みんなにやさしい自作小説コミュの徒然物語②～第二十一章～

静かに踏みしめた一歩から一瞬で比我の距離を喰らい尽くす

およそ人の及ばない次元の速度で繰り出した剣撃だがしかしディープウルフには後一歩届かない

直前でかわされ、爪で弾かれ疾風のようにするりと掻き消えた後の空間を薙いでいく

それでも

たとえ全ての攻撃を防がれようと手を緩めるつもりはさらさらない

攻撃の隙を与えない意図をもりこんでの高速多段連撃

短く息を吐き、より剣速をあげ苛烈に攻め立て続ける

巨体に反して反則的なほど俊敏なディープウルフは風のように地を駆けながら時に地面に爪を立て急制動をかけては追随するアストレイの背後を襲おうと唸りをあげる

幾度も迫りくる牙を目前に当然黙ってやられるつもりはない

そのトリッキーな動きに振り回されまいと疾走しながら地を滑るように体勢を変えたり、周囲の環境を最大限に利用し地面にとどまらず樹木の幹や岩を蹴っては四次元的な動きで食らいついていく

全方位どころか自身の股下からも攻撃してくるアストレイにディープウルフも驚いた

滑り込むようにして脇腹から通り抜け様の一撃が決まる

いや、決まるはずだった

内心で捉えたと思えた一撃が再び空を切る

ディープウルフがさらに加速したのだ

地面が破裂したと錯覚する衝撃と同時に向きを変えていたディープウルフから鋭い一撃が飛んでくる

咄嗟に双剣を交差し爪を受け止めるも膂力(=りょりょく)まではどうしようもなくソルトが立つ場所まで弾き飛ばされた

地面すら凶器に感じる衝撃を背中に受け二度三度とバウンドしながらようやく止まる

｢お、おい！大丈夫か！？｣
｢無事に見えるなら、ゴホッ、医者に行け、ゴホッ…一撃でこのダメージ、直撃したら死ぬな…お前もぼ～っとしてないで援護しろ！｣

｢無茶言うな！？速すぎて追い付けるわけないだろ！？目で追うのも大変なのに｣

｢役立たね～な～お前｣

｢なんだと！？｣

憤るソルトを見て苦笑すると、呼吸を整えつつ小さく耳打ちする

｢いいか、合図したら全力で盾を使え｣

｢何？それはどういう…｣

打ち合わせもそこそこ走りだすディープウルフの姿を確認して互いに頷く

さも正面からぶつかり合う場面に見せておいてアストレイが寸前にソルトの陰に隠れる

｢グルァッ！？｣｢なにっ！？｣

奇しくも一人と一匹が動揺している最中平常心のアストレイだけが声を張り上げ正確にタイミングを合わせていた

｢今だ！！｣

はっとしてソルトが霊亀を構えるのとディープウルフの踏みしめた地面が炸裂するのは同時であった

視界を真っ白な光が埋め尽くす

強烈な衝撃が盾を通して伝わりソルトからくぐもった呻き声が洩れる

ディープウルフからも開戦から初めて聞く絶叫が響き渡った

間近での大爆発に耳が馬鹿になった状態のままよろよろと立ち上がると、眼前に広がる惨状を目の当たりにして頷く

一体何が起きたのか

それを唯一理解している人間が全身から白い煙を帯びたディープウルフと視線を合わせる

｢さすがにこれは効くみたいだな。これの意味、わかるよな？｣

殺意の籠った視線が身を貫こうと飄々と黙殺し右手を見えるように掲げ指先を弾く

小さくも小気味良い音が辺りに響いた

今の動作に一体なんの意味があるのか…

ソルトが疑問をぶつけようとしたところでその答えが一角の地面と共に爆ぜた

再び起こった爆発にディープウルフが低く唸る

アストレイがこの魔獣と交戦するのを想定し、ソルトを囮に独りで何をしていたか

それは今回の依頼に備え用意してきた魔石に自分の魔力を込め地面に設置していたのだ

この炸裂効果がある魔石は魔力を込めた後『トリガー』をひく事で発動する言わばリモート爆弾

使い勝手もよく上位ランカーの傭兵達が重宝している魔具であり、破壊力はご覧の通り

ただ一つ難点をあげるとするならばそれは一個一個が大変貴重なものであり、高価だと言うことだ

つまり上位ランククラスにならないと手が届きにくい逸品

今回こんな化物=ディープウルフが棲息しているとわかった時点でアストレイは色々な覚悟を決めて来ていた

主に返済が滞りがちな借金に関してだが…

現在用意できるお金を動員して魔石を買い集めてきたのだ

確率からいって遭遇するかわからない化物に過剰な反応だと他の傭兵は言うかもしれないが、いざ出会ったときに｢出会うと思わなかった｣では済まされないし現に出会い効果が実証された

命は金で買い戻せない

また、さすがに埋めた位置が浅いと魔具に残ったアストレイの残滓を嗅ぎ付けられる可能性があったので入念に埋めていた為時間がかかってしまった

埋設した魔石は残り４つ

一つ使う度に内心泣けた

魔石が残れば後で回収しようと考えていたのだ

｢威力はわかったけど、それなら最初の一発みたいに不意打ちで使えばよかったんじゃないか？わざわざこちらの手の内を明かさなくても…｣

｢地雷ってのは地面に仕掛けるもんじゃねぇんだよ｣

｢え？｣

｢相手の『心』に仕掛けるもんさ｣

言って駆け出すアストレイの後姿を見送ったソルトが言葉の意味を理解するのにそう時間はかからなかった

ディープウルフの動きが明らかに変化していた

｢ガァアアッ！！｣

先程とうって変わって自慢の脚力が生かせていない

爆発を警戒して自由に駆け回れないのだ

ディープウルフにはあの魔石がいくつ仕掛けられているのか確かめる術(=すべ)はなく、結果として機動力を大きく制限させられることとなったのだ

ディープウルフには罠を理解する知能があると確信した上での心理戦

限られた魔石を最大限に使いこなすアストレイの鮮やかな手腕にソルトは素直に感嘆する

次第に追い詰められ始めたディープウルフが炸裂した方の足を庇うように咆哮を乱射してくる

ダメージから低下した機動力を補う為に弾幕をはり、アストレイの接近を阻んでいるのだ

剣士ならば近寄らせなければ脅威足りえない

それは概ね正しい判断だ

剣士とは、間合いの外で戦えばなんの抵抗もできない惰弱な存在

これがパーティーを組んでいる人間達との集団戦であればまた話が変わってくるのだが

みたかぎり目の前の人間達からは脅威を感じるほどの連携が取れていない

―――ならば

大きく吸い込んだ空気が体内を巡り魔力を宿らせた砲弾と化し口腔内より放たれる

―――例え足を封じられようと間接的に戦えばいずれは体力で勝るこの身の勝ちだ

勝利を確信していたディープウルフが放った咆哮を身を捻ってかわした傭兵が空中で視線を交錯させる

その時ディープウルフにとって生まれて初めて喉元に剣先をつきつけられているような不気味な感覚に囚われた

―――まだ何か隠している！？

｢近寄らせないまでは正しい判断だ。だがな、距離をとればなにもできないと決めつけるのは早計だぞ？｣

邪悪な笑みそのままアストレイが答えるように手にしていた必殺の魔剣を"投擲"する

さらに追撃を仕掛けようとしていたディープウルフの意表をつき迫る白刃に咆哮を中断、咄嗟に首を傾け体毛の何本かを切られながらも間一髪回避に成功していた

人間を上回る動体視力のなせる技か、はたまたアストレイの悪運が尽きたか

どちらにせよ並みの剣では傷付けることすら不可能なディープウルフの剛毛を両断してみせた魔剣はそのままいずこかへ飛んでいってしまった

武器を二本とも失い完全に無力化した無防備な獲物に襲いかかるべくディープウルフが身を屈め一瞬で跳びかかる

まさに疾風の如き巨体にソルトの悲鳴が追いつかない

｢レぇイぃっ！？｣

｢『ココ』だぁっ！！！｣

｢ガァアアアアアアアアアッ！！？｣

牙がアストレイの身を貫く直前

ディープウルフの背後から『飛来』した魔剣が弧を描いて魔獣の両肩を深く切り裂いていく

鼓膜を強烈に揺さぶる魔獣の大絶叫

両肩を切り裂いたアロンダイトは止まることなく再び彼方へと飛んでいく

｢…昔流れの冒険者に言われたことがあってな。俺は魔力の総量こそ常人と変わらない程度しかないらしいが｣

両手に魔力を宿らせまるで見えない糸を手繰り寄せるように大きく動かす

すると再び魔剣アロンダイトが引き寄せられるようにどこからともかく飛んでくる

弧を描いて主のもとへ飛来する魔剣をアストレイはあえてとらず、魔力で繋がっている張力を最大限に利用して自分の周囲をランダム運動させ続ける

｢魔力コントロールに関してのセンスは天才だ、とさ｣

まるで惑星の周囲を廻る星々のように

アストレイを護るように飛び回る剣の結界

魔剣アロンダイトに備わっている固有スキル『リターン』所有者のもとへ魔力が届く範囲にあれば手繰り寄せることができるだけのスキル

だがアストレイにはそれを攻撃から防御、奇襲用の手札として運用するセンスがあった

無論言うほど容易な事ではない

特にランダムに飛ばし続けるには緻密な魔力コントロールが要求されるうえアストレイはそれを二本同時に行っている

一本だけでも常人には複雑を極めると言うのに、二本同時は単純に倍の難しさどころの話ではない

チープな表現かもしれないがまさに天才と称するに値する技術力であった

｢切り札ってのは最後の最後に切るもんだぜ？｣

｢レイ…｣

一歩間違えれば地に伏していたのは間違いなくアストレイだと言うのに、命の綱渡りをした直後だと言うのに

不適に笑って見せる傭兵の姿にソルトはヘタリこんでしまう

｢も、もうダメかと思ったじゃないか！？｣

｢おいおい何でお前がヘタってんだ。実際疲れたのは俺なんだが｣

｢うるさい馬鹿っ！！そんな技があるなら前もって教えとけよ！！｣

｢馬鹿だ？わざわざ自分の手の内明かす傭兵がどこにいるんだ｣

｢うるさい馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿…｣

緊張が切れたのか騒ぎながらもそれ以上動こうとしないソルトにため息がでた

気を抜きすぎだ

傷は深いがまだ仕留めたわけではない

｢ガルルルゥアッ！！｣

前肢の両肩から血を流し地面に伏してはいるがそこまで

現にディープウルフの眼は正確にこちらを捉え続けている

用心深く距離を詰めていくと再び魔獣はその巨体を揺らし大きな血ダマリをさらにだくだくと広げていく

｢そう無茶をするな。言葉はわかるよな？お前が音に聞く樹海の覇者ディープウルフだな？｣

｢グルルルァ！！｣

｢いやいいんだ。いちおう言ってみただけだ。俺はアストレイ、あんたの縄張りを犯しちまって悪かった。悪気はなかったんだ！こっちにもやむにやまれぬ理由があってだな｣

｢ガウァッ！｣

｢なんだとっ！？そっちが先に襲ってきたんだろうが！それは自業自得だ！そんなことより何で俺たちを狙って｣

｢ガルルルゥアッ！｣

｢上等だ！だったら選ばせてやる。貴様に残された道は二つ！一つ、俺達を見逃して自分の住み処に大人しく帰るか！二つ、ここでトドメ刺されてあの世行きか！？さあ選べ！｣

｢ガァアアアアアアアアアッ！｣

｢だったら死ねぇええええっ！！！｣

｢ちょっと待てぇいっ！？｣

今にもやりあう空気となった一人と一体の間を血相かいてソルトが割って立つ

｢いつから魔獣の言葉がわかるようになったんだよ！？｣

｢いやなんとなく？ニュアンスで？｣

｢こっちに聞くな！？そんなふわっとした理由でやり合うな！？｣

｢ガァアアアアアアアアアッ！！！｣

三度(=みたび)響き渡る雷鳴の如き豪咆

コントじみたやり取りの背後から浴びせられた衝撃波に冷ややかな汗を流しつつゆっくり揃って確認する

振り返った先、血走った凶眼で見下ろしてくる樹海の覇者がダメージをものともせず再び立ち上がっていたのだった…

コメント(1)

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[1] mixiユーザー 08月06日 22:57

あとがき

どうも皆様お疲れさまです！
今回は本格的に彼の魔獣とやりあっているわけですが
なかなか！なかなか一筋縄ではいきません！
アストレイに勝るスピードと人智を超えたタフさ・パワー
策をはねのける強靭な生命力に果たしてアストレイの刃は届くのでしょうか！？
次回こう御期待(笑)
と共にお付き合いいただきありがとうございます♪

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