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きゃぷてん the originコミュのきゃぷてん the origin 【Act 4】少女マンガ 其之二

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「う〜ぅ……うう〜ぅ……」
 梨沙子は俯いて、唸り声を上げている。
 急激な事態の展開を、懸命に自分の中で情報処理している時の反応である。
 時間にして20秒ぐらいであろうか。梨沙子の唸り声を桃子がただ聞いているという、奇妙な時間が過ぎていった。
「……りーちゃん。ここでなにやってたの?」
 梨沙子の顔から赤らみが消えかかったのを確認すると、桃子はもう一度この最年少の同期メンバーに問いかけた。
「う〜っ。みや(雅)から逃げてた……」
「みやから?」
 雅と梨沙子は同じミッション系私立学校の小学部と中等部だったから学校でもよく会うのである。
 ちなみに『ベリーズ工房』のメンバーの中で、公立学校に通っているのは(お姉さん組)と呼ばれる桃子とキャプテンだけで、他の6人は芸能活動が行いやすいように、あるいは防犯や秘密保持がしやすいようにと私立の学校に通っている。
 余談だが雅は中学に進学するとき、わざわざ住所を仮変更してキャプテンと同じ中学校に通うつもりだった。表向きの理由は「佐紀ちゃんに勉強を教えて貰うため」だったが、本当の理由は「いつも傍にいたいから」であることは誰の目にもあきらかだった。
 案の定、雅の提案は、教育と信仰に厳格な両親によって却下され、エスカレーター式に現在のミッション系学校の中等部に入学させてしまったため、若干不機嫌な日々が続いていた。
「はは〜ん……りーちゃん、靴を片いっぽ、みやに隠されたんでしょ? そういう悪戯すんのよねぇ、あの子って……」
 桃子は大きな黒目で虚空を見ながら、雅が靴を隠している姿を想像した。
「……あっ、違うよ……これは……」
 梨沙子は自分の足元を見ながら、再度頬を紅潮させた。
「じゃぁ、なんで靴が違うの……おかしいじゃん?」
 桃子はしつこい。
 最近雅が、自分の物真似をしてはケラケラと笑っているのを思い出していた。雅は優しい少女であったが多少サディスティックな一面があり、面白い悪戯を考え付くと相手への気遣いを忘れて必ず、きっちりと実行する癖もあったからだ。
「これは……やっちゃった……」
「…………」
 梨沙子は、左右別々の靴を履いているのが単純に自分のミスであることを告白し、可愛らしい八重歯を覗かせた。
「あのねぇ、りーちゃんが相変わらずの『ボケキャラ』だってことは分かったから、なんでみやから逃げてるのか言ってごらん……んっ?」
「あーっ! またボケって言った!! あたしボケじゃないもん」
 桃子は多少馬鹿らしいと思いながらも、腰を屈め、自分より長身の梨沙子の顔を下から覗き込んで話しを聞いた。

 梨沙子の話しはこうだった。
放課後、小学部の仲間と談笑をしていると尿意を催した。そこでトイレに行こうと廊下に出ると、なにか懐かしいような、甘い匂いが漂っていた。
(どっかで嗅いだことあるなぁ、この甘い匂い……)
そう思いつつ、梨沙子が用を足して教室に帰ろうとした時、不意に彼女の肩口を細い指が掴んだ。雅であった。
「わあっ! みや!」
 梨沙子は驚いた。
 中等部の生徒が小学部の校舎に入ってくることは珍しい。禁止されている訳ではないが、暗黙のルールによって領界が使い分けされていたから、下校途中ならまだしもまさかここで会うとは思っていなかった。
「ねぇねぇ、梨沙子の好きな人って……誰?」
 雅は開口一番、梨沙子がもっともされたくない質問を浴びせた。
「なっ……なにを!?」
「ねぇ、いるんでしょ?」
 一体いつ、どこで、誰に、そんな話しを聞いたのか。
梨沙子は一瞬で、彼女の得意芸とも言えるパニックに陥った。そうでなくとも今朝、靴を左右別々に履いてきてしまったことで、どのように目立たず帰宅するか頭を悩ませていたから、すぐに思考回路が過負荷を起した。
「うっ……うふぅ……うふぅ……ふぅっ……」
 梨沙子は照れ笑いと苦悶が入り混じったような不思議な声をあげつつ、しばらくその場で桜桃色の脚をモソモソと前後させていた。
「ねぇっ、教えてよ。どうせ学校にいるんでしょ?」
 こうなると雅もしつこい。
 梨沙子の両肩をガクガクと揺らしながら、同じ質問を何度も浴びせてくる。
(だいたいみやの方が2つも年上だし、そういう話は中等部の友達か佐紀ちゃんにすればいいのに……)
 梨沙子は上半身を揺すられながら思ったが、如何せん思考が上手くまとまらず、やっと口に出した言葉は酷く迂遠なものだった。
「な、なんで急に、そんな、そんなこと聞くの?」
「…………」
 その言葉に雅の動き全てが止まった。
 雅は、彼女が物を考える時の癖である『目を瞑って口元だけで微笑し、顔を真っ赤に紅潮させる』表情を数十秒間見せた後、呟くような声で梨沙子に言った。
「いや……ひとを好きになるって……どんな感じなのかなぁって……」
「…………はぁ?」
 雅から返ってきた意外な言葉に、梨沙子は思わず呆けた声で聞き返す。
「だからぁ! 好きになるってどんな感じかって、聞きたいのっ!!」
「??」
2人の他、誰もいない小学部の廊下に、沈黙と甘い匂いが漂った。

(つづく)
〜この小説はフィクションであり、実在のBerryz工房とは一切関係ありません〜

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