みんなにやさしい自作小説コミュの②幸運のウサギの手　　　綾香の正体

②幸運のウサギの手　　　綾香の正体
2009年01月08日23:23

綾香さんのおうちにはウサギになった三つ子ちゃんたちがいます。
それぞれに名前が、杏、アノン、アランちゃんといいます。
そして沙奈ちゃんという女の子が三つ子の面倒を見ています
でも、
実は、この子達はおとうさんである木内浩さんは、ある日巨大なウサギになってしまったのです。
沙奈ちゃん以外の三匹の子ウサギたちは、浩がウサギになったあともうけた子供でした。
でも子供たちは誰もお父さんの本当の姿を知りません。
このお父さんは、そう、あの今ではすっかり有名になってしまった「キャロット」というファンシーショップの店長さん。
でも、お母さんの綾香さんは、娘の沙奈ちゃんより大のウサギ好き。
これでは子供と大人が逆ですね。

「綾香、本当にいいの？このまま何があってもっていったんですよ」
でも、綾香が
「私は何があってもかまわないよ。みんな大切にするよ」
といって聞きません。
「お前がそういっても、僕は不安だよ」
っていったんですよ。それでも押し切られちゃって
そうしたら、僕の不安が的中して、あの子ウサギたちが生まれたんです。

相変わらずこのだんなさんは、奥様に頭が上がらないようです。

今では両親の心配をよそに沙奈がしっかり子供たちの面倒見ています
でも、その沙奈ちゃんも最近兎化しつつあるようです。
弟や妹と一緒ににんじんをぼりぼり食べるようになりました
ある日、お母さんは仔兎を連れてショッピングに出かけました。
最近は彼女の思いの洋服を着せて、大きな乳母車にみんな乗せると、そのまま平気で繁華街に連れて行くようです。
「あなたもいこう！」言われたんですが、
本業の店が大盛況で疲れが抜けないから半日下さいといって、少し休ませてもらいました。
さすがに毎日来客に体中弄繰り回されて疲れが抜けません。
この体は実はとても暑いんです。
だから今日はさすがに休ませてもらうことにしました。

みんなを見送り、家族がいなくなると、部屋の中ががらんとして、なんだか寂しい。
まあ、こんなときしか出来ないので、たまには外の空気を入れようと、窓を開けました
すると、ものすごい勢いで風が部屋の中を通り抜けて、積んであった荷物を撒き散らして行きました。
僕はあわてて窓を閉めると、短い腕で一生懸命後片付けをすることになってしまいました。
はあ、何の休みだろう。
そのときです。居間の僕の手の届かないところに積んであった荷物がいくつか今の強風であおられて床に落ちていました。その中になんか見覚えのあるものがあります。
これは？
僕が手にとって見ると、箱のようですが、なぜか僕にはそれに見覚えがあったのです
まさかこれって。

しばらくすると綾香が戻ってきたので、僕は尋ねてみました
「ねえねえ、この箱なんなの？」
すると、めったに顔色一つ変えなかった綾香の表情が曇り始めました
「あなた、とうとうみつかっちゃったのね」
「みつかっちゃったって、僕は見た記憶あるけど、なんだかおもいだせないんだよ」
「そう、ならこれでどう？」
そういうと綾香はあたまにショールを巻きました。
その姿を見た瞬間、僕の昔の記憶が一気によみがえってきたのです
彼女の姿は、僕をこんな姿にした、あのどSの占い師その人だったのです。
「まさか綾香が・・」
「見つかっちゃたか。仕方ないな。そうよ、あたしだったの。あの時あたし、あなたに振られたと思って妬け起こして仕返ししたいなと思った訳。でね、うちの祖母、もともとヨーロッパ人で、家に代々伝わる秘伝の箱があったこと思い出したの。でもね、この箱は使いこなすのに修行が必要だったの」
「修行？」
「そうよ。魔女の」
「え？それじゃ綾香は魔女なの？」
「まーま、まじょたん！」
下の子たちが口をそろえて言いました。
「ママが魔女だったなんて」
「でもばれたらこれまでね。みんな、もう魔法はおしまいよ」
「何が起こるの」
「あたしにもわからない。ただ、あたしには今までの清算が一気に襲ってくる。しばらく眠らせて・・・」
「そういうと、綾香は倒れこんでしまった」
その瞬間、魔法が解けて僕と娘と下の子３人は人間の姿に戻ることができた
みんな僕の顔を見て「あーっ」と奇声を上げている。
僕は倒れた綾香のことが心配だった。でも、あの占い師が綾香だなんて。僕は今まで自分を殺して生きてきたんだ。そのことを考えたら、ちょっと不幸な自分が悲しかったけど、今はそんなことを言ってる暇はなかった。
そこで家族が一致団結して綾香の看病に当たることにしました。

その前に困ったことがあった。今までほとんど丸裸で生活していたので着る洋服がない。子供たちの前で裸でいるのもさすがに人の姿では感心できないので、かろうじて残されていたパジャマを探してきることにした

しかし、下の子達は自分たちが生まれたときから兎だったので自分自身人の姿に驚いたのか泣きじゃくる始末。でもなぜ沙奈はウサギにならなかったんだろう。やはり僕が変化する前の子供だったからだろうか。
沙奈は今、下の子達を必死に面倒を見ていた
「お父さんはお母さんの面倒見るからサナちゃん、弟や妹の面倒見てあげてね」
そういうと、僕はすぐにコンビニにいって氷を買ってきて、ソファーに寝ている綾香の頭を冷やし、毛布をかけて様子を見た。
綾香が目を覚ます気配はなかったので、子供たちの夕食の支度の準備を始めると、旧友から突然電話がかかってきた。

「よう、久しぶりだな。お前が有名人になってからなかなか会えなかったけど、どうだい？今晩一杯付き合わないか？」
僕は事情を話すと「それはタイヘンだから俺たちも手伝う」と言い出した。
本当は彼らがただの興味本位から言い出したのは間違いない
「綾香が他人入れるの、よく思わないんだよ。だから入れられないんだ」と話すと
「それじゃお前の家の下にあるファミレスであおう」ということになった
僕はやっとの思いで子供を寝かしつけると、どうせ見たがるだろうと思い、アルバムを持って山を降りていった。いや、下に降りた。

「やあ、山本、力石。久しぶり」
「なんか懐かしいな。結婚以来あってないもんな。そういえばお前、式場でもあのかぶりもんだったし。その顔見るのも久しぶりだね」
「まあ一杯行こうぜ」
僕は何年ぶりだろうか、久しく酒を飲むことも忘れていた
だってウサギは酒飲めないから
それだけじゃない、食事で肉食べたのも本当に久しくて、食べていたら涙が出てきた」
「おい、どうしたんだ木内」。
「あ、いや、なんでもないよ、懐かしくってね。それとアイツが倒れちゃったからさ」。
「綾香か。あいつ変わっていたからな。お前一緒にいて疲れない？」
「そうだよ、なんかファンシーショップで働いているらしいけど、男らしいことちゃんとやってんの？」
僕は両手を上げた。
「ああ、やっぱりか。我慢強いな、木内は」
「どうだい。これから羽伸ばしに歌舞伎町でも」。
「おいおい、俺はもう結婚したんだぜ」
「どうせご無沙汰なんだろ？」
「俺たちだって似たようなもんだよ」
「結局家に入ったら、女房の支配下に置かれちゃうんだから」
「いこうぜ！」
僕は悪友の口車にまんまと乗せられてしまった

戻ったのは明け方だった。すごく久しく遊んでいなかったのでたまっていたストレスは一気に吹き飛んでしまった。

部屋の鍵を開けて中に入ると、げほげほと咳き込む声がした。
僕はあわてて綾香の寝てるソファーの横に行くと、彼女の吐瀉物を洗面器で受け止めて、口を拭いてあげた。
「綾香、だいじょうぶ？」
「ええ、おかげで楽になったわ。いなかったようだけど誰かと会ったの？」
「ああ、山本と力石に」
「彼ら、元気だった？」
「うん、でも少し丸くなってたよ」
「みんな中年太りなのねｗ」
「そうだね、どう？なんか食べる？」
「今は大丈夫よ。それはそうと、さっきおばあさんが来てたの」
「え？だってもう死んで何年も・・・」
「あたしの夢の中によ」。
「あーびっくりした」
「でね、あたしのこと心配してたの」
「なんかおはなししたの？」
「うん、もしかしたらもとにもどせるかもしれない」
「え！まだ無理しない方がいいよ」
「どうしたの？浩さん」
「え、いや。どうもしないけど、なんか久しく人間に戻れたんで名残惜しいかなってｗ。ははは、ジョ、冗談だよ」
「そう、よかった。このまま元に戻りたくないって言われるかと思って」
「で、どうするの」
「あのね、あたしの秘密しっちゃったでしょう？だからあなたも魔女になればいいって」
「魔女だから男はなれないよ」
「日本語だとそうなのね、向こうじゃただ（witch）って言うのよ。だから関係ないの。それに月曜までに戻さないとみんな大騒ぎになるわ」
「そ、そうなんだ」
僕は立ち上がると、窓の外をぼんやり眺めていた。
（こんな大きな町に住んでいても、僕の生活の拠点は、ファンシーショップと、この家だけだなんて）
さっきまで繁華街で飲み歩いた記憶が嘘のようだった。
普通なら、今僕の体験している生活の方がありえない話なのに。
「で、ぼくはなにをすればいいの？」
翌朝、日が昇ると、綾香は精神を集中させるためにテーブルの上にキャンドルを一本立てて、魔女の勉強会が始まった。

「いいこと、魔女と人間の間に差はないのよ。
でも、さらに言うなら神様と人間にも差がないの。
ついでに言えば悪魔も同じことよ」。

僕は静かに頷いた

「ということは、私たち一人ひとりの中には有史以来のすごい力が宿っているの。あたしの場合はその力を引き出してくれたのはグランマだった。
彼女はあるひとつのことをイメージさせました
それは自分が何もないこの宇宙でただ一人存在していたとしたら、まずなにをしますか？
ということでした。
それでは、浩、汝に問う。
すべてが無の空に浮かびしその御霊の足がかりとは？」
「む、いきなりむずかしいな。
だとしたら、目印に太陽がほしい」
「なかなかいいわね。ではその次に求めし足がかりとは？」
「それは大地です」
「ではその次」
「空と海」
「そのつぎ」
「陸地に生命」
「では汝に問う、命のわけは？」
「いのちは・・・
なかったら僕一人じゃ生きていけません」
「はい、よくできました
今あなたの心の中には宇宙に浮かぶ一つの天体があります
しかしその天体はまだ無秩序。そこにあなたは秩序を与えます」
「それって、僕に神になれということなの？」
「そうよ、この思いは常に暖めなければならないの。なぜなら、この天体はあなたの心の中に実際ある。そこをよくするも、荒れ果てさせてしまうのもあなた自身の心のまま。これが地上の神」
「まさか・・・それじゃ僕は」
「そう、今どこかの宇宙であなたの作った天体が存在し生まれたの」
「その天体にはまだ出来の悪い生命しかいないわ。そこに高度な命の存在を作らなくてはいけません」
「そんなのできないよ」
「なんで？今まで作って来れたでしょう」
「だって僕はそこまで経験してないじゃない」
「あら？あなたの経験はすばらしいものよ。あたしはそのために、あなたにすべてをあたえたのよ」
「それって・・・僕自身の変身のこと？」
「そうよ魔法の力をあなたは知ってる。やっと気がついた？」
「もしかして、それが必要な経験といいたいわけ？その経験が命と関係あると？」
「そう、そこまでわかれば、あたしたちがなぜ神と同じかよくわかるでしょう？法則は私たちの意識でもある。
それはもう魔法じゃないの。魔法と見えるのは人智を越えることをするから。たとえば、5次元の世界には時間は存在しない。目の前で私が時間操作してあなたに見せたら、不思議に思うことでしょうね。でも、この世界の時間に合わせた変化なら、それは創造になる」。
「まさか、このせかいも誰かが創造した産物なの？」。
「そう、誰かの偉大な想念の産物」
僕は気持ちが悪くなった。そして、食べたものを吐き戻してしまった。
「そんなの怖いよ。僕はそんなにすごい存在じゃないし」
「人はいずれ神にたどり着くでしょう。そして自らの力を動かして想像の宇宙から知恵を授かり、この世界に自分の世界を作り上げる。それが人間なのよ。現にあなたたちはそのおままごとをやってきたの」。
「どこに？」
すると綾香は静かに立ち上がり、窓のカーテンを開けました。
「この大都市、だれがつくったとおもう？」
「人だけど」
「ほら、現にこれだけのものを作ることが出来るじゃない。間接的に人は自分の宇宙から形という力を引き出している。みんなレベルは違うけど、心はどこかにつながってるんだよ。」
「ってことは魔女は」
「魔女は、形だけじゃなく、エネルギーも取り出せる。」
「いずれ多かれ少なかれ人は自分の世界を持つといいたいの？」
「そう。この物質世界はやがて飽和状態になる。でも人の創造はやむことはないわけ。その時、この想像力の矛先が内側に向き、力を扱えるものが魔女なの。
さっきも言ったように、魔女は自分の世界から自分の作ったイメージはおろか、力も取り出せる。だから、大きくて明確な意識を持つことが、強い魔法使いの証なの。浩さんは朝から私のレクチャーで原始の魔法使いの力を授かった。すなわちあなたももう立派な魔法使いってこと。後はそこから力を引き出す訓練をすればいいけど、これで秘密は守られたわけ」。
「僕も仲間？ってことはもう綾香、もうだいじょうぶなの？」
「うん、そもそも箱をこんなところに出しっぱなしにしたあたしが悪かったの」
「そうだったんだ」
「あなたも早くそこから力を取り出せるように訓練してね。それと、今ここで行った秘儀は誰にも言っちゃだめ。あなたは人の輪廻の数百回分をパスしたんだから」。
「輪廻って？」
「輪廻とは、人がこの世界にやってきて生活し、自分の体験を魂のふるさとに持ち帰る。そしてだんだんと河原の石を積むように成長するの。だから、魂の熟成度により、人には個性や個人差ができるのよ。
今まで多くの人は握ったものを手放せなくって何回も同じ事してきた。大きく回り道していたと同じことね。
でも、学びは満足から得られないのに、人は満足と快楽に浸った」
その話を聴いた瞬間、身が凍る思いがした。
もちろん、俗世の体験は必要よ。
魂はとても傷つきやすいの。そのための緩和剤よ」。
僕はほっとした
「いつまでも握ったものを掴んでないで手放しなさい。それじゃ、元に戻すわよ」
「ちょっと待って。なにも今すぐ戻さなくてもいいじゃない。アハｗ」
「なんで？」
「いや、そうじゃなくて、それじゃ沙奈はなぜ人のままなの？」
「沙奈はね、もう自分の世界持っているわよ」
「ってことはあの子も魔女なの」
「ええ、あたしのサポート役言いつけてあるの。
あの子、もうこの太陽系まで想像できるんじゃないかしら」
「まさか・・」
「あたしもこの銀河系をうっすらイメージできるよういなってきたの。すごいでしょ。だ～か～ら、何もかもお見通しよｗ」
「おねがい、今日一日このままの姿でいいでしょう？」
「だめよ。心変わりするでしょう。もう既に」
「やめて。おねがい」
「もう遅いわよｗ」
綾香が腕を大きく振り回すと、僕の体は徐々にむくみだした。
「さあ、着ている物脱いで。破けちゃうよ」
僕はパジャマを脱いで外を見ていた。自分の変化を見るのが辛かった
最初の変化と違い、今回の変身は、すぐに終わった。おそらく自分の意識の中に既に形が出来上がっていたからだ。
でも、今回は少し毛並みの色が違っていた
「あれ、なんでこんな色なの？」
それは金色に輝く少し長め毛並みだった
「今度はジャージーウーリーになったみたいね。
カワイイ～」
「何で変わったんだろう」
「それはあなたの魂がさっきのレクチャーで少し進歩したからよ」
「そうなんだ」
「人は今までこうやって進化してきたの。学校で習ったような自然淘汰じゃないんだけどな。本当は」
僕には彼女の話は難しくてよくわからなかった。でも今こうしていること自体が不思議と奇跡なんだなと、そのとき初めて認めました。

僕はあきらめついでに、夕べのタバコを吸おうと伸びきったＴシャツの胸のポケットに手をやったら、ﾀﾊﾞｺは粉々に崩れてしまっていた。
「あら、あなた、ﾀﾊﾞｺ吸う人だったんだ」
「君と会うときは吸わないことにしたんだけどね。
でもこうしてみると、人の世界も名残惜しいな」。

綾香は今回の一件でさらに我の強い人間になったようだ

でも、相変わらず可愛いもの好きは治らないみたいで、ショッピングに出かけると、僕にべったりくっついていた。