みんなにやさしい自作小説コミュの徒然物語②～第十九章～

少女との攻防が三十分を過ぎた頃、膠着状態が徐々に移り始める

真剣の応酬を続ける両者に一見して変化は見られないが、一瞬のミスが即座に死に直結するこの状況では肉体の疲労もさることながら精神の摩耗も尋常ではない

それは機械のように無機質な少女であっても例外ではなかった

｢…く｣

襲い掛かる嵐のような双剣の連撃をいなしていた少女の身体が僅かに沈みこむ

拮抗していたはずの剣技が徐々に少女を追い詰め始めていた

じんわりと浮かんだ汗で頬に張り付く銀髪が少女の能面のような印象を人間らしくさせる

剣を交えながら冷静に分析

おそらくこれほど長時間に渡って斬り合うのは銀髪にとって初めての経験なのだろう

一撃必殺が常套(じょうとう)の暗殺者としては優秀である証拠なのだが、それが逆にあだとなっていた

慣れない膠着戦に自然とりきみ・あせり・疲労を蓄積させているのだ

そして当人がその悪循環に気づけないという典型的な経験不足

それに対し最小限の力や動きで戦い続けていたアストレイとの差が顕著(けんちょ)に見え始めていた

息があがり始める銀髪の僅かに遅れた攻撃を掻い潜り懐に飛び込んだアストレイが重い掌底(しょうてい)を胸部の中心へ打ち込む

まるで瞬間移動のように出現したアストレイに対応が遅れ、鎚の一撃にも似た威力に胸当ては凹み軽かった銀髪の体がさらに吹っ飛んでいった

意外にもダメージを感じさせない綺麗な受け身で即座に立ち上がる銀髪だが、構えた所で膝から崩れ落ちる

自身の反応に戸惑う銀髪

｢掌底は体表へのダメージより内臓に与える威力を練った技だ。しばらくはまともに動けん｣

乱れた呼吸に震える両膝、それでもよろめきながら立ち上がる執念はもはや見事

右剣アロンをまるで湖面を撫でるように静かに銀髪の喉元に突きつけ

｢これで終わりだ｣

｢…そのようです｣

最期となる言葉を交わす二人

自分の運命を静かに受け入れる銀髪にアストレイは静かに告げた

｢…アストレイ。それがお前の恨むべき名前だ｣

｢？なぜ恨まなくてはいけないのですか？｣

｢お前の命を奪うからだ。名は｣

｢…私に名前はありません。あるのは被検体としてのシリアルナンバーだけです｣

｢たく…どうして俺の周りは名乗れん奴ばっかりなのかね｣

｢？｣

つい傭兵モードが解け、呆れた調子でアストレイがため息を漏らす

｢名前も持たず、一人の人間として認められることもなくこの世から去るのは俺が許さん｣

困惑した様子の銀髪を尻目にアストレイは寂しい笑みを浮かべ少女の幕を下ろす

｢如月(きさらぎ)…お前は一人の人間『如月』として死ぬんだ。他の誰でもない『お前』として俺が殺すからな｣

｢キサ、ラギ…｣

目を瞑り反芻するように繰り返すと、嬉しそうに頷き返してくる

｢ありがとうございます｣

はじめて

生まれて初めて

暗殺者として育てられ危険な投薬とおぞましい人体実験の末に辿り着いた先で

少女は名前を得た

自然と溢れた笑顔は聖人のようで、目の端に光る粒を隠そうとするアストレイを優しく見つめていた

｢…バカ野郎がっ！！！｣

吐露した感情が届くより先にアロンが振り抜かれる

―――組織なんか抜ければいい！！
死んだら何も残らない―――

それは単なる我儘だ

どうでもいい奴が何人死のうが構わない

だが気に入った奴が死ぬのが我慢ならないだけの身勝手で幼稚で傲慢な理屈

それだけの事が剣を鈍らせる

キサラギの首へ迫る白刃

実際にはさほどの遅延ではなかったかもしれないが

その時間が数秒にも数分にも感じられた

――――おかげで剣を止めることが間に合ったのだが――――

戦場を呑み込むほど圧倒的な新たな気配の出現にアストレイとキサラギが咄嗟に固まる

その隠そうともしない堂々とした存在感に王者の風格さえ感じ、二人は恐る恐る振り返り

その視線の先に――――

｢ふっふっふっふ！ふぁあーっはっはっはっは！！！天に流星、地に迅雷！疾風の如き七光の騎士『ソルト・Ｓ・ラハイア』只今見～参っ！！！｣

腕を組み胸を張り足を肩幅に広げ高笑いしながら馬鹿みたいなアピールを馬鹿みたいに嬉しそうにした某親の七光り傭兵が立っていたのだ

しばしの間訪れる静寂

空気を読めないのは仕方ない

最早馴れてしまった

だが、そんなことより先に確かめなくてはいけないことがあった

多少でも耐性のあるアストレイが先に復活する

｢バカ野郎！頼んでた方はちゃんとやったのか！？｣
｢？｣

｢ああ？ああ。勿論だともご所望の獣人娘の形見(？)の霊石はこの僕がこっそりばっちり頂いてきてやったぞ！何を隠そう僕の収納バッグは自慢の魔具でな！触れた対象を収納と念じるだけであらゆる規格を無視して貯蔵できるス～パ～｢黙れバカ野郎！！｣はぶあっ！？｣

長々と誇らしげに語り始めるソルトを鉄拳でサイレンス

わざわざ敵の前で作戦を披露するとかほんとバカなんじゃないのか！？

慌ててツッコミをいれるアストレイに呆然としているキサラギ

商人はフガフガ言っているようだが解読不能

多分｢ああ！？｣とか｢貴様！？｣とか｢寄越せ！？｣的な内容で遠からず、だろう…

そんなことより、そうとわかれば取るべき選択は一択だ

｢走れ！バカ野郎！！｣

｢何っ？あのいけすかない商人をぶちのめすんじゃないのか？｣

駆け出すと背後から追随してきたソルトが暢気なことを聞いてくる

今だ事態に気づいていないコイツとは対称的にキサラギの方はこちらが動くのとほぼ同時に気絶したオレンジの元へ駆けていた

最期に姿が見えなくなる間際互いの視線が交錯する

お互い何を思ったかはわからないがそれも一瞬の事

視線を戻し歩いてきた獣道を振り返らずに駆け抜けていく

突如として後方からびりびりと鼓膜を刺激する程強烈な音の衝撃波が背中を叩く

｢な、なんだぁ？｣

驚くソルトを無視しながらも苦々しくその『咆哮』の正体を呟く

深森の樹海

凶悪な魔物が数多蔓延るこの地においてなお一線を引く強さを秘めた怪物

その強さは伝承にて語られるほどの破天
その強さはこの地の名に刻まれし忌み名

恐怖を纏い絶望を撒き散らす樹海の覇者

｢―――『ディープウルフ』だ｣

今回の任務で最も出会いたくなく、また出会ってはいけない存在

それがなんの冗談かこの場このタイミングで現れやがった

呟きは雄叫びに欠き消されてしまうが、それを確かに聞き取っていたソルトの頬を嫌な汗が伝った

・・・

コメント(1)

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[1] mixiユーザー 04月30日 15:23

～～～あとがき～～～

どうもお疲れ様です♪
今回は久しぶりに短く切りました
このまま書き続けちゃうと切りどころを見失いそうで(苦笑)
さ、て
短いながらも無表情暗殺者キサラギとの交錯を経て再び遭遇してしまった不運
もうアレですね
アストレイのステータスでラックはＦ評価ですw
戦闘シーンは対人も対怪も楽しいですからワクワクしながら続き進めたいと思います
果たしてディープウルフは追って来るんでしょうか？
振りじゃないよ？振りじゃないよ？
振りじゃないけど…頑張れラックＦ(笑)

お付き合いいただきありがとうございます

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