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みんなにやさしい自作小説コミュの童話 『首だけのかりん』

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童話 『首だけのかりん』
2008年12月31日14:43



とある下町の神社。

その境内に大きなイチョウの木があるのですが、

なぜかこの木の中央は焼け焦げて炭になっています。

その昔、小さくてかわいい女の子が、防災頭巾をかぶったまま、よく木の枝にちょこんと座って遠くの景色を見ていました。

しかしその姿をみんなはいつか忘れてしまいました。



童話 『首だけのかりん』

みち子さんが通る通学路には神社があって、その境内には大きなイチョウの木がありました。

そのイチョウの木にはなぜかいつも黒いまあるい毛玉のようなものがぶら下がっていて、みち子さんは見るたびに不思議に思っていたのです。

ある日、みち子さんは同じ学級の長太郎君にその話をしました。

「ねえねえ、長太郎くん。私のお家に行く途中に神社があるでしょう。
あの境内のイチョウの木に何か黒いものがぶら下がっていて、いつも気になっていたの。みたことある?」

すると、長太郎君は目を丸くしていいました。

「へ〜知らないよ。でも帰りに僕も見てみたいな。
面白そうだから今日帰りに見に行こうよ」

といいました。

みち子さんは、気味が悪く思っていたので、わざわざ見に行かなくてもいいと思っていたので、少し驚きました。

神社だけに、気持ちのいいものではないと思っていたからです。

やがて授業が終わると、二人は掃除を済ませてあの神社に向かいました。

二人がついたころ、真っ青な空に鰯雲が湧いていました。どことなく天の高いところから、キーンというような、甲高い音が響いているように感じました。

お空は夕焼けで、真っ赤に燃えています。

遠くの山々が紫色に闇に溶け始めていました。

張り詰めた空気がとても冷たく、木枯らしが轟々と吹き荒れて、イチョウの木の黄色い葉っぱをがさがさと鳴らして、枝から次々に葉を吹き飛ばしていました。

みち子さんはじっと、イチョウの枝を見上げていました。その視線の先にはあの黒い塊が木枯らしに吹かれてゆらゆらとゆれています。

「ほら、あれよ」

「どれ?あ、あのくろいの?なんだか気味がわるいね。何だろう ?」

う〜ん、これじゃ高くて寄り付けないね。そうだ」

そう言うと、長太郎君は何やらあれに届くものを探しにいきました。
そして、どこからか長い竹ざおを見つけてきてイチョウの木の枝に立て掛けてみました。

「これで引っ掛けて落とそう」

みち子さんは

「やめようよ」

といいましたが、彼は聞きませんでした。

しばらく、長太郎君は竹棒を持ち上げてごそごそごそとやり始めちました。

みち子さんは気が気じゃありません。

みち子さんが辺りを見回しますと、このイチョウの木は、どこか不思議な気がしました。中央が真っ黒にこげて、空洞になっていたからです。

「あら?なぜ焦げてるのかしら」

しめ縄が張られているということは、この神社にとって重要な木に間違いありません。

そのころ、長太郎君まだ必死に竹棒を振り回していました。そして、ごろっと、あの黒いものが竹竿に引っかかり地面にドスンと落ちました。

長太郎君が

「あっ」

と声を上ました。そこでみち子さんも声に合わせ、あわてて振り返ると、その落ちた物を拾いに行きました。
そして、近寄ってみて初めてそれがなんだかわかりました。

それは、人の頭でした。

二人は驚き、腰が抜けてしまいました。
そして、とうとうみち子さんは泣き出してしまったのです。
でも、みち子さんの声はとても大きな声なのに、そんなときに限って誰も通りません。

人は、いざというとき、誰も来なかったりするのです 。

そして、いい加減、なき疲れて止んだころ、ようやく長太郎君が、

「みっちゃん、おうち帰ろう」

といって手をつないで起こしてくれました。

「長太郎君、ごめんね。あたしが変な事言ったばっかりにこんなに怖い思いさせて」

「いいんだよ。僕も怖かったけど、みっちゃんも怖かったんだから、うらめないよ。それより、早く帰ろうよ」

「うん」

そういうと、二人はお家に帰っていきました。

そして、二人が今日見たものは誰にも言わないでおこうと約束しました。



でも、その約束は簡単に破られてしまいました。

美智子さんが学校に行くと、昨日の話しでみんな持ちきりだったのです。

みんな知っていました。

昨晩、長太郎君のお母さんが、遅く帰ってきた長太郎君を問い詰めて聞き出し、近所のおばさんに話して、警察沙汰になったからです。

長太郎君は、体調を壊して、その日学校を休みました。

当然、みち子さんは、職員室の担任の青柳先生に呼ばれて、昨日の事を聞かれました。

みち子さんは本当は思い出したくなかったんだけども、青柳先生はとても聞きだすのが上手で、みち子さんは全部先生にお話しました。

話を聞いて先生は頷くと、

「もう、あそこにいっちゃだめだよ」

と、やさしくみち子さんに話しました。

「それとね、みち子さんには悪いんだけども、この手紙を長太郎君に届けてほしいんだ。
帰りに寄れるよね」

それは先生のささやかな心遣いだったのかもしれません。

みち子さんは先生のお使いで、長太郎君のおうちにお届けものに行くことになりました。

長太郎君のお家は神社とは反対の方向で、みち子さんは、あの神社の道を通ることはありませんでした。

やがて、長太郎君の家に着くと玄関の引き戸を開けて、

「こんにちは」

と、声をかけました。

奥から出てきたのは、長太郎君のお母さんでした。

「あらこんにちは。みち子ちゃん、昨日はとんでもない目にあったね。
うちの子は、あの後、寝込んじゃって。よほどショックだったんだね。
でも情けないよ。男の子なのに。みち子ちゃんは強いね。さあ、おあがりなさい」

長太郎君のお母さんは、やさしくみち子さんを迎え入れてくれました。そして、寝込んでいる長太郎君の部屋に入って驚きました。

長太郎君は布団に寝たまま、口に指を当てて

「しー」

と合図しています。

みち子さんもあわてて口を押さえると、目をぱちくりさせて長太郎君のお母さんがお菓子とジュースを置いて出て行くのをじっと見ていました。

実は、体がこわばってほとんど動けなかったのです。

それは、長太郎君の布団の上にはあの頭だけのものが乗っかっていたものですから。

みち子さんはまた泣きそうになりました。

でも、長太郎君は

「なかないで、なかないで」

と言っています。

だって、なぜだかまったくわからなかったんですもの。

長太郎君は、みち子さんが落ち着いたところを見計らっていいました。

「驚かしてごめんね。この頭、どうやら、僕たちしか見えないらしいんだ」

「そうなの?」

みち子さんは恐る恐る、泣きたいのをぐっとこらえてみています 。

「今日は先生に昨日のことを聞かれて、お手紙を届けてねって言われてここに来たの、だから帰り道、怖い思いしなくてもいいと思ったのに 」

そういうと、みち子さんは先生から預かったお手紙を長太郎君に手渡しました。

長太郎君が袋を開けて手紙を読むと 、

「先生、昨日のことを心配して、元気を出しなさいって言ってる。うれしいな」

といいました。

そのあと、長太郎君はしげしげと、自分についてきた頭を見つめると言いました。

「さ、ご挨拶して」

みち子さんは、両手を口に当ててまた、目をぱちくりさせてこらえています 。

頭は、くるっと向きを変えると、みち子さんのほうを向いてお辞儀をしました 。

その頭が後ろに転がったかと思った次の瞬間、なにやら、可愛い女の子お顔が見えてきました。

みち子さんはその優しい顔にほっとしました。そして

「こんにちは、みち子といいます」

とおそるおそるいいました 。

頭は言いました。

「私はもう何年も前からあそこでみち子ちゃんを見ていたの

あなたが、いつもあそこを通るたび私を見て、不思議そうにしているもの

だから。

わたし、本当はさびしかったの。

でも、誰も気がついてくれなかったから。心細くて」

「あなた、さびしかったの?」

「そうなの」

それを聞いて、みち子さんは少しおかしくなりました。

だって、お化けさんが怖いなんていうから。

「変だと思うだろうけど、本当よ

もしよかったら、私と友達になってくれない?」

「いいけども・・私怖がりだし」。

「でも、もう怖がっていないじゃない」

お化けは人の心を見れるのです

「あなたの名前、なんていうの?」

「私はかりんよ。よろしくね」

と、にこにこ笑いながらいいました。

みち子さんはいくらかほっとしました。そこで、今までなぜあそこにいたのかを聞いてみようと思いました。

「かりんちゃん、何でいつもあそこにぶらさがっていたの?」


「私は家族と仲良くあの神社の近くの家に住んでいたの。しかし、まだ私が小さかったころ、

父親が火事を出し、かりん一人を残してみんないなくなっちゃった。たぶん一家全員、死んじゃったと思う。

私は行くところもなくて、毎日、神社のお供え物でおなかを満たしていたの。でも寂しさはとうとう癒えなかった。

私はある日、あのイチョウの木に登って遠くに沈む通日を見てたら、その夕日の中に、あのやさしいお母さんとお父さんの顔が映ったの。

そしたら、寂しくて、寂しくて、もう、生きていたくなくなっちゃって、ご飯も食べる気がしなくなって、そのうち、あのイチョウによじ登って寝ているうちに、気がついたら・・・」


みち子さんはその話を聞いているうちに、悲しくて涙がボロボロ零れ落ちてきました。

(私の優しいお母さんやお父さん。もしこの世界から消えてしまったら私も悲しいな)

かりんも泣いていました。長太郎君もどうなだめていいかわかりません。
しばらくして、かりんがいいました。

「でも、今はさびしくないわ。新しいお友達ができて。
そうだ、もしよかったら、私のおうちにあそびにて」

「え、かりんちゃんのおうち、どこにあるの?」

「私のおうちは、あのイチョウの木の所よ。
今からこない?」

そういうと、かりんは長太郎君の布団の上から転げてたたみの上に落ちました。

「だいじょうぶ?」

と、みち子さんが声をかけました。

「ええ、大丈夫よ。こうしないと、長太郎君の体が弱ってしまうから」

と、かりんがいいました。

人はお化けに取り憑かれると、体が弱って死んでしまいます。
かりんちゃんがどいて、しばらくすると、長太郎君はたって歩けるようになりました。

「あ、本当だ。僕、歩けるようになったよ」

みんなが喜びました。そこにお母さんが熱を測りに上がってきたのですが、元気になった長太郎君の姿を見て、

「やっぱり女の子がいると、元気になるのね。おませなんだから」

といって、優しくおでこに手をかざすと、安心したかのようにまた、階段を降りていきました。

かりんちゃんはその間、ずっと、長太郎君とお母さんのやり取りを見て、

「うらやましいな。私もなでてほしいのに」

と、つぶやきました。

二人は、お母さんが買い物に出かけるのを待って、お家の外にでかけていきました。
あの神社のイチョウの木の、かりんちゃんのお家に向かったのです。
しかし、境内には、まだ多くのおまわりさんや、神主さんの姿がひっきりなしです。
巫女さんも一生懸命、鎮守の森のイチョウの木にお神酒をささげていました。

「これじゃ入れないよ」

「そうね」

「どうする?かりんちゃん?」

すると、かりんが言うには、人には見えない道があるというのです 。
かりんは、みち子さんの腕から、ポーンと飛び降りると、

「あたしについてきて」

といって、ぴょんぴょんはねてゆきました。
二人は一生懸命走りました。かりんちゃんがきたのは、神社のお賽銭箱の横でした。

「ここから入れるの」

そういうと、暗闇の中にまた、ぴょんぴょんと、はねてゆきました。
二人は、身をよじって、神社の床下に入っていきましたが、最後に長太郎君の後姿をおまわりさんに見られてしまいました。

「おい!こら坊主、まちなさい」

そういって追いかけてきましたが、あわてて闇の中に消えてゆきました。

「はて、あの後姿は長太郎君のもののようだが」

おまわりさんも不思議そうに縁の下を覗いて見ましたが、そこには誰もいませんでした。

「みち子ちゃんも長太郎君ももう少しで捕まっちゃうところだったね。危なかったね」

かりんちゃんが、すごくかわいい顔で笑って言いました。

「かりんちゃんて、かわいいのね」
と、みち子さんも言って笑いました。

長太郎君も、かりんちゃんの、顔を見て、少し赤くなったようです。
かりんちゃんは話をしながらもどんどん遠くに進んでいきます。縁の下の道は、どこまでも長く続いていました。

長太郎君がいいました。

「この道はどこに続いているの?
僕、この町であっちこっち遊んでいたけど、こんな道知らないよ」

「この道はね、本当は、人間が来ちゃいけない道なの」

えっ

「本当は、神様や、妖怪や、幽霊が使う道なの」

「ああ、だから神社につながっているのか」

「そうなの。まもなく私たちの住む世界につくよ」

かりんがいいました。

しばらくいくと、真っ暗な道の先に、わらぶき屋根の門が見えてきました 。

「この門をくぐると私のおうちがあるの」

かりんちゃんは、ますます元気になりました 。

そしてみんなはその門をくぐりました。

門の先には大きな山がうっそうとそびえたち、ふもとには大きい池もあります 。
遠くに、粗末なわらぶき屋根の、でも、たくさんの植物と動物や虫たちに囲まれた、かわいいかりんちゃんのおうちもありました。
ススキの穂にたくさんのトンボ。

「うわ〜。トンボがいっぱいいる〜」

「ほんとね〜。とっちゃおうかしら」

「だめよ。あのトンボはね、おしょろさまといって、人の心が宿っているの。だから、いじめちゃだめよ」

と、かりんちゃんにお叱りを受けました。

かりんが言うには、この世界にあるものは、人の世界と違って、みんなに魂が宿っていて、今は自分を慰めていて、いづれ時が来たら、また旅立つのだそうです。

「だから、そのときまでそっとしてあげてね」

みち子さんは頷きました。

それにしてもなんてきれいな景色でしょう。ここにもうろこ雲が空一面に多い尽くし、大きな月が見えます。

そして、いたるところにススキが生え、黄金色に輝いています。

夕闇のカラスの群れも、今日の寝床に戻るところのようです。

木の葉は、あるものは真っ赤に、そしてあるものはまっ黄色に染まり、小川にも零れ落ちています。

池に注ぐ川は、透き通り、川底がはっきり見えます。大きい魚や小さい魚がたくさん泳いでいて、ものすごく大きい楠や檜、巨大な柳などが生い茂り、あたり一面とってもいい木の香りがしています。

長太郎君は、その光景を見て、

「ここが君たち妖怪や、おばけのすむところなの?」

といいました。
かりんちゃんは

「そうよ」

といいました。

「だって、僕たち人間の住む世界がすばらしいところだって聞かされていたのに、妖怪たちのほうがず〜っと、いい世界のような気がするんだもの」

「そうよね。私たちの学校のちかくも、こんなに楽しいとこなんてないわ。
草も木もないし、車に気をつけないとはねられるし、その排気ガスは臭いし。
かりんちゃんは恵まれてるね」

と、みち子さんも言いました。

「でも」

でもなに?

「うん、あの透き通ったお空に浮かぶたくさんの星や、雲を見てるとね、人間だったときの記憶がよみがえって、お父さんとお母さんに会いたくて仕方ないの」

「かりんちゃんのご両親も、この世界にいるんでしょ?」

「ううん。私はここのイチョウの木の中の世界に住んでる。でもここにはいなかった」

「会いたいの?ご両親に」

「うん」

かりんちゃんはぐずり出しました。

「だから、いつもイチョウの木にぶら下がって、人間の世界を見ていたのね」

「かりんは今も人間の世界にお父さんとお母さんがいると信じてる。

だから、もし、見つけたらあたしに教えてほしいの」

「いいわよ」

「僕も手伝うよ」

二人は約束しました。

でも、かりんちゃんのご両親の特徴がわかりません。

「なにかお父さんかお母さんとわかるものがあるの?」

「お父さんは、チンチン電車の運転手をしていました」

「チンチン電車って僕知らない」

と長太郎君が言いました。

「お母さんは、おうちでいつも、草の葉を編んで人形を作っていました」

「人形って、どんなものことかしら」

と、みち子さんが言いました。

かりんちゃんが続けて言いました。

「もしかしたら、お父さんはチンチン電車の走るところにいるかもしれません。
お母さんは、人形に使う、布や針などの道具を今も大切に持っているかもしれません」

「そうだ。あたしの大切なものをお渡しします」

そういうと、かりんちゃんは、頭につけていたかっちん止めをみち子さんに取ってもらい、渡しました。

「これ、あたしがお母さんにねだってかってもらったの。お父さんもそれ見てかわいいって言ってくれたし」

みち子さんは、かりんちゃんが渡したかっちん止めをしげしげと眺めていました。

なんとも不思議な透き通った青いガラスの中にたくさんの空気の泡が赤や黄色や紫でできた色のカーテンの中に隠れている、なんともうっとりとする景色のあるものでした。

みち子さんはそれをポケットにしまうと、

「必ず見つけてくるからね」

といいました。

二人はそのあと、かりんちゃんのおうちで仲良くお風呂と、お夕飯をいただいて遅くならないうちに帰ってゆきました。

帰り道、たくさんの蛍と天の川の光が池や川面を覆いつくし、すべての生き物が、二人のお友達をいつまでも見送ってくれました。

長太郎君と別れたみち子さんは、おうちに帰ると、ご両親に怒られてしまいました。

「みっちゃん、もう7時よ。どこに行ってたの?

また、長太郎君と遊んでいたんでしょう?

あの子は、今日、熱が出てお休みしてたって言うじゃない。
神社で何していたの?
さっきおまわりさんが心配して教えてくれたのよ」

みち子さんは、悪いことしたつもりはありませんでした。ただ、新しいお友達のことで頭がいっぱいだったのです。

だから、お母さんに怒られると、とても悲しくてたまりませんでした。

「おかあさんごめんなさあい」

というと、両手離しで泣き出してしまいました。

長太郎君がすべてお話したのだから、私もお母さんに言わなきゃ
と思ったみち子さんは、今日のことをすべてお話しました。
そして、かりんちゃんからもらったかっちん止めをみせると、

「あら、これどこで拾ってきたの?
ずいぶん古そうね」

と、お母さんは言いました。
そして、

「かりんちゃんのご両親も見つかるといいわね」

と、いってくれました。 

その翌日から、長太郎君と二人でかりんちゃんのご両親の心当たりのある場所を探すことになりました。

神社の近くでその昔、火事を起こしたお家があったかどうか。
でも、お年寄りにいくら聞いても、お家を知る人はいませんでした。

チンチン電車のことも、聞きましたが、もうそんな電車はここには走ってなどいませんでした。

草の葉で編んだ人形についても聞いて歩きましたが誰も知りませんでした。
二人の住む町にはどちらも、もうありませんでした。

いったい、かりんちゃんが生きていた時代って、何年前なんでしょう

みち子さんは悩んでしまいました。



このごろ、長太郎君は体調が優れないようで、よく学校を休むようになっていました 。

よく風邪をこじらすようになったのです。

その病気がちな長太郎君が久しく学校に現れると、

「まだチンチン電車が走っていることをお父さんに教そわったよ」

と新しい情報を持ってきました。

「そうなんだ。見つかってよかったね」

と、みち子さんも言いました。

「今度行こうよ」と、長太郎君は言いましたが、

問題はいつ行くかということでした。

「長太郎君、体調よくないでしょう。もっと暖かくなったら行かない?」

とみち子さんは言いましたが、

「僕なら大丈夫、もうこんなに元気になったんだよ」

といって聞きません。

「今度の日曜日に乗りに行こうよ」

と、いつにも無く長太郎君は積極的だったのです。

みち子さんは
「あたしは長太郎君が元気ならいいよ」

といいました。

そして二人は次の日曜日に、チンチン電車に乗りに行くことになりました。


その日は朝から小雪が舞う寒い日でした。
みち子さんは、かりんちゃんのかっちん止めを頭につけていました。
最近はずっとつけることにしていたのです。
それは、なくしたら大変だからです。

しばらく、凍える手をこすりながら、白い息を吹きかけて、とても短い駅のホームに立って待っていると、
真っ白の雪のカーテンを何枚もめくりながら、一両の小さな電車がやってきました。

「へー、本当に小さい電車なんだね」

「ほんとね」

みち子さんも、チンチン電車に乗るのは初めてだなので、少しわくわくしていました。

長太郎君は、運転手さんの後ろに立つと、その仕事のさまを一生懸命見ていました。
電車は、車道を走り、公園を抜け、民家の裏庭を抜けて川を渡り、大きな電車の駅で乗り換えるお客様を大勢下ろし、雪の降る中、どこまでもどこまでも進んでいきます。

運転手さんは、そんな一途な長太郎君を見て、ほほえましかったのでしょう。

「僕、この電車乗るの初めて?」

と、信号でとまったときに声をかけてくれました。

「え、はい。僕初めてです」

「一生懸命見てたからね、これをまわすと、走り出して、これがブレーキ。で、これがあの音」

運転手さんが紐を引くと、子気味よい

チンチン♪

という軽やかな音がなりました。

「あ、」

二人は声を出してしまいました。




つづく


ーーーーーーーーーーーーーーー

コメント(3)


そこで長太郎君が運転手さんに聞きました。

「じつは、僕たち、人を探しているんです」

「どんな人なの?」

「チンチン電車の運転手さん」

「お名前は?」

「それがその、わからないんです」

「わからないって、でもいまこの町で走っている場所はここだけだから知ってると思うけど。
場所、なんていうところなの?」

「じつは・・・僕たちの住む町にはもうチンチン電車、走ってないもので」

「もしかしたら、昔の話なのかな。今から40年前には、確かにこの町全体に走っていたさ。
ふるいのかな?」

其の時みち子さんが言いました。

「はい、古いと思います。
その子のお父さんが火事出して、みんな死んじゃったんだけど、お墓知りたいっていわれて探しているんです」

「僕たち、路面電車って乗ったことないから、もしかしたら何かつかめないかなと思って」

「そうかい。それで、その子の名前、なんていうの?」

「かりんちゃんって言います。今、お友達がつけてる髪留めが、そのこのもちものです」

「もしよかったら、おじさんにその髪留め見せてもらっていい?」

「はい」

そういうと、みち子さんは丁寧にかっちん止めをはずして運転手のおじさんに渡しました 。

しばらく手のひらで転がすと、懐かしむように胸元で抱き、涙をこぼしています。

「おじさま、いかがなされました?」

と、みち子さんが言いました。

「おじさん、実はその子のお父さんだよ」

二人は驚きました。
だって、死んだって聞いてたものですから。

「でもおじさん、生きてるじゃないか」

「君たちに言うのもおかしいけども、まあいいか、
だって、かりんも、もう死んでいるんだよ 。
君たちには死者も生きたものも平等にいたわる力がある。
本当にすばらしいことなんだよ

ねえ、おかあさん」


二人はその言葉にとても驚きました。
だって、こんな偶然があっていいものなのでしょうか。
二人が振り向くと、いつの間にか誰もいなかったはずのチンチン電車の座席に、
着物を着た、手にススキで作ったミミズクのお人形を持った、とてもきれいなやさしい顔の、
あのかりんちゃんにどこか面影のある女の人が座っていたのです。

みち子さんも、長太郎君も一度に現れたので、驚いたのとうれしいのでいつの間にか

やったーやったー

といって大喜びです。

「草で作ったお人形って、それのことなんですね」

みち子さんがそう言うとお母様は微笑みながらみち子さんに手渡しました。

「これ、あなたにあげるわね」

「あ、ありがとうございます。可愛いな。なんていうんですか?」

「これは、すすきみみずくよ。親と子の絆。

かりんを引き合わせてくれたのも、このみみずくに願をかけたからかもしれないわ」

と、かりんちゃんのお母さんはしんみりと言いました。

「ふーん。そうなんですか」

みち子さんには、その意味はよくわかりませんでしたけど、今はとにかく嬉しかったのです。

「それじゃ、お父さんもお母さんも、かりんちゃんのところに連れて行ってあげるから、今から行こうよ」

長太郎君が言いました。


でも、二人は浮かない顔をしています

「どうしたの?なにかあるの?」

みち子さんが不思議に思って言いました。

「いや、もしあの子に会ったら、私たちはもうお別れすることになるんで、どうしようか思案に暮れていたのです」

お父さんが言いました。

「私たちは、あなたたちのおかげで、もうこの世界にいる必要がなくなりました。正直言って今すぐにでもここから会いに行きたいのですが、まだあう決意ができていないのです」



つづく


ーーーーーーーーーーーーーーー

長太郎君がチラッと、ご両親の顔を見ました。

すると二人は困り果てた顔しています。

そこで、長太郎君が言いました。

「かりんちゃんは、お母さんとお父さんに会いたくて、今も一人あのイチョウの木の世界に住んでいます。

あのイチョウがかりんちゃんにとって、ゆりかごであり、心のささえになってるみたい。

でも、寂しくって寂しくって、たまに人間の世界に出てきては、空を見上げて泣いています。

僕たちは…

お別れになっても大丈夫。幸せになってさえくれれば、それだけで僕たちも幸福になれるし」。

かりんちゃんのお父さんとお母さんは、神妙な顔つきでした。

「君は何歳だい?」

「僕もみっちゃんも8歳です」。

かりんちゃんのご両親は顔を見合わせると、

「なんてできた子なの」
といって、まるで、家族のように他人なのに泣いてくれました。

「そうですか。決心がついているのなら、お言葉に甘えましょう」

そういって、ご両親は雪の降り積もるなか、終点についた電車を降りて街に出ました。

みち子さんは、ちょっと不思議に思いました。

みんなになぜか自分のことが忘れられているように感じたからです。

(あたしだってさがしたんだよ)

て言いたかったのです。

しかし、そう思ったとき、かりんちゃんのお母さんが寄ってきて、頭を着物のマントですっぽりと覆いかぶせてくれました。

みち子さんは思いました。

(この人達、絶対死んでなんかいない)って。

だって、暖かくて、いいにおいがしたからです。

町は大雪でした。車もバスも走れるような状態じゃありません。

足跡は転々と灰色の空の下に続いています。

大川の橋げたも、深々と覆いかぶさった雪と、川面から吹き上げる風でたくさんの風花を舞い上げています。

大きなガスタンクも、造船所も、団地も、公園も、何もかも真っ白に多い尽くされています。

橋を渡って、江戸時代から続く有名な公園に着いたときには、すでに日が暮れてしまっていました。

お父さんは長太郎君と何かおはなししていました。

其の時、かりんちゃんのお母さんもお話してきました。

「かりんのことを見つけてくれて本当にありがとうね。

私たちは、火事で死んだのではないの。

その昔、戦争で、ここは空襲に遭い、たくさんの人が焼けだされて死んでしまっ たの。

あの子はまだ小さくて、ぜんぜん火事も空襲もわからないまま、愛情に飢えて死んでいったの。
かりんが不憫でならないわ」

そう言うと、かりんちゃんのお母さんは大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、雪に煙る町並みをなつかしみるようにすすり泣いていました。

外はとても静かになりました。

雪はすでにおなかの辺りまで達しています。

そして、あのイチョウのある神社が見えてきました。

お父さんとお母さんの足取りは少し速くなったようです。

あの時、たくさんついていた大銀杏の葉はことごとく落ち、いつの間にか冬化粧をしています。

みち子さんはいてもたってもいられませんでした。

「かりんちゃ―んご両親をつれてきたよー」

と、大声で呼びました。

しかし、雪で声が吸収されてしまったせいか、返事がありません。

其の時、長太郎君がイチョウの木の下に誰かが立ってると指を指しました。

そこには小さなかわいい女の子の姿がありました。

赤い臙脂の市松模様の入った防災頭巾をかぶったままのかりんちゃんが小さな手を一生懸命振っています。

みち子さんはうれしくてたまりませんでした。

なんだか、涙が出てきて、本当に嬉しかったのです。

(かりんちゃん、よかったね…)



つづく


ーーーーーーーーーーーーーー

みち子さんの記憶はここまででした。

次に気が付いたのは、病院のベットの上でした。

「おお、みち子、気がついたか。母さん、みち子がおきたよ」

朦朧とする意識の中、みち子さんはようやく目がはっきりとみえるようになりました。

そして

「長太郎君やかりんちゃんはどこなの?」

といいました。

「するとお母さんが、あなた、何言ってるの。かりんちゃんは知らないけど、長太郎君は去年肺炎を起こしてもうこの世にはいないのよ」

といわれました。

「だって、今まで一緒だったのよ」

「何を馬鹿なことを言ってるの?」

「そうか、きっと夢を見ていたんだ。
お前、肺を患っていて、昨日あの神社で吐血して倒れているのを神主さんが見つけてくれたんだよ
あそこに行ってはいけないってあれほど言ったのに」

「もう、直るまでそとにはでられないから、ここでゆっくる養生するのね」

と、お母さんが言いました。

みち子さんは、切れ切れの記憶の断片をつないでいき、長太郎君がすでにいないことを思い出しました。

そして、あの都電の中であったおかしな会話の意味がようやくわかったのでした。

(長太郎君は、かりんちゃんとのお別れを言ってるんじゃなかったんだ。

きっと、長太郎君は私のことをたすけてくれたのね)



翌朝、みち子さんは気持ちよく目覚めることができました。

窓を開けると、さわやかな空気が流れてきましたが、体に毒だといわれてすぐ閉められてしまいました。

みち子さんの頭には、かりんちゃんがくれたかっちん止めが朝のまばゆい光に輝いていました。

みち子さんは、胸に手を当てて祈りました。

「かりんちゃんのご両親たち、どうか長太郎君をお守りください。
後、かりんちゃんを、絶対手放さないでね 」

と、心の中で願いました。

(いつか、元気になったら、長太郎君のお墓参りに行こう)

いつのまにか、みち子さんの枕元にある花瓶の中にはあの、すすきのミミズクの人形がさしてありました。

みち子さんは、このすすきのみみずくに導かれたのかもしれません。

羽の内側の小さなみみずくが二つ、楽しそうに微笑んでいるようにみち子さんは感じました。

「長太郎君、カリンちゃん。また遊ぼうね」
                         おわり

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