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夏の日の物語 (オリジナル小説)コミュの夢デート

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「ヒットシッ!」

不意にキーンと頭の脳天に響くような元気な声が木霊する。
俺は誰だよと言わんばかりに、少し不機嫌そうに振り返る。

「・・・ん?おぉ、マキ!随分久し振りだなぁ」

高校からの同級生、彼女であるマキが高校の卒業式以来、1ヶ月ぶりに姿を見せた。

「久し振りだね」

「何処行ってたんだよ、卒業式から1ヶ月も」

「・・・ごめんごめん、ヒトシ。何か携帯が壊れちゃっててさ。それよりさ、今夜デートしようよ、デ・ー・ト!」

マキは体を少し弾ませながら、俺の右腕にしがみ付く。

「久し振りに会ったセリフがそれかよ、全く・・・まぁいいやドコに行く?」

するとマキは飛びっ切りの笑顔でこう言った。


「夢デートッ!」


夢デート?
言ってる事がいまいち理解出来ない。
以前から変な事を言う奴だったが、今回はそれ等の上をゆく馬鹿げた発言だ。
何かのゲームか?

「はい、これを枕の下に入れて寝てね」

目が点になった俺にマキは紙切れを一枚手渡した。

「じゃあ、時計台の前に今日の午前0:00ねっ!」

そう言うと返事も聞かず、マキはソソクサと駆け足でどこかへ行ってしまった。
1人残された俺は紙切れを握り締め、頭を軽く掻きむしって考える。

冗談だろ?


―――夜。
俺は布団に入りながらマキに昼間貰った紙切れを眺めていた。

「夢の街チケット・・・」

紙切れには月と星のイラストと共に青い字でそう書かれていた。

「最近の流行か?はっ、アイツもまだまだ子供だな・・・」

そう一言呟くと枕の下にチケットを入れる。
一応、そうやっておかないと明日マキに怒られる気がしたからだ。
そうして俺は瞼を閉じた。


・・・ここはどこだろう?
・・・夢の中?
暗い暗いトンネルが続く。
真っ暗闇だ。
俺はただひたすらに歩き続けた。
するとしばらくして出口が見えた。

「なんだ・・・?」

光と共に街並が広がる。
夢の街。
見た瞬間、そう思った。

「ま、マジでか・・・」

空には月と太陽が仲良く光を照らしつけ、星と雲が追いかけっこをしている。
そして南風と北風が混ざりながら頬を撫でる。
街並みはテレビで見た世界やら日本の風景と、俺の行った事のある風景とが入り混じって作られていた。
芸能人や近所のオバチャン、友達、はたまた外人までもが歩いている。
何より凄いのはどこからともなく素敵なBGMが流れ続けて、耳の中に入ってくる事だった。

「す、すげぇ・・・!」

信じられない気持ちを押さえつつ、俺は遠くに見える時計台を目指した。
時計台には見覚えがあった。
それは高校の修学旅行で北海道に行った時に、2人で抜け出して見た札幌時計台だった。

「あの時も皆の目を盗んで、こうやって待ち合わせしたっけな」

時計台の前にはマキが立っていた。

「10分遅刻っ」

マキが顔をプーッと膨らます。
それがたまらなく可愛く見えた。

「悪い悪い・・・、まさかこんな世界があるとは思わなくてさ」

手を合わせて謝る俺の頭に、マキはポンッと手をのせ。

「・・・まぁ許してあげます、その代わり私の行きたいところ行くからね」

と、言うので俺は微笑しながら「OK」と頷いた。

そこから先は実に楽しかった。
不思議極まりない夢の街を2人で駆け抜ける。
いくら買い過ぎても困らないショッピング。
ハリウッドスターと日本の役者勢揃いの映画。
普段味わえない超豪華な食事、しかも食べ放題。
世界の名所廻り・・・。

そして夜明けも近づいて来た頃マキが一言。

「最後にどうしても行きたい所があるの」

「行きたい所?」

そう言って、マキに連れられて向かった先は俺達が通い慣れた高校だった。

「私とヒトシが始めて出会った場所だよ」

そう言うとマキはぴょこんと大きな桜の木の前に立った。

「あぁ・・・確か・・・、入学式の日だったっけな」

俺は昔を思い出し、桜の花を眺めながら目を閉じた。


あの日は桜の木は花びらが舞い散って本当に綺麗で、入学式に遅れそうだというのに俺はそれに見とれていた。

「花びらが・・・踊ってる・・・」


タッタッタッ・・・


しばらくして、女の子が駆け足で俺の後ろを通り過ぎる。
そして一言。

「ねぇ、急がないと入学式遅刻するよ?」

それがマキだった。

「あ!ヤベッ・・・、桜の花びらが綺麗で、時間忘れてた!」

すると、マキは急ぐ足を止め、一言。

「本当だ・・・、ねぇ、花びらが踊ってるみたいだね」

「うん、さっき俺も同じ事考えてた」

しばらく桜に見とれていた2人は初日だというのに、入学式に仲良く遅刻したっけな。


少し経って、思い出から目を開く。
そしてふとマキを見ると、その瞳からは涙が溢れていた。

「ヒトシ・・・、大人になってもこの場所忘れないでね、きっとだよ」


ブワアァァッ・・・


桜の花びらは風で大きく舞い、そしてマキと俺を包み込む。

あの入学式のように花びらがが踊っている。

「何で・・・何で泣いてるんだよ?」

桜の花びらが邪魔でマキに近づけない。
そして、次第に姿が見えなくなる。

「マキッ・・・」

そして、街全体を大きな光が包み込む。
そう、朝が来たのだ。


―――目が覚めた。
外からは雀のチュンチュンと鳴き声が聞こえる。
俺は寝ぼけ眼を擦りながら携帯を取り出し、急いでマキに電話を掛けた。

『この電話番号は現在使われておりません』

電話が繋がらない。
あれ?いつの間に番号変えたんだ?
そう思いながら1階に降り、家の電話を使ってマキの自宅へと電話を掛ける。


プルルル・・・ガチャ


「もしもし、朝方に失礼します。ヒトシですけども、マキさんいらっしゃいますか?」

するとマキの母親は驚いたような声で

「ヒトシ君・・・?あの・・・マキなら1ヶ月前に交通事故で亡くなったのよ?」

「え?」

俺は受話器を力無く落として呆然とした。


ああ、そういやそうだった。


マキは卒業式の次の日に車に轢かれたんだった。
俺はそれをずっと受け入れる事が出来なくて・・・、それで・・・。

「ヒトシ君?ヒトシ君?」

受話器から聞こえるマキの母親の声を無視して俺は2階へとドタドタと駆け上って行った。
そして、枕の下の夢の街チケットに手を伸ばした。

「こ、これは・・・」

そこには夢の街チケットなんて無かった。
あったのは卒業式の日に大きな桜の木の下で2人で写った写真だった。

「マキ・・・」

涙が止まらない。
泣くだけしか俺には出来ない。

写真の中。
飛びっ切りの笑顔のマキと、少し照れ顔の俺。
決して戻らない時間。
でも桜の木の下、確かにあったんだ。
春風のような出会いと別れが・・・確かにそこに。

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