みんなにやさしい自作小説コミュの③幸運のウサギの手　　I Dreamed a Dream　（夢破れて）

③幸運のウサギの手　　I Dreamed a Dream　（夢破れて）
2009年01月08日23:21

「やだやだやだ～、お肉食べたいの！！」
「あなた、いいかげんになさい」
「じゃ、なんで綾香は、僕に見せ付けるように食べるんだよ」
「別にあたしはふつーよ。だって食べても平気だもん。だったらいいわよ。そんなに食べたければ食べて御覧なさいよ」
「何でそんな意地悪言うの。食べたら消化不良起こして死んじゃうかもしれないんだよ。僕は一生懸命家族のために働いてるのに。だからさー。なんとかお肉食べられるようにしてよ」
「そんな都合よく行かないの、ほら、子供たちだって見てるでしょ」
「パーパー。もう辞めようよ。一緒に沙奈とにんじん食べよう」
「沙奈、コレはパパとママのお話し合いだからちょっと待っててね。
なら綾香も食べるのやめてよ」
「あら、あたしの美貌がどうなっちゃっても良いわけなの？」
「そんなこと言ってないけど」
「あたしは人間だからコラーゲン取らないといけないのよ。だから解って」
「ん、もう」
「あなたそんなに拗ねないでよ」
「わかった、もういいよ。パハﾟは、このにんじん持ってテレビ見てます！」
「ハイどうぞお好きに。あなたたち、い～い？あんな大人になっちゃだめよ」
「は～い！」
「もうみんな好きに言ってて」

僕は大人気ないのだろうか。久しぶりにみんなと会い、ちょっと昔を偲んで食べてみたいなーって思って言っただけなのにあんなに否定されるなんて。結婚して以来ずっと野菜だよ。みなさんならどう思います？
僕はちょっと拗ねながらソファーに座ってテレビのスイッチをつけました。

「夜7時のニュースです。本日都内のある地域で飼われていた飼い猫や野良猫の姿が見えなくなるという怪事件が発生しました。
実は、ここ数日、世界中で猫が消滅する事件が発生しています。最初に猫がいなくなった事が確認されたのは、今から１０日程前のことでした。アイルランドのダブリンの飼い猫が突然いなくなり、その後アメリカカリフォルニア州の一部の地域で街中の野良猫が一夜にしていなくなりました。そして、カナダ、スペイン、イギリス、ドイツなどヨーロッパの各地でこの手の事件が続発していて、原因は今もってまったく不明です。今世界中で多発するこれらの消滅事件。特にここ数年においては、ミツバチの大量消滅による果物業者や養蜂業者の大打撃は知られていますが、ミツバチの場合は感染による大量死も考えられるということです。いったい猫の立ちは何処に行ってしまったのでしょう。
飼い主が常に目の届くところにいるのでいきなり消える今回の事件について、動物園の専門家たちも頭をひねっているようです。では、次のニュース」

「綾香、なんかあっちこっちで猫がいなくなる事件が多発しているらしいよ。家はウサギだからよかったね」
「・・・」
「綾香、どうしたの？」
横でニュースを見ていた綾香がなぜか硬直しています
そして、しばらく考え込んだ挙句、
「あなた、あたし、ちょっと出かけてきます。留守番お願いね」
といいました。
「留守番はいいけど何処に行くの？まだ食事終わってないじゃない」
「ごめんね、急用なの。9時には戻ります」
綾香は食事も途中で、そそくさと出かけていきました。彼女がこんな時間に出かけていくことはめったにありません。
しかし、僕は彼女のいなくなった後、ふつふつとある欲望に駆られていた。
それはあの、冷蔵庫の中のビールとカルビ。
（今なら子供を寝かしつけてあれを焼いて冷えたビール飲みながら食べることが出来る）
浩は、生唾が止まりませんでした。
そして子供を寝かしつけて2時間後。
綾香が家に帰ってきたとき、家の中から浩のうめき声が聞こえてきて、さすがに子供たちも怖がって大騒ぎしていました。

「あなたただいま。あなたー。いるの？」
ドアを開けた瞬間、沙奈が血相変えて飛んできました。
「ママー、パパがタイヘンなの。早く来てー」
その言葉を聴いて、綾香があわてて居間に行くと、お父さんが倒れていました。
「あなたどうしたの？」
そのとき浩はおなかを押さえて七転八倒していました。沙奈も下の子たちもおびえています
「いったい何があったの」
すると、沙奈が「パパ、あたしたちを寝るように言って子供部屋でみんなを寝かしつけた後、ママのお肉食べちゃったみたいなの。部屋にいたら突然苦しむ声が聞こえてきて、おトイレまで連れて行っていっぱい吐いちゃったんだけど、まだ苦しいみたい」
「もう、しょうがない馬鹿ウサギね。天罰よ。まったくあれほど食べちゃだめって言ったのに。ビールまで飲んで」
綾香は浩をトイレに連れて行き、胃に残ったものを全部吐かせました。
「あなた、この間とは逆ね」
「ごめん。綾香の言うこと聞けばよかった」
「さ、病院にいきましょうね」
「病院って、僕が行ったらばれちゃうでしょ」
「大丈夫よ、あなたの体を魔法で小さくします」
「で、何処に連れて行く気」
「犬猫病院よ」
「やだ～。僕は人間なのに」
「だってしょうがないでしょう、言うことを聞いて。子供たちが不安がってるじゃない。
杏も、アノンも、アランもなかないでね。
三人は泣きながら頷きました
「ほら、あなた早くあのかごの中にはいって」
「しかたないな」
「それじゃ、ママ出かけてきます。沙奈チャン、みんなの面倒見ててね」
「はーい」
二人は子供たちを家に残してマンションの部屋を出ました。
「久しぶりに二人で出れるなんてめったにないね」
「そうね、ああは言ったけど、もう大丈夫？」
「さっき吐いたのでもう大丈夫だよ」
「じゃ、元のサイズに戻すわよ」
「ついでに人間に戻して」
「それは出来ないって言ったでしょう」
「ちぇ、けち」
浩は床におろされると、たちまちもとの姿に戻りました。
「とにかく一度お医者さんに見せましょう」
「やだな」
「あんな騒ぎ起こして、やだなんて言っていられないでしょうに」
「そんなことより、君があわてて出て行くなんてよほどのことでしょう。なにがあったの」
「さっきニュースで猫がいなくなったって言っていたでしょう」
「うん、君と何か関係があるの？」
「実は、あたしの母ももちろん魔女なの。でも母の専門は、ウサギじゃなくて猫の魔法なの」
「じゃ、僕のように魔法かけられて猫になった人がいるの？」
「それはないわよ。あなたがウサギなのはあくまであたしの愛情の表現の表れなのよ。普通はこんなことはしないわ。もし、見つかったら魔法協定違反で大変よ」
「そんな組織があったんだ。知らなかった。それじゃ、僕はその魔法協会に行かなきゃ」
「なんで～？あなたの場合、もう多くの人が認めちゃってるじゃない。むしろ、今の姿があなたなの。わかった？
「そんなのむちくちゃだよ・・・」
もう社会で認められちゃったから、いい加減受け入れなさいよ。男らしくないわね。なんならみんなに聞いてみようか？あなたの姿が人とウサギとどっちがいいか？」
綾香は笑いながらいいました。
「そんな～」
「あなたがいなくなったら、あたしを含めて大勢の女の子が寂しがるよ。今はそっちの方が問題じゃない？」
「また、そんな事言って脅すんだからもういいよ。」
「あなた、いい加減聞き分けてよ。(あたしはあなたのその姿が必要なのよ)
それより今起っていることのほうが重大なの」
「僕にとっては人間になれない方が重要だよ。でもなんでそんなにあわてるの？」
「この世界は誰かの創造の世界だってこの間も言ったけど」
「うん、それは聞いたよ」
「でも、その創造は一人が創造しているとは言ってなかったでしょう」
「何人もいるの？僕はてっきり一人かと」
「あたしは言ってないわよ。誰かが創造したものとは言ったわ」。
「で、それと今回の猫との関係は何なの？」
「猫は猫を専属で創造している人がいるの。
猫が消えたということは、創造主がこの世界で創造を辞めたということでしょう」
「ってことは、病気で創造主が倒れたとか？」
「まあ、色々あるんだろうけど。子供達のことも有るので、それでさっき母の元に行ってきたの」
綾香はため息着きながらこういいました。
「誰かが創造主を危めようとしている？」
「まさか、そんな。
それが判ればあのいやな玉沙(綾香の母)のところに誰が行くのよ。
とにかくあなたはお医者さんで注射してもらわないとね♪」
「やだ、母親の事思い出させたからって、それって八つ当たりでしょ！いきたくないよ～」
浩は行くのをとても嫌がって電信柱にしがみつきましたが、綾香が面倒がって再び小さくすると、抱きかかえられてバスケットの中に収められ、そのまま動物病院に連れて行かれてしまいました。
この動物病院は急患を診てくれるので、浩はすぐ診察室の中に連れて行かれました
しばらくして、浩は注射を打たれ、すっかりぐったりして帰ってきました。
「おほほ、いやまあ元気なウサギですね。騒いだり暴れたりでタイヘンでした。
「どうもすいません・・・」
「いやはや、私の顔けられましたよ。コレだけ元気があるならもう大丈夫でしょう。ははは」
「よかったわ、たいしたことなくて」
（冗談じゃいよ。死ぬかとおもった）
「先生、どうもありがとうございました」
「もうあまり変なもの食べさせちゃだめだよｗ」
「はい、気お付けます」
綾香は恥ずかしいあまり、顔を真っ赤にして病院を後にしました。
「あなた、暴れるなんてどうかしてるわよ。本当に大げさね、そもそも浩が悪いんだからね。無茶するからよ。それともまだ肉食べたいとか言うの？」
「いや、もう結構です」
綾香は浩を地面に降ろすと、再びもとのサイズに戻しました。
「よろしい。ではさっきの続きだけど、あたしも何かあったのかとおもって母のところに行ったの。でも母は今回の事件のことはまだ知らなかったみたいで逆に驚いていたわ。
で、私がニュースのことを話したら、最初とても信じられないという顔してたけどだけど、しばらくして母がもしかしたら裕子なら何か知ってるかもしれないって」
「誰なの？その裕子って」
「裕子さんは母のお友達の猫を扱う魔女でこの近くに住んでるの。いまから会いに行こうよ」
「いいけど子供たち放ってて大丈夫？」
「話し聞くだけだからすぐもどるわよ」
空には満月の夜にもかかわらず、たくさんの星がきらめいていました。
いくつものビルの窓には大きな月の光がたくさん反射しています。
裕子さんのお家はそんな下町の一角にありました。
たくさんの家が並ぶ片隅に小さな幅50センチの庇のある玄関に木戸が一枚だけの入り口があり、表札など一切ありません。そこに大きなインターホンつけてありました。
「あった、ここよ」
「変わった家だね、こんなちいさな路地の入り口みたいな玄関だけで二階もあるように見えないし。どうなってるんだろう」
「とにかく呼ぶね」
綾香はインターホンを鳴らしました。すると、しばらくして中から「どなたですか」
と声がしました。
「綾香です。いつも母がお世話になっています」
「綾香さん？それでは、何か証拠になるものはありませんか？」
と声の主は聞いてきました。疑い深い人と思いつつ、綾香はすかさず浩の手を強引に引っ張り、ドアの新聞受けの中に突っ込みました。
「いててて、何するんだよ。乱暴なんだから」
「男なんだから文句いわない！」
郵便受けの中では誰かが触っているようです。しばらくして、
「疑ってごめんなさいね。今あけますよ」
という声がして、中からカギをはずす音がしました。
そして、ギ～っと音がしてドアが開くと、とても小柄な年のころなら４０代の女性が出てきました。
「裕子さん今晩は。夜分にすいません。母から聞いたもので」
「ああ、ニュースのね。さあ、お入りなさい」
「では、お邪魔します」
「この方がだんなさんね。あなたうまくやったわね。うらやましいわ。こんな立派な方とは思いませんでした。あの、よかったら抱いていい？」
「皆さんそうおっしゃいますの。オホホ。減るもんじゃないからどんどん抱きついちゃってください」
「おい、綾香・・・」
「あなた方、面白いのね、どれ。あ～いいな～。
あったかくって気持ちいい～。綾香さん、もらっていい？」
「え～だめ～」
「冗談よ。ササ、どうぞ」
浩は一瞬青ざめました。ですが、
綾香は自分で言ったくせに、ちょっとご機嫌斜めになったようです。
家の廊下は細長く奥に続いています。そして右に左に曲がった先に明るく月の光が差し込む中庭に出ました。
「あれ？入り口が狭かったのに、ずいぶん奥が広いんですね」
「ええ、ここは住宅地の真ん中です。
ここは母が作った家でね、中庭風のつくりになっているの。母も魔女だったから他人の目には気を使う人でね。この土地買って回りに貸す借家建てて、誰にも覗かれないように蓮の花に見立てた高い塀を作って家を中心に周りに借家まで作って長年何食わぬ顔で住んでるわけ。地元の人も誰も知らないのよね」
「なるほどね」
「だから、この空も星も独り占めってわけなのよ。
さあ、そこの池の桟橋から船に乗っていくの。どうぞ」
彼女の家は、さらに庭の池の中央の島に建っているのです。
「あの、亭主は魔法使えないから言葉に気を付けてね」
「はい、あなたも気を付けて」
「うん。しかしここは広いね」
「実はそれほどでもないのよ。この壁がお椀のように広がっているからそう感じるだけで」
「うあーすごい」
ここはちょうどパラボラアンテナの中に作られたようななんとも視覚を刺激する場所です。
「おもったより明るいんですね」
「夜は星の光が外壁に乱反射するように工夫がしてあるんです。昼間は青空が大地まで広がって気持ちいいわよ」
「すごいね」
壁側には木々がうっそうと茂り、水面はすっかり風も凪ぎ、鏡の様です。
船が切る波の模様が幾重も重なって、空の星々を散らして進んでゆきます。
やがて枯れたススキが月の光でぼんやりと黄金色に輝く島が見えてきました。
その島はきちんとガーデニングが施され、古代の遺跡やローマの水道橋を思わせる遺跡をモチーフにしたアミューズメントパークさながらの庭園になっています。所狭と花が咲き乱れ、その奥にうっすらと建物の屋根が見えてきました。その佇まいは立派な洋館で、屋根の頂には大きな風見鶏がくるくる回っていました。
船が桟橋に着くと、建物の外にはだんなさんが明かりをともして迎えてくれました。
「よくこられましたね、いらっしゃい。私が亭主の高梨靖男と申します」
「初めまして。綾香です。何回かお会いしたことありますね。で、このウサギの着ぐるみが家の亭主で浩といいます」
「はあ、何も被り物の姿で来なくても。それとも、子供の夢壊さないように姿見せないのかな？」
「はは、ええ、本当は暑くてたまらないのですが、脱げないんです。綾香が偉く気に入っちゃって・・・アイタタ、なにすんだよ」
（あなたは余計なこと言うな！）
「何も足踏まなくても・・」
「あは、何でもありません。今日はコレ、付き添いなんで
実は裕子さんにようじがあって」
「そうでしたか。ささ、どうぞ奥に」
ドアを開けると、玄関ホールは三階から吹き抜けになっていて、天井からステンドグラスが張り巡らされた巨大な採光用の窓がついていて、月の光に透かされ、花のモチーフがとても美しく感じました。そして反対側には豪華な赤いカーペットを敷き詰めた階段が中央にありました。
「すごい、立派な家ですね」
「あたしのうちは地主だから」
「うらやましいですね」
「よかったらちょくちょく遊びに来なさいよ。ナンなら、あなたのお店、ここで展開してみたら？」
「それも良いですね、裕子さんさえよければ。綾香、会社に聞いてみようよ」
「そんなことしたら人目に付いちゃうでしょうに」
「いいえ、それはご心配なく。一応結界になっていますから」
「それならいいんですが。ところで話は変わりますが、あのニュース見たでしょう。どう思います」
「ウサギの旦那さんに聞かせてもいいの？」
「ええ、彼はもう仲間ですので」
「そう、それなら話すけど、よくなさそうね。あたしも心配だわ」
「やはり・・・、でも、原因がなんだか思い当たらなくて」
「たぶんお母様はうすうす気がつかれているんじゃないかとおもうんですが？ちょっとコレを見て」
浩子さんは机の上にいくつかの写真が入ったファイルを並べて見せました。
「この写真は？」
「あたしがインターネットで収集したもので、最近テレビでも放映されているように馬や牛が空を飛んでいる写真です」
「ほんとうだ。空飛んでいる。コレも魔女の力かな」
「さあ、どうかな」
「でも、この写真は本物」
「誰がやっているのかしら」
「そこまでは私にも解らない。解らないけど魔女たちのせいじゃなさそうよ」
「何か知っているんですか」
「ええ、あたしその地域の魔女知っているの。で、さっき電話したら、本人もしらないって驚いていたの」
「でも、自分が創造したんだから分からなかったのかな」
「本当に何も知らなかったみたい。何も得にもならない嘘はつかないでしょう」
「だったら、いったい猫たちは何処に行っちゃったんでしょうね」
「せっかくきてもらっても、あたしにも原因はまだ分からないわ。でも、
今は猫だけど、やがてほかにも被害が及ぶかもしれないわね」
「私もそれが心配で」
「ウサギの家族がいるから心配ね。既に今までにも猫だけじゃなく、ミツバチや小魚も既にいなくなっている。あなたのダンナにも発信機付けておかないとどうなるか分からないよ」
「そんな、僕は人間だよ」
「あなたの心は人間でも、その体は特別変異の本物のウサギよ。だから人の食べ物は食べられなかったりしない？」
それを聞いて綾香が噴出した
「プッ。そうだよね。今もそのために病院で注射してもらって来たんだもんね」
「笑わないでよ。僕だってカルビ食べたいんだから」
「あらま、あなたそんなことしたら死んじゃうよ。馬鹿だね」
「綾香にいくら言っても人間にしてくれないんです。何とかいってやってください」
「それは無理よ。一度変化させたものは本物よ。よほどのことがない限りリセットできない。もしかして、あなたが魔法知ったいきさつは、もしものことでもあったわけ？」
「ええ、まあ、そんなところです。あたしが留守の間に秘密知られちゃって」
「それで仲間になったんだ。この人、魔法使えるの？」
「いいえ、まだそこまで、長女の沙奈も、まだ使うことが出来ないし」
「早く使えるようにしたほうがいいわね。自己防衛くらいできないと。まさかこんなことが起るようになるなんて思いもしなかったから。もしかしてこのひと、『幸運の手』つかったの？」
「ええ、よくご存知で」
「あれは、禁断の魔法なのよ。知っているでしょう。遠い過去に封印された秘儀のはず。当時はリスクが大きかったって聞いています。でも、何処でコレを？」
「あたしの祖母から。先祖代々伝わる魔法なので、成人になったらあなたに譲るから大切にしなさいって母から授かったんです」
「もしかしたら、その付けかもしれないわね」
「付け？」
「そう、あなたが魔法をかけたんだから聞いて知っているでしょう？
他人に運をむしりとられる因果応報のことを。あれよ」
綾香は自分がその話しを浩にしたことを思い出しました。
「相手に魔法をかけるには、相手の力に暗示をかける場合もある。貴方の想念と暗示で初めて大きな魔法が発動する。ということはあなたのダンナのかかったものが、不景気で目減りした多くの人々の幸せをむしりとり、さらには愛玩動物までむしりとった可能性・・・ないかしら？」
「還元が足りないと？」
「あるいは封印されるくらいだから、魔法が強すぎるのか」
「そんなこと」
「もちろんいくつかの要因の一つであって、確定したわけじゃないわ」。
「綾香、僕たちは十分幸せだろ？もう辞めようよ。みんなを幸せにしてあげようよ」
「もし浩が元の人間に戻ったら、あたし不幸になっちゃうから絶対いや」
「なんで・・・」
「綾香さん、だからもしもよ。まだ決まったわけじゃないわ」
「そうよ、浩、あなたはなんだかんだ言って肉が食べたい一心でしょう。そのために判断鈍らせちゃだめよ」
「なんか僕だけが卑しい人間に聞こえるのは気のせい？」

「まあまあ、二人とも喧嘩は辞めなさい」
「ごめんなさい。他人のお宅まで来て、どうもすいませんでした・・・」
「ところで浩さん、あなたの力見せてもらっていい」
「はい、どうぞ」
そういうと裕子さんは浩のほうを向き、そのまま目を瞑りました。
「あなたの力はまだ原始のようですね。形はあるけど、住人がまだいないみたい」
「あら、あなたまた修行サボっているのね」
「仕事が忙しくてなかなか出来なかったんだよ」
「はい、分かりました。でもこのままじゃ何かあったときに対処できないから、あなたは綾香さんの中に引越ししたほうがいいわね」
「引越し？」
「この人をあたしの中に・・・やっぱそれしかないか」
「どういうことなの？」
「はっきり言ってしまえば、あなたが魔法覚えるには遅いのよ。みんな若いうちから修行してやっと一人前になるの。だからそう簡単に魔法は覚えられない。その代わりあなたの星ごと綾香さんの宇宙に引越ししちゃえば、何かあったとき綾香さんの力を借りることが出来るし、あなたが成長すれば、綾香さんの魔法を高めることも出来るわけ」
「僕はいなくなっちゃうわけ？」
「そうじゃなくて、綾香と契約を交わすだけのことよ。そうすればあなたは難なく修行積みながら魔法使うことも出来るわけ。ただし、あなたのすべてを綾香さんに知られることになるけど。ということは、もしあなたがあの猫たちのように行方知れずになったとき、あなたがこの世界にいる限り、綾香さんには探すことが出来るわけ」
「僕は、ぼくは・・・いやだ」
「あなた、あたしのこと信じられないの？情けないわ」
「なぜ綾香さんを信じることが出来ないの？」
「綾香は、傲慢なんです。だからいやだ」
「綾香さんが傲慢かどうかは知らないけど、彼女と会わなかったらあなたは死んでいたって言っても理解しないわね」
「裕子さん、それはいわないで」
「なんですか？僕はよく分かりかねますが」
「あなたは、綾香さんの愛で生かされているのよ」
「なぜ？」
「なぜなら」
「お願い、言わないで。恩着せられるのはいやなの」
「だめよ、理解しない人にはちゃんと言わないと。この人はいつか過ち犯すわよ」
「僕に何かあったの？」
「あなたはね」
「裕子さんゴメン、後はあたしが言います」

つづく

コメント(10)

最初
全て
最新の40件

[1] mixiユーザー 07月21日 00:30

「なに？」
「はっきり言うわね。あなたに魔法かけたのは、もしあの幸運の手をあなたに嵌めなかったら、あなたは翌日会社であたしに振られたと勘違いし、なおかつ会議に使う書類の肝心な部分の書類を誤ってシュレッダーにかけてしまい、それが元で会社は大赤字を出して倒産し、あなたは詰め腹切らされて、なおかつ多額の保険金かけられて、部長に会社のビルから突き落とされて死ぬはめになるところだったの。判ったかしら？」
「綾香さん何もそこまではっきりといわなくても」
「綾香、それはお前が勝手に思ったことじゃないの？」
「私には先を見る力もあるのよ。」
浩は言葉を失った
「どうした、木内浩。あたしになんか言う言葉があるんじゃない？」
「ごめん。ちょっと一人にさせてください」
そういうと浩は一人中庭の池のほとりで座り込んでしまいました
（僕の存在理由っていったい何だろう。自分の人生の選択権もないのか？
彼女は何でも知っている。僕は彼女の世界の中にしか生きている場所がない。
彼女は既に僕を思いのままに動かしている。なおかつ僕の命を綾香が救い、会社まであの子が救った、か）。
「あなた、ごめんなさい。少し言い過ぎました」
「いいんだよ。僕はもう君にははむかえないよ。
この生活もまんざらじゃないんだ。ただ」
「これ以上の幸せは要らないし、もっと僕の人間性を尊重してよ」
浩は泣き出した

つづく

[2] mixiユーザー 07月21日 00:31

「あなた」
（泣いたウサギって。なんてかわいい～）
なだめる振りをして内心喜ぶ妻がいた。
裕子さんも内心思った（綾香さんも罪な子ね。コレじゃだんなさんかわいそうね。でも可愛い(=´∇｀=)・・・困ったな）
「僕は自分があまりにもふがいないよ～」
「あ～もう泣かないで～。誰か写真とって♪」
「綾香、お前この期に及んでまだそんなこと言うの？」
「うん♪だってあなたとってもチャーミングよ。裕子さんもウットリしてるし」
「あ～だめ、そんな顔しないで。あたしもう母性愛くすぐられっぱなし」
「はいはい、分かりました。僕は自分のすべてを綾香にゆだねます。だからもうどうにでもして！」
二人は浩の事をすっぽかし、妄想のみがどんどん暴走し始めました。
「ねえねえ、もっと可愛い洋服着せましょう。あと、あなたの下の子も一緒にコーディネートして、ここのお庭にビスケットのおうちたてて・・・」
「どうせなら、服のデザインも魔法で生えてる地毛使って直にデザインしよう。そうすると洗い換える必要がないから」
「んじゃ、ここそめて」
「ここレースのエプロンね。いろは黒にする？」
「ねえ、お願いだから僕のこともういじらないでください！」。
「はいはい、」
（こいつら、なーんもきいてねー）
「僕は男だよ。恥ずかしいから止めて！」
「だから、このお庭でカフェやろうよ。
男の子だけどウサギに性別も何もないから、この際メイド服着せちゃおう！
絶対似合うから。それと三人の子ウサギちゃんにも・・・」
「だったら、もう女の子にしちゃおうよ。男の子じゃかわいそうよ。子供4人いれば十分でしょ」
「いやだよ、僕はなんなの？あの子たちの父親でしょうが」
「ゴメンネ、綾香さんに従うしか。そのほうが楽しそうだしｗ。あたしもさんせー」
（冗談じゃない。性別までコントロールされるのかよ。）
「綾香さん、一緒に住もうよ。コレは( ￣ノ∇￣)￣―￣）ナイショだけど、さっきも言ったように結界が張ってあるから、もしもの場合、貴方の家族も守れるし」
「ありがとう、裕子さん。ここなら子供たちも喜ぶわ」
浩はどうせ逃げられないと判っているから途方に暮れた。月明かりに照らされて、金色に輝く自分の姿が池に映ると、石を投げて自分の姿を波紋で消した。
「あなた。なにこんなところでたそがれてるの？
あたしたち、何か気に障る事したかしら」
（なんだよ。いっぱいしてるじゃないか。何処まで蹂躙する気なんだよ。どう足掻いたって魔女にはとてもかなわない）
「・・・」
「返事なしか。まあ、いいわよ。心の整理つけてる暇なんかないんだから。この玉飲んで」
「なにこれ？」
「コレは契約の証よ。コレであなたと私はめでたく契約されたわけ。それと、サプライズ付よ」
「はいはい、なんでもしましょう。」
浩はため息つくと、丸薬状の物体を水で飲み干した。そしてうつろな目で自分のマンションのある方向を見て、思い出した。
「あ、子供たち放ったままだった」
「あ、あたしも夢中になってすっかり忘れてた」
「あら大変、家のダンナに車で送らせるわ」
時計を見たらもう10時だった。
二人は裕子さんに丁重に（浩は低調に）お辞儀をすると、急いで家に戻った。
「僕、もうあのうちには行かないよ」
「なんで？いいじゃない、私たちのこと守ってくれるのよ」
「だって僕はいつもまじめに君たちのこと見つめているのに、君はいつも僕をおもちゃにするじゃないか」
「焼肉のことまだ恨んでいるのね」
「違うよ。もう」
靖男は、二人の会話を笑いながら聞いていた。
「お二方とも、仲がよろしいようで」
「そうなんです」「ちがいます！」
「息までそろって仲むつまじいですね。ははは」
二人が戻ったときには、お姉ちゃんが三人の子ウサギたちをちゃんと布団の中に入れて一緒に添い寝していました。
でも、居間は散らかったままで、3歳の子供ではここまでが限界でした。
浩は短い腕で沙奈を抱くと、優しく子供ベッドの中に入れてあげました
居間に戻り、テレビをつけると、相変わらず行方不明の猫の被害地域の拡大が進んでいて、その日のうちに関西でも猫がいなくなり、飼い主が混乱している映像が流れていました。
「あっちこっちでいなくなっている範囲が広がっているみたいだね。
「なんか胸騒ぎがするよ。このニュース」
その晩、浩は夢を見た。
それは自分の左手が輝きだして、喋りだすと言うもので、
「私はあなたに魔法をかけている本人です」と名乗りだした。
「あなたは誰ですか？」
「私は綾香の先祖にあたります」
「僕もあなたの話しは少しだけ綾香から聞いています」
「あの子があなたにしたこと、許してあげてね」
「ええ、そのつもりですが」

つづく

[3] mixiユーザー 07月21日 00:32

ただ、あの子がしたことは人間の自由を妨げる行為。これはよくないことです。
もしあなたが綾香の蹂躙から逃げたければ逃げなさい。それは可能です」
「そんなことしても大丈夫なのですか」
「あなたは元々自由なのですよ。後は自己責任。がんばって。今の私にはそれしか言えません。あなたがどの生き方を選んでも、それは許されます。ただ、あなたが今おかれている自分の立場に憤慨するなら、あの子は自分が積んだカルマを刈り取ることになるのです」

「私には、あなた方魔女さんが言っている意味がとても難しくて理解できないんです。たまに綾香も難しいことを言います」

「それは勉強不足よ。しかし、綾香も罪な事を。あなた見ていると、可愛くて仕方ないわ。でも、そう仕向ける魔法だからあきらめてね」
「そんな魔法だったんですか」
「とにかく、それもこれも宿命のようね。あなたの他人や動物に優しい性格は、今までの前世の影響がかなりあります。その性格を断ち切らない限り、綾香のようにあなたに甘えてくる人間がこれからも出てくることでしょう。優しさとは、魔女にとっては心の隙。心有る者はそこを突いてきます。気を付けて」
浩はそこで眼が覚めた
（宿命？前世？僕はいったい何者？）
時計を見たら4時だった。
テレビをつけるとさらに大変なことになっていた。
猫の消滅が日本中に広がっていたのだ。
（コレは大変なことになったぞ）
浩は綾香を起こすと居間でテレビに釘付けとなった。
危機感を抱いた綾香は、子供たちのことを危惧し、裕子さんの家に避難させることにしました。
裕子さんに電話してまもなく、靖男さんが車で迎えに来てくれましたが、全員は乗れないので浩が見送ることになりました。
「あなた、すぐ迎えに来ますからね」
「気を付けていっておいで」
浩は走り去る車にいつまでも手を振っていた
そのとき、浩は今朝の夢のことを思い出しました。
（今なら逃げることが出来る）
そう思うと、心臓が早鐘のように鳴り響きました。そして、身の回りのものを持つと、
机の上に走り書きで、
[僕を探さないでください。今まで幸せでした。綾香との生活は一生忘れません。ただ、僕は人間でいたい。僕は自分の尊厳を守るため、綾香から離れます。さようなら]
と書き、家出を決行した。エレベーターで降りて、マンションのロビーにある大きな姿見に自分の姿が映ったのを見たとき、唖然としました。その姿はメイド服姿のウサギそのものだったのです。（何がサプライズ付だよ。このことだったのか・・・）
最初、着ているものなら脱ごうと思ったものの、すべて地毛で出来ていて、まるで金髪の髪に黒と白のメイド服に白いレースのエプロン姿の着飾った姿そのままの感じに仕上がってる。
浩は焦った。
（まずい、コレは目立ちすぎる
しかし、早く逃げないと綾香が戻って来る。僕の自由をみすみす手放せるか！）
とりあえず一刻も早くこの場所から立ち去りたかったのだ。
浩は、その姿のまま、新交通システムに乗ると、この街を立ち去った。

そのころ子供たちは車に乗ってご機嫌でした。
「トロは～トロはマグロの子。青い海でおよいでる～♪」
「ほら、もう着いたよ。さー。みんな降りようね」
車は20分ほどで裕子さんのお家に着きました。
綾香が子供を一人ずつ車から降し、ベビーカーに下の子ウサギたち3匹乗せて沙奈の手を引いて裕子さんにお辞儀をしました。
「いらっしゃい。可愛い子供達ね。こんにちは」
「こんにちゃー」
「この子供達ともども、しばらくお世話になります」
「どうぞごゆっくり。それはそうと、あのかわいいだんなさんは？」
「あの人大きいから乗り切れないのでもう一度迎えに行かないと」
「そう。じゃ、いってらっしゃーい。子供たちのことはあたしに任せて。さあみんな、お家でお菓子食べましょう。とっても素敵なお家よ」
「わーい。うれしー」
子供たちは大はしゃぎでおのおのガーデニングの庭園の中ではしゃいでいました。
「それじゃ、ダンナ迎えに戻りますね」
しかし綾香は、夕べからの胸騒ぎがおさまりませんでした。自宅に戻り、部屋のダイニングルームの机の上の置手紙を見つけたとき、その胸騒ぎが現実のものとなりました。
「なに・・・これ」

つづく

[4] mixiユーザー 07月21日 00:33

綾香はすぐ裕子さんに電話しました。
「あの・・・家の浩が家出しちゃった。あたし、すてられちゃったみたい」
綾香は泣き出してしまった。
「大丈夫よ、なかないで。あの人に契約の証を飲ませたんでしょう？」
「うん」
「なら、明日には帰ってきますよ」
「大丈夫。信じなさい」
「なぜそんなこといえるの」
「彼に自分にかかった魔法を見限る力があると思う？
誰かがそそのかしたら気がつくかもしれないけど。それに契約交わせば監視もできるでしょう」
「それも・・・そうですね」
「さ、戻ってらっしゃい。みんなでお茶しましょう」
「はい」
綾香は涙をぬぐうと、靖男さんの運転する車に戻りました。

そのころ浩は何本もかみそりを買ってきて、ホテルの一室で一生懸命体中の毛を剃っていました。しかし人のように指の使えない肉きゅうの手はうまく物を掴むことができず、体中きり傷だらけになってしまいました。しかもその毛の量は膨大で、バスタブがあっという間に詰まってしまい、仕方なく、ホテルの屋上のドアを開けて人目の着かない場所で痛みと戦いながら5時間かけて毛を剃ると、血だらけになった体に軟膏を塗ってさらしで巻き、その上からフードつきのパーカーを着て、体の特徴を一生懸命隠し、部屋に戻って鏡を見ると、自分の体が4分の1くらいにまでスリムになった気がしました。
（コレなら何処に行ってもばれないな）しかし、体中が切り傷で痛くてたまりません。
（この先どうしよう）
浩はとにかくこの町から離れたくて仕方がありませんでした。
その足で羽田に向かうと、ここから一番遠い南の島に飛ぶことにしました。
キャンセル待ちで搭乗券を入手すると、すぐ飛行機に乗り、シートに座った浩は、安堵のためか、深く眠り込んでしまいました。

そのころ、
綾香は裕子さんの家で家族と共にいました。
浩の逃亡でショックは隠しきれません。少し落ち込んでいました。でも、
猫の消滅事件のほうも気がかりでなりませんでした。彼女は、猫の次はウサギだ。絶対そうだと、思っていたからです。
そしてだんなの逃亡。綾香は悲しみに打ちひしがれていました。
（あの人と一緒に抱き合って暮らせた日々がまた来ますように）
今はそう願うだけでした。
ニュースでは、相変わらず猫の行方が不明のまま多くの飼い主たちが悲しみにくれていることを何回も伝えていた。
そしていまだに一匹も見つかっていませんでした。
綾香は思いました。
（動物たちに心があるのなら、なぜ消えたか聞き出せないものかな）
そこで綾香は裕子さんに言いました。
「裕子さん、あたし思うんだけど、動物の心って読めるよね」
「そうね、読めないことも無いけど」
「だったら直接猫に聞いてみたらどうでしょう」
「そうね。その手があったか。あたし、まったく気がつかなかった」

それじゃ猫の行方不明をしらべましょう。家の猫ちゃんが庭にいるから聞いて見ましょう」
裕子さんは庭に放していた黒いペルシャを部屋につれてきて、会話を始めました。
「さあ、アーサーちゃん。君の仲間たちが今行方不明なんだけど、あなたなにかしってる？」
すると、アーサーは人の言葉が分かるように首を立てに振りました
そこで裕子さんがアーサーにプラスチックの文字盤を見せると、アーサーは器用に彼女の問いに文字盤を触って答えました。
しかし猫の集中力はとても短く、1時間かけて
「会合」と「王様が行方知れず」の二言聞き出すのでやっとのようでした。
どうやら猫ならではの社会があるらしいのです。
「さあて、会合はなんとなく判るけど、王様って何かしら。あたしも初めて聞くことばね」
「裕子さんがしらないことなんてあるの？」
「あたしの猫修行は、あなたのお母さんから教わったことで、しかも最近のことなのよ」
「それじゃ、あたしと同じくらいの新米さんなの？」
「そういうことになるかなｗ。よろしくね、あまり知らないの」
「ということは、母に聞いた方が早いか」
すると、裕子さんは、靖男さんを呼んで、綾香の母のところまで連れて行ってくださいとお願いしました。
車は街に出ると、いつもとなにか様子が違います。
ご近所の人たちがみな口々に、ポーチポチ。たーまたまたま。ジョセフィーヌどこー？
といって探しています。
「なんだか胸が痛みますね」
「みんな自分の猫さがしているんだわ」

つづく

[5] mixiユーザー 07月21日 00:34

「でも、本当に猫の社会なんてあるのかしら？」
「猫が人と共に暮らすようになって何千年も経っているからなんともいえないけど」
「猫も自分の世界があるんだから、浩さんもあたしの知らない自分の世界をずっと持ち続けていたのかな？」
「いきなりどうしたの？」
「一緒に暮らしていても、あたしは浩さんが私のやってることに同意してると思ってた」
「あたしね、彼のことを思ってやったのに、彼はぜんぜん理解してくれないから。いつも自分の言い分ばかりで」
「でも、家庭の方は面倒見よかったんでしょう？」
「うん、だけど最近はわがままばかり。それが信号だったのかしら」
「そういえば、昨晩もずっと池に映る自分の姿に石を投げてかき消してたね」
「あの時、彼の気持ちを聞けば、こんなことにならなかったのかな」
「さあね。でも、綾香さんが聞いても気がつかなかったんじゃないかな？

やがて母の住むマンションが見えてきました。
このマンションは昔のままの古い佇まいを残した昭和の遺物で、中庭には大きなケヤキの木を中心に、もみじや桜など季節を彩る木々がうっそうと生い茂るそんな場所です。
建物は四角いものではなく、幾重にも入り組んだ幾何学模様のようにここを訪れた人の興味関心を奥へ奥へと誘う造りになっています。そして、その突き当たりには、ほぼ人と同じ高さのアールヌーボー風のガレ工房で作られたような大きなユリの花束をモチーフにした照明が、玄関の左右に置かれて、薄暗いロビーを美しく照らしています。
床にはモザイクでじゃれあう猫や犬やうさぎなど、身近な動物たちが描かれ、正面には巻き貝を削りだしたような美しく虹色に輝く階段が伸びていて、天井にはサンゴを半透明になるまで磨きだしたシャンデリアが吊るされて、その内側が青いライトで照らし出され、一つ一つは弱い光でも、たくさん点灯しているのでとても明るく感じます。
「いつ来ても綺麗ですね。ここの照明は」
「裕子さん、この時間だと、この照明は太陽の光で照らされているんだって」
「えっ、自然光なの」
「母が言うには、その方が美しいって。ほら、みんなあの天井の穴から光が差し込んでいるでしょう」
「ほんとうだ。すごい」
そのとき上から母、玉沙の声が聞こえました
「いらっしゃい。さ、どうぞ」「裕子です。お久しぶりです」
「今日はどうしたの？二人そろって」
「今日来たのは、あの猫の件で」
「ねこちゃんたち、なにかあったの？」
「ママ忘れたの？あたしが昨日言った話のこと。今世界中の猫が行方不明になって大変な騒ぎなのよ。既にこの界隈の猫もいなくなって町は大騒ぎになっています」
「裕子さんがいながら気がつかないなんて変ね」
「あたしのうちには結界が常に張られているから」
「だけど、裕子さんのお家にいる猫のアーサーに聞いてみたら会合だとか王が行方知れずだと」
「王様？はて、何のことでしょう」
「そうですか、ママも知らないんだ。創造者が知らないうちに猫の社会が出来上がっているみたい」
「まあ、それなら人間だって同じことでしょうに。神様は殺しあう人間なんてきっと創造しなかったことでしょうし。玄関もなんだから、こちらにいらっしゃい」
母は二人を部屋に招きました。
母の部屋はとても綾香には懐かしく感じました
浩と一緒になるまで綾香はここで生活し、暮らしていたのです。
子供のころ、ガラスの彫刻で遊んで母をやきもきさせたものでした
部屋のインテリアのすべてはガラスと深みのある木の彫刻といっても差し支えありません。
柱のすべてが森の木をモチーフに作られていて、そこから伸びる枝や葉がすべてガラスのシャンデリアになっています。そのガラスには微妙な角度でカットが施され、玄関と同じようにガラスの幹の中を光が通ってきて、昼間は太陽の日で部屋を照らし、夜はスイッチ一つで電球の光に切り替わり、その照度が落ちることはありません。
ドアもガウディがデザインしたような植物の蔦をモチーフに作られ、どれ一つとっても同じ扉は存在しませんでした。

つづく

[6] mixiユーザー 07月21日 00:35

母の部屋に通されると、そこには大きなガラス球が青い間接光に照らされて、まるで宙に
浮いているようです。二人はその部屋で今までのいきさつを話しました。
「あたしは、今は猫が行方不明だけど、やがてウサギも同じことになるような気がしてならないの。現に浩さんが家出しちゃって」
「え！なにかあったの？」
「あの人、焼肉が食べたいってうるさくて。それは無理ってあたしが言ったからそれで怒って出て言っちゃったのよ」
裕子さんはその話しを聞いて噴出しました。
（おいおい、ちょっと違うんじゃないの？）
「またあなた、お婿さんに辛い思いさせたんじゃないの？
綾香は昔から動物にちょっと残酷なことする一面があるから」
「あたし、何もしてないよ。あの人のことずっと愛しているの。ほんとうよ」
「どうせ、首に縄つけてひき吊り回したり、虐待したんでしょ。そうでなきゃ、あんな温厚な人がいなくなるわけないじゃない」
「やってないわよ。あの人不幸の塊だったから。あたし愛おしくて。ぬいぐるみのようにかわいがった。ほんとうよ」
「あ、あなた、彼に魔法つかったでしょう」
「幸運の手の秘術のおかげであたしたち幸福よ」
「幸福なのはあなただけだったんじゃなくて？
母はお見通しよ」
「そんな」
「ま、今は問い詰めません。秘術使っているなら安心ね。とりあえず浩さんのことは大丈夫。そんなことより、猫のこと教えて」
そこで綾香は、裕子さんのうちには結界が張られているので、アーサーは消えなかったこと、猫が言うには「会合」と「王様が行方知れず」の二言を語り、それと、この街の猫も消滅しちゃったことなどを玉沙にお話しました。
「あなたが浩さんの逃亡を理解できないように、私たちでさえ、猫の社会のことはよく分かりません。彼らは私たちが創造しただけで、後はみんな独自で成長するものでしょう。命ってそんなモンじゃないの？」
「そう・・・それもそうね」
「判っているじゃない」
「でも、猫の王様ってなんだろう？」
「王様って、まさか」
「何か心当たりでもあるの？」
「たぶん、カギはこの行方不明の場所にあるんじゃないかなとおもって」
「やはりなんかあるんだ」。
「決め付けるにはあまりにも情報が少ないからなんともいえませんね」
「どうなんだろう。ところで裕子さんは、なぜアーサー連れてこなかったの？」
「だめ、あの子、たった二つの情報聞き出すのに1時間もかかって。今ぐったりして寝ているから」
「こうなるとあたしたちの力の及ぶ範囲超えているから、見守るしかないわね。ただ、今回は猫の問題だから、あなたの心配するようなウサギまで消えちゃうことはないみたいだけど」
「なぜそういえるの？」
「だってウサギが消えたって何処も言ってないじゃない」
それを聞いて、綾香は肩の荷が下りたようで胸をなでおろしました。
「でも、猫の王様ってなんだろう？」
「それってもしかして百獣の王ライオンのこと？」
「ダブリンだのカリフォルニアだのの動物園のライオンが世界中の猫に影響を？」
「だとしたら、アフリカのライオンやチータもきえちゃったり？」
「飛躍しすぎね。そんなことわかりません」

そのころ、浩は遠く西表島に逃げていた。
ここまでくればもう安心だろう。
心のそこから笑みが自然と沸き起こってきた。もう嬉しくて嬉しくて。いままでの抑圧が一気に解放された瞬間だった。しかし問題はこの姿。ほおって置けばまた毛がはえて元に戻ってしまう。でも、体中の切り傷はいまだに癒えていなかった
とりあえずどこかに身を隠さないと
浩は街を離れて山奥に進んでいった。
この島の森は大自然そのままの息吹が今も残っています

つづく

[7] mixiユーザー 07月21日 00:36

浩はその晩、焚き火をしながら、空の星と一人で会話していた。
コレが本当の自由なんだ。僕は今までずっと蹂躙され、自分を見失っていた。
空がこんなに綺麗だなんて何で今まで気が付かなかったんだろう。
地平線のかなたには都会ではもうすっかり見ることの出来なくなったミルキーウェイが広がって頭上を通過し、その反対側に向かって伸びているのがはっきり見える。
きらきらと輝くその星は、都会の星よりずっと新鮮だった。
そのとき、あの魔法のことを思い出した。
そうか、自分で魔法鍛えてこの体を元に戻せばいいんだ。
浩はここなら集中できそうな気がして、一生懸命自分の命の星を想像しました。
自分の星にはまだ生命すら存在しなかった。そこで魚や鳥や野山の動物を念じ、想像しました。
すると、今まで旨くイメージできなかったのに、今回はそれらの生き物が、今ははっきりとイメージできて、住人もどんどん増えていった。そうするとだんだん面白くなってきて、次に鯨、そしてサンゴや陸上の植物をどんどん想像していくことが出来ました。もしかしたえらコレが綾香の力なんだ。浩はすぐ理解しました。そして、いい加減住人が増えたところで、人のような知的生命の存在をイメージし始めました。
そのとき、暗闇の中から優しい語り口調で子供のような声が聞こえてきました。
「いいね、頑張れ。街が大きく成長できるといいね」
「誰！」
「僕かい？僕は君のよき理解者だよ」
「僕の？」
「そう。僕が君と会えたのも、みんな君の幸運が引き寄せたんだろうね」
「幸運って・・・君、そのこと分かるんだ」
「ちょっとね。君はずいぶんひどい目にあったんだね。心も体もずたずたじゃないか」
「え。そんなことまで・・・。僕はみんなのおもちゃにされたようなものだよ」
「君、なんていう名前なの？」
「僕は浩。あなたは？」
「僕はさっき言ったように君のよき理解者だ。よろしく」
彼は闇の中から手を伸ばして握手を求めた。
その腕はしなやかな黒い毛で覆われていた。
浩は闇の彼方の彼の手をしっかりと握った。その手から伝わった血潮はとても暖かく、柔らかくてしなやかで包容力があり、大きな慈悲に満ち溢れているように感じました。
「君も僕の仲間なの？」
「ちょっと違うよ。でも、生き物を虐待するものを許すことは出来ないな」
「自分では虐待とは思っていなかったんだけどね」
「僕は君のやられてきたことがよく分かるんだ。人間だったのにこんな目に合わされて」
「ありがとう。僕は旅に出てよかった。やっと理解者が現れたんだ」
浩は嬉しかった。心のそこから渾身の涙があふれて止まらなかった
「だからもう安心なさい。毛はもう剃っちゃだめだよ。それと、薬草と食べ物おいておくから早く休みなさい」そういうと、闇の存在はかばんから紙包みを出し、浩の足元において立ち去っていった。
いったい今のは誰なんだろう。
それから1週間、浩はなぞの高熱に襲われ、そのまま寝込んでしまった。
しかし、夜な夜なだれかが闇の中から現れて介抱してくれたので、浩は飢えることなく、
獣にも襲われることなく、そして、人に見つかることもなく、心と体を癒すことが出来ました。
熱でうなされている間、浩は毎晩同じ不思議な夢を見た。
彼の見た景色は外国の田舎で、窓から羊やヤギを放牧している様子が見える。
そこに一人の女の子が住んでいて、その子はとても優しい子のようでした。彼女の家にはたくさんの動物がいて、いつも彼女が拾ってくるらしい。そしてお家の人に叱られているところが見える。
ある日彼女が街でいじめられていた子猫を拾ってきた。そのちいさな黒猫は、足を怪我していて、彼女が自分の部屋で介抱している。
その猫を抱きかかえると、おなかには白い毛が生えていた。エメラルドグリーンの目を持つ黒猫は、やがて彼女の介護のおかげですっかりよくなり、彼女に語りかけられるうちに、人の言葉や人の文化を理解し、とても頭のいい猫になることが出来ました。彼女はその利口な子猫にキングと命名し、可愛がってくれました。
浩はいつもそこで眼が覚めました。

つづく

[8] mixiユーザー 07月21日 00:37

やがて熱も冷めて動けるようになると、自分で木の実や果物を拾ってきて食べれるまでに回復し、すっかり歩いても大丈夫になりました。
そしていよいよここを立ち去る前日、その闇の存在が大勢のお供を連れて堂々と浩の前に姿を現しました。
「こんにちは。ウサギのお嬢さん」
（は？お嬢さんって何？こんなカッコウじゃしかたないね）
振り返ると、そこには黒いスーツを着こなした人間と同じサイズの黒い猫が立っていた。
「助けていただきありがとうございます。何とお礼を申し上げたら言いか」
「いえ、お礼はあなたがた人間から十分いただいているんですよ。」
「そんな、私を助けてくださったのはあなたでしょう。お礼をしなければならないのは私のほうです」
二人はじっと見つめあいました
浩は夢の中で見た猫のことを思い出しました。
「あの、もしかして、あなたのお名前はキングさん？」
「ええ、そうです。どうやら私の記憶を読めるようですね」
「そうなんですか。毎晩夢であなたのことを見ていたような気がします」
「僕は、人に施しを受けるまで、人間とは怖くて何をするか分からない恐ろしい存在だった。その人間に傷つけられ、そしてまた人間に介抱され、知識と文化を知った。
人と触れ合うことで、ほかの生き物に施す心を知り、今度は僕が君を助けることで、僕は徳を積んだんです。こんな経験できたのもあの子のおかげだ。そして僕は本当に名前のごとく王になった」。
「そうでしたか。人間とは私が言うのもなんですが理不尽な生き物ですよ。いい人間もいれば、悪魔のような人間もいる。そして私はその悪魔に人格否定されてきた」
「この先、どうされます？」
「もう、あそこには帰りたくないな」
「でも、あなたの体はもう魔法でずたずたのようですね。どうでしょう、私たちの姿は本来、人間には見ることが出来ないのです。しかしあなたには私が見える。コレも何かのお導きかもしれません。私と来ませんか？私の妃になってください」。
「さっき言おうと思ったのですが、私はこんな格好していますが、実は男で、子供が4人いるんですよ」
「でもあなたの魔女達は、あなたの人格も性別も既に奪われてしまったようですよ」
「そんな」
「知らぬは本人ばかりなりですか」
「まあ、性別なんか関係ないですが。人も私たちもいずれ転生するものです。この姿は仮初めの肉体にすぎません。本当に大切なのは、その人の心です。あなたの心の中にはどんな出来事でも耐えうるすばらしい王国がお有りのようです。どうでしょうか。私どもの世界に一緒に来てもらえませんか？あなたにしか出来ない仕事があるんです」
（僕はこの時、あの魔女たちの恐ろしさを心底垣間見た気がする。このままいたらいつかきっと殺される）
「そうですね。あなたに助けられた恩義もあるので、今晩一晩心の整理をさせてください。
あなたのことを信じます。僕はもうこの世界には失望しました。ここにはもう、僕の居場所はありません。それに、僕はあなたの心の広さに打たれました」
「そうですか。認めていただき光栄です。それでは今晩一晩じっくりお考えください。明日、迎えに参ります」
そういい残すと、キングと名乗る存在は闇の中に消えていきました。

いつの間にか空には星が瞬き始めていた。
今宵が最後となれば、なんだか急に寂しさも湧いてきて、封印していた携帯で綾香に最後のメッセージを送信した。
「僕はこの西表島の地で、僕を必要とする心を持つものとともにこの世界を去ることにしました。
サヨウナラ。綾香、沙奈、杏、アノン、アラン。みんなどうかしあわせに」

翌朝、心地よい鳥の囀りと共に目を覚ますと、既にキングの召使が迎えに来ました。
黒いスーツを着た猫は、肩越しに手を掛け、何かを念じていました。
そして両手を下げると、そこには金と銀とプラチナの三本のラインが滑らかに交差する首輪とすずらんの花をモチーフにしたちいさな花飾りが鈴なりについた七色に輝くネックレスを首にかけてくれました。
浩はその姿を携帯で撮ってもらうよう、お願いしました。
その写真を撮ってもらった後、携帯のトップ画像と置き換え、今まで自分が使っていた道具のすべてを横の大きな木の洞の中に押し込みました。
携帯には綾香からのメールが何十通も着ていましたが、そのまま開くことはありませんでした。
まもなくキングがやってきて、お辞儀をすると、
「お迎えに伺いました」といいました。
「おはようございます。私のプレゼント、気に入ってもらえましたか」
「ええ、僕には価値が分かりませんが、せっかくの頂き物なのでありがたく頂戴します」
「では、参りましょう。コレで僕が戻れば世の中の混乱はなくなります」
「混乱？」

つづく

[9] mixiユーザー 07月21日 00:38

「ええ、ニュースで何か言われていたでしょう猫が行方知れずとか」
「まさか、行方不明の猫の事件のことを言っているのですか」
「ご存知ですね。実は、私たちの先代の王が今から20日前、急逝し、急遽僕のところにお鉢が回ってきたんです。先代の王の正体は、ここの山猫でした。彼は勇猛果敢な賢い猫で、優しく品格のある王でした。だから王位を継ぐものは、品格を問われます。多くの猫たちは、王の葬儀と次の王の選定のために人の知らない場所に集まって会議を開きました。世界中からなぜ猫が姿を消したのか、もうお分かりですね」
キングはそういうと、
「さあどうぞお姫様」
といって御后様をエスコートしました。
浩は自分の翻弄された運命を回想しながら、恥ずかしがりながらもキングの手に自分の手を添えることにしました。
「僕はもう、運命に逆らうことはしません。おそらく、逆らうことの無意味さと、郷に入れば郷に従い、自分の学びの場とする。綾香からそういう意味では多くのことを学びました。だから、何もかもあなたにゆだねます」
彼はもうどんな境遇にも耐える気品に満ちた風合いをかもし出すような存在となっていました。やがて多くの仲間に祝福されると、群集と共に森の中に消えてゆきました。

その日の夕方、綾香はやっとの思いで浩がメールを寄こした場所を探しだし、たどり着くことが出来ました。でも彼の痕跡を探しましたがなかなか見つからず、もしかしてと思い、携帯で呼び出しをかけてみました。すると、遠くの方でかすかに電話のなる音が聞こえます。綾香は嬉しくて駆け寄ってみると、少し高い木の洞の中から音が聞こえてきました。綾香は爪先立ちで洞の中に手を突っ込むと、あの見覚えのある浩の使っていた黒いかばんが出てきました。
綾香は鳴り続ける携帯をとめ、中のメッセージを開いてみました。そこには自分が送ったメールがそのまま残っていました。そしてトップ画像に、首輪とネックレスを二重にかけた気品にあふれたウサギの姿が残っていました。そのほかにメッセージは残っていないか探しましたが、特に何も残されていません。

「ナンだろう、このネックレスと首輪は？」
綾香は母にことのなり行きを告げると、一緒に写真を送信しました。
そして早速写真を見てもらおうと母に電話しました

「もしもし、綾香です」
「浩さんに会えたの？」
「だめでした。彼、もう旅立った後でした。本当に誰かが迎えに来たのかもしれない」

「そうだったの、残念ね。でも、あなたと契約交わしているんだから、いつか必ずかえってくるから」
「ならいいんだけど」
「さっきの写真は浩さんの？」
「ええ、携帯に残されていました」
「気品に満ちた顔になりましたね。この顔じゃ、もう自分に対してのけじめがついたって感じね。
それと朗報よ。テレビのニュースで、今までいなくなっていた猫たちが戻ってきたそうよ」
「そう、それはよかったね」
もう、今の綾香には猫のことなどどうでもよかった。
「どうしたの、暗い声よ」
綾香は泣き崩れました。
「あたしが彼を虐めたの。ごめんなさい。どうか帰ってきて！」
それを聞いて母はあきれたように言いました。
「だから言ったでしょうに。あなたは子供のころからそうだった。何匹も動物をいじり殺して。いつになったらこの子は成長するのかしらねえ。いつもやっちゃった事は仕方がないんだけど、なぜ後悔するようなことをするの？
あなたはいつだってペットの気持ちや、相手の気持ちを考えたことがなかったでしょう」
「でも、アイツ、可愛いかったんだもん。あたしに何言っても強く要求したことはなかったし、どじで、馬鹿で、でもみんなに好かれて、憎めなくって。あたしは知っていたの。あの人が友達と会った晩、あたし憎らしくて。だってあたしには友達がいなかったんだもん。だから、あんないい人、もうでてこないよ。あたしのこと理解してくれて。あたし、なんて酷いことしちゃったんだろう」
(この子はそこまで判っていて、どうしていつもこうなんだろうねぇ)
「浩さんのことは綾香が招いた天罰です。自分がやったことを素直に受け止めなさい」
母の言葉を受け止め、綾香は顔をくしゃくしゃにして泣きました。
「おかあさんごめんなさい」
「謝るのはあたしじゃなくって浩さんの方でしょう。とにかく戻ってきなさい」
「あたし、見つけるまで帰らない！」
「何馬鹿なこと言っているの。子供たちの世話は誰がやるの？下の子3人もおもちゃにして」

つづく

[10] mixiユーザー 07月21日 00:39

「お母さんそういうけど、あの子達は喜んでいますよ」
｢だったら人のままでも喜ぶんじゃなくて？
小学校に上がってごらんなさい。この子達がどんないじめを受けるか。あなた、わかっているの？」
「お母さん、そんなこといわないで」
「あなたはね、自分さえよければ他人の苦悩なんかぜんぜん判らない子なのよ。
私はもう、知りません。とにかく戻ってきなさい。あなたにはコレからたっぷりとお灸を据えますからね」
彼女は静かにうなだれると「はい」といって電話を切りました。
母は思いました
（あの子はとうとう一人の人生をないがしろにしてしまった。いったいなにを考えているのかしら。このままだと下の子たちもどうなることか）

綾香は母に叱られた後、浩の残された荷物を持ち、山を降りました。
しょげながらあるく帰り道、遠くに青く澄んだ海が見えてきました
（またあたしは独りぼっちになっちゃうのかな。お願い、浩さん。帰ってきて）
ぼんやりしながら山を降りる其の時、彼女は自分が歩いているその場所が、一瞬めまいとともにわからなくなってしまいました。自分の居る場所が何か今までと違うような気がしたのです。木々のざわめきが止まり、強い南の日差しがあたりをセピア色に染めてゆきます。来るときには気がつかなかったのですが、錆びた道路標識が一本、強い日差しに色あせ、近づかなければ何が書いてあるかわかりません。よく見てみると街への近道左と書かれていました。精神的にも疲労困憊していた綾香は迷わずその近道をえらび、左に折れていきました。
するとすぐに真っ暗なトンネルが出てきました。（こんなところにトンネルなんてあったかしら）
しばらく行くと、横から外の光が光のカーテンのように差し込んでいます。外からは海風が優しく髪を揺らしながら後ろに流れていきます。そのトンネルにはたくさんの窓があり、そこから外の光が差し込んでいたのです。綾香は、その窓から外を覗いてみました。そこにはたくさんの花で飾られた一艘の船が浮かんでいました。その船にはみんなに祝福された二人のカップルが仲むつまじく沖に旅立つところでした。
綾香は船に乗っているのが浩だとすぐにわかりました。浩の横には黒いタキシードを着て、シルクハットをかぶった、大きなエメラルドグリーンの目をした猫がこちらを向いて帽子を取って会釈しました。
すると何処からか祝福の声がします。

「新しい王様のお戻りだよ。新しいお后様と共に帰ってきたよ」

それを見た綾香はいても経ってもいられませんでした。
「后って何よ、あれはあたしの浩さんよ。お願い。返して！」
しかしその光景はもう過去の残像にすぎなかった様でした。船の姿は見る見る薄れてゆき、波間にかき消されてゆきました。
気がつけば、いつの間にか綾香の足に寄り添うように一匹の猫が現れ、彼女の足元にメッセージ置くと、きびすを返して、軽いステップでトンネルの闇の中に消えていきました。
裏には猫の手形の蝋の封印が施されています。
その手紙を手に取り、蝋の封印をはがし、中の便箋を取り出し、丁寧に開いてみました。

「あなたは自分のために魔法を使いました。それが何を意味するか。これ以上の神聖なる魂への虐待を創造主は許さないでしょう。この哀れな御魂は私を大切にしてくれた存在の一部です。だから連れてまいります。
綾香様へ。引き合わせてくれてありがとう。Cait Sith」

手紙にはこう書かれていました。

この日の夕日はいつに無くとても大きく、綾香にはとても威圧に感じました。
太陽の光を背に、がっくりと肩を落とし、呆然とする綾香。
彼女はこのとき、魔法の力の本当の意味を知りました。自己の利益のために消費された綾香の力は、彼女の指と指の間をすり抜けて、地上に、そして海に全部流れてゆきました。
何もかも失って、
最後に残されたのは、僅かな彼の品々と、あの人と過ごした記憶だけだった。

綾香はそのとき、浩とのデートで見にいった「レ・ミゼラブル」の中で流れていた曲、「I DREAMED A DREAM」を思い出し、涙で震える声で口ずさんでいだ。

あの人のぬくもりは、今はもう何処にも、何にも残っていなかった。

だから、綾香は残された彼の荷物を力いっぱい抱きしめ、大粒の涙を流すだけだった。

日本語http://www.youtube.com/watch?v=wnLRonN3xSs&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=hZTmbmvYSm0&feature=related

おしまい

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ