みんなにやさしい自作小説コミュの徒然物語②～第二十二章～

｢っ！？まずい―――｣

張りつめた空気に伝わる妖気が爆発的に高まり魔獣の次の行動を容易に予期させた

半ば反射的に盾を構えたソルトの陰に隠れるように移動

散々言い合っていた直後に体裁が悪いことこの上ないが、間髪いれずに視界に広がっていた地形が一瞬でガラリと変わっていればそんな些末なこと気にしていられないだろう

ディープウルフが立っていた場所を中心とし、そこから放射状に放たれた破壊の暴風の爪痕がクレーター状に大地を穿っている

｢なんて、力だ…｣

｢まさに怪物級だな。伝承は伊達じゃない、か｣

見事に破壊の奔流を凌ぎきったソルトからは驚嘆の言葉しか出てこない

それはアストレイ自身も頷かざるを得ない事実であった

あれほどの深傷に出血

普通は動けない状態まで追い込んだはずであったのだ、が…

周囲をちらりと一瞥する

群生していた木々が薙ぎ倒され人間よりも大きい岩がゴロゴロ捲れあがり隆起した岩肌となっていた

中でも何かが爆ぜたような形跡が見られる数ヶ所をカウントし冷たい汗が頬を伝う

(仕掛けていた魔石が全て誘爆されたか…厄介な)

まさか所在がわからない罠を力業で全て突破してしまうとは計算外だ

自由がきかなくなった所をリターンのスキルを使った剣舞結界=ソードダンスで手堅く削り勝ちを狙っていたのだがこれでは根本から戦術を見直さなければいけない

手傷を負った獣が一番恐ろしい事をアストレイは知っていたからだ

高まる殺意と重圧が互いに迂闊な動きを抑制し合う

しかしそれすら長くは続かない

慎重に間合いを図りながら双剣を構えているとそこに予想外の乱入者が現れた

頭上を大きな影が指す

｢なにっ！？｣

｢放て！ガトリングフレアっ！！｣

｢ルルァアガァッ！？！｣

突如として降り注ぐ火球の雨が不意をつかれたディープウルフを呑み込む

肌を灼きつける高温の熱が浮かんだ汗を端から蒸発させていった

慌ててバックステップで距離を取りこの惨事を引き起こした張本人へと怒号を浴びせる

空で羽ばたく翼竜から援護してくれるような存在をアストレイは一人しか心当たりがない

｢『レア』！！いったいどういうつもりだ！！何で戻ってきた！｣

業火を背景に舞い降りる翼竜の背に見慣れた人物がひょっこり顔を出す

｢レイの指示には従った。あの人達は無事にマグヌスに届けてきた。全員無事。だから戻ってきた。これは私の意思｣

｢だからってなぁ｣

驚いたことにこれまでの道程をこの短時間で往復してきたと言っているのだ

空を飛べること、そして大空の覇者と呼ばれるワイバーンのスペックをどうやら甘く見ていたようだ

だからこそ、内心イライラするのを抑えられない

過小評価していた自分に対する認識の甘さと命のやり取りを強いられる戦場にわざわざ戻ってきてしまったアストレアにだ

詰め寄っていこうとした所を存外アストレアが冷静に、というより心なし冷たい視線でアストレイを見つめている事に気づく

ん？怒ってる、のか？

｢危険だから私達を遠ざけたのはわかる。―――～っごく嫌だったけど理解した。私達は弱い。それにあの人達が殺されたら意味がないと言うのも把握した｣

｢レア？｣

｢だけど傭兵は常に死と隣り合わせの危険な仕事だと教えてくれたのもレイ。それを知ってついてきたのは私。だから私は自分の責任でここに戻ってきた。それをレイに咎められるいわれはない｣

｢ア、アストレア～？｣

｢それに自分で選択する事の責任と勇気を教えたのはレイ、なのにその一番危険な所をレイ一人が背負うのは間違ってる。私はレイの『相棒』それは誰にも譲らない！それに―――｣

意外と根に持つタイプなのか普段とは打って変わって饒舌に不満を漏らし始めたアストレアに気づけば後退りしていた

｢ここに戻ったのは私一人じゃない。『私達』の意思だったから｣

｢何を言って…｣

戸惑うアストレイをよそに『もう一人』がワイバーンの脇から砲弾のように飛び出してきた

それは

｢一片死ねやーっ！！｣

｢な、おぐほぉっ！？｣

言葉より先に腹に突き刺さるような強烈な飛び蹴りをかましてきた

完全に虚(=きょ)をつかれ不覚にも地面を転げ回りようやく止まる

鈍痛響く腹部を庇おうと伸ばす両手が別の感触を伝えその時初めて自分に跨がった状態でいる少女に気づいた

ふさふさの狐耳に太くて大きい立派な尻尾
金色の美しい髪はサラサラと流れ手触りまで最高級絹にも引けをとってはいない
凛とした顔立ちには気性をそのまま表わすような強い眼光が窺え正確にアストレイを注視していた

不機嫌さを隠そうともせずただただ無言で人の腹部に居座り続ける少女は可憐で物静かな満月の月夜のようにおだやかなアストレアとは違い躍動感に溢れ活発さを感じさせる元気いっぱいの魅力的な太陽みたいだな、と場違いなことをぼんやりと考えてしまった

｢勝手に一人で完結するな！独善に浸って満足するな！僕は守ってもらいたかった訳じゃない、僕は…僕は………｣

相変わらず胸ぐらを掴んでで離さない僕っ狐(=ぼくっこ)娘だがその手が小さく震えている事に気づくと無遠慮に退けるわけにもいかなくなった

だから

｢あ｣

その小さな手を武骨な手が優しく包み込む

決して勝手にいなくなることも、再び身近な存在を失う恐怖を味わう事もないとわかるように

しっかりと力強く

｢…僕も一緒に戦うぞ｣

｢ああ｣

｢今度また勝手に僕だけ逃がそうとしたら、蹴るからな｣

｢わかったわかった。肝に命じておくよ｣

肩をすくめ冗談めかして答えるアストレイを半眼で睨見続けるリョーコだったが互いに気持ちが通じているのがわかったのか飛び蹴りに比べて格段に優しくなった右ストレートがぽふりと和む空気を誤魔化すように腹部に放たれることで落ち着いた

｢む～、私もいる｣

｢この僕を忘れるな！！｣

そこに割って入ってきた若干不機嫌気味なアストレアとソルトが落ち着いたはずの空気を再度掻き乱していく

ともあれギャーギャー賑やかな様子で張り詰めていた糸がほどよくほぐれたようだ

予想外に戦力が集まったおかげで戦術の幅が格段に広がる

おまけに…

｢グルルァ｣

炎に巻かれたはずのディープウルフが自慢の剛毛でそれを振り払いこちらに咆哮を飛ばそうとしたところを再度ルドラがブレスで遮る

怪物対翼竜とはまさに怪獣大決戦だ

長い傭兵歴の中でもこんな非現実的な光景は見たことがない

あの強大な怪物を抑えつけてくれる翼竜が味方にいるのは非常に頼もしい

一瞬ルドラと目があったので親指を立ててサムズアップしたが｢ケッ｣と言わんばかりに顔を背けられた

愛想がない奴だ

とにかくルドラが時間を稼いでいる間に手早く集まり指示を出していく

向こうも体力の限界だ

ならこれ以上の長期戦は望まないだろう。となればじき一撃必殺の攻防に打ってくるはずだ

策としてはその一撃を凌ぎきりカウンターを決める

ディープウルフに速度で劣っているこちらがとれる正攻法だが堅実な一手

｢…くるぞ｣

隊列を組み迎え撃つ構えをとるアストレイ達をそれまで連携が稚拙だった二人が組む即席チームと同じではないと本能的に悟ったようだ

見違えるように動きが変わった人間達にディープウルフが警戒の唸りをあげる

ソルトとアストレイを前衛にアストレアが後衛

実践経験豊富なアストレイと鉄壁を誇るソルトをツートップで置きここでディープウルフの攻撃を塞き止める役を担う

リョーコには中間あたりで戦況に応じて自由に動ける遊撃要員としてカバーに立ってもらう

狐族の獣人であるリョーコは端整な容姿とは裏腹に中距離では幻炎を、近距離では爪を駆使して戦える優秀な戦士であることはすでに実証済みだ

スペルカードユーザーであるアストレアには後方で援護をしつつ、魔力を貯め新カードに備えさせる

驚いたことにアストレアはここに戻ってくる途中で新しいスペルカードを一枚作成していたのだ。それも初めての攻撃魔法

―――曰く―――
自分の力が足りないことが悔しく
切望し続けていた時ふと目の前に浮かび上がってきたのだと
どんな魔法かはよくわからないが、どんなものかは理解しているらしい
ちらりとカードを確認したが、内包している膨大な魔力量にうすら寒いものを感じた
恐らく戦局を一変するほどの威力を秘めた大魔法であることをアストレイの勘が告げていた

ならばそれを有効に活用しない手はない

こうして鋒矢(=ほうし)を基とした陣形へと隊列を組むのに時間はかからなかった

睨み合う両者、互いに隙をうかがう間が生まれ

それを知ったことかとぶち壊す業火が戦端を開く

ルドラのバーストフレアだ

散弾のように広範囲に降り注ぐ炎の雨・ガトリングフレアとは対照的にこちらのバーストフレアは範囲を狭めた分凝縮した熱量を対象に叩きつける業火球

さしものディープウルフの剛毛皮の防御も突破する火力だ

当然それは本人が一番わかっていると言わんばかりにディープウルフが身を踊らせる

一秒とかからずトップスピードにのったディープウルフは残像を生む速度で火球をかわすと入れ替わりにルドラの背後に出現

その首を一撃で断つべく凶爪を振るっていた

人間の動体視力を簡単に凌駕してみせた一撃にルドラがあっけなく沈み次の標的に向けて再び走り出そうとするディープウルフが今度は足をもつれさせる

何が起きたのか

この時、この戦場においてその規格外な高速戦闘に対し反応してみせた存在が二つ

人間達に空の覇者と恐れられる翼竜・ワイバーンのルドラと世界を旅すると言われる一族旅狐のリョーコだ

人間には反応できない一撃がルドラには見えていた

当たる直前に翼をはためかせ自身とディープウルフの凶爪との間に空気の断層を作ったのだ

翼竜お得意の風の鎧

それすら数秒ともたず切り裂かれたがコンマ何秒の稼いだ時間がルドラに回避行動を可能にさせた

翼竜の強固な緑麟の鱗数枚と引き換えに首が繋がったのだ

そして同時に爪を振るっていたディープウルフの横っ面へはカウンター気味にリョーコの狐火が着弾していた

威力は大したものではなかったが幻炎の効果を宿した狐火がディープウルフの三半規管へダメージを与えた

これによって平衡感覚を一時的に鈍らせ結果転倒へと繋がったのだ

咄嗟によく判断して動けた事に賞賛を送りつつ、炎弾を放つ為に前に出たリョーコのカバーへソルトと二人走る

｢ガアアアアァッ！！！｣

幻炎をくらい足元がおぼつかない、流血は止まらずいつ出血で命を落としてもおかしくない

だがそれでもヤツは止まらない

｢ガアアアアァッ！！！｣

残りの命を対価に四肢に力が蘇る

踏みしめた地面が陥没し世界から色彩が失せていく

鋭く迅雷が如き影が目前に迫り音を置き去りにして通り過ぎる

｢おい七光り！！｣

｢誰がっ！？｣

モノクロの世界

スローモーションの時の流れの中で標的になっている人物を正確に見抜くと指示を飛ばす

唾液のしたたる牙をたてんと猛るディープウルフの前に立ち塞がるのはソルト

意図を理解したソルトはすでに霊亀を展開している

｢ぐはぁっ｣

進行を妨げようとしたソルトが空中で呆気なく撥ねられ地面に叩きつけられた

｢くそ｣

ソルトを抜いたディープウルフが真っ直ぐ突っ込んでくるのを今度はアストレイが妨げる

ここが突破されたら背後の少女にはあの牙を防ぐ術はない

力と力が正面からぶつかり合った

双剣と奴の爪が宿した魔力の交錯に激しいスパークが周囲を照らす

｢ぐ｣

膠着になるかと思われたが先に吹っ飛んだのはアストレイだった

やはり体格・重量差がここにでてしまった

背中に風を感じつつも即座に地面に手をつき受け身をとる

状況が変わる前に早くアストレアの前に戻らなくては…

人間の中ではアストレイの反応速度は異常であった

どんな状況におちいろうとそれを理解し時に本能的に打破する機転をそなえている

………だが

いかに反応が速くても圧倒的な物理速度には追い付かなかった

｢レアっ！！｣

…続く

コメント(1)

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[1] mixiユーザー 11月24日 20:27

～～～あとがき～～～
私事ではありますがやっと書き上げた今回のお話(字数の上限になっちゃってぶつ切りですがw)出来上がるまで色々ありました
主にノロウイルスに感染したりで一週間の自宅待機とかなんですがね
辛いのは初日だけで残りはまったり過ごさせていただきました
つまり、時間が出来たことでこの作品も進んだんですが…
ん～、強い！ディープウルフ強い(汗)
何とか次回で書ききれると予定しておりますが
いかんせん暴れられたら確約はできません
暴れたら文字数が増えちゃうんだよ(苦笑)
さてレアのスペルが間に合うかディープウルフの暴力がそれら全てを蹂躙するか
長かった第二話も次回で完結予定です

ここまでお付き合いいただきありがとうございました

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