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私の勉強部屋コミュのフクイチだけじゃない!BWR(沸騰水型原発)の出力発振 核暴走事故の危険性

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タイトルちょっといじってみました。

BWRの出力発振 核暴走事故の危険性 
BWR出力発振検討グループ・・石川徳春,片平一郎,河田昌東,小村浩夫,山崎久隆,山本定明
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/100/PDF/No43-1.pdf

原発解体コミュのBWRトピコメ13にちょっと書き出してありますが。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=2462654&id=25259621&comment_count=13

結構重要そうなので、全部書き出してみます。

途中まで書き出しました。PDF読める人は是非読んでください。地震なくてヤバイよ!浜岡から東と東北と島根原発の型のがこのBWR(沸騰水型原発)です。フクシマはスクラムできなかったのではと疑ってます。


1.はじめに
1988年3月9日,シカゴにほど近いラサール原発2号炉が出力振動事故を起こしました.原子炉出力が大きくなったり小さくなったり,周期的にゆれ始め,定格出力の118%に達して自動停止がかかったのです.事故当時は日本でもそれなりに報道され話題にもなったこの事故は,いまは原発事故に関心の深い人々の間でも関心が薄れてしまった気味があります.

しかし,この事故は決してそのまま忘れてしまっていい種類のものではありません.沸騰水型軽水炉(BWR)の弱点をつかれたかなり深刻な事故なのです.

これに他のまずい事態が重なると反応度事故(暴走事故)に発展し,致命的な影響を周辺に及ぼす大事故になる可能性があります.


まずラサール原発事故を簡単に振り返ってみましょう.他の多くの原発事故同様,ことは運転員の誤操作から始まりました.日常的な監視テストとして炉の水位を測定中,誤操作から再循環ポンプ(炉水流量を加減するポンプ)が2台とも同時に停止(トリップという)してしまいました.この結果,原子炉は定格出力運転時に対応する制御棒(制御棒は引き抜けば核反応のアクセル,挿し込むとブレーキの役割をする)位置のままで,炉への給水は自然循環状態(対流のみ),炉の出力は40%
に低下という状況に追い込まれました.

このような低出力時の炉は決して安全ではありません.
低出力時には炉心の流量,圧力は微妙に変化し,不安定になります.

核反応の小さな変動が増幅され,出力が振動し始め,その振幅が増大していきます.

ラサール原発の場合,周期2−3秒の振動が数分続き,中性子束(核反応度に対応)が118%になってスクラム(SCRAM,強制的に制御棒を挿入して炉を停止するプロセス)がかかり停止しました .中性子束は局所的には300%に達したといいますから ,燃料損傷に結びつく可能性もあったはずです

もちろん原子炉の設置許可申請時には出力振動など想定されていません.
ラサール原発の場合,米原子力規制委員会(NRC)によれば,出力振動に関してはアメリカでも最も信用できる炉の1つであるはずでした.
ですから,ラサール原発事故がNRCに与えたショックは大きかったのです.運転管理面での対応を求める通達がNRCから電力会社に出されましたし ,同様な通達は日本でも出されたようです .

また,NRCの運転データ分析評価室(AEOD)はラサール原発事故に関する特別報告を出しました .学界,産業界の反応はもっと大きなものでした.日本の原子力学会講演会や学会誌ではかなりの量の研究が発表され,アメリカでは国立の研究所が集中的にこの問題に取り組み,出力振動だけをテーマに取り上げた国際会議も開催されました.アメリカでは民間の動きも活発でした.民間の科学者の集まり,憂慮する科学者同盟(UCS)は独自の分析からNRCの対応を批判し ,オハイオの市民グループは運転停止の請願を行いました .また,出力振動はラサール原発でこのとき新しくみつかったものではなく,推進側ではBWRの本質的欠陥として早くから意識され,研究も進められてきた問題であることもわかってきました .

すなわち,ラサール原発事故はこの問題が市民レベルまで見えてきたまたとない機会だったのです.


ラサール原発事故以後にも,88年10月にはバーモントヤンキー原発で同様の事故が起きました.

89年6月にはブラウンズウイック2号炉で再循環ポンプが2台とも停止,振動を恐れて炉を手動停止しています.最近ではアメリカ西海岸のワシントン州で,WNP-2(WPPSS,ワシントン公益電力供給公社)という炉が出力振動を起こしています. それに,出力振動はアメリカの炉に限ったことで
なく,イタリア,ドイツ,スエーデン,フィンランド,スペインでも,運転中,テスト中に起きています.

日本では1988年2月1日,浜岡1号炉の再循環ポンプがやはり2台とも止まってしまいました.原因は電磁リレーが焼け切れてしまってポンプの電源が落ちてしまったことでした.この事故の際,中部電力は自然循環状態の不安定な炉を4時間半もそのまま放置しました.このとき出力振動のおそれはあったはずですが,そのような発表はありませんでした.


そもそも,この事故に関しては中部電力はほとんどデータを公表せず,長時間なにをしていたのか明らかではありません.私達は出力振動のおそれは充分あったと思っています.この事故についてはいろいろ問題があります.

まず,ラサール原発事故の1カ月前,日本でも再循環ポンプ2台停止という事故が起きたこと,そしてこの事故は明らかに設計基準事故(設計にあたって想定して対策を考える事故)を越える事故だったことです.

設置許可申請書には「2台の再循環ポンプが同時に停止することはない」と明記され,「2台の再循環ポンプ停止は考えられないが,もし停止したときは自動的にスクラムがかかる」となっているのに,実際には2台とも停止してしまい,スクラムもかからず,最終的には運転員が手動で停止しています.それに浜岡1号炉はおなじ事故を88年8月にも起こしており,二回の事故とも中部電力はいまに至るも情報をほとんど公開していません.この点はラサール原発事故については,アメリカでは情報公開法に基づいて曲がりなりにもいろいろな情報が公開され,比較的オープンに議論ができるのとは雲泥の差があります.

出力振動が起きた場合でも,いまのところスクラムがかかって大事故に発展していませんが,最終的な歯止めであるスクラムに万一失敗すれば,チェルノビリ事故同様の反応度事故(暴走事故)に発展するのは必至です.

スクラム失敗はありえない事故ではなく,スクラムできなかった事故はいままでにも結構ありました.幸いなことに,ただそれが暴走事故や冷却水喪失事故などと結びついて起きていないだけのことです.

出力振動という事象は,近頃やかましい議論のあるシビアアクシデント(過酷事故)の範疇に入る事象であることは間違いありません.というのも,過酷事故の定義である「原子炉設計に際して想定される設計基準事象(原子炉の安全設計とその評価に当って考慮すべき事故)を大幅に越える事象であって,安全設計上想定された手段では冷却または反応度の制御ができない状態であり,その結果,炉心の重大な損傷に至る事象」であることは疑いないからです .

日本では通産省が各電力会社にシビアアクシデントマネージメント(過酷事故対策)の提出を求め,電力会社は94年3月31日,いっせいにこの報告を提出しました.BWRについてはおおまかにいって4つの対策が提示されていますが,このなかには,出力振動とか,反応度事故とかの言葉はありません.出力振動まで含めたマネージメント案が出されるのかどうかを注視していましたが,結果は「やはり...」という感じです.

重要でないからというのが触れていない理由ではないでしょう.有効な対策が見つからないからではないでしょうか.過酷事故のなかでも,日本では安全審査においてもほとんど顧みられてこなかったのが,この出力振動問題です.

コメント(66)

3.出力振動の実例および試験例

3−1 出力振動事故の時間的経過と振動形態

まず冒頭にあげたラサール原発2号炉(BWR−5 )の出力振動(中性子束振動)を,時間を追って見てみましょう.

1988年3月29日午後5時32分,定格出力の約84%,定格流量の約76%での出力運転中に,作業員が機能試験中に弁を誤操作したため「原子炉水位低」の信号が発生し,再循環ポンプ2台が自動停止.そのため原子炉は自然循環状態になりました.

この時制御棒は定格運転状態の近くまで引き抜かれていたため,出力約43%,流量約30%の「高−(出力/流量)比」の状態へと移行.同時に,出力低下に伴い蒸気流量が減少したことによる給水加熱機能の低下と, 炉内水位変動に伴う給水加熱器のゥ動隔離(再循環ポンプ停止後約30秒)によって,給水温度が約30°C低下.そのような状態で運転を継続していたところ,再循環ポンプ停止後約190秒後に,周期2〜3秒で定格出力の25〜50%の中性子束振動が発生.

そのため,同ポンプ停止後約370秒後,ラサールの運転員は,炉心流量の増加により不安定領域から脱出するために,それまでの訓練や手順に従って再循環ポンプを再起動させようと試みたものの失敗.

さらに手動でスクラムしようとしていたところ,同ポンプ停止後約396秒後にAPRM(平均出力領域モニター)が118%に達し,最終的に原子炉は自動スクラム.この時,LPRM(局所出力領域モニター)は最大約300%にも達していたことが報告されています.

この経過については,日本原子力研究所による計算機シミュレーションの詳細な結果が公表されていて,出力−流量の時間経過が,図3−1に示すように,一目瞭然でわかります.
どこまで振幅が上昇したのかについては,
図3−2で見てみましょう.


この図は,アメリカのブルックヘブン国立研究所が行った計算結果を示したもので,上の図では,振動発生後7秒でスクラムがかかり,振動は収束しています.下の図はスクラムに失敗したと仮定したときの計算結果で,ピークの値は定格の十数倍に達していることが見て取れます.

この事故はいくつかの重要な問題を提起しました.まず,ATWS(スクラムしない過渡変動)対策として設定されていた再循環ポンプの2台トリップ(炉心流量を減少させ蒸気量を増大させることにより負のボイド効果 で出力を低下させるというもの)が,その一方で出力振動を引き起こすような不安定領域「高−(出力/流量)比」へ原子炉を導いてしまうという危険性を有していることを初めて明らかにしました.

しかも,安全解析によれば,事故時のような運転状態では振動は発生しないと解析されていたのです.
さらに,このような出力振動の最中に運転員の誤操作や主蒸気隔離弁(MSIV)の閉止などが重畳して反応度が投入されたり,あるいは炉心サイクル や出力分布,制御棒位置などの原子炉の状態が異なっていたりした場合には,事態はさらに悪化していた可能性もあったものと思われます.

というのも,ラサール以降行われた計算機シミュレーションの結果のうちには,そのような危険を示すものもあるからです.

アメリカ,ブルックヘブン国立研究所の研究は,炉が振動状態に入っているとき,主蒸気隔離弁閉鎖が起これば振動の振幅は一挙に6倍になるという結果を示しています(図3−3). 図の0秒の時点で出力振動が始まり,5秒の時点で主蒸気隔離弁閉鎖が起きたとたん,圧力は瞬時に上昇,その結果として出力が急増しているのが見てとれます.

出力振動は始めから炉全域で起こるのではなく,炉心の一部の領域が不安定になり,それが炉心全体に波及していくものですが,その態様には2種類あります.

1つは,炉心全体に同位相,つまり炉心全体が出力の山を迎え,次に全体が谷に落ちて行くような振動です.それとは別に,炉の半分(半円)の領域が山のときに他の半分は谷になり,半分ずつ位相が180°ずれながら(逆位相)振動を続けている振動形態もあります.

もっと複雑な振動様式も報告されていますが,簡単にするためにここではこの2つに限り,前者を同位相振動(
in-phaseインフェーズ),後者を逆位相振動(out-of-phase アウトオブフェーズ)と呼ぶことにしておきます.

ラサール2号炉の場合は同位相振動でした.この事故ではAPRM118%でスクラムがかかったわけです.現在の大半の原子炉では,「中性子束高」のスクラム信号は炉心全体の出力を監視するAPRMによって発せられるようになっていますが,これは炉心内の局所的な出力を監視しているいくつかのLPRM の値を平均したものであるため,炉心の一方が他方との位相が180 ゚ずれた逆位相で振動している場合にはスクラム信号を発信できず,そのため局所的には燃料棒が破損するようなレベルにまで出力が振動・上昇する可能性があるということを示しています.

原子炉の出力監視システムの問題・欠陥が明らかになったことになります.
この対策についてはラサール後提案されているものもありますが,それは6章で改めて議論します.
3−2 出力振動の発生例(試験時)

これまでに文献などで報告されている世界各国の原発での出力振動の発生例について,表3−1にまとめて示します.

表には,炉心安定性の検討などの目的で行なわれた各種試験の際の発生例と,通常運転中の原発での発生例が示してあります.

試験を行っているということは,出力発振が心配の種だったため,発振要因と思われる事象を人為的に作り出しては試してみる必要があったことを示しています.
表のうち,典型的なものを拾い上げてみましょう.

まず,
同位相の発振例ですが,米のバーモントヤンキーにおいて,図3−4のように十数点を選び,再循環ポンプを完全に2台とも停止した自然循環状態と,再循環ポンプを最低速度で動かしている状態で安定性実験が行なわれ,その中の1点では,APRMの振幅が5`6%の同位相のリミットサイクル振動が発生しています.

フィンランドのTVO−II原発でも,自然循環状態で制御棒を少し引き抜くと同様な同位相の振動状態が出現し
ました.
逆位相の振動ではカオルソ(イタリア)が典型的です.

自然循環状態で出力を上昇させていったところ,中性子束のリミットサイクル振動が発生しましたが,この場合は図3−5のように,炉心の一方とその反対側で位相が完全に逆になっている振動になりました.

つまり炉のある領域が振動の山を迎えたとき,炉中心に対してその点と反対側にある点では中性子束は谷になっているのです.そのため,LPRMの振幅で最大のものは60%にもなったのに対して,APRMの振幅は10%程度にしかなりませんでした.

同様の例はドイツのライプシュタット原発です.

運転開始後の速い時期(第一炉心サイクル)に安定性試験が行なわれましたが,様々な出力/流量状態でリミットサイクルの逆位相振動が生じています.一例としてあげれば,46%出力/29%流量から,56%出力/31%流量までの4つの状態で振動が発生し,そのうちのLPRMの最大は66%にも達している一方,その時のAPRMは8%しか示していなかったことが報告されています.

図3−5左側に示されたLPRM4と6の位置は炉の中心に対して点対称の位置にありますが,右のLPRM信号の時間変化は完全に逆位相であることがよくわかります.

もう1つ注目しておかなければならないのは,ABWR(改良型沸騰水炉)も出力振動の例外ではないということです.

ABWRはBWR−5後のエースとして,アメリカと日本が共同開発し,日本や台湾に必死で売り込みを図ってきた炉で,一口でいえば安全性を犠牲にして経済性を追求した炉です.

最も顕著な特徴は,再循環ポンプをいままでのように外へぶらさげず,炉内へ取り込んでしまったことです
(インターナルポンプ).これはいままで回転している部品・機器を炉内に配置することはなかった設計思想の大転換であり,ポンプのブレード(水をかき回す羽根)を損傷するような事故があれば,今度はその破片が炉心を直撃します.たしかにいままでの再循環ポンプは振動を起こしやすく,地震にも弱く,ポンプの配管が壊れれば冷却水喪失というスリーマイル島型の事故を起こす危険があり,BWRのアキレスけんといわれてきました.
だからといって炉内へ取り込めば問題解決とはいきません.

インターナルポンプを採用したKRB・グントレミンゲン−BおよびC(ドイツ)においても,カオルソ同様の逆位相のリミットサイクル振動が生じています.


インターナルポンプを採用したKRB・グントレミンゲン−BおよびC(ドイツ)においても,カオルソ同様の逆位相のリミットサイクル振動が生じています.
KRB・グントレミンゲン−C(ドイツ)では,84年に振動試験を行いました.制御棒位置100%,3〜4個のインターナルポンプ が最低速度にあるところが安定領域と不安定領域との境界で,制御棒位置110%,2〜5個のインターナルポンプ稼働時に不安定領域に移行.炉心の中心に対して点対称の位置で逆位相の振動が発生しています.

このときも中性子束は個々のLPRMが大きな変位を示したのに,APRMはほとんど振れず,逆位相振動に対する中性子計装が無力であることを露呈しました.

KRB・グントレミンゲン−C(ドイツ)では,84年に一連の精密な安定性試験が行なわれました.実験では,自然循環状態,制御棒位置100%,減幅比0.55の状態で制御棒を引き抜いて出力を上昇させ,制御棒位置120%に達した時にリミットサイクル振動が発生し,制御棒位置120〜124%の間でその振幅が増大し,126%を超えると振動は発散し,再循環ポンプの起動と制御棒の挿入により振動は収束しています.

この時の逆位相振動の瞬間LPRM信号は,山と谷の差(ピーク・トウ・ピーク)で示すと約83%に達しました.
このように試験では最後の例を除「て,出力振動は振幅が一定値に近づくリミットサイクル振動であって,制御棒の挿入により振動は収束していますが,実機での運転時の経験はそうはいきません.

次節で実機での運転時の振動例について述べますが,その前にABWRについてはもう一度触れておきたいことがあります.それはこの最大級出ヘ135万KWのABWRがこれからの日本の炉の主流になることです.

この危なっかしい炉は米での型式承認が長い間とれず,1994年7月になってやっとNRCが最終設計承認を発給しました.したがってアメリカにはこの型の炉はまったくありません.

ところが日本では柏崎・刈羽6号炉が建設中で96年には運転を開始する予定であり,芦浜,浜岡5号,志賀2号,東海等,これから建設を予定されているBWRはすべてこのABWRで押し通す勢いです.

上に述べたようにABWRは出力振動と無縁ではないこと,それにインターナルポンプは直接に炉心に水を送っていますから,その停止,起動は泡を通して炉心の反応度に直接影響を与えることを考えれば,ABWRの出力振動は決して無視できません.

ABWRには他にも大きな欠陥があり,それがNRCの承認がなかなか出なかった理由です.日本では特に,これからABWRに批判的な目を向けていかなければならな
いと思います.

3−3 出力振動の発生例(運転時)

実機運転時における発生は,ラサールにおけるように振動はリミットサイクルにとどまらず,出力発振を起こしています.運転時の発振については,試験時の振動よりよりくわしく述べておきましょう.

カオルソ(イタリア)では,82年には原子炉起動時に,83年には再循環ポンプ1台停止および給水加熱喪失により出力振動が発生し,APRM高によりスクラムしています.

再循環ポンプ1台停止の場合はャ量(※PDFママ)は他のポンプでかなりの量が確保されているはずですが,それでも出力発振は起きています.これはちょっと注目しておく必要があります.

というのも,日本では94年8月,志賀1号炉が再循環ポンプ1台停止を起こしたのは記憶に新しいことですから.この原発については運転差し止めを求める民事訴訟が起こされていました.

94年8月25日に出された判決は,再循環ポンプ停止の際の出力振動は起こらないとはいえないとしながらも,
原発の運転そのものは認める不当なものでした.

志賀原発再循環ポンプ停止事故はその判決の翌日に起きたのです.

バーモント・ヤンキー(アメリカ)では88年,再循環ポンプ1台停止による流量低下により同位相の振動が発生.流量増加により振動から脱出.これも1台だけ停止の際の事故です.

インターナルポンプをもツ原発でも実機での発振例があります.
TVO−1(フィンランド)では87年2月22日,原子炉起動時の出力60%,流量30%の時に,振動の山と谷の差で表すと30%の振幅の振動が逆位相で発生.さらに給水加熱喪失により振動が増大したためスクラムしています.フォルスマルク1(スウェーデン)では87年8月20日の原子炉起動時に,最低炉心冷却材流量のままで制御棒を引き抜いて出力65%にした時に振動発生.周期2秒の振動がAPRMとLPRMの両方で観測され,全体的には同位相で振動していましたが,時々逆位相になるところもありました.

減幅比は限界の0.8に接近しましたが,運転は定常状態を維持.また,この振動の特徴的なこととして,図3−6の太い線と細い線の矢印で示されるように振動場所が次々と移動したことが,LP q Mのシグナル伝達の解析より明らかになっています.

このことは出力振動の様式は同位相,逆位相に分類できるような簡単なものではなく,未だ解明されていない複雑な機構が関与していることを示唆しています.

出力振動の際の細かいデータが収集され,発表されている例として,もう1つ,リングハルス1(スェーデン)をあげておきましょう. 89年10月26日に原子炉を起動中,出力80%,炉心流量35%で異常が発生したため再循環ポンプ
速度を低下させたところ,突然周期2秒のリミットサイクル振動が発生.この時点での出力は75%,冷却材流量は32%でした.制御棒を挿入しトも振動は減少しなかったため,3分後に運転員が手動で部分スクラム(選択制御棒挿入のことです).

それによって振動は停止し,出力は68%で安定.この振動の原因は,給水温度の低下にあったとされています.いままでの例では,振動の位相については径方向の話をして,同位相ニか逆位相とかいってきました.
LPRMの記録によれば,炉心垂直方向では,底部から頂部へのボイドの移動および中性子動力学による位相遅れ
が生じていたことがわかります(図3−7).

一方,径方向では,最大位相差約130°の逆位相の振動が生じ,振幅は谷底と山のてっぺんとの差で測ると,全出力の16%に達していました.また,ある炉心部分で生じた振動が他の炉心部分の大半に影響を及ぼしていたこともわかっています.
4.出力振動のメカニズム

4−1 振動現象

ある系が定常状態から少しずれたとき,その系に制御系が設けられていて回復する機能があっても,回復に時間がかかったり,振動を始めてしまって落ち着かなかったり,はなはだしいときは振動の振幅が次第に大きくなって振り切れてしまう

(発振する)ことがあります.これは制御工学ではよく知られた事象です.
この事象をわかりやすく説明するため,電気炉を一定温度に保持することを考えてみましょう.

なんらかの乱れで電気炉の温度が一時低下したとしましょう.センサーはこの低下を読み,設定値との差を増幅して,より多くの電流を電気炉のヒーターに流すよう信号を送ります.

この信号を受けとった後,温度が図4−1(a)のように時間遅れを示すことなく回復してくれればいいのですが,現実には必ず時間遅れは存在します.

増幅器のゲイン(増幅度)が小さい場合は応答が遅く,なかなかもとに戻りません(b).そのうちに次の乱れが発生し,炉の温度は一定に保持できないことになってしまいます.

ゲインが大きいと応答は速くなりますが,大きすぎると行きすぎてしまって,(c)のように振動してしまいます.それでも減衰しながら一定値に戻ればいいのですが,条件によっては(d)のように発振してしまいます.

BWRの不安定性も本質的にはおなじ機構です.
BWRの不安定性はむずかしい問題で,すべてが解明されたとはとてもいえない状況ですが,なんとか基本的なところを説明してみましょう.ただ,その議論に進むには,2章で述べたこと以外にも,BWRのしくみや炉心の形状についておおまかな理解が必要です.

水で減速された中性子がウランに次々にぶつかり,生み出された中性子のうち平均1個の中性子が次の反応に使われて核反応を持続させていく状態を臨界と呼ぶことは2章で述べました.

この臨界からのずれを反応度と呼んでいました.反応度0が臨界,正が超過,負が未満に対応します.BWRの場合,反応度が炉心の泡(ボイド)の量により左右されます.水とは違いボイドは中性子を減ャしませんから,
ボイドが増えると中性子束(中性子の流れ)は減少し,炉の出力も下がります.

このことをBWRは負のボイド反応度係数をもツといいます.このため,炉出力が上がればボイドが増え,増えたボイドは核反応を下げる方向にもっていくことになり,このことがBWRの自己制御性と呼ばれています.チェルノビリ事故のあと,日本の原子力安全委員会が日本の炉は炉型が違うから安全と主張したのは,このことをいっていたのです.

しかし,負のボイド係数は別の状況では正の反応度投入に結びつきます.

炉心に冷たい水が入ったり,炉の圧力が急上昇してボイドが一瞬にしてつぶれれば,一挙に大きな正の反応度投入に変わるのです.同時に,負のボイド係数は出力振動の原因となります.

前出のヒーターの例でのゲインが大きいことと同じで,外乱に過剰に応答して振動してしまいます.したがって,BWRの自己制御性は両刃の剣のようなものです.

このことはあとの議論でもしょっちゅう触れることになります.


上に述べたのはBWRの本質的なしくみにかかわることです.BWRの振動問題にかかわるのは,このような核的過程(核反応に関する過程)ですが,振動現象はこの過程がない場合(火力発電のボイラーなど)でも起こります.これは細管や狭い隙間を通り抜けて行く水流に起きる不安定に起因するもので,熱水力学的不安定
性(チャンネル不安定性)と呼ばれています.BWRではこれに加えて核的過程が決定的な要因となって,総体としての安定性(炉心安定性)を決めているため,複雑な事象になってしまいます.

4−2で熱水力学的不安定性についてみたのち,4−3でBWRの総体としての炉心安定性について考えてみることにします.
4−2 二相流の振動原因−熱水力学的不安定性

BWRの炉心はラサール2号の場合で,高さ3.7m,径4.7mという大きなものですが,そのなかは泡だらけです.定格運転で炉心のボイド率は43%,炉心下部から上部にいくにしたがってボイドの量は増え,燃料棒と燃料棒の狭い隙間(3mm)をボイドと水の二相流が秒速,数mの速さですり抜けて行きます.

これだけのことを頭に入れておいて,振動発生のメカニズムに入りましょう.

本質的には次の過程が考えられます.
原子炉の炉心下部から,炉水がサブクールの状態で入ってきます. その水は燃料棒の間を流れるうちに温度が上昇し,沸騰が始まります.
ボイドが大きくなり,合体して気泡の塊となり(この状態をスラグ流という),蒸気が流路断面の大半を占めるようになると,液体部分は蒸気中のミスト(水滴)以外は燃料棒表面にへばりつきながら流れていくものだけになります.

これを環状流といいます(図4−2).

通常の定格出力では,炉心出口(燃料棒最上端)付近だけがスラグ流や環状流の状
態であり,その下の流路では,冷却水は小さなボイドを伴う気泡流の形で流れてい
ます.定常状態では燃料棒間にあるボイドは小さく,燃料棒の管壁で発生してはす
ぐに離れて上方に流れ,炉心から熱を運び去ります.

ところがこの定常状態はちょっとした原因でこわれやすく,図4−2が示すように,スラグ流,環状流が流路の大部分を占めてしまうような事態になることがあり,いったんこの事態になると燃料棒表面から熱を運び去る機能も失われてしまいます.

振動は次の過程で起こります.大きなボイドで流路がふさがれるとそこの圧力が高まり,この圧力上昇でボイドはいずれ上方に抜けざるを得ません.そのとき流路では急速な圧力損失(低下)が起こり,ボイドは浮力および自然循環(対流)により浮き上がり,水流は再び小さなボイドを伴って流れ始めます.

このサイクルは流路内の水の密度振動を引き起こすことになるので密度波不安定と呼ばれ,ボイラーなどでよく知られている現象です.この過程は熱源(燃料棒)側の変動はなくても起こり,熱水力学的安定性と名づけられています.BWRの場合はチャネル安定性と呼ばれることもあります.

BWRの場合ボイラーだけの場合と違って,熱源側の変動も関係するのが複雑なところですが,それは次の節で述べることにして,チャンネル不安定性を起こす原因を説明しておきましょう.
1)圧力損失−流量特性による振動

二相流の圧力損失は図4−3のように負性勾配になるところがあります.
ボイドが合体し水の流路断面積が小さくなると,水を加速するために圧力が必要となります.
これを加速損失といい,ある流量範囲で現れます.流量が大きくなるとボイドが合体せず,この加速損失がないので,圧力損失はむしろ減りますが,さらに流量が大きくなると,単相流と同様,圧力損失は大きくなります.
この中間部分が負性勾配です.

ポンプを用いた強制対流では,ポンプ特性がl曲線の場合,交点A,B,C のうちB点は不安定でAかCに移行します.B点で流量が増えると抵抗が減り,ますます流量が増えてC点に至ります.その逆はA点です.ポンプ特性がg曲線の場合だと交点は1つしかなく安定です.

このチャンネルの入口部分にノズルを入れて圧力損失をつけると,この圧力損失はほぼ流量の2乗に比例するので,チャンネル全体の圧力損失はh曲線のようになり,負性勾配をなくすこともできますが,この場合はポンプ動力をよけいに消費することになります.

自然循環では,ポンプ特性の変わりに浮力特性が用いられます.安定,不安定の判定は上の議論と同様です.わざわざポンプが稼働している場合としていない場合(自然循環)の双方について述べたのは,BWRにおいては不安定性(振動)発生は再循環ポンプがトリップした場合に起きやすいのですが,そのときは同様な議論が浮力特性を用いて可能であることを示すためです.

2)伝熱面での突沸現象など
スラグ流のような流路断面積を大きく占めるボイドがあると,伝熱面近傍の液膜が加熱され,蒸気の急速な発生によってスラグ気泡が流路を上下にわたって占めます.次に上下のサブクール水との接触による凝縮や伝熱面上の液膜がドライアウトすることによる蒸気発生量の減少により,スラグ気泡が消えたり通過するという繰
り返しによる振動が発生する場合があります.

3)フローパターンによる振動
小さな気泡は速く上昇するが,それが合体したスラグ気泡は遅く,下からくる小さな気泡を熱めさらに大きくなります.このスラグ気泡と液相の塊が交互に通過することにより,圧力変動や流量変動が発生します.

4)系の動的不安定性
伝熱や流動の時間遅れ,圧力伝播の速さによる系のフィードバック効果により振動が起こります.このように気体と液体の二相からなる二相流は,単相流にくらべ複雑な挙動をします.二相流の不安定さの原因は,いくつもあるのです.

4−3 原子炉炉心の振動要因

BWRでは熱水力学安定性(チャンネル安定性)に核的過程(反応度に関する過程)がからんできます.これは熱源側の変動です.典型的な過程としては次の経過をたどります.

再循環ポンプがトリップして炉心流量が減ります.もちろん蒸気発生量も減少し,蒸気を熱源としている給水加熱器も働かなくなるので,炉心への給水温度が下がります(サブクールが大きくなります).スラグ流が発生し,大きなボイドが流路をふさぐまではおなじですが,そのとき核的過程としては,ボイドは中性子を減速しないので負の反応度を投入したことになりますから,炉心の中性子束は下がります.

つまりチャンネル安定性だけの過程と違い,熱源の熱流束が減少するわけです.

すると今度はボイドの発生率は少なくなり,徐々に中性子減速効果が回復してきますが,そこで冷水が炉心に引き込まれると正の反応度投入が起きて,中性子束は急速に増え,熱流束は増加の方向に向きます.この過程では核的過程がからまないときに比べて,大きなボイドの発生がすばやく,容易に起こります.

これは4−2で述べた二相流の不安定性だけでなく,熱源の変動まで含めた流路の振動現象です.このような反応度変化を含む過程の安定性を炉心安定性と呼びます.BWRの安定性については,最終的にはこの炉心安定性が問題になるのです.

3章で述べておいたBWR炉心の出力振動の様式を含めて表示すると

熱水力(不)安定性 ⇔ 局所的振動
炉心(不)安定性 ⇔ 同位相振動,逆位相振動

となります.

熱水力(不)安定性はチャンネル1本について考え得る局所的振動に対応しているのに対し,炉心(不)安定性はチャンネルどうしに相関のある振動様式です.
同位相振動が起こりやすい炉は逆位相振動に対しては比較的安定であり,その逆も成り立つことがわかっています. このことは,炉の構造,動特性によって振動フ形態が決まることを示しています.では,どのような構造,動特性が出力振動にかかわるのでしょうか.

言葉を変えれば,どのような炉が振動しやすいのでしょうか.
この点については解析結果が互いに矛盾している報告もあるほどで,解明されているとはとてもいえません.しかしとにかく,ことは再循環ポンプのトリップから始まるとしてみましょう.

ポンプがとまり炉が比較的に高出力,低流量の自然循環状態に移行するのが出力振動のベースになる事象です.ポンプのトリップによる給水量の低下,給水加熱機能の喪失の結果,サブクールは大きくなり,出力振動
が起こりやすくなります.

給水加熱機能喪失は必然的に起こります.原子炉への給水は,タービンを回した蒸気を復水器で水に戻し,タービンからの蒸気を給水加熱器に導き,その蒸気で熱して供給されます.再循環ポンプが止まるとその蒸気の量が落ちるから当然給水を十分加熱することができません(ラサールの場合はそれ以外に給水加熱器自体が働かなくなり,さらに給水温度が下がりました).サブクールは出力振動に関する直接的,決定的な引金です.サブクールが大きいと,振動は早く始まるし,振幅も大きくなることがわかっています.
それでは炉の構造,動特性のどの具体的な要因が出力振動を起こしやすくするのかをみてみましょう.
まず

1)ボイド反応度係数が大きいこと
があげられます.ボイド反応度係数とは,BWR内でボイド量が増加したとき,それにともない反応度がどれだけ変化するかを示すものです.BWRではこの係数は負で,ボイドが増えれば反応度が下がるのですが,上に述べたように冷水の注入が起きると正の反応度投入になるわけですから,負のボイド反応度係数が大きい炉では,このときの正の反応度投入も大きくなり振動しやすくなるのは当然です.

また
2)細い燃料棒を用いた新しい型の炉心は安定性が低いといえます.
古い炉は,1つの燃料集合体が7×7本の燃料棒で構成されている径の太い燃料棒を用いていました.
この7×7型は熱伝導が悪いので,燃料の熱的余裕度を向上させるため,径の細い8×W 型燃料に順次取り替えられてきました.

たとえば女川1号炉は,運転開始時の7×7型から8年後に8×8型になり,その後新型8×8,新型ジルコニウムライナー8×8,高燃焼度8×8と変わっていきました.
他の多くのBWRもおなじ変遷の道をたどりました.燃料の改善という意味では必然の過程だったのでしょうが,安定性はいくぶん犠牲になりました.

反応度,そして中性子束が変化したとき,太い燃料棒の熱伝導の悪さが熱流束の変化を抑え,出力振動の発生を抑えていたのです.初期のBWRは実験的に出力振動を引き起こすのも困難であったといいます. 3)炉心下部にピークのある出力分布BWR炉心の出力は軸方向(縦方向)で変わります.

これを出力分布といいます.
なぜそうなるかといえば,炉心の上部と下部とではボイドの量が違い,反応度が違いますから,図4−4に示した出力分布のように出力は炉の下部でピークをもつことになります.
下部のピークが大きすぎることを出力分布に歪があるとかボトムヘビーであるとかいいます.このような炉は出力振動しやすいという解析結果がいくつかあり,このうち,米ブルックヘブン研のウルフの研究ではベースになる要因として再循環ポンプ g リップ,サブクールをあげた上で,これを重視しています.

おなじボトムヘビーでも最も不安定になるピークが炉ごとに決まり,そのピークも鋭いピークよりむしろ少しなだらかなほうが不安定だという解析結果が出ています.

ともあれ,ボトムヘビーが出力発振の一因になるのなら炉心の出力分布はなるべく平坦でなければなりません.このような安定性にかかわる対策以外にも,ボトムヘビーを解消しなければならない理由があります.

炉は100万KWならトータルで100万KW出すことを要求されますが,BWRの場合炉心上部ではボイド量が
多いため,全体の出力にあまり寄与しませんから,下部の燃料がいわばがんばらなければなりません.したがって下部の燃料は熱的余裕がなく,負 S がかかりすぎるおそれがあります.そのため,負担を均等に割り振るために平坦な出力が望まし いのです.

そこで改良の試みとしてガドリニア炉心という新しい炉心が開発されました(たとえば浜岡3号).中性子を吸収してしまうガドリニア(酸化ガドリニウム)という化合物を燃料にまぜ,その量を炉上部では少なく,下部で多く,最下部でまた少なくします.それが図4−4の左側に描いてあるガドリニア量の意味です.それまで軸方向の出力平坦化は下から制御棒をある程度差し込んだまま運転することで行っていました.

燃料の燃焼度が上がるにつれ,制御棒は出力分布を計算しながら引き抜いていく必要があり,どの制御棒をどの程度引き抜くか(制御棒パタンの調整)は複雑な問題でした.こういう改良の結果,浜岡3号炉炉心については,制御棒のみに頼らなくても平坦化することができるようになり,またガドリニアをいれていない先行の同型炉より出力分布を平坦に改良した,と浜岡3号炉の主契約者東ナ(※原文ママ・・東芝?)は主張しています.


ボトムヘビー以外に

4) 炉心中央部に高出力燃料集合体が多いことも要因としてあげられています.これは3)の軸方向歪みと対称的に,炉心の径方向のピーキングが効くという解析です.実は3),4)については結論が出たとはいえず,先のウルフの解析では軸方向のピーキング係数の大きいことが要因となっていますが,原研の研究者は軸方向ピーキングと径方向ピーキングを両方あげています.それに最近の原子力学会の講演によると,一番効くのは径方向のピーキング係数が大きいこと,すなわち炉心中央に高出力燃料集合体を入れることで,軸方向はむしろ平坦なほうが発振しやすいという解析も出てきました.
これではボトムヘビーが振動の主要因という説が否定されたことになってしまいます.ウルフの解析(注24)は炉心については軸方向だけの相関を考えた1次元の解析です.
最近日本で行われているのは3次元解析で,常識的には3次元解析のほうが信頼できると考えるのが普通ですが,まだ決定的なことはいえない状況です.

3),4)について現時点でいえることが2つあります.ラサール原発はボトムヘビーだったから振動を起こしたという主張がありますが,ラサールだけが特に異常であったとはいえません.図4−4には,浜岡3号炉,同型先行炉およびラサール2号炉の出力分布を比較するために重ね合わせて描いてあります.ラサールは異常な出力分布かどうかということですが,}に見るように先行同型炉と比較すればラサールはむしろ浜岡3号炉に近い出力分布をもっていることがわかります.

もう1つは,4)に対しては炉心中央に高出力の燃料をいれないようにすればいい話ですが,そういうやりかたを決めたとしても,ミスで高出力燃料集合体(新燃料やプルトニウムを軽水炉で燃やす場合はプルトニウムを混合した高
出力燃料集合体)を炉中心部に入れることがありえます.集合体配置を誤れば発振が起こるこ
とになります.

この種のミスは,いったん犯してしまえば運転管理その他のソフト面の対策ではどうにもならないことです.
4−4 出力振動と燃料破損
さて,ラサール事故では中性子束は局所的には定格の300%まで到達したとも,500%だともといわれています. これは事故後の計算機シミュレーションで得られた値です.

おなじ資料には900%までいかなければ R 料破損は起こり得ないという当局者の発言が引用されていますが,別に根拠のある値ではなさそうです.

3章で述べた出力振動例のうち,カオルソ,フォルスマルク,TVOそしてラサールも,燃料破損には至らなかったと公式には報告されていますし, その同じ報告のなかでは,不安定性が生じてから最大1分で収まれば燃料破損は防げると述べられています.

はたしてそうでしょうか.
ラサール事故の場合はとにかくスクラムがかかり,原子炉炉は停止しました.スクラムに失敗したらどうなるでしょうか.

前に述べたウルフの論文はこの点についても計算機シミュレーションを行っています.論文ではこのとき最小限界出力比MCPRは1を切り,ドライアウトが起こると述べられています.

むずかしい表現ですが,平たくいうと燃料棒破損の可能性があるということです.振動機構の説明のところで,スラグ流の発生する異常状態の沸騰では,大きなボイド(泡)の発生によって燃料棒の熱を効率的に運びさることができなくなっていると述べました.
MCPRというのはこのような熱伝導の良さあるいは悪さ(正確には運び出せる熱流束の限界)を示す指標で,これが1を切ると危険な状態になり,燃料棒表面の温度は上昇して行きます.

したがって,原子炉はMCPRが1をきることはないように設計されまキ.どのBWRの設置許可申請書をみても,「運転時の異常な過渡変化が起きた場合においてもMCPRが過渡時の限界値(炉心内の99.9%以上の燃料棒が沸騰遷移を起こさないという設計基準に基づく値でMCPR=1.07)を下回らないよう通常
運転時における適切なMCPRが決定される」とされています.

MCPRを落していく要素はいくつかありますが,設計では「ΔMCPR(MCPRの変化分)の最も厳しい過渡変化は給水加熱喪失であり,ΔMCPRは0.13である.したがってMCPRは1.07+0.13=1.20を設計限界値として設 v する」とされているのです.

しかし上に述べた解析結果(注24)は,実際に出力振動が起きれば,MCPRが1を切る可能性があることを示しています.

燃料の焼損に結びつく重大な事態です.

それに加え,燃料の温度が上がると,ペレット−被覆管相互作用による燃料損傷の恐れも出てきます.
ペレットと被覆管は材質が違いますから,その熱膨張率の違いによって間にある隙間が閉じ,ペレットが管を押し広げるため損傷が生じます.

また,前に事故により損傷して水の入りこんだ燃料や高燃焼度燃料の場合は,通常の燃料よりずっと壊れやすいのです.

特に浸水燃料と呼ばれる水の入り込んだ燃料については,触れておくべきことがあります.被覆管の溶接部分等に欠陥があったり,燃焼が進むにつれてピンホールができた燃料棒からは,放射能をもった核分裂生成物が洩れ出します.それがBWRの本質的な問題の1つですが,その問題以外に,炉を停止するとこのような燃料棒に逆に水が入り込むことが問題なのです.浸水燃料の存在に気づかず炉の運転を再開し,もし反応度事故を起こしたとすると,通常の燃料では問題にならないような反応度投入であっても,そのままではすみません.燃料棒中の水は瞬時に加熱されて水蒸気爆発を起こし,激しい圧力波の発生をみることになり,燃料棒はこなごなになってしまいます.浸水燃料は健全な燃料の10分の1の熱の流入で破壊されてしまうことがわかっています.

日本においては原子力研究所が,原子炉安全性研究炉(NSRR,Nuclear Safety Research Reactor)を用いて,反応度投入事象(暴走事故)の際の燃料の破損条件と破損後の影響についての実験的研究を進めて
きました.

この研究にあたった当事者が,軽水炉で考えられる反応度事故(DBA,Design Basis Accident設計基準事故)の範囲でも,欠陥燃料の破壊が容易に起こることを示し,「在来軽水炉に最悪の反応度事故が発生すれば,反応度事故による燃料破壊は必ずしも避け得るとはいいきれない」と結論づけていることに注目する必要があります.

NSRRによる研究はかなり古い話ですが,浸水燃料が水蒸気爆発を起こして壊れ,周囲の燃料にも大きな破損を引き起こすこと自体は,物理現象である以上,それ以後もなにも変わってはいません.いまいわれているのは,浸水燃料が生じてしまう確率が低い上に反応度事故が起きる確率も低い,まして浸水燃料を炉心にもつ炉で反応度事故が起きる確率は無視し得るほど低いという,相も変わらぬ確率論なのです.

ここまで,振動のメカニズムとそれを引き起こす要因について大づかみに考えてきました.

BWR不安定性問題は現在進行中の研究課題であり,決定的なことはなにもわかっていないといっていい状態です.そのような状況の下で,現実にはBWRが日々運転されていることがまさに問題なのです.
5.出力振動の解析手法,解析結果

5−1 周波数領域解析,時間領域解析

3章で出力振動の例をあげ,振動時の原子炉のいろいろな物理量(パラメータ)の値とその推移について述べました.そのなかには実際に計測され,記録されていた値もあれば,あとで計算機シミュレーションにより計算されたものもあります.

このような出力振動の定量的議論には,実機で振動を人為的に N こしてみる場合もありますが,相手が原子炉ですからとことんやってみるというわけにはとてもいかず,振動が発生すればほとんど瞬時に抑えられるような状況でしか実施されていません.

したがって,現実の振動を再現するためには,どうしても計算機シミュレーションに頼らざるを得ません.また,現実に起きた事故の詳細も,計測されていたパラメータを総動員して,計算機により再現してみるという過程から推測されます.

ラサール2号事故がまさにその例で,シミュレーション結果が公表されています.

その手法はひとことでいえば,流量,ボイド量,サブクール,中性子動特性などで示される熱水力学特性と核特性に関する連立方程式を,複雑な境界条件のもとで解くことです.

このような方程式は解析的にはとても解くことはできないので,必然的に計算機による数値解を求めるしかありません.

計算機シミュレーションの手法には周波数領域解析と時間領域解析があります.
周波数領域解析は基礎方程式を定常状態のまわりでパラメータを微小変化させ,線型化した方程式をラプラス変換し, 周波数に関する方程式に変え,結果としてたとえば減幅比とかLPRMによる中性子束計測値を周波数に関する関数として求゚ます.

したがって振動の時間経過を追うことはできません.

また,この解析法における炉のモデルは最も簡単な場合,核動特性を1次元として取り扱っています.
炉心全体を径方向には一様なものとして1つのチャンネルで模擬し,縦方向の物理量の変化のみを考えますから,径方向ノ変化のある逆位相の振動を当然取り扱えません.

ただ,このような解析のしかたは計算量が少なく,定性的な結果を手っとり早く得るには便利な手法です.最近は径方向への広がりも含めた3次元解析が行われるようになり,周波数領域解析は「どのような要因の組み合わせ,それを示すパ
ラメータの値で不安定領域に入るか」については的確な答えを迅速に与えてくれます.

一方,時間領域解析は各物理量を時間の関数として追っかけていきます.この場合は計算機の能力に高度なものが要求され,またソフトウエアの面でもさまざまの解析コードが競って開発されています.

原子炉については上に述べた1次元解析から,平均的な出力の燃料集合体の組をまとめたものと,高出力集合体を1つにまとめたものの2チャンネルの中間的な解析を経て,完全な3次元解析まで,いろいろな模擬のしかたがとられていますが,3次元時間領域解析となればその計算量は膨大なものになります.大きな組織に属した研究者グループにしかできない種類の仕事であるばかりでなく,他のグループがその確認をとってくれることのほとんどない(つまり他人の目で再現性を確かめもしない)種類の仕事であることが弱いといえるのではないでしょうか.

それにやはりあくまでもシミュレーションであって,実際の事態がそのように進むという保証がないのも決定的な弱みです.
それはともかく,時間領域解析は「どのような時間経過をたどって不安定領域に入るか」についての答を与えてくれます.その例として,原子力研究所が行った解析結果をみてみましょう.

炉心については1次元解析ですが,縦方向に細かく分割して炉心を模擬しているのが特徴ということです.結果の1つを図5−1に示します.

この図は炉の安定性が出力/流量比とサブクールにどのように依存するかを示すもので,出力/流量比が増加すると不安定領域に入ることは直ちにわかりますが,炉心入口のサブクールには最も振動しやすい値があることも示しています.
同じ論文では,例のラサール事故の再現解析結果も出てきます.図5−2は出力発振までの時間経過が,すぐ上に述べた出力/流量比とサブクールのグラフの上に重ねて表示されています.再循環ポンプ停止の0秒時からいったん安定方向に向い,また不安定方向に移動し,20秒後に不安定領域に入り,60秒後に振動発生,それが拡大していく様子がはっきり見てとれます.

このグループの解析では,ラサール2号の発振を決めた要因は炉心入口サブクーリングと出力のゆがみ(
ボトムヘビー)となっています.

上の例は1次元解析ですが,先端の研究の大半は3次元中性子動解析であり,アメリカ,スウエーデン等でいろいろな解析コードが開発されています.

計算時間が膨大なものになるのをいくぶんかでも防ぐため,炉心をそのなかでは同じ振る舞いをするいくつかの領域に分割する,またその分割のやり方を同位相振動と逆位相振動で変える等の細かい工夫もなされています.

それでも複雑な出力振動をすべてシミュレートすることは至難の技で,たとえば3章で触れた振動領域が炉心を移動していくような現象については模擬できていません.
5−2 安全審査

4章では出力振動の機構について述べましたが,そこではチャンネル安定性,炉心安定性という言葉が出てきました.チャンネル安定性は核反応と関係のない過程,炉心安定性はチャンネル熱力学特性に核過程もとりこんでの話でした.原子炉には不安定状態に入り込まないように制御する系が必ずついており,正確には炉心安定性はこの制御系を考慮しない場合の安定性をいい,制御系をも考慮に入れてプラント全体の安定性を議論するときには,プラント安定性という言葉が使われます.

現実の原子炉設置許可審査に際しては,このプラント安定性について評価するのが当然のことです.設置許可申請書では制御系も含めたプラント全体の安定性を扱い,動特性方程式を時間領域で解いています.その際の解析コードは

1)制御棒反応度,ボイド反応度,ドプラー反応度 を入れた1次元中性子動特性
2)燃料棒は4つの部分に分割
3)制御系として再循環流量制御系,給水制御系,圧力制御系,安全保護系を考慮等を組み込んでありますが,3次元的広がりをもった炉心の挙動はほんの一部の解析にしか取り込まれていません. 3次元解析が研究段階とはいえ,これはやはり手抜きであって,先に述べたように,現行のやりかたではとりわけ逆位相振動の解析は不可能です.設置許可申請書には,逆位相振動に関する記述はありません.
したがって,現状は,振動問題については保証のない申請書に基づいた原発の設置
が認可されているといって過言ではありません.
6.対策およびその批判

6−1 再循環ポンプ停止にからむ悩ましい事情

ラサール事故以前にも,もちろん暴走事故は最も恐ろしい事故として問題になっていました.
暴走の原因はつきつめれば4章で述べたBWRの自己制御性(ボイドが増えると反応度が低下する)が逆に働くことにあります.つまり冷水が入ったり圧力が増加してボイドが潰れれば,自己制御性はそのまま反応度上昇に結び付き,出力は単調に急上昇して暴走に至るのです.

ラサール以前はこのようなストレートな暴走事故が想定され,いろいろな解析がなされてきました. そこではラサールのような出力振動から暴走というケースは想定されていませんでした.

このようなストレートな暴走事故,たとえばタービンに蒸気を送る配管を閉鎖する主蒸気隔離弁が閉じてしまい,なおかつスクラムしない事故を,スクラムしない過渡変動(ATWS)とよぶことは先に述べました.このとき炉内は急速に圧力が上昇し,ボイドが潰れ始めますが,もしスクラムに失敗すれば(WS : without Scram),
重大な事態となります.主蒸気隔離弁閉鎖のような暴走事故に結びつくATWSが起きたとき,対策として考えられているのが再循環ポンプをトリップさせることです.

つまり,炉心流量を減らし,ボイドをわざと増やして反応度を下げるのです.ところが再循環ポンプトリップにともないラサールのように出力が振動するとなると,再循環ポンプを停止するのは危険なことになってしまいます.このデイレンマはまだ完全には解決されていません.

BWRでは反応度事故対策として,ATWS時の再循環ポンプ2台停止が盛り込まれています. 実際に事故時には再循環ポンプは止まります.

女川1号炉の主蒸気隔離弁閉鎖事故(92.8.31)では,再循環ポンプは自動的に停止しました.このとき,炉は当然不安定状態に入ります.今度は出力振動発生におびえることになります.したがって不安定領域から脱出するためには,再循環ポンプを再起動したいのですが,ここでも別の問題が発生します.再起動して冷水が入ってしまうと,一挙にボイドがつぶれ暴走してしまいます.痛しかゆしです.だからどのBWRも,再循環ポンプ再起動のときはポンプの出口止め弁を閉じ,ポンプを起動しても水は流入せず,その水を熱して炉水と温度をあわせてから出口弁を開くしかけにしています.

ところが出口弁が半開きのままで再起動がかかってしまった事故も発生しています. 原発の事故というのは,もう,もぐらたたきのようなものです.あちらをたたけばこちらで顔を出すのです.こうなると,再循環ポンプが止まってしまった場合,再起動するかどうかはむずかしい選択です.1章で触れた浜岡1号炉の再循環ポンプ2台停止事故(88.2)の場合,長時間悩んだあげく,2台とも再起動して炉の制御を可能にしてから,
炉本体を停止しています
(図6−1)

ラサールの場合は不安定領域から抜け出そうとして運転員は再循環ポンプを再起動しようとし,それに失敗してしまいました.運転員の技術が未熟で再起動できなかったのですが,それがよかった,もし再起動していれば(冷水が入って)危険になったかもしれないと,NRC自身がほっとしています. なにをかいわんや.再循環ポンプはBWRの最も弱い機器なのです.
ラサール事故は事態をいっそう複雑にしました.

出力振動から暴走に至る別の経路の事故の恐れが明かになっただけでなく,o 力振動プラスATWSのケースまで
出てきたのです.アメリカのブルックヘブン国立研究所(原子力のための研究所)の研究者の論文は,出力振動時にATWS(具体的には主蒸気隔離弁閉鎖)が起こると,出力振動の振幅6倍程度に増大するという解析結果を報告していることは前に触れておきました(3章の議論,図3−3参照) .※コメント29に入れました。

このような複合的な事故は安全審査ではもちろん想定されてはいないので,打つ手はありません.
再循環ポンプ停止の問題はBWRの安全性が2重,3重に破綻していることを示しています.

ATWSのときは再循環ポンプは停止させるのだということは上で述べました.
ところが,原子炉運転中に再循環ポンプが停止することは危険な方向に動くため,再循環ポンプ2台停止はもともと想定されていません.

安全審査で想定されるフは再循環ポンプ1台の回転軸がなんらかの原因で固着(ひっかかって停まってしまう)し,炉心入口流量が急減することだけです.
6−2 ソフト面の対策−OPRM

再循環ポンプの扱い方が矛盾したものであることを前節でみましたが,再循環ポンプよりもよりいっそう重要なものに,中性子束測定からの警報・スクラム信号をどのようにシステム化するかという問題があります.

たとえば再循環ポンプの扱い方を間違えて,原子炉出力が異常になったときのことを考えてみますと,どのデータに基づいて原子炉にスクラムがかかるようにしておくか,これが現実的な運転管理の基本問題です.

そのときの条件によっては,APRMはスクラム信号を出していません.したがってスクラムかからないまま,事態は破局につき進みます.ラサール2号炉の事故を契機に,ついにはOECD/NEAの国際会議まで開かれることになったのには,このままでは危ないという危機意識があったからです.

国際会議におけるこの問題についての結論は,一口にいってしまえば,LPRMを重視するということです.
現在運転されているBWRでは,異常出力に対応して出されるスクラム信号はAPRMからのものです.LPRMは警報を出すだけです.APRMでは逆位相振動をキャッチできない可能性がありますから,きわめて危険な状況を見逃す可能性があります.これはNRCなども認めているところです.

また,3章で述べたスェーデンのリングハルス1号炉やドイツのグンドレミンゲン炉(ABWR)などのデータから考えて,APRMではキャッチできない場合も多いはずです.

特にリングハルス1号炉のデータでは,出力振動の位相の径方向のずれは130 ゚になっているという注目すべき報告がありました.この場合も逆位相振動と同様に,APRMは振動を適切に表示しません.同位相,逆位相振動以外に複雑な振動モードがあり得るわけで,これを理論的に理解し,解析することは,5章で見たように炉心をどのように分割するのかということ1つを考えてみても,大変に難しいことで未解決のままに残されています.3章で見たフォルスマルクの例のように出力の振動領域が次々に移動する場合にも,APRMがその現象をキャッチすることは難しいことになります.

APRMがLPRMの信号を平均化しているために,どれかのLPRMが出力振動が始まったというデータを出しても,APRMの信号ではそれが消えてしまいます.炉心のダイナミックな出力の変動がキャッチできないことがはっきりしてきたのです.
そこで解決策として,平均化する前のLPRM信号をそのまま使うことが当然考えられることになります.グンドレミンゲン炉では,APRMのデータは単に参考値としてLPRMのデータによって警報を出すという安定性モニター(ANNATH と呼ぶ)を使った安定性試験を行い,LPRMによる監視が必要と結論づけています.

また,米のWNP−2号炉では同じ装置を,制御棒を浅く入れることと組み合わせて使い,柔軟な運転ができるとしています.もちろんこれにはいくつかのハード面での改良が必要だといわれています.

このようなことがわかったために,OECD/NEAの国際会議ではいくつかのオプションが考えられ,提案されていますが,きわめつけとでもいうものがOPRM(出力領域振動モニター)です.これは新しい中性子の測定器を追加しようというものではなくて,すでにあるLPRMの信号を組み合わせて,炉心の各部分の出力の変動を,全炉心にわたってキャッチしようというものです.言葉が似ていてわかりにくいので,LPRM,APRM,OPRMの意味と相互関係については,もう一度2−3節をみて確認してください.OPRMの概念を図6−2に示しておきます.

この図は炉心を水平方向に切ったもので,丸や三角,四角,六角で囲まれた黒丸がLPRMです.2−3節で説明したように,1つのLPRMには上下方向に4つの中性子計測器が配置されています.

もとの資料にも具体的な説明がありませんので,推測で説明することになりますが,OPRMの仕組みを説明してみましょう.

径方向の平面の位置と高さを考慮してLPRMをグループ分けします.それがA,B,C,Dです.このそれぞれのグループには高さの違ったLPRMが振り分36けられています.その各グループのLPRMの4つをつないで1チャンネルのOPRMを作ります.これが図中にある2つの大きな正方形です.このOPRMには高さの違うLPRMが含まれています.

このようにして次々にOPRMを作って,OPRMのチャンネルを炉心全体に張りめぐらすという発想です.たしかにいろいろな出力の状況に対応できると期待できます.

しかも,既存のLPRMの信号の組合せだけでできるというところも,この発想に期待したくなる点です.

しかし,OPRMは研究段階での提案にすぎず,どこかの炉で実用になっているものではありません.これを実現させるのもそれほど単純なことではないようです.

たとえばどのLPRMとどのLPRMを組み合わせるかは,炉心の燃焼度の違いによっても変わる可能性があります.そうなれば,運転中に組合せをしばしば変えないといけないことになります.このOPRMを実現することについて,米BWRオーナーグループ(BWRを所有する電力各社で作っているグループ)は不安定領域での運転を避けるという,より簡単な方法なら12から18ケ月でできそうだが,このOPRMについてはもっと時間がかかると,1990年の時点でいっています.

不安定領域での運転を避けるという方法は,いわば運転方法の上での対応です.
原子炉出力のダイナミックな変動を把握しようというものではありません.それが可能になると期待できるものはやはりOPRMです.

日本でシビアアクシデント対策が必要と原子力安全委員会や通産省からいい出された時には,やっと原子炉出力のダイナミックな把握を具体化するのかと期待したのですが,1994年3月31日に電力各社から通産省資源エネルギー庁に出された「シビアアクシデント対策」には,このようなものはその影も見つかりませんでした.つけ加えておきますと,OPRMが提案されたOECD/NEAの国際会議には日本の研究者も参加していて,研究成果の発表も行っています.このような問題があることは十分にわかっているのですが,多分実現に多大な努力がいるために見送られたのではないでしょうか.

見送ってもよいという問題ではなくて,本来はこのような問題を十分に検討し,その結果を原子炉設計に取り込むことが必要なはずです.

ここでも,問題未解決のまま実用化に走るという原子力利用の最も悪い性格が表れています.

結局は,ともかく不安定領域での運転を避ける努力はしていますよ,ということで運転が継続されているのが現状です.これは米NRCがラサール2号炉の事故後に出した,当座の運転方法の規制と本質的に同じレベルだといえます.より根本的な対応にはかなり金がかかるという事情もあるのだろうと想像できます.経済性と安全性の相克がここにも現れているのでしょう.
6−3 ハード面の対策−選択制御棒挿入装置による綱渡り

再循環ポンプが停止したときには,制御棒の一部をある程度の位置まで挿入して出力を下げ,なんとかもちこたえようという発想が出てきました.これは選択制御棒挿入装置と呼ばれるもので,あらかじめ計算して決めておいた制御棒配置で一部の制御棒を挿入し,出力を下げます .

挿入される制御棒は5−10本,それぞれの制御棒は下から少し挿入されるのではなく,最後まで挿入され, 再循環ポンプ停止とこの装置で出力は30%程度まで落とされます.たとえば送電線への落雷事故を考えてみましょう.

たとえ原子炉は正常であっても送電を続けることはできません.このような事態を負荷の喪失と呼びますが,そ
のときはどういう処置を行うのかを浜岡3号炉を例にみてみます.

「タービン出力が40%以上で発電機負荷遮断が生じると,蒸気加減弁を急速閉鎖すると同時に,次のことを行う.
(a)選択制御棒挿入を行い,原子炉出力を下げる
(b)再循環ポンプ2台トリップ,出力を下げる.
(c)タービンバイパス弁が急開しない場合,スクラム」

電気が送り出せない事態になれば原子炉からタービンへの蒸気を止めなければなりません.原子炉でできる蒸気を止めるためには炉を停止するしかないわけですが,いったん停止してしまうと復帰するまで時間がかかり,経済的にも大変です.

そこで炉は止めず制御棒挿入と再循環ポンプ停止で出力を落し,タービンへの蒸気はバイパスを通して逃してもちこたえようというのがこの装置です.出力を下げても蒸気は発生しますから,バイパスへ逃してタービンは隔離する必要があります.

そのためのタービンバイパス弁が開かないときはどうしようもないから,あきらめて炉を停める,というのが上の(c)の措置の意味です.当然炉は不安定領域に近づいていきます.

この装置は日本のBWRでも当初からあったものではありません.上の浜岡3号の申請書では「電力系統事故等により,発電機負荷喪失が生じ,蒸気加減弁が急速に閉鎖したとき」の対策となっていて,再循環ポンプトリップはそのあとに来る事象になっています.

つまり,不安定領域に入り出力振動の可能性がでてくるときの対策を明確に意識したものではなかったのです.ところが,ラサール事故で様相が変わりました.

再循環ポンプ停止が先に起きた場合,出力振動対策として制御棒挿入をしなければならなくなったのです.新しいBWR,たとえば志賀原発の該当する記述をみるとそれが明かです.

「発電機負荷が喪失した場合,給水加熱器の加熱源がなくなるため低温の給水が炉心に流入し,これによって生ずる反応度により炉心内中性子束が増加し,スクラムを引き起こすおそれがある.

このような事態を防ぐため,あらかじめ出力(約10%〜45%)及び出力分布を考慮し,発電機負荷遮断時に選択された制御棒をそう入する機構として選択制御棒そう入装置を設ける」ここでは出力振動の語を用心深く避けていますが,冷水が入ることによって生ずる反応度による中性子束増加という言葉で暴走の危険性をいい,暴走してしまうよという信号(中性子束高)で停止してしまうとあとが大変だから,炉の停止を避けるために出力を落すといっています.言葉の裏には出力振動は起きるといっているのです.
この間の事情は女川1,2号の変遷をみるともっと明かになります.

1号の設置許可申請書及びその後の変更申請をみていきますと,燃料棒の形式が8×8高燃焼度燃料棒に変更される前後で選択制御棒の導入がなされています.1990年の燃料棒変更の際の許可申請では「本原子炉では,低炉心流量/高出力領域では選択制御棒そう入により出力を低下させる設計としている」と明記されているのに,それ以前の設置許可申請および変更許可申請には,選択制御棒挿入装置の記述は見あたりません.

つまり88年のラサール事故で不安定領域への移行,出力振動の可能性が強く意識されるようになり,もともと電力(送電)系統事故の際の対策をこちらにも使おうということになったのです.

ラサール事故の後,1988年7月,AEOD(NRCの内部委員会,運転データ分析評価室)は各電力会社に向けて以下の指示を行いました.

1)再循環ポンプが止まったり,その他の理由で発振の領域に入りそうなときは,すぐに制御棒を出力80%制御棒位置まで入れよ
2) 始動あるいは停止のときは再循環ポンプの流れを50%にする前に制御棒を入れよ
3) 手順1),2)がうまくいかなかったときは,すぐスクラムせよ

この手順は少し説明が必要です.前に出した運転管理図と同じ図ですが,図6−3はAEODの指示を具体的に示すものです.出力80%制御棒位置というのは図の80%制御棒線上のことをいい,流量が定格であれば出力80%となる制御棒位置を意味しています.ハッチをつけた不安定領域はこの線より上の領域にありますから,この位置まで制御棒を挿入しておけば,再循環ポンプが停止しても不安定領域に入る恐れはなくなるという考えです.

ただ,この不安定領域そのものが正しいのか,したがってAEODの指示が適切なのかという疑問もあります.たとえば,給水サブクール度が変われば不安定領域が図示した部分に限定されるかどうか,はっきりしたことはいえないはずです.それを考えれば,不安定領域に入る恐れが少しでもあればすぐスクラムする措置のほうが安全であることは間違いがありません.

日本の場合,出力80%制御棒位置を基にして不安定領域を設定しているかどうかは,例のごとく明かではありません.少なくとも,不安定領域をどのように設定しているかを明かにすべきであることはいうまでもありません.

不安定領域を慎重に避けようという考えは通常の起動,停止の際の手順まで変更させています.

起動を例にとれば従来の制御棒引き抜きだけでの手順(図のC’点を通過させる手順)をやめ,不安定領域に入る前に再循環ポンプ速度を上げてから制御棒引き抜きを開始する手順(図中の→に沿う手順)に変更しています.

NRCが出した通達のうち,不安定領域を通らないような起動手順について,日本ではNRCとは違った形で部分的に取り入れたことがわかりました.女川1号では1990年の高燃焼度燃料へ変更申請の際,選択制御棒が導入されたことは前に述べました.

この措置と同時に,運転管理(特性)図には安定性制限曲線と呼ぶ部分が初めて登場しました. 図6−4にみるように,再循環ポンプ最低速度曲線の上部を斜めに切り取り(図2−2と比較)※コメント10,不安定領域を避ける工夫をしています.

図6−3※コメント55 と比較するとわかりますが,これは少し形を変えてNRCの起動時の指示を取り込んだものです.また,炉心安定性と出力の関係の解析にも,この安定性制限曲線に対応する部分が出現し,減幅比が限界基準を超えてしまわないような措置が採られているのがみてとれるでしょう(図2−7(a),(b)).※図2−7は※20なんだけど a) b) があるのは図2−9で、aはコメ24・25・・ここにb を入れ忘れたので下に入れます。


女川2号でも同様の変更が行われていますが,私達の目に触れるのはここまでで,くわしい手順を記載した運転手順書は,やはり未公開のままです.また,他のBWRでもこのような措置を行ったのかどうかは,明かになっていません.
図2−9(b)です。文章はコメ24と、コメ56に対応する図
6−4 経済性のためには安全性は2の次−志賀原発事故に見る

この章の締めくくりとして,最近起きた志賀原発(54万KW)の再循環ポンプ停止事故をみてみましょう.94年8月26日に志賀原発で再循環ポンプ1台停止事故が起きました.

原因は再循環ポンプの速度を制御する静止型制御機器の故障,その中のインバータ回路の絶縁不良です.この事故は2つの点で注目されました.

1つはインバータを使ったポンプ制御方式が初めて起こした事故であることです.それまでのポンプ速度制御は詳しくは述べませんが,MG方式といわれるものでした.

二度にわたる浜岡1号の再循環ポンプ停止事故は,いずれもこの方式の失敗でしたから,新設のBWRはいずれもインバータ方式に変更されています(既設のBWRをインバータ方式に変える予定はありません).もう1つの注目点は,この事故の前日に「具体的な事故の危険性は認められない」ということで,この原発の差し止め訴訟に原告敗訴の判決が出たばかりだったことです.

再循環ポンプ停止で再循環流量が下がり,停止直後に選択制御棒(全引き抜き位置にあったもののうちの8本)が自動的に挿入されて,電気出力は37万KWに落ちました.

ついで,動いているもう1台のポンプの回転数を下げて,電気出力を20万KWにし,そのまま低出力で12時間運転された後,手動停止されています.

1ケ月後,北陸電力は曲がりなりにも事故時のデータを公開しましたが,それは結果とし安全であったとするためのものでした.注目したい原子炉出力については,炉心全体の平均値を示すAPRMのデータが出されただけで,炉心各部分の値を示すLPRMの値はまったく出されず,加えて,これ以上のデータは公開しないと宣
言しました.

ポンプが1台止まれば,炉心の冷却水の流れが各部分,部分でどうなるか,かなり気がかりです.この冷却水の流れの場所による違いを測っているものはありませんが,炉心全体が均一な流れになっているとは考えにくいのです.均一でないとすれば,出力は炉心の各部分で違ってくると推測できます.

20万KW運転時には,炉心の全流量が定格運転時の約1/4になっていたことが,公開されたデータから
読み取れます.当然,給水加熱に使用される蒸気も少なくなっていますから,給水のサブクールが変わっています.市民グループが北陸電力に質問したところ,給水温度は通常は220 ゚Cより少し低い温度だが,それより20 ゚C以上も下がっていたという答が返ってきました.

サブクールが全体として大きくなっていたわけですが,流れの不均一を考えれば,サブクールも炉心の各部分で異なっていたと推測できます.

冷却水の流量についても,サブクールについても,非公開のLPRMのデータの検討が必要なことがわかります.

再循環ポンプ1台停止は想定されている事故ですから,志賀原発の設置許可申請書でも,再循環ポンプ1台停止の場合の事故解析を行っています.実際に起きた事故の経過が事故解析と比較してどうだったのか,北陸電力はなにもいっていません.

たいした事故でもないのに,なにを恐れて大騒ぎしているのかとでもいうのでしょうか.
恐れなければならない事態があったのかなかったのかをはっきりさせるためにこそ,LPRMのデータ検証が必要です.私達の恐れを端的にいえば,部分的な暴走の可能性,そして出力振動の可能性です.どちらも条件によっては,炉全体の暴走につながる可能性があります.

公開されたデータは,電気出力以外は,手動で炉を停止するまでの事故前後数時間しかありません.APRMのデータも同様ですが,よく見ると,ポンプ停止で値が急降下した直後に,小さいながらピークが見えます.このとき,LPRMの値がどのようになっていたか気がかりです.平均してもピークが見えるということは,ある位置では大きな値になっていた可能性もあり,部分的な暴走の可能性も検討しなければなりません.

北陸電力の姿勢は,浜岡事故についての中部電力の姿勢よりはまだしもというところですが,決して住民の
おそれを払拭するようなものではありません.要するに私達は,データを一部だけ出し追及をかわそうとする姿勢は,逆に疑惑を招くということを考えるべきだといっているのです.


さて,前節でラサール事故後NRCが各電力会社に出した通達について述べました.
つまり不安定領域に入りそうになれば制御棒を80%制御棒位置にまで入れ,危なくなれば炉を停止せよという指示です.

日本はどのように対処したのでしょうか.日本の場合も,ラサール事故のあと,これに類する指示は出たようです.

志賀原発の運転差し止め訴訟では,北陸電力の証人がそう証言しています. 6−3で述べた女川の措置も,日本でも順次対応し始めたことを示唆するものです.
ところが,日本の行政や電力会社の通弊で,どのような指示が出たか,それが運転マニュアル等にどのように取り込まれているかは,市民に公開されるような形で確認はされていません.

女川の措置は,設置許可変更の申請で始めてわかったものです.志賀事故に際して,市民グループが行った公開要求は,北電によって拒否されています.
情報公開請求で表に出ている保安規定のなかにはこれに関する記述はありませんが,電力会社の口ぶりでは,どうも運転手順書(いわゆる運転マニュアル)の中には書いてあるようです.

それがどのような内容のものか,彼らは明かにしようとはしません.
よらしむべし,知らしむべからずというのはお役所だけではないようです.

志賀原発の差し止め訴訟で,上に述べた北陸電力の社員は,再循環ポンプ1台停止の場合,原発をとめて対処することになると証言しています.実際の事故ではそうなっていませんが,運転マニュアルはどうなっているのでしょうか.88年の浜岡1号炉再循環ポンプ2台停止事故でも,炉は自然循環の状態で長時間運転されま
した.

選択制御棒挿入装置で持ちこたえることは,無条件に炉を止めることをなるべく避け,なんとか定格運転への復帰を狙うことを意味します.これは安全性より経済性を優先することです.経済性優先には次のような事情があります.たとえば原子炉を一時停止すると,再起動するのに数日かかります.

この間会社は原発の電気を売ることができませんし,代りの発電所を動かさないといけません.このための損失は日に1億円とも2億円とも,それ以上になるとも考えられます.ですから,電力会社はできるだけ原子炉を止めないで故障や事故に対処しようとするのでしょう.

志賀の場合も,事故発生日(8月26日,金曜日)はまだ電力需要が大きいのでなんとか持ちこたえ,需要の少なくなる土,日につなごうという目論みが,踏ん切りがつかないまま長時間運転を続けた理由かもしれません.志賀原発運転停止により,北陸電力は結局,関西,中部,中国,四国の4電力会社から,合わせて1日
50万KWの電力を融通してもらうはめになりました.

原発の事故をみていると,この安全性と経済性の相克が鮮やかに浮かび上がってきます.このように,安全性を犠牲にしても運転を継続したいという電力会社の都合で使われているのが,選択制御棒挿入装置なのです.

ことが利益にからむことですから,運転停止はよくよくの場合です.緊急の場合,炉停止の判断は現場の当
直長(運転チームの長)にあることは保安規定で決められているのですが,浜岡でも志賀でも,最終の判断は本社が下しています.現場の安全性の判断より本社の経済性の判断が優先し,手遅れの事態を招かなければいいのですが.
7.シビアアクシデント対策

7−1 シビアアクシデントの研究 −アメリカと日本−

原子炉設計に関しては設計基準事故(DBA)が設定されます.
この程度までの事故を想定し,その対策を考えておけば原発を運転してもよさそうだという意味で名づけられたものです.このDBAを越える,より深刻なものとして,重大事故,仮想事故があり,その上に想定不適当事故という分類がありましたが,この分類は曖昧で,確立したものではありませんでした.

しばらく前から,アメリカでシビアアクシデントということがいい出され,はじめ無視していた日本もシビアアクシデント対策にのりださざるを得なくなった状況は,本書の冒頭で触れた通りです.

シビアアクシデントはいわば想定不適当事故ですが,考慮に入れる必要はないとしていたこの種の事故が,たとえ確率は低くても起きるかもしれない事故として,想定せざるを得ない状況になってきたのです.


その原因はDBAを越える事故が現実に発生したという事実でした.ラサール2号事故がDBAを越えるシビアアクシデントであったことは前にも触れました.
スリーマイル島事故はもちろん,日本では福島第2原発3号炉のあの再循環ポンプの大破損事故(89.1.6)も,DBAなどではなく,まったく想定されていなかったシビアアクシデントだったのです.

もちろん,現在の原子炉設置許可申請書にはシビアアクシデントに関する記述はなく,したがって安全審査も行われていません.

原発の運転にあたって,住民側の最も重大な関心は,放射性物質が放出されて環境が汚染され,人々の健康に障害を与えることはないかというところにあります.
安全性の問題です.運転に伴い,原子炉の中には膨大な量の放射性物質が蓄積され
ます.

よくいわれる比較ですが,原子炉が300日ほども運転されれば, 100万KW級の原子炉で広島原爆の 1000発分に近いものができるとされていますから,これが放出されればという心配は当然といえます.

シビアアクシデントはこの心配を現実にしてしまいます.
日本でも原子力研究所などでこの問題の研究が行われていますが,国や電力会社の従来の姿勢はこのような事故はありえない,というものでした.
そのために,どのような事故が,どのような展開のしかたをするか,それに対する方策にはどんなことが考えられるか,といった問題は社会的に広く議論されているとはいえないのが現状です.

ヨーロッパやアメリカなどの諸外国ではかなり多くのレポートが公表されています.特にアメリカのNRCは,次々にこの種のレポートを出しています.
たとえば ピーチボトム原発(BWR)のシビアアクシデントの研究では ,1000例に44もおよぶ事故シーケンスを考え詳細な解析をしています .

もちろん,この事故例すべてがシビアアクシデントになるのではありませんが,この中のどれが炉心熔融になるかを,事故シーケンスをイベントツリー で追いかけて検討しています.
同様なことはラサール原発でも行われていて,大部のレポートが出されています.
シビアアクシデントの研究が個別の原発ごとになされるようになったきっかけのレポートが,脚注に掲げたNUREG−1150です.

このレポートが注目される理由は,5つのプラント(PWR3基,BWR2基)を取り上げ,最も大きな影
響を受ける事故の種類がそれぞれの原発で異なるという解析結果を出したことです.

原発にはそれぞれに個性があるので,具体的な事故対策を考えるには,そのプラントごとに詳細な設計にも立ち入って検討する必要があるということを,このレポートははっきりと示したのです.

この研究はもともとは,原発事故の確率的評価を行い,多くの批判を浴びたラスムセン報告(WASH−1400)を補強するためになされたもののようですが,この種の研究の決定版にはならずに,各プラントごとの検討が必要という,考えてみれば皮肉な結論を出してしまいました.もちろん,このレポートにも限界があります.ラスムセン報告同様,手法は確率論的リスク解析ですし,対象になっている最も重要なシビアアクシデントは,スリーマイル島事故を考えた炉心溶融事故 にとどまっています.

このあたりに,原発推進側のレポートに自ずと出てきてしまう限界があります.
まず事故シーケンスを追いかけるときの問題をみてみましょう.

これらのレポートを見ていますと,その扱う事故シーケンスの多さに感心しますが,それとともにシビアアクシデントの研究は大変だと思わされます.何が大変かというと,あまりにも分からないことが多いのです.たとえば,主蒸気隔離弁閉鎖事故にスクラム失敗が重なった場合(これはATWSの1つのケース)を考えてみますと,まず最初に原子炉出力がどの時点で何%出力になっているか,つまり原子炉出力の経時変化が事故シーケンスに大きく影響してきます.出力が大きければ,主蒸気隔離弁閉鎖で圧力が上昇した炉内から,それだけ多くの蒸気が圧力逃し弁を通って圧力容器の下にあるサプレッションプール(図2−1参照)へ流れ込み,プールの水の温度上昇は速くなります.

このために沸騰が始まれば,この水を水源にしている緊急炉心冷却装置(ECCS)の機能が停止する可能性があります.そのときは別の水源に切り替える必要が出ますが,その切り替えのタイミングの判断が運転員に要請されます.

原子炉出力の推移によって適切な判断をするのは難しいことですし,判断というヒューマンファクターが入りますからエラーがあることも考えないといけません.

また,停電事故などの場合には,通常はコントロールルームで制御している弁を現場で操作することも必要になります.そのような時に,その現場の作業条件,特に放射線量がどうなっているかということが問題になります.線量が高すぎれば現場の作業はできません.

これだけでも正確な予測が難しいことがよくわかります.いくつもの事故シーケンスを扱えば扱うだけ,わからないことが出てくると思えます.
それらをできる限り整理して運転手順書を作っておかないといけません.しかも,その手順書の通りに事故シーケンスが展開するということもいい切れませんし,検討したシーケンスだけで十分かという問題もあります.見落とした重大なシーケンスがあれば,それだけでこの解析はきわめて不十分なものになってしまうことは否定できません.

この可能性は大いにあると思えます.事実,スリーマイル島事故のときには,あるバルブが水洩れの状態であったことを見落としていたことが,炉心溶融にまで事態を進展させた大きな原因になっています.
さらに,この種の研究で未だに手がつけられていない大問題は,いうまでもなく暴走事故です.
前章まででテーマにしてきた出力発振の問題も,このことに関わっています.
暴走事故に目をつぶるのは,暴走事故になればなにもできない,事故の後始末,被害救済が問題になるだけとでもいうのでしょうか.

それなら,このような原発をつくること自体の可否が論議されるべきでしょう.
日本では,94年3月に各電力会社が通産省にシビアアクシデント対策を提出したことはいままでに述べました.その内容を紹介する前に,格納容器についての説明を付け加えておかねばなりません.
格納容器は圧力容器を取り巻く巨大な鉄筋コンクリートに覆われた鋼鉄のドームで,放射能閉じ込めの最後の砦です.

ところが,BWRの格納容器の弱さは開発当初から問題にされ,マークI,マークII,マークIIIまで,
型式が変更されてきました
(図7−1)

マークIIIの炉は現在,日本にはありません.マークIはドーナッツ型の特徴のある金属製プールをもち,マークIIはコンクリート製の単純な形状のプールをもっています.格納容器の問題点は7−2でみることにして,日本で出されたシビアアクシデント対策をみると

1)制御棒挿入のバックアップ信号回路の設置(スクラム信号の多重化)
2)消火系などの代替注水設備による圧力容器と格納容器への注水機能強化(EC
CSの水源に防火用水を使用)
3)格納容器の耐圧強化ベントの設置(格納容器に孔を開け,なかの気体を排気筒
へ逃し,緊急時に格納容器の内圧が上がり破壊されるのを防ぐ)
4)非常用ディーゼル発電機故障復旧手順の整備と電源融通の手順の整備(発電所
内で使う電源が喪失しないための手当て)

というものです.

これらはなにを今更といいたくなる対策であって,安全性を真剣に考えているのなら,当然今までになされているはずのことばかりです.

3)のベントについては,すでに数年前にNRCはマークIの格納容器につけることを勧告し,実行に移されています.対策のなかでも,格納容器ベントは対策の目玉として出てきているのですが,放射能を外に出さないために作られた格納容器に孔を開けて容器が壊れるのを防ぐというのは,設計思想そのものの破産を意味します.

それにこの系にはフィルターがつけられていないので,放射能を含む気体が排気筒(煙突)からそのまま出てしまいます.

さらに問題になる点は, 確率論的リスク解析によって国際原子力機関(IAEA)の安全原則の目標を十分に達成しているとしていますが,どのような事故シーケンスを検討した結果なのかを,具体的に何も示していないことです.

このような解析は取り上げる事故シーケンスを変えれば,当然結果が異なってきます.ですから,まず検討した事故シーケンスを具体的に示すことが必要です.

この基本的なことがまったくなされていません.それなしには,ただ単に信じなさいといっているだけなのです.

完璧な解析がなされたかどうかも重大な問題ですが,それ以前の問題,データに基づいた公開された議論ができない状態,情報公開がまったくなされない状態が続いていることがまず問題なのです.ここに日本の原子力の重大な問題点があります.
7−2 格納容器は放射性物質放出を防げるか

圧力容器が壊れるかどうかがシビアアクシデントの第1のステップだとしますと,原子炉から出てしまった放射性物質を格納容器の中に閉じ込めておけるかどうかが第2のステップになります.

この閉じ込めができることを格納容器の健全性といっていますが,この問題になりますとさらにわからないことが多くなり,まったく手探り状態です.格納容器の考えられる問題点を列挙してみましょう.

スリーマイル島事故のように炉心熔融が起きて圧力容器が壊れますと,溶融した炉心は格納容器の中へ落ちます.当然格納容器の中の温度は急激に上がりますし,飛び出してくる蒸気などで圧力も急激に上がります.これに耐えて格納容器が壊れずにもつかどうかが問題になります.格納容器には設計で想定された耐圧の限界があります.

いちばん弱いところは格納容器の頂部のボルト締めされたドーム部だとされていますが,もちろん配管の貫通部や各種の弁が壊れる可能性もあり得ます.

では事故時に格納容器の圧力はどれほど上がるのかということが問題ですが,これがまたわからないことが多いのです.圧力を上げるいちばんの原因は熔融した炉心が圧力容器を突き抜け,どろどろの塊が床のコンクリートとの反応して,二酸化炭素などの多くのガスが発生をすることと考えられています.

どれほどの塊の熔融炉心が落ちれば,どれほどのガスを発生させるか,というデータが必要になります.
しかも,このガス発生量はコンクリートの種類によって違います.
格納容器の圧力と温度の上昇に対して考えられている基本的な対策は注水です.
特に重視されているのが,格納容器スプレーの使用です.格納容器の上の方から水をスプレーして,水蒸気を凝縮させるとともに,格納容器内の温度も下げようというものです.

しかし,このスプレーの水源はサプレッションプールですから,このプール水温度が上がってしまえば使えません.幸い注水スプレーが使えたとしても,新たな問題が出てきます.圧力容器の底が抜けた場合に出てくる熔融炉心の塊を冷やすためには,格納容器の底に水があったほうがよいのですが,水があれば熔融炉
心が飛び散って,場合によっては,それがミサイルのように格納容器を直撃して壊すかもしれません.

水があれば塊は冷えますが,瞬時に大量の蒸気を作る水蒸気爆発の可能性があります.あちらを立てれば,こちらが立たないということです.

この種の矛盾は格納容器の型の違いによっても表れます.マークIでは格納容器の床より上の空間部分(ドライウエル)とサプレッションチェンバーをつなぐベント管は斜めに走っていますが,マークIIでは垂直に下に向かって走っています.

ですからマークIIでは,熔融炉心が落ちればこの管を壊してサプレッションプールの水の中へ落ち込み,水蒸気爆発を起こす可能性があります.

一方マークIでは,溶融炉心の落ち込みはない代りに,ドーナツ型のサプレッションチェンバーがベント管で格納容器ドライウエルとつながっている構造のために,大量の蒸気がサプレッションプールへ流れ込む時に発生する衝撃で,サプレッションチェンバーが壊れる可能性が心配されています.

さらに別の問題として水素の爆発の心配まであります.熔融炉心には金属が含まれていますから,金属と水との反応で水素が発生します.この水素爆発を避ける対
策も炉心溶融事故の際の大きな課題なのです.
圧力容器は格納容器の中にあるコンクリート製の台座(ペデスタル)の上にのっています.
原子炉容器の底がぬければ,熔融炉心はここへ落ちます.このペデスタルが壊れれば原子炉容器は倒れてしまい,被害はさらに大きくなります.

このように事故時に格納容器がもつかどうかは怪しいものですが,格納容器の温度と圧力が上がった時に,それを逃がして格納容器の健全性を維持しようとして考えられたのが,7−1の終りに述べた格納容器ベントです.このベントにも問題があります.

フィルターを通さず,放射能を含む気体を捨てるのですから,ベントを速く使えば放射性物質の放出を増やすことになりかねませんし,遅すぎれば格納容器の破壊を防げないことになります.しかも,ベントの使用は格納容器の圧力を急激に変えますから,そのこと自身が各種のバルブの不作動や,格納容器の弱い部分の破壊を招き,事故への対応ができなくなることにつながりかねません.

事故という緊急時に運転員はベント使用の時期という難しい判断を迫られます.この場合もヒューマンエラーの発生を危惧せざるをえません.

ここまでみてきたように,格納容器の健全性については問題だらけです.

この容器が放射能閉じ込めの最後の砦ですから,これが破壊されれば,暴走事故や炉心溶融事故で炉が危機に陥ったとき,環境への放射能放出は避けられず,大事故になってしまいます.

この章では,おおいそぎでシビアアクシデントについてみたあと,いったん発生したその事故の影響を格納容器が防げるかどうかを論じてきました.

問題は深刻です.

加えて,特に日本では地震の問題があります.大地震のときにどのようなことが起きるのか,大地震が原因でシビアアクシデントが起きたらと考えると寒気がしますが,どれほどの検討がなされているでしょうか.
8.まとめ
ここまで出力振動というBWR特有の深刻な問題を見てきました.この問題はBWR特有の深刻な問題ですし,過酷事故に直接つながる事象として,注目し続けなければならない問題です.

BWRの歴史は結構長いのに,このことがラサール事故によってようやくわかってきたのは驚くべきことです.さらにいえば,出力振動のうち,逆位相振動という振動形式については安全審査の対象にもなっていない現状には開いた口がふさがりません.そこで,私達は最小限すべきこととして次のことを勧告したいと考えます.

1)逆位相振動に関する安全解析をすべてのBWRについて行う.
2)LPRM/OPRMによる逆位相振動検知システムをすべてのBWRに設置する.
3)供用期間前(運転開始前)の試験結果と解析内容を公表する.
以上のことは早急になされるべきです.

この問題を調査していく過程で,私達は日本の原発事故についての情報の少なさに,改めて驚きました.アメリカの原発事故については,アメリカの情報公開法(Freedom of Information Act, FOIA)に基いてある程度の情報は入手できます.

NRCの出す書簡や通達は公開されています.しかも,この情報公開法による資料請求はアメリカ人ではなくても,日本からでも請求できます.

ときにはNRCは公開を拒否してきますが,そのときは異議申し立てができます.それも却下されてしまえばあとは訴訟しかないし,それにはアメリカ国籍か,アメリカで働いていることが必要になり,もうお手上げですが,異議申し立てが認められ,資料が出てくることも結構多いのです.

日本でも,各地の自治体には情報公開条例があります.しかし,こと原子力に関係すると,科学技術庁がPu輸送に関する情報をいっさいもらさないよう,1992年4月18日付けで通達したように,また,一部を黒く塗って隠した資料をいやいや公開したりするように,日本の情報公開制度は,基本的に知らしむべからずの方針だといわざるを得ません.情報公開の程度は,その社会の民主主義の度合いを示すものです.

本書で述べたのはかなり技術的な問題です.原発に反対するのにそこまで勉強する必要があるのかという疑問もありそうです.技術的な問題はよくわからないが,原発は事故を起こすらしいし,放射能で被曝するのはいやだし,子供のことを考えると原発なんかいやだ,ということで十分原発に反対する理由になるはずです.しかし,推進側の繰り出してくる「安全性」の論理に対し有効な反撃がなければ,原発を止めることができないのも事実です.むずかしいことは科学者,技術者にまかしてしまうというのも手かもしれませんが,それでは自分で原発と闘うことにはなりませんし,科学者,技術者に運動を代行してもらうことを期待するようにでもなれば,運動は空洞化してしまうでしょう.もちろん原発の技術的問題で専門家になるのは大変ですし,原発に反対するのに,専門家になる必要もありません.少し面倒でも必要なところだけは理解して,より有効な反撃をしたい,それだけで十分でないでしょうか.

そのために本書は少しでも役に立ちましたか.そうだったら嬉しいのですが.

本書をまとめるにあたり,著者達は自治労原子力防災対策推進委員会の専門委員会を組織し,自治労全国本部の支援のもとに,BWRの出力振動問題について,約2年半の間,検討を続けてきました.この間の支援,出版に際しての自治労の協力に改めて感謝の意を表します.以後,BWR発振問題検討グループが作業を引き続き行い,この形にまとめてみました.
メモ・コメント44・・破損燃料の話

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