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みんなにやさしい自作小説コミュのREKIRIMA12-2

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第十二話(2)繋いだ手と手


「―――Cグループ、ケニヒ小隊・ガイン小隊。戦闘準備終了しました。これより持ち場にて待機します」


「了解しました・・・」


「結局、間に合わなかったか」


「・・・ごめん」


向こうでケニヒ教官が今回の作戦指揮官と事務的な手続きをしている。


「別に気にする事ではない。もともとこっちはあいつの事を計算にいれていない。あいつがいないとしてもこの作戦、プラスは無くてもマイナスにはならない」


「でも・・・」


どんなにキースが言いつくろってくれても、やはりレイの表情は晴れない。


―――ギリギリまで探しつづけたのだが結局レイ達はヴェインを見つける事が出来なかった―――


「だ〜、いないのに期待しても何の意味もないわ。あんまグチグチしてないでしゃきっとしなさいよしゃきっと!」


「イ、イタタ・・・うん・・・・・・」


豪快に背中を叩かれ、ひりひりと痛むのを堪えるように庇う。


(これがリトライトさん流の「気にするな」ですか? クス、つくづく不器用な人です)


ケラケラと笑い声を上げるメイアを苦笑しつつ眺めているキース。


「は〜〜〜っはっはっはっはっは」


その場に空気の読めないやつの高笑いが響いた。


その場とはレイ達が作戦待機をしている場であって、レイ達以外にも大勢の人間が作戦前と言うことでぴりぴりとした空気の中待機している。


「そんなじめじめウジウジナメクジ庶民男なんか捨てて、この僕と向こうで有意義な時間を使わないかメ・イ・アがハァッ!?」


空気の読めない男こと、ケニヒ小隊チームリーダー『リッチャー・クドイ』は笑い声を除いた一文言い終える事すらできずにメイアの神速の裏拳によって沈黙する。


「馴れ馴れしくかつ気持ち悪い呼び方しないで!」


「ぐぐぐ・・・き、君の照れ隠しは全てこの僕が受け止めてあげよう」


「まだ言う!?」


「そのへんにしとけばいいのに・・・」


「・・・(こくん)」


沈黙していなかったリッチにチームメイトのキャシーがぼやきリオが相づちをつく。

常人なら昏倒確実のパンチをもらっているはずなのだが、リッチはよろけながらも立っている。

恐るべきタフネスだ。その生命力ぜひ戦闘でも生かしてもらいたい・・・


「うっせぇぞ!! 少しは黙ってられねぇのか!!」


「「「「!!?」」」」


・・・今一度言おう・・・この場とは作戦前の待機時であり、生き残れないかもしれない戦闘の前なのである。

そんな神経のすり減らされるような状態の中場違いの空気で騒いでみろ。反感が生まれるのはむしろ自然な事であった。


「これだからCグループの新人は、常識ってのを知らねえ」


明らかに侮蔑を含んだ笑い声が辺りに響く。


「あら、作戦前にびくびくと怯えている先輩方よりはマシなんじゃないかしら?」


「ああっ!?」


「メイア!?」「リトライトさん!?」


普通に考え騒いでいた自分たちが悪いのだが、そこは自尊心の高いメイアだ。

もっとやわらかく注意されていれば大人しくしたがっていたかもしれないが、ああも挑発的に言われなおかつ見下したような口調がつづけば、どうなるかは自明の理である。


「なんか言ったか嬢ちゃん? オレには世間知らずな一言が聞こえた気がしたんだがな〜」


一見してガタイもよくレイやキースと比べても筋肉質な男は表情を険しくさせたままメイアを睨みつける。

レイはこの時さっさと謝ってガインとケニヒのいるところまで行きたくなったのだが、残念ながらやはりメイアはそれを許さなかった。


「頭が悪そうに見えけど、耳まで悪いみたいね。可愛そうに」


「な、なんだとっ!?」


売り言葉に買い言葉、皮肉をたっぷりと含んだ視線で同情するように見つめるメイアに男は顔を赤黒くしてわなわなと震え始めた。


「このガキ言わせておけばーっ!!」


ついに耐えきれなくなったのか、男は拳を上げてメイアに殴りかかっていく。が、それをメイアはむしろ面白そうに見据えて立っていた。


「「「!!??」」」


案の定、メイアという人物を知る人間を除いた一同全員が目を見開いた。


「そうやってすぐ女に手を上げる辺りはあんたにとって常識の範疇なの?」


突っ込んできた男を片足をそこに残すようにしてかわしたメイアは残した足に引っかかって前のめりにつんのめっている男の首筋にすかさず手刀を入れて物言わぬ人形にかえる。


そして決め台詞のように地面に伏した男を見下したまま言い捨てるとレイ達の側へと戻ってくる。


「全く全然弱いじゃないの、あれでよく先輩面できるわね」


「メイア・・・」


悪態をつくメイアに複雑な表情のレイ。


「いちよう僕達にも非があったわけですから、もうすこしお手柔らかにやったほうが良かったと思いますが」


溜息をつきながらもそれ以上責め様としないキース。


「・・・?」


レイとキースが微妙な表情をしているのが理解できずに小首を傾げているマナ。


「ふん、自分から手を出してきといてあっさり負けちゃうあっちが悪いのよ」


腕を組んでフイと顔をそむけるメイア。


「・・・たく、貧相な小娘にのされるとはまだまだだな」


倒れた男とは別の方から聴きなれた声が届く。


レイ・キース・マナが即座に首を巡らせ、一拍置いてメイアが仕方ないと言った様子で振り向く。


「「ガイン教官」」


「おう」


片手を上げて軽く答えたガインは別段落ち着いた様子で近づいてくる。


「ガ、ガイン!? ロウ・ガイン!? てあの有名な邪炎の戦鬼!?」


気絶している男のチームメイトか、駆け寄った青年が抱き起こそうとする手を止めてガインを仰ぎ見る。


「そうだ」


「ええっ!! すっげぇー! 本物だよ! お、俺Bグループオニキス班のサイモンて言います。まさか本当にあえるなんて感激です・・・てことはそこにいるのはあの有名なガイン小隊!!?」


「はえっ!?」(訳*はっ!? えっ!?)


感極まっているのか持っていた男を地面に躊躇いもせず放り捨てるとありえないスピードでレイに近づきその手を握り締めていた。


「!!?」


この動きに最も迅速に反応できたのは、以外と言うかまあある意味予想できたマナであった。


手を握るサイモンの手首を迅雷の如き勢いで叩き落すとレイを庇うように前に出る。それまで大人しくしていたマナの乱入(?)に一同呆気に取られるが、サイモンは気を取りなおすように笑顔を浮かべると後ろに振り返りチームメイトらしき人物に呼びかける。


「おい、あの有名なガイン小隊だぞ!」


サイモンの一言は呼びかけた人間に止まらず周囲の人間に驚愕を広げていった。


「ええっ!? あのガイン小隊!?」


「初登校で初任務って言うあの!?」


「実力はすでにBグループを凌駕するとかいう噂さだぞ!?」


「魔獣をたった一小隊で撃破したっていう?」


「おお、おお。あのアル学の授業不出席率ナンバーワンの新人小隊か」


「ああ〜、ところ構わず騒ぐの大好きお祭り小隊ね」


「そういや校門でもなんか一騒動やってたな」


「まだ十代のくせに婚約者がいる女がいる小隊だっけ?」


    ワイワイ・・・   ガヤガヤ・・・


「なんか・・・一部妙な方向で有名になってたんだね〜、ははは・・・」


「レイ様の名声は自然と周囲に伝わっていくんです(無邪気に)」

「・・・不名誉です・・・」


「有名になるのは嬉しいけど、なんか素直に喜べないわね・・・!! って誰よ最後に言ったやつ!?」


上からレイ、マナ、キース、メイア・・・


「なんだ? 結構知られてるみたいだな、お前等」


「・・・嬉しそうに言わないで下さい。大半が悪い方向ですよ?」


キースはジト目でニヤニヤしているガインを見据えたが、ガインは毛筋ほども気にした様子はなかった。


「ガイン・・・」


一連の行動を面白そうに眺めていたケニヒが突然何かを感じてガインを呼ぶ。


「なんだ? お前も仲間に入りたいか? 言っちゃなんだがお前んとこもなかなかの悪評を聞くぞ?」


「ははは、あまり入りたくないんだけどね・・・なんかすでに仲間に入っちゃってるみたい・・・て、違う違う。そうじゃなくて、この風・・・」


ケニヒは眼を閉じ周囲の気配を探る。風がいったんケニヒの周りを一回りし瞬く間に周囲へと散っていく。


「・・・近い・・・思ってたよりずっと速い・・・もう、すぐそばまできてる・・・」


「!!」


ケニヒの言葉は自然と周囲に浸透していき、場にいた全員が固唾を飲んで見守っている。


「わかった。おい!!」


ガインは一瞬で視線を巡らせると、作戦指揮官に声をかける。


「わかっている。えらそうにするな指揮官はこの私だ・・・全部隊臨戦体制! 門を開け!!」


激を飛ばすようにして出された指示に全員が動き始める。


「なんで門を開けるの?」


重々しい音を響かせて開いていく扉を眺めながらレイは素朴に思った。


「・・・いまさら本気で聞いているのか? 作戦前のこの時に?」


一言一言責めるように言い上げていくキースに多少怯えながらも「だって・・・」と続ける。


「開けたらそこからは入ってくるんじゃないの? それなら開けないで戦った方が・・・」


「はぁ〜・・・君とはこれでも長い付き合いになるからわざとじゃないってのはわかるが・・・頭の弱い奴だな」


「む〜・・・・だってよ〜・・・」


キースの物言いに反論したいがわからない事実は変わらないのでせめてもの抵抗として拗ねてみた。


余談だがこの時レイの背後で両の拳を震わせている少女がいたことを記載しておこう。


「あいつ等はどうしてこのウッドコロニーを包囲するか知ってるか?」


「いや・・・」


「門が開いていなかいからだ。奴らにとってウッドコロニーは高い外壁で覆われた餌箱であり難攻不落の要塞・・・攻め入るところがなければ落とす事は出来ないからな・・・」


「じゃあ、何で門を・・・開けなければ入ってこられる事は・・・」


「あのな、落とせないとわかっていてなお奴らは包囲を解かない・・・奴らにはこの外壁の中に”餌”があることがわかっているのさ、なら簡単な事だ。難攻不落の要塞を落とすためにあいつ等がする事は?」


思わず息を呑む。レイの脳裏にある答えが導き出されたのだ。


「「侵入口を開く」」


レイの口から自然と漏れでた言葉にキースの言葉が重なる。


「そうだ・・・どんなに固い外壁であろうと侵入口が出来れば中への侵入は容易になる。そして向こうには圧倒的な数のアドバンテージがある。いつ何処から侵入されるかわからないのは僕達をさらに圧倒的不利にする条件だ。ならその条件を無くす方法は何か?」


「・・・!! そうか、だから攻められる所をわざとつくって侵入口を限定させ、外壁を壊されないようにするのか」


「そういうことだ・・・ついでに言うと侵入してくるところがわかっているなら僕達の戦力の集中も容易くなるってことだ」


「!!」


これなら何とかなるかもしれない・・・一抹の希望が胸中に燈る・・・オレ一人なら無理だと思う、オレやキース・マナ・メイア・ガイン教官でもきっと無理なんだ・・・でも、みんなとなら? 他の部隊の人達となら? Cグループのみんなが集まって、さらにBグループの人達やAグループの人達、教官の人達が集まったなら・・・きっと守りきれるはずだ! ここには百人以上の人達がいるんだから・・・


希望は一気に身体中を駆け巡りこの作戦の成功を感じさせた。が、現実は常に残酷であった・・・


「・・・東西南北の門を開放し、一箇所辺り侵攻してくる数は約五千匹・・・ここにいる人員は約百人・・・五千匹のリザードが一時も休むことなく攻めてき続ける・・・一匹倒してもすぐにその次が・・・これが何時間も続くんだ・・・僕達の疲労はかなりのものだろう・・・そして疲弊していく僕達に対して奴らは手を抜くことを知らない・・・僕達には後がなく、奴らにはかえが次々と控えている・・・条件としては絶望的なんだ、僕達は最初から・・・」


目を伏せるキースからはいつもの頼もしい気配は感じられなかった。







   ギャアァァァァァッ!! ギャアァァァァァッ!!


闇夜の森を埋め尽くすほどのリザードは皆眼光に狂気をともらせ一点に向けて動いていた。その進行先にあるのは・・・周辺地域では類を見ない要塞都市・ウッドコロニー。高く厚い外壁を保持するここにはリザード達が求める餌が大量に生活していた。今も鼻先を掠めるように漂ってくる餌の匂いにリザード達は狂喜の声をあげ足をさらに速めていく。


リザード達は本能的に悟っていた。その餌箱には殻以上に厄介な存在がいることを・・・同胞はそのせいで何匹も命を落としている―――しかし―――


止まる理由にはならなかった。


敵は強い・・・否、餌にしては強い。しかし、餌には変わりはない・・・


どんなに抵抗してこようと食ってしまえば同じこと、むしろただ逃げ惑う奴らよりも火や水などを使ってくる者達のほうが肉は良質であり満ち溢れる生命力があるのである。

危険を侵してでも食うに値する程・・・


故に、リザード達は足を止めるどころか我先へと急ぎ足を速めていくのである。


眼前に映る二つの壁の間にぽっかりと開いた餌へと続く至高の道を・・・







「!! 来ました!! リザード群、目測で距離二百の位置にきています」


警戒監視をしていた女性から声が上がる。それがレイ達を除くCグループの部隊をどよめかせ浮き足立たせる。


「慌てるな!! A・B部隊は構え! よく引きつけてから一斉に攻撃しろ!CはA・Bのすぐ後ろへ、撃ちもらしを狙ってしとめていけ! いいか! 絶対に足を引っ張るような真似だけはするなよ! ・・・A・Bは―――」


慌しく飛ばされる命令にうろたえながら従おうとするCに構うものはすでにいなかった。


A・Bの部隊はすでにその武器や手のひらを前方に向けて狙いをつけている。


「これが、ウッドコロニーが保持する自衛軍・・・たしかに場数を踏んでるだけのことはありますね」


「キース、そんな冷静に言ってないで・・・」


眼鏡を直しながら落ち着いた様子で分析しているキースに冷や汗をかいているレイが失笑しながら声をかける。


さすがにメイアもここまで来ると緊張しているのかレイ達の無駄話に参加する余裕はないようで口を引き結んで、闇夜に浮かぶリザードの眼光・血のように暗く赤い光を睨みつけている。


(ヴェインがいてくれたらもっと安心できたかな・・・ここまで来てまだ頼りにしてるなんて、本当にオレは・・・)


思わず自嘲気味な笑みがこぼれる、とその時不意に隣にいたマナが空いていた手を優しく握り締めた。


「マナ?」


「私がいます。私はレイ様のお側を離れるようなことはしません。いついかなる時もレイ様の従者として仕えていますから・・・」


「・・・」


(従者、か・・・)


なぜかマナの『従者』という言葉を素直に受け止める事が出来なかった。それは認めたくない、否定的な感情であったが、続く言葉に返そうとする言葉を飲み込む。


「―――不安になったら、手を出してください。私はレイ様の手を離すことはありません。必ずその手を握り返します・・・」


「・・・・・・うん」


結局レイには頷く事しか出来なかった。できれば従者なんてやめてもらって一人の女の子として、『マナ』としてそばにいて欲しかったが、握られた手から伝わる温もりにそれは贅沢な願いだと想い、それでもいつかは言おうと胸の内に秘め今は頷くだけにとどめるのだった。


「・・・3・・・2・・・1・・・!!! いまだ、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」


ついに出された号令、戦いの火蓋は空気を爆発させたような爆音と共に切って落とされたのだった。


一斉砲撃は正面の敵陣ど真ん中に落ちた。炎、水流、岩石、カマイタチ・・・さまざまな魔法が飛びかい互いに反発しあうようにしてリザードの群れの中に落ちたのだ。が、効果は指揮官の想像したものよりも遥かに下回るものだった。


「馬鹿な・・・百匹は軽く消えたはずだぞ!? 何故奴らは止まらない・・・」


その一撃は確かに正面の一角を消し飛ばす一撃であった。が、他のリザード、すぐ隣を走っているリザードでさえまるで気付いていないかのようにスピードを緩めるどころかさらに速めて襲いかかってくる。


「馬鹿野郎!! 指揮官が迷うな! 部隊に指示を飛ばせ! 躊躇えばそれだけ死人が出るぞ!」


驚き後ずさりしている指揮官を殴り飛ばす勢いで詰め寄ったガインが渇を入れるが指揮官は茫然自失としていて使い物にはならない。


舌打ちを打ち、仕方なくガインはA・B・Cの全部隊に「決して敵を近寄らせるな! 近寄らせたら最後だ!!」と叫ぶと自らを前陣へと移動させていく。


「いきなり旗色が悪いな・・・これじゃ一時間もたせるのがやっとじゃないか・・・」


悔しそうに言いながらキースは炎を召還しこちらに向けて恐ろしい勢いで迫ってくるリザードの一角に向けて放つ。


「さすがにあんなの相手じゃパンチも蹴りも効かないわよ〜!」


悲鳴に近い声音と稲妻が宙を走る。


「こんなにリザードって強かったっけ!?」


レイが光球を飛ばし近づいてくるリザードの一匹を戦闘不能にする。


「闘争本能が強すぎて我を忘れてるようです。強く感じられるのも痛みをものともせずに捨て身で向かってくるためだと思います」


間接攻撃のできないマナはいつもの杖を胸の前で握り締めレイから離れないよう周囲に気を配っていた。


リザードの群れは怒涛の勢いで門をくぐり、流れこむようにして入ってくる。当然真正面から苛烈な攻撃が加えられその被害もかなりのものになっているのだが、一行に怯む様子もなく傷ついた仲間を踏み潰してでもさらに前に出ようとするものさえ見受けられる。


「・・・レイ、リトライトさん、少しの間持ちこたえてください。今から少し大きいのを使います。」


「わかった!」「わかったわ!」


ついにA・Bの最前衛にいた部隊が何匹かのリザードと接触し始めた。


さすがに場数を踏んでいるだけあって、落ち着いて対処しているのだがいかんせん数が数だ。接触した一匹に手間取っているとそこが穴となりどんどん接敵を許してしまう。


幸いガインが、前衛に出ており他の教官達も必死でフォローに回っているのでまだ持ちこたえているがそれも長くは続かないだろう・・・


「(早く援護に回らなくてはまずい・・・)いきますよ!」


キースはつい癖で眼鏡を直しながらリザードを睨めつけて詠唱し始めた。


「・・・彼の力を螺旋に 紅蓮の輝きを我に 全ての障害を消し去るために 全ての敵を滅するために 我が力 彼が力 共に闇切り裂く焔と成れ ・・・フレイムツイスター!!」


同時に世界に漏れ始めた精霊達の息吹がキースの周囲を舞い両手の掲げられた先へと集っていく。

集まってきた精霊達はキースの気と交わり徐々にその姿を顕現させていく。

ついにその圧倒的な姿を世界に顕わせたときそれは今まで見たこともないほど巨大な炎の竜巻と成ってキースの頭上で渦巻いていた。


そのあまりに異様な光景にレイ達を含めて全員が思わず息を呑む。


「キ、キース!?」「ちょ、ちょちょちょっと貴方いったいいつのまに!?」


今まで見たこともない規模の炎術を使うキースにメイアは驚きが隠せない。


「時間は常に動いています。レイが落ち込んでいる間も・・・必ず前へ向けて進んでいる。と言う事―――です!!」


周囲から視線を集めている事に気付いたキースは、その視線が捉えているものをこちらへ向け警戒せずにただ猛進してくる【とかげ】達へと解き放つ。


「「「!!!」」」


キースの意思によって圧倒的なエネルギーを宿したまま、その局所的な炎をともなう竜巻は前線より少し奥の位置にいたリザード全てを焼き払いリザードの波に大きな穴をあける。


「だーーーっ!? はずれてんじゃないの!? 何で真正面にぶつけないのよ!?」


想像を超える炎術を見せられ、興奮が収まらないメイアは拳を作りながらキースに詰め寄っていく。


「いや、あれでいいんです」


「?」


キースが小さく笑いながら答えたのが分からず視線をリザードに戻してみると、なるほど合点がいった。


リザードの群れの中に大きな穴があくことによって少しの間リザードの波状攻撃がやんだのである。


前線にいたため炎術に巻き込まれなかったリザードもすぐにガイン達の手によって駆逐されていく。それによって態勢をたてなおす事が出きるわずかな、しかし貴重な時間を稼ぐ事が出来た。


「(!! 味方を巻き込まないようにして、なおかつ敵の増援を止めたわけ!? すごっ・・・)」


目の前の戦況がたった一人の、それもCグループの人間の手によってもたらされた結果だと言う事に周囲から感嘆の声が漏れ聞こえてくる。


見れば、戦闘前に喧嘩を売ってきた(メイア主観)青年もここが戦場である事を忘れて大口を開けてつったっていた。


即座にからかってやろうと子悪魔的な笑みが浮かぶが、不意にキースが地面に片膝をつけた。


「「キース!?」」


慌てて駆け寄るレイとメイアにキースは苦笑しながら、地面に手をついたまま動かない。


「そんな騒がないで下さい・・・慣れないことしたので・・・つけが・・・まわってきただけですから・・・」


「だけど―――」


レイが片膝をついているキースに手を貸そうとした時だ。


数キロは離れているだろう外壁で何かが爆発する音が響く。いや、これは爆発というレベルではない。

かの頑丈な外壁に穴を開けるほどの衝撃であったからだ。


(なんだ!?)


・・・不測の事態・・・鳴響く破砕音・・・息の詰まる不吉な予感にレイは音の響いてくる方向から目が離せない。


「・・・!! まずい! 外壁が破られた!!」


一際大きな振動が伝わってくるとともに同じく風を通して視ていたケニヒから珍しく焦った声が聞こえてくる。


「チッ!! すでにリザードどもは空いたスペースを埋め尽くして迫ってきているんだぞ!! ここからさらに戦力を分けるなど不可能だ!」


唇を噛み締め、両の拳に力が入っていく・・・


―――また、戦う力を持たない人々が命を落としていくのか・・・また、オレは守る事が出来ないのか・・・いやだ!!!! そんな事絶対に、させない!!!!!!!


「ガイン教官! オレは穴があいたほうに向かいます。」


「!! レイ・ジーニアス、貴様自分が何を言っているのかわかっているのか?」


ガインの視線に剣呑な光が宿っていく。が、それで引くようなレイではなかった。


「わかってます!! ここが破られたら危ないことも・・・でもあそこはすでに破られてる! オレ達は何の為にここでリザードを食いとめてるんですか? 武器を持たない人を守るためじゃないですか!!」


「貴様・・・」


頑として譲らない態度がいつかの任務を彷彿させる。


(・・・こいつなら、またやるかもしれん)


胸の奥に一筋の希望が宿る。だが、ガインはそれを教官として許す事は出来ない。


「だめだ! たしかにこのままではまずいが、貴様一人をあそこにやるわけにはいかん!! みすみす死なせるような真似を俺は」『ガイン教官、レイを行かせてやってください」


「キース・ハング!? 貴様・・・」「キース!!」


「レイなら大丈夫です。こいつはやると言ったらやる奴ですから・・・それにガイン教官ももう知っているでしょう? こいつが言い出したら聞かない事も・・・」


後半部分呆れたニュアンスが含まれている事に多少顔を引きつらせながら、それでも珍しくキースが自分を弁護してくれているのを素直に嬉しく感じ、難しい表情をしているガインを凝視する。


二人から注目を受けてしまったガインだが、格別その事を気にすることなくぽつりと一言呟いた。


「・・・わかった」


「!!」


たったの一言であって、正確にはレイ達に対する返答ではなかったのだがそれでも次に来るだろう言葉をレイは自然と知っていた。


「ありがとうございます!!」


「ただし条件がある!」


「?」


「マナ・ルーンを連れていけ。それがだめならお前を行かせる事はできん」


「・・・」


予想だにしていなかった条件・・・危険な任務に再びマナを巻き込むという事実・・・前回や前々回はたまたま運がよかっただけで次も何も起きないという保証はない・・・


少なくとも自分といるよりは戦力が豊富なここにマナをおいていきたいのだが・・・


何とかならないかとマナに視線を送るがそこにはむしろ「連れていくのは当然です」と言った様子のマナが仁王立ちしている・・・


(・・・まったく、かなわないよ)


これから孤立無援の戦いが待っていると言うのにマナは一筋の迷いもなくただ【主】の指示を信頼して待機しているのだ。


そしてレイはその信頼を「君を危険な目に会わせたくない」と言う大義名分のもとに無視しようとも思ったが・・・


「・・・!! はい!!」


結局なにもできずに手を前に差し出す。

マナからの信頼をそんな言葉で無下に出来なかったからだ。

この意味を即座に理解したマナが嬉しそうにその手を握り締める。


―――不安になったら、手を出してください。私はレイ様の手を離すことはありません。必ずその手を握り返します―――


握られた手から伝わるぬくもりにどきどきしながらレイはガインに視線を戻す。


「それじゃあ、いってきます!!」


「ああ」


短いやり取りの後、レイの周囲を淡い燐光が漂い始める。それは何処からともなく集まってきた精霊たちがレイの呼びかけに答えた結果であった。


やがて燐光がレイの体を薄く包むように発光し始めると、レイは残像を残すほどのスピードで(マナを抱えて)穴の空いた外壁の方へと駆け始めた。


瞬く間に小さくなっていくレイの背中を見送りながらガインは珍しく感嘆の声を漏らした。


「肉体強化の魔法か・・・試験ではどんけつだったあいつだが、恐らく魔法のコントロールでは現在トップクラスだろうな・・・実戦タイプ、という事か・・・チッ」


なんだかあまり面白くない。もっといじめてやろうと思っていただけにレイの恐るべき成長が逆につまらない。


「戻ってきたら、しごいてやるか・・・」


ガインは剣をリザードの群れに向けながら、しかし意識は走り去った青年に向けていた・・・






「ちょっと・・・私レイに声かけてないんだけど・・・」


突然レイが敵のわんさかいるであろうところへ一人で行くと言い始めたため、呆気に取られ引き止める事も、送り出してやる事も出来なかったのだ。


「私にもなんかしゃべらせなさいよーーー!!!」


メイアの咆哮は虚しく空に響くだけであったが、その両手から連動するように生まれ出る雷にはなぜか理性を失ったはずのリザードに恐怖を与える何かがあったとかなかったとか・・・


「何なのよその微妙なナレーション!!?」


半ば八つ当たり気味にありえない突込みをするメイア・・・今はそういう笑いの流れは必要ないはずだが・・・?


「だったらしっかり私の出番を増やしなさいよ!!」


・・・先ほどのメイアの心の声「無理するんじゃないわよ・・・」がレイ達に届いたとか届いてないとか・・・


「あんた馬鹿にしてん―――」


次号へ続く(笑)





     第十二話(2)完


                                       第十二話(3)へ続く・・・

コメント(1)

ふっ・・・やってしまった・・・やってしまったよ!!

最後のほうはすでに集中力が途切れてもはや何を書いているのか(泣)

本当はもっとシリアスでいこうと思ったのに〜!!!!

・・・不思議なテンションで書き上げるとああなってしまった・・・


もっともまた書き直せばいい話だったんだが・・・

最後・・・まあいいかなんて流してしまった(苦笑)

あれ? メイアの部分はむしろ切って捨てたほうがわかりやすい? むしろあの部分からは邪魔!?

はっは〜・・・(苦笑)


・・・お時間いただきありがとうございました

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