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きゃぷてん the originコミュの きゃぷてん the origin 【Act 3】少女マンガ 其之一

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「とにかく、なんでもみじん切りにしてぇ、ブチ込んじゃえばいいのよ!!」
「ふ〜ん……そうなんだ……桃ちゃんエライね」
 放課後。桃子と聡美は一緒に帰るのが常だった。
 桃子は母が失踪してから家事をさせられていたので、当然ながら簡単な料理が出来た。しかし、その料理方法はかなり大雑把で、煮物の形を保つとか、隠し味を入れるとか、そういった細かい料理はできない。それでもこの年頃の少女の中では随一の知識と腕前があり、聡美は大真面目に尊敬していた。
「ああっ!!」
 突如、桃子は立ち止まり、爪先立ちになって両方の掌を口の前で合わせた。
「どうしたの?」
「今日は新刊の発売日じゃぁん!」
 桃子は少女マンガが大好きであった。いつも数冊、カバンの中に入れており、ボロボロになるまで繰り返し読んでいた。何度読んでも飽きない。
 悲しい恋愛譚のヒロインになりきって胸をときめかせる時間は、彼女にとって人生の過半をしめており、もっと言えば「日本一のアイドル」になることを義務付けられた桃子の筆舌に尽くしがたいプレッシャーは、空想の世界にどっぷり浸ることによってガス抜きされ、精神の安定をはかることができた。
「じゃ、ももぉ、本屋さんに寄っていくからぁ!」
「あ……じゃ、じゃあまた明日ねぇ」
 思い立ったら直ぐに行動に移す癖が、桃子の長所であり欠点であった。
 満面の笑みを浮かべ、手を振りながら駆け出していく桃子を、聡美は見送るしかなかった。

「うわぁ〜……」
 数分後。桃子は通学路のはずれにある本屋で、感歎の声を上げていた。年老いた女主人が一人で切り盛りしている小さな本屋で、煙草屋も兼業している。少年マンガより、少女マンガや少女向けの雑誌の品揃えが妙に充実しており、その点が桃子のお気に入りであった。
 既にその胸にはお気に入りの少女マンガの新刊が大切そうに抱きしめられている。
「あれも欲しいしぃ……これも読みたい……」
 桃子は小さな体を背伸びさせ、高い陳列棚の上の方を覗こうとして無意識の独り言を漏らした。これも桃子の癖で、無論、言ったことさえ覚えていないので、彼女はよくからかわれる。
 彼女の好む少女マンガは、今風の露骨な性的表現を含むようなものではなく、あくまでもプラトニックなロマンスを物語ったものである。今風の少女マンガを好むのは、むしろ年下の千奈美や雅の方であった。
 ちなみに、いつも顔を真っ赤に染めつつも、秘かに妄想を巡らせて楽しむのが雅であり、いつもギャーギャーと悲鳴に近い驚きの声をあげつつ、決まってセックスシーンを梨沙子に見せびらかしているのが千奈美である。
「いいなぁ……欲しいなぁ……」
 また無意識の独り言を漏らしつつ、桃子はカバンの中から取り出したピンク色のガマグチから、丁寧に四つ折にされた千円札を一枚取り出してレジに向かった。彼女のギャランティーの大半は、父親の莫大な借金の返済に充てられるため、月の小遣いは2千円であった。そしてたまに行われる、『椅子取りゲーム』のお年玉など、芸能活動で不意に落ちてくるお金を大切に貯めて、少女マンガを買っていた。当然、源一郎には内緒の、いわばそれがヘソクリであった。そのため、彼女はその手の『ゲーム』には冗談でなく命を懸けていた。
「はい、590円のお返しね」
 今時のマンガは高い。
 桃子が若干ため息を漏らしつつ、それでも浮かんでくる喜びの笑顔に抗しきれず、といった複雑な表情で本屋を出ようとした時、見慣れてはいるが、この場に相応しくない少女を見つけた。
「……りーちゃん?」
 桃子が見つけた少女は梨沙子であった。
 店外の陳列棚の影に隠れ、しきりに外の様子を見ていた。背負っている真っ赤なランドセルの肩掛けが、むしろ桃子よりも年不相応に育ってしまったバストを強調させている。
 桃子が通う中学校は公立だったが、梨沙子の小学校は私立で、距離的に近いと言えば近い。しかし通学路自体が交差するほど近隣でもなかったので、この場に梨沙子がいるのは不自然だった。
(なんで……りーちゃんが?)
桃子が梨沙子に声を掛けようと思った瞬間、梨沙子の方が桃子に気づいて大声を上げた。
「あーっ!!」
「やっぱ、りーちゃんじゃん! どうしたの、こんなところで……なんか隠れてたみたいだけど?」
 桃子は何故か、年下の同性に好かれた。
 しかし梨沙子は、如何にもマズイ人間に会ってしまったという表情で、顔から火が出るのではないかと思うくらいに頬を紅潮させ、長い睫毛をカッと開き、そして叫んだ。
「誰にも言っちゃダメぇー!」
 既に梨沙子がパニックに陥っているのが、桃子の目にも分かった。
「……ちょっとりーちゃん、その靴……」
「だぁー!! これも言ったらダメぇー!!」
 梨沙子の履いていた靴が、左右違っていた。
「……りーちゃん。また千奈美に『ボケキャラ』って言われるよ……」
「ボケてないもんっ!!」
 梨沙子は大声で自分に与えられている不名誉な印象を否定した。
 だいたい左右の足に種類の違う靴を履いた美少女が、小さな本屋の影に隠れてコソコソと外の様子を窺っていれば、余計に目立つだろうと桃子は思ったが、それよりも何故に梨沙子がこの場にいるのかが気になった。

(つづく)
〜この小説はフィクションであり、実在のBerryz工房とは一切関係ありません〜

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