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みんなにやさしい自作小説コミュのREKIRIMA12-1

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第十二話(1) 仲間と絆 離れゆくもの


今日もいい天気である・・・


太陽は滞りなく昇り、窓から柔らかい日差しが差し込んでいる。


いつも通りキースはレイを起こすため廊下を一人歩いていた。がそのあしどりは何処か重い・・・前回の任務からすっかり塞ぎこんでしまった男が気掛かりだったからだ・・・


やがて見なれた部屋の前に辿り着くが、そこに今日も心配そうにたたずんでいるマナの姿があった。


「(今日も・・・か)・・・あいつはまだですか・・・」


「はい・・・もう三日も部屋から出てきてません・・・」


瞳に哀しげな色を浮かべているマナは歩いてくるキースに視線をずらす事なくドアの方に、正確にはその向こうにいる人物に対してのみ意識を向けたまま答えた。


キースはそんなマナの横に並ぶとドアを数回ノックする。


「レイ、アル学へ行く。準備しろ」


少しの間返事を待つが返ってくる言葉はなかった。


「・・・お前がいつまでも気に掛けていても何の解決にもならないぞ・・・・・・後悔しているならそこから反省しろ。そして二度と犯さないように前へ進め・・・」


物音一つしない部屋の中に言葉をかけるが、やはり返事はなかった。


「・・・先に行ってるぞ」


最後に一言そう告げると振り返ることなく去っていく・・・


マナはその間黙ってレイの声が聞こえてくることだけを願っていた。


―――もう一度聞きたい・・・聞いているだけで落ち着いてくるあの優しい声を―――


が結果はこの三日間変わる事はなかった・・・あの任務が終わってから、レイは口を開くことなくアル学に帰還し、それからはずっと自室にこもったまま・・・レイの様子がおかしい事に気付き慌てて部屋に踏みこもうとしたが「・・・今は一人にさせて・・・」とその一度だけ弱々しく話しただけで、それ以降レイの声は部屋から聞こえてこない。何度も中に入ろうと考えたが小さな頃から言われてきた『主の命令は絶対』という教えが脳裏をよぎり結局中へは入れなかった・・・


―――あの任務―――


初めて人の死を間の当たりにした任務・・・全員がその場にいたにもかかわらず目の前で行われた暴挙を防ぐことができなかった。そして襲われてしまった少年は最後にレイの腕の中で息を引き取ることとなった・・・少年の死は全員に衝撃を与え特に最後まで少年と話していたレイは格別大きかった・・・・・・


そして現在に至るまで・・・中にヴェインもいるはずの部屋から出てくる事はない・・・


「まだあいつへこんでるみたいね」


「・・・はい」


いつのまにか横にメイアが立っていた。


「ちょっとレイ!! 今日も学校サボるきー? いつまでへこんでるつもりなの、いいかげんにしなさいよー!! ・・・・・・・・・ちょっとー、きいてんのー? 少しは返事しなさーい!!」


周囲の目をはばからない・朝っぱらだと言うのに抑えられる事のない・さらにはよく響き渡るメイアの声とドアを叩く音とが寮『コマ』に響き渡る。


これもまた三日間続けられている行動なので希望は薄いが、決して諦めず祈るように叩かれた跡の刻まれたドアを凝視する。


しかし、やはり部屋の中からは何のリアクションも返ってこない。


「!!!! ガーッ!! 本当にウジウジしくさりやがってーーー!!」


「メ、メイアさん・・・言葉使いが悪いですよ?」


やや顔を引きつらせながら地団駄を踏むメイアに声をかけると、いきなり振り向かれ指をさされる。


「あんたもあんたよ! あいつがいじけてるようなら中に入ってって殴り飛ばしてでも引きづり出すのがあんたの役目なの! ・・・それをまあこの三日間いつまでも部屋の前をうろうろうろうろ・・・」


「はあ・・・」


曖昧に相槌を打つマナに突き出す指を突如立てて示すと、柔らかい微笑を浮かべるメイア。


「あいつ支えるのがあんたの『使命』らしいけどさ・・・でもそれ以上にあんた自身心配なんでしょ? あいつのこと! ならいつまでもあいつの言葉を待ってないでこっちから近づいていかないと!!」


妹を心配する姉のような眼差しで語りかけ、そして一旦間を置き今度は周囲に洩れないよう声を潜める・・・


「・・・・・・・・・いい? 恋は先手必勝!! 相手に息つく隙を与えず押して押して押しまくって―――」


次第に熱を帯びていく口調に思わず息を呑みその続きを待つ・・・


「―――押し切るのよ!!」


「お、お!!?」


「そう押し切るのよ!! 私が小さい頃お母様がよく言ってたわ! 「恋は駆け引き否バトル!!」って・・・マナ? 私はあんたの事を友として、仲間として、否同志として応援してるからね?」


示していた指を折り拳を振るわせて熱弁を振るうメイアの姿を赤面しながらも視線をはずすことなく頷き返すマナはやはり 『恋する乙女』なのだろう・・・


「そ・れ・と、私のことは『メイア』って呼びなさいよ、別にもう他人て間柄じゃないんだから♪」


「あ、はい・・・メイア・・・さん・・・」


慣れないため思わず語尾に小さく付足してしまう。そんなマナをアハハと明るく笑うと、メイアはくるりと踵を返して歩み出す。


「レイの事任せたわよ」


「はい!!」


去っていくメイアの背に元気よく返事を返すといつも肌身離さず持ち歩いている無骨な杖を胸の前で握り締めて目の前にあるドアを再び見据える。


(レイ様・・・・・・)


その淡い気持ちを込めて見続けていると答えるように唐突にドアが開かれた。が中から出てきたのはマナの思い描いた人物ではなかった。


「・・・・・・・レイ様は?」


「・・・・・・・・・」


多少残念がりながら、何処か失望したような暗い影をたたえるヴェインに聞いてみるがまるで聞こえていないかのように無視され脇を通りすぎていく。慌ててそのまま去ろうとするヴェインの正面に回りこみ真剣な表情で見つめる・・・


「・・・ワレガミトメタノハ、アノヨウナヤツデハナイ・・・」


「?」


立ちはだかったマナをどう思ったのか溜息を一つつくと独り言のように呟く。ほとんど聞き取れないほど小さい声音のヴェインに聞き返そうとしたが歩き去っていくその後姿に何も言えなくなってしまう。


―――――――――背中が淋しそうに映っていたから―――――――――


マナはヴェインが出てくる時に開け放たれたままであったドアに気付くとわずかな隙間へと視線をずらし部屋の中の様子を探る。


中は神々しい光の珠が宙に幾つも浮いていて、ベッドの上ではそろえた両足を抱え込むようにして抱き顔を伏せているレイの姿が見えた。


「・・・失礼します」


マナはレイに咎められたら即座に部屋から退室できる様慎重に歩を進めていく。


幸か不幸か、レイは身じろぎ一つせずにうずくまったまま。入ってきたマナに気付いていないのか無視をしているのか、とりあえず拒絶されなかった事に安堵しつつゆっくりとレイに近づいていく。


まるで別人のように活力が失われた主の姿に目尻が熱くなる。慌てて目元をぬぐうが、マナにはかける言葉が見つからなかった。


(・・・すみません・・・なにもできなくて・・・無力な私を許してください・・・)


「・・・・・・レイ様・・・おそばよろしいですか?」


呼んでも全く反応しないレイを肯定ととって並ぶようにベッドに腰を下ろす。


沈黙が二人の間に深い溝を感じさせ無性にこのままではいけないと思い何か言葉を探す・・・しかし懸命に考えても今のレイに何を言っていいのかわからなかった。


小さい頃から主の側に仕えろとは教えられたが、支える方法は何一つとして知らされていなかったから・・・結局私には何も出来ないんだ・・・


キースさんのようにレイ様を理解できているわけでもない・・・・・・・


メイアさんのように強引にでも明るく振る舞い引っ張る事も出来ない・・・


物理的なものからレイ様を守る事が出来ようと、それだけでは主を守りきる事は出来ない。精神的なことにはどうする事も出来ないから・・・精神を支える術を持たされる事のなかったあの頃の私と今の私・・・・・・どちらも無力な事に変わりわなかったけど、決定的な違いがあることにふと気付く・・・・・・気持ち・・・・・・あの頃自分になかった大切な友達から教えられた、大切な絆・・・・・・・・・誰かを思う気持ち・・・


「・・・・・・・・・あの、レイ様は好きな人がいらっしゃいますか? ・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「私はレイ様が好きです! ・・・メイア・・・さん、が教えてくれました。自分に素直になるようにと・・・だから、言わせていただいちゃいました。こんな私をどんな風に思っても、受け取ってもらっても構いません・・・・・・・・・・・・小さな頃から私は『主に従え』『その命尽きるまで盾となりてそばに控えろ』と育てられてきました・・・友達なんて呼べる存在はいなくて私の心はいつも何処か穴が開いたような感じでした・・・」


「・・・・・・・・・」


沈黙したままでいるレイにも構わず宙に浮かぶ光球になんとなく視線をやりつつ独り言を続けた。


「そんな、常に聖光の者を守るためだけに存在していた道具の私に生まれて初めて笑いかけてくれた人がいました・・・」


あの時、あの瞬間を思い浮かべ知らず知らずのうちに微笑が浮かぶ。宙に浮かぶ光球がふわふわと漂い、マナの周りを遊び始める。


「その人がレイ様なんです・・・・・・道具は所詮道具、壊れればまた新しいものを用意するだけで事足りてしまう存在・・・そんな私をレイ様は危険をかえりみず助けてくださいました。後のことも考えずに、です・・・クスッ」


最後の方は思わず笑ってしまった。それは出会う前と出会った後でもレイから感じる印象が全く変わっていないことに気付いたからだった。


たとへ時間が流れようと根本的なところは何も一つとして変わらない・・・変わらないでいられる事も一つの強さだと思う・・・・・・


リザードの群れに囲まれ絶体絶命であった自分を感情のこもらない頭で冷静に分析していると、突然青年が草木を割って登場した・・・青年の助力によって事態が一気に好転するかと思われた次の瞬間青年は苦笑いしつつ自分と同じく窮地に立つ・・・何の策もなく飛び込み犬死にしかならない事は飛びこんだ本人が一番よくわかっているはずだったのに、青年は飛び込む事を選んだのだ・・・・・・マナは命の危険に立っていながらもその滑稽な青年から意識をはずす事が出来なかった。


生まれて初めて他人に庇われたので、逆に何故自分が庇われたのかが全くわからなかった。何の価値もない自分を何故、と戸惑っている自分を落ち着かせるように青年は特有の、人懐っこく親しみやすいしかし不思議と頼れる感じのするおおらかな笑みを浮かべた。何故だかわからないがその微笑は無条件で自分を安心させるものだった。


今まで教えられてきた主となる聖光の者意外の人間にはじめて興味を持った瞬間だった。そして今でも覚えている。その青年が自分の使えるべき人物だと知ったときの驚愕とそれを上回る歓喜を・・・


その青年・・・レイ・ジーニアスは小さい頃から教えられてきた主の像とは正反対の主であった。


自分に対してはかなり曖昧なところがあるのに周囲の人間に対しては過剰と言っていいほどこだわる。基本的に「自分のため」ではなく「みんなのため」動く人間・・・


そしてそれは付き人である自分すら含んだものであった・・・主を守ろうとする自分をさらに守ろうと動くレイ・・・今まで自分の周囲に存在しなかったタイプの不思議な雰囲気の青年に私は自然と心惹かれていった・・・


「私は小さな頃から主となった方をお守りするためだけに育てられてきました。そしてレイ様に出会ってからは教え通り、お守りするためおそばにいることを誓いました・・・けれど最近おそばにいようとする理由が変わってきました・・・私は、私が『レイ様を守りたいから』ここに望んでいるんです。レイ様のおそばにいたいから、ここにいるんです・・・すみません。フフ、おかしいですね? ・・・道具として育てられてきたのに・・・私自身がレイ様を必要とするなんて・・・あつかましくてすみません・・・」


自嘲気味に笑うマナの肩に一つの光球が降り立った。マナからはただの光の球でしかないのだが、視る者が視たら思わず頬が緩むだろう・・・肩に降り立った可憐な小女が両手を握って『頑張れ』と必死にジャンプしてエールを送っていたのだから・・・


精霊の姿が見えないマナだが、なんだか応援されてる気がして気持ちがすーっと楽になっていった。


「・・・ですが・・・私にはレイ様が必要なんです。他の皆さんも同じですよ? キースさんもメイア・・・もヴェインさんも・・・皆さんレイ様が戻ってくるのを待ってます。レイ様が辛い今を受け入れてそれでも前に進みだすのを・・・レイ様なら出来るとみなさん信じてるんです・・・だから―――」


一旦言葉を区切り、レイと寄り添うように移動する。


「だから、レイ様が勇気を奮わせ立ちあがるその時まで私をおそばにいさせてください・・・離れているのは・・・辛いです・・・」


少しレイに寄りかかってゆっくりと眼を閉じる。眼を閉じれば真っ暗な闇が広がっていたがすぐ隣には確かに自分の好きな温もりが存在していた。


そして寄り添う二人を祝福するように精霊は宙を舞い、失意の戦友を励ますために踊り続けた。部屋の中を光が満たし、輪郭が浮き出るように照らされている。そうして彩られていたレイの肩が一瞬かすかに揺れたのを精霊達やマナが気がつかないわけもなかった。

コメント(6)




「・・・・・・それであいつはちゃんと間に合うんだろうな?」


アルカイック士官養成学校のとある一室にて腕を組んだまま問うガインの姿はどこまでもえらそうであった。もし初対面の人間であれば多少の反感を抱く態度ではあったが問われた当人はすでに慣れていたため特に感じることなく頷いて肯定してみせた。


「ええ、レイの事は心配ありません。あいつはそんなに弱くはありませんから・・・それより次の任務、ウッドコロニー防衛とは本当ですか?」


ガインと向き合うようにして立っていた青年、キースは真剣な面持ちで聞き返す。


「ああ、お前等は今回が初めてだから知らんだろうが、昔から魔物にはある一定の周期で狂暴になる時期が確認されている。原因の方は今だ不明だがその狂暴期が直リザードに迫っている。狂暴期に突入したリザードは例外なく周囲の生物に襲いかかる、当然このウッドコロニーにも押し寄せてくるだろう・・・それを迎撃・撃退するのが今回の俺達の任務だ・・・」


「迎撃・撃退・・・来る事がわかっているんです。僕達から打って出る事は出来ないんですか?」


「ああ、まず無理だな」


ガインは即答した。絶対に生きて帰れない事を確信して・・・


「・・・お前の言いたい事もわかる。前回村での撃対戦をして見せた時の被害だろ? 篭城戦となると外壁が破られた時住人にも被害が出る、と・・・無論お前が気にかけている事は俺達も気付いている。だがそれでも俺達にはこれしか方法がない・・・過去にどんな結果が出ているかお前ならすでに読んでいるだろう?」


「・・・・・・」


すでにキースも配られていた教本は熟読済みだったのでガインの言わんとしている事はわかった。過去、打って出た部隊は森の中で戦闘・その百とも千とも言える魔物の圧倒的数に包囲され退路を奪われ孤立した部隊からあえなく壊滅・最後には全滅・・・その凄惨たる被害は過去の報告令の中でも桁違いの結果であった。


「・・・毎度この任務の度に新人はもちろんベテランですら数十名単位で命を落としている・・・俺達に残されているのは、仲間のため守りたい者のためにその命をかけて戦って戦って戦い抜く事だけだ・・・」


そう告げるガインの表情はどこかかたく、これまで何人の仲間を失ったのかが垣間見えた気がした・・・


「・・・それで・・・その狂暴期にはいつ頃入るんですか?」


苦々しく思いながらも来たるべき災厄の任務が近い事を肌で感じる。例え微々たるものだろうけどこれから少しでも訓練しておけば多少は違うかと構えたが無情にも時間はあまりに少なすぎた・・・


「・・・今夜だ・・・」


突きつけられた言葉に知らず息を呑んでいた。



「・・・・・・・・・・・・ホント・・・・・・・・・オレって自分勝手だ・・・・・・・・・」


「?」


ぼそりと呟いた一言に反応して隣でマナが目を見張った気配がした。


「・・・・・・・勝手に一人でふさぎこんで・・・勝手に沈んで、みんなに心配かけてるのも気付かなくて・・・みんなだってつらいはずなのに・・・オレは今も自分のことばかり・・・こんなだから助けられなかったんだ・・・・・・・・・」


どうにも出来ない自分が哀しくて、嫌で・・・握った拳に力がこもっていく。


「オレ許せなくて・・・守る事も出来ない自分が、約束を守れなかった自分が、みんなに心配ばかりかけている自分が・・・」


「・・・・・・いいと思います・・・それでも・・・」


「!!? ・・・・・・」


受け入れ難い自分を素直に肯定され思わず隣に視線を走らせえる。そこにはまるで聖母のように全てを包みこんでくれる微笑のマナと見ているだけで元気が出てくる温かいダンスを空中で舞い続ける精霊の姿があった。


「御自分のこと・・・考える事はだめじゃないと思います・・・もっともっとたくさん御自分のことを考えて、悩んで、その上で一番納得の出来るレイ様でいればよろしいのではないでしょうか・・・・・・・・・」


「・・・マナ」


視線が絡み合い、悠久の時の中見つめ合う。それが数秒の事だったのか、数分の事だったのかはわからなかったけど全てを受け止めさらに背中を押してくれるマナにレイは内心救われていく思いだった。


「・・・・・・ありがと・・・うん、もう大丈夫・・・・オレのしたい事はちゃんと決めてやり遂げるから・・・ありがとう・・・・・・」


「レイ様・・・」


すうっと楽になっていく胸の中、晴れた気分で微笑むとマナが頬が上気し始めた。心なし周囲を舞う精霊達から黄色い声がかけられるがレイにはよくわからなかった。


「マナ? 大丈夫? なんだか顔紅いよ?」


「だ、大丈夫です! 問題ありません!」


熱でもあるのかと手をマナの額に触れさせた瞬間顔がいっそう紅潮しだす。その変化がなんだかとても面白くて思わず吹き出してしまう。


「???」


「ぷっ、ごめん。なんかやかんみたいで面白くってつい・・・あはははは」


「!!? ひどいですー!!」


「ははは、ごめんごめん。ははははは・・・」


口を尖らせて恨みがましく見つめる瞳もレイにはとても心地が良かった。


一時の間悩みも忘れて笑い続けた。そしてマナと出会えたことを心の底から感謝していた。


「・・・・・・ヴェインにも謝らなきゃ」


「どうかしたんですか?」


「・・・オレが一人で抱え込んでいる間、ずっとそばにいてくれたんだ。何も言わず何も聞かずに・・・・・・なのにふと言っちゃったんだ・・・『何でオレじゃなくてあの子が死んだんだろう』って・・・『あの子じゃなくて、俺が代わりに死んだら良かったのにな』って―――「レイ様!!!!」


突然マナに怒鳴られて顔を向けると肩を震わせながらこちらを睨んでいるマナと目が合った。強く握られている両の拳は紅くなり、その双眸からは涙がこぼれはじめている。


「・・・ごめん・・・ヴェインもすごく怒ってた・・・『当たり前です!!!!!』


「もう・・・もう絶対そんな事、言わないでください・・・・・・でないと、私は・・・私・・・・・・・・・」


嗚咽のあまり最後まで続ける事が出来ずにマナは泣き崩れた。


「ごめん・・・もう言わないから・・・ごめん・・・」


震えるその身体を抱きしめ支えたかった。が自分にはそんな資格はない・・・こんなに自分のことを思ってくれるマナを泣かせてしまったのだから・・・


抱きしめたくなる衝動を必死に押さえ心から謝罪の気持ちを込めて泣き続けるマナの頭を優しく撫でる。


次第に泣き声は小さくなっていき、撫で続けるレイの手の感触に目を細めて身を任せはじめる。


「・・・本当にごめん・・・もう、迷わないから・・・」


「はい」


「もう・・・負けないから・・・」


「はい」


「もう、あきらめないから!!」


「・・・はい!」


眼の端に涙が浮かんでいたが、それでも笑顔で答えてくれるマナがとても嬉しかった。


「やっと元に戻ったっぽいわね。待たせ過ぎよこのサボり魔!(笑)」


「「!!」」

和みはじめた部屋の扉が勢いよく開くのと同時にメイアとキースが入ってきた。


「大体もう少し気のきいたことが出来ないの? 肩を抱くなり、抱擁するなり、接吻するなり・・・いろいろあるでしょ! なのに頭を撫でるって・・・子どもじゃないんだから・・・」


不満そうなメイアの視線を受けてレイとマナが顔を見合わせる。と、いまだにマナの頭に手を置いている事に気付いて慌てて手を引っ込める。


「ち、ちが・・・あ、いや・・・ちがわないんだけど・・・いや、そのなんというか・・・」


実は少し頬が紅くなっているが狼狽していてレイはそれに気付かない。一方マナはと言うと、戻っていくレイの手を名残惜しそうに見送った後、メイアを若干睨むようにして見つめている。


「それより、あんたが来てない間に次の任務が決まったわよ(そ、そんな眼で見ないでよマナ・・・わ、私はただ進展させてあげようと思って助言を・・・)」


「(邪〜魔〜し〜た〜!)・・・」


「(そ、そんなつもりじゃなかったのよ? 私はマナのために―――)・・・」


「(邪〜魔〜し〜た〜!)・・・・・・・・・」


「(ヒ〜ン!!)・・・キース任せたわ!」


「はい?」


メイアとマナ・・・二人の間でアイコンタクトのようなものが見られていたが、突然メイアは追い詰められた表情でキースの背中に隠れた。


突然振られたキースはどう反応していいのかよくわからなかったが、とりあえずレイの部屋にきた目的を説明し始める事にした。


「・・・レイ・・・・・・・・・いいんだな・・・」


「ああ、もう諦めない!」


短く即答したレイに内心安堵すると、頷き返し続ける。


「君がいない間に次の任務が決まった。『ウッドコロニー防衛』・・・これまでの、そしてこれからの任務の中でも別格の危険な任務らしい」


説明している最中のレイの様子は驚くほど落ち着いていて、どことなく大きくなったように見えた。少し頼もしくなった親友を嬉しく思いながらキースは室内にヴェインの姿を探す。


「・・・・・・・・あいつはどこに行ったんだ?」


「それは・・・」


口篭もるレイの態度に訳ありだなと即座に理解すると小さく溜息をつく。


「・・・あまり認めたくないが、今度の任務にあいつの力が必要な事は確かだ。より被害を少なくするためにな・・・探しに行くぞ」


「うん、行こう!」


訳ありだと思ったわりに探しに行く事に何の抵抗も示さない。たいしたことじゃないのか?と思いながら背後のメイアを促し退室していく。


メイア、キース、マナと部屋から出ていった後、レイは宙で舞い続けている精霊達に視線を移しもう大丈夫とばかりに笑顔を見せる。


精霊達も一斉に笑うとゆっくりと空気の中に解けていく・・・


(ごめん、ヴェインもう二度と裏切らないよ・・・)


気持ちを引き締め、キース達の後追い走り出した。決して後悔しないために、納得できる自分であるために・・・







   ホンキデイッテイルノカ・・・ジブンガシネバヨカッタ、ト・・・


   ・・・・・・・・・


   ドウヤラミコミチガイダッタヨウダ・・・ミジカイツキアイダッタナ・・・・・・


   ・・・・・・・・・


   ・・・・・・フン・・・・・・・・・


   ・・・・・・・・・


ヴェインは一人あてもなくウッドコロニー内をさまよっていた。


都市外に出ようとも思ったが、外壁が意外と高くなんとなく面倒に感じられたから中をうろつく事にした。


すでに幾人もの人間とすれ違ったが、中型犬サイズの真っ黒の犬が一匹、人を恐れることなく堂々と道の真中を歩いているものだから皆気味悪がって道を譲るようにして通るか通る道を変えていっていた。


(フン、ツマラン・・・)


特に興味も示さず通りすぎていると、どうやら住宅地に出たようだ。子ども達が警戒することなく歓声を上げて側を駆け抜けて行く。そのあまりの警戒心のなさに呆れてしまう。


(オロカナモノダ・・・ワレガソノキニナレバ、コンナトコロイチニチデカイメツダナ・・・)


頭の中でウッドコロニーを蹂躙し、子を殺しその親を見下す自分の様を想像してみたがつまらないので途中で考えるのをやめた。


(コンナヤツラ、コロスカチモナイワ・・・・・・)


あてもなくぶらぶらと歩いていると不意に嗅ぎ慣れた匂いがした。


(・・・コレハ・・・・・・アイツノニオイカ? ・・・イヤ、スコシチガウ、ニテイルガチガウナ・・・・・・)


なんとなくではあったが、不思議とその匂いが気になり知らずうちに足が匂いの方へ引き寄せられていった。匂いを辿って歩き始め四、五分・・・十字路をよぎり角を曲がる。


―――いた―――


黒髪の少女がこちらに背を向け歩いているところだった。少女からは最近気に入った男の匂いがかすかにし、心も男と同じ気持ちのいい匂いだった。


特にする事もなかったのでなんとなくその後を付いて行く。しばらく歩いていると少女が角を曲がった。ヴェインもその後に続こうと角を曲がる。すると曲がった直後に買い物袋(+荷物入り)がヴェインの顔面目掛けて飛んできた。


驚きながらも当たる寸前に伏せて買い物袋をやり過ごす。


背後の方でグシャッっと中身が潰れる音がしたが、それは置いといて買い物袋を投げつけてきたあの黒髪の少女を見据える。


「あ、あれ? ワンちゃん?」


買い物袋を見舞った本人が一番驚いているのか慌てて駆け寄ってくる。


「ごめんね? なんか背後にすごい気配感じちゃったからつい・・・おかしいな〜、私結構勘鋭い方なんだけどな〜???」


(イヤ、ナカナカノカンダ)


ヴェインは内心少女を賞賛した。話しかけるといらん面倒が起こるだろうからやめておいたが、その分で内心高い評価を与えていた。


黒髪の少女は明るく笑い、ヴェインの頭を撫でながら詫びた。楽しそうに笑っていたが、突然『ああ、そう言えば荷物〜!』と思いだし地面に転がっていた荷物を拾い上げる。


「あちゃ〜・・・ぐちゃぐちゃだ〜。どうしよう?」


中身の潰れた荷物を片手にこちらに笑いかけてくる少女。まるでこちらを警戒しない態度に先程の子供達より先になぜかあの男の顔が浮かぶ。


(・・・ワズカダガアヤツノニオイガスルカラカ・・・?)


興味深げに少女を眺めていると目の前にりんごを突き出された。唯一無傷なりんごがあったのを嬉しそうに示しているようだ。


あまりに嬉しそうに笑っているのでなんとなくさっきかわさずに受け止めておけば良かったと思い始める。


「? どうしたの? あげる。無事だったやつだから汚くないよ?」


少女はそう言うとりんごをさらに差し出してくる。


(? ナニヲイッテイルノダ? コレハソノツブレタニモツノナカデユイイツツブレテナカッタモノダロウ? ナゼワレニアタエヨウトスル?)


不思議そうに見返していると少女は笑った。


「ほら、そんな不思議そうな顔しないでよ。さっき荷物ぶつけようとしちゃったお詫び! だから気にしないで食べていいんだよ?」


ヴェインは笑いながら話す少女の雰囲気に呑まれなんとなくりんごを口でくわえた。


(ヨクワラウヤツダ・・・)


考えながらりんごを噛み砕くと口の中にみずみずしいりんごの味が広がった。


「おいしい? 私が一番好きな食べ物だからよ〜く味わってね?」


(リンゴガコウブツトハ・・・ズイブンシッソナコノミダナ)


失礼にもヴェインはそう思ったが、なるほど貰ったりんごはなかなか甘くて美味だった。
  
「それでワンちゃん飼い主さんは?」


「・・・・・・・・・(イヤ、ムスメ。アイテガイヌナラフツウコタエナイダロウ・・・)」


少し呆れながら少女を見ているとニコニコしたまま身体中を撫でまわしてきた。


「う〜む、野良さんかな? 毛並みもいいし立派な身体してるのにね〜・・・」


いいながらも撫でる手を止めない少女にまたあの男がだぶる。


(ソウイエバ、アヤツモイキナリナデワシテキタノダッタナ・・・・・・)


ヴェインが懐かしむように眼を閉じて黙っていると、突然少女は首に両手をまわしてきた。


「かあ〜わいい〜! よ〜し決定! ワンちゃん行くとこないならうち来る? お父さんとお母さんは絶対説得する!! ちゃんと面倒見るからさ。どう? くる? くる?」


眼をキラキラさせて聞いてくる少女に幾分考えるが、今の自分に行くあてなどなかったのでとりあえず「・・・ワン」とだけ鳴いておいた。それを肯定と取った少女は嬉しそうに飛び跳ねヴェインと眼を合わせる。


「じゃあじゃあ名前決めないと不便だよね・・・う〜ん・・・」


眉間に人差し指を当てて真剣に考えていいる。


(・・・・・・・・・ソウイエバ、ワレハイツカライヌナンゾニナリサガッタノダ? ・・・マア、イイカ・・・・・・)


ヴェインも関係ないことを考えている。それからとりあえず『歩きながら考えよう!』と言う事になって少女の横を歩いていく。


「うむむむむ・・・・・・・」


片手に潰れた荷物の入った買い物袋を引っ掛けながらかなり真剣に悩んでいるのか唸り声が聞こえてくる。


それから少しの間、歩き続けていたが不意にある家の前で少女が足を止める。


「ここ私の家。それと名前決めたよ!」


「?」


何やら得意げな表情をで腕を組んでいる。よほど自信(何の?)があるようだ。


「貴方の名前は〜、バラバラバラバラバラバラ、パーーーーーン!! ヴェイン!!」

(ヴェッ!? マタカ!?)


思わず胸中で突っ込んでしまった・・・驚愕のあまりに開いた口がふさがらない。


「ど、どうしたの? 変かな? 私的に結構カッコイイと思うんだけどな・・・」


少女は驚きを隠せないヴェインに小首を傾げる。


「・・・(・・・ヨホドコノナニエンガアルヨウダナ・・・・・・)」


なんとなく運命的な何かを感じながらヴェインは一つ小さく鳴いた。


・・・・・・ワン・・・・・・






             第十二話(1)完


                                                          第十二話(2)へ・・・
       

  
・・・どうも作品の整理をしていたらおかしな点があったので

確認してみたら・・・抜けてたようなので

あげました(笑)

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