核酸を鋳型として、それに相補的な塩基配列を持つ DNA 鎖を合成する酵素の総称。一部のウイルスを除くすべての生物に幅広く存在する。DNA を鋳型としてDNA を合成する DNA 依存性 DNA ポリメラーゼ(EC 2.7.7.7)と、RNA を鋳型として DNA を合成する RNA 依存性 DNA ポリメラーゼ(EC 2.7.7.49)の、2つのタイプに分けられる。前者はDNA複製やDNA修復において中核的な役割を担う酵素である。一方後者はセントラルドグマの範疇から逸脱する位置にある酵素で、逆転写酵素やテロメラーゼを含む。
目次 1 機能 2 必須要素 3 遺伝子ファミリー 3.1 Family A 3.2 Family B 3.3 Family C 3.4 Family D 3.5 Family E 3.6 Family X 3.7 Family Y 3.8 Family RT 4 典型的な組成 4.1 原核生物 4.2 古細菌 4.3 真核生物 5 関連項目 6 参考文献
Family A DNA複製やDNA修復に関わる酵素が含まれる。複製系の酵素としては、非常によく研究されたT7 DNAポリメラーゼや、ミトコンドリアのDNAポリメラーゼ γ がある。修復系の酵素としては、大腸菌のDNAポリメラーゼIや、Thermus aquaticusやBacillus stearothermophilusのpol Iなどがあり、 除去修復や岡崎フラグメントの処理に関わっている。
Family B ほとんどが複製系の酵素で、真核生物のDNAポリメラーゼα, δ, εなどを含み、それぞれ複製の開始、ラギング鎖の合成、リーディング鎖の合成をおこなう。古細菌から発見されたPol B1, Pol B3も同様の複製系酵素と考えられている。
Family C 基本的には細菌の染色体複製に関わる酵素である。大腸菌のDNAポリメラーゼIIIのαサブユニットはヌクレアーゼ活性がなく、別のαサブユニットが3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を提供している。
Family D まだよく研究されていないが、古細菌の持つ複製系の酵素の一つで、主にラギング鎖の複製を行うと考えられている。大小二つのサブユニットから構成され、大サブユニット側に触媒活性を持つ。他のファミリーのDNAポリメラーゼとは配列上の相同性が認められない。かつてユリアーキオータ門固有と考えられていたが、2003年にはナノアーキオータ門、2006年にはタウムアーキオータ、2008年にはコルアーキオータ門の全ゲノムが解読され、これらの生物もFamily D持つことが明らかとなっている。ラギング鎖の複製もFamily Bで行う好熱性クレンアーキオータ(狭義のクレンアーキオータ)の方が、古細菌の中ではむしろ例外的な様である。
Family E 古細菌クレンアーキオータ門Sulfolobus islandicusから発見されたポリメラーゼ。ほとんど研究が進んでいない。
Family Y このファミリーの特徴は無損傷のDNAに対する忠実度が低く、逆に損傷を受けたDNAでも複製できる点にある。損傷乗り越え複製(translesion sythesis; TLS)によってエラー無しに、もしくはエラーを無視して複製できるようになるが、後者の場合変異率は上昇する。色素性乾皮症のバリアント型(XPV)の患者は、UV損傷をエラー無しに修復できるPol ηに変異があり、代わりにエラーを無視するPolζ(これはfamily Bのポリメラーゼである)が働くため、発ガンしやすい傾向がある。ヒトには他にPol ι・Pol κ・Rev1というメンバーが知られている。大腸菌ではPol IV (DinB)とPol V (UmuDC)が知られている。
Family RT これはRNA 依存性 DNA ポリメラーゼ(逆転写酵素)であり、レトロウイルスや、真核生物のテロメラーゼが該当する。