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みんなにやさしい自作小説コミュのREKIRIMA11―2

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「―――・・・では・・・ことで・・・」


「キース!!」


魔物の接近に気付いたレイは急ぎもといた古屋に駆け込む。

「もう来ましたか」


レイの慌てた様子にすばやく自体を察するとキースは舌打ちしながら全員に目配せする。


「時間もありません。すぐに打って出ます」


その場に居た全員が頷き返し、各々武器を手に取り古屋の外へと出て行く。


「・・・今回だけだぞ」


「わかっています」


一人面白くなさそうな顔をしているリッチだがキースにやんわり受け止められ渋々と外へ出て行く。


「どうかしたの?」


「ああ、たいしたことじゃない。それより・・・」


キースは口調を変えるとレイのすぐ隣にいるヴェインに目を向ける。


「おい」


「ナンダ」


相変わらず厳しい口調のキースにヴェインはため息を吐くと地に響く低い声で一言聞き返す。


「どの方角から接近している?」


「サアナ?」


嘲りを含んだ返答にキースの眉毛がピくりと動く。


「キサマニオシエルギムナドナイダロ?」


「なら死―――」『キース!!』


途端に険悪な雰囲気になる二人を止めるべくレイが二人の間に立つ。


「そんな言い方したら誰だって怒るよ。ヴェイン教えてくれない、村の人達の命がかかってるんだ」


キースを軽くたしなめレイはヴェインと向き合うと真剣な面持ちで尋ねる。

所詮他人の事だろうに、自分のことのように必死な態度にヴェインは内心苦笑する。

確かに他人の事で切迫しているレイの態度は何処か滑稽でおかしいが不思議と嫌な感じはしなかったからだ。


「(ダカライマワレハココニイル、カ・・・ククク)・・・ココヨリキタノホウガクダ」


「ありがとう! キース・・・」


「ああ・・・そう何度も同じコースを通らない所を見ると、やつらもそれほど馬鹿ではないか・・・クソッ、ここから北ということはこの古屋とは正反対の位置・・・」


こちらにふるレイにキースは頷き腕を組み考え始める。


「とりあえず君のいない間におおまかな作戦はたてておいた。いいか、今までと違って自分の事だけを考えていてはだめだ、村の人達を第一に考え動く」


「ああ、わかってる」


しっかりと答えたレイを確認し頷くとキースは続ける。


「まず、この村は大きく分けて四つに分けることが出来る。トランプのダイアマークを想像してもらえると楽だが、その一番下に今僕達がいる、そしてゴブリンはここ・・・」


キースは木の枝で地面にダイアマークを描く。次いで一番下のとんがりの部分を丸くチェックし、その次に反対の一番上のとんがりをぐりぐりと印をつける。


「このダイアマークを四等分してそれぞれを北、南、西、東と区分けする。」


地面に描かれたダイアマークを×で区切るとそれぞれに北・南・西・東と書きこんでいく。


「僕達は村の人達に被害が及ばないように家の中へ避難するよう呼びかけつつゴブリンをこの地点まで誘き寄せる・・・」


キースはダイアマークの中心、×印の交差部分を枝でつつく。


「ここは村の中心でちょっとした広場になっている。だからこの広場を有効に活用し、そこで一気に殲滅する」


図を書いて説明した事もあってレイはすばやく理解し相槌を打っている。


「それで、効率を考え僕達はそれぞれ向かう区画を決めておいた・・・まず南、ここから一番近くて最も広い区画をクドイ君・・・彼一人なのは今回一番戦場になる確率が低いからだ・・・それで西をリトライトさんとキャシーさん、東を君とマナさん・・・今回恐らく一番激しい戦場になるであろう侵略コースである北は僕とリオとで受け持つ事にした。何か質問は?」


「ああ、えっと・・・大丈夫? 二人だけで・・・」


挙手すると心配げな視線をキースに向ける。


「問題無い、一番激しいと言いはしたが敵を殲滅する地点まで引きつけるだけだ。無理をしなければそう危険は無いはず」


「・・・じゃあヴェインはどうしたらいい?」


唯一名前のあがらなかったヴェインをちらりと見て再び聞く。


「・・・こいつは敵の位置がわかる。村の中心で南に敵が出ていないか見張らせ、万が一の時はクドイ君だけじゃ危険だ、その他で西・東の予備戦力・遊撃要員としても広場にいてもらうつもりだ」


「フッ、ツマリハキサマラノシリヌグイダロ? マア、ショウガナイカラキサマノイウコトモキイテオイテヤロウ」


ヴェインの物言いに多少腹は立ったが今はその時間すら惜しいだけに努めて無視する。


それをヴェインがおかしそうに低く唸るとレイを見上げて「コレデヨイノダロウ?」と小声で呟く。


見上げられたレイは嬉しそうに頷くとマナに目を向ける。


「それじゃあ、オレ達も急ごう!」


「はい!」


レイの言葉に一瞬の躊躇いも見せずに返事をすると紅玉の付いただけで飾り気の無い無骨な杖を両手で握り締める。


「・・・無理はするなよ」


キースは駆け出して行くレイにぼそりと呟くと、すでに走っていったリオの後を追い始める。


その背中をさりげなく見送ったヴェインが小さく笑うと自分も向かうべく場所へ歩き始めた。






               第十一話(2) 守れたもの、こぼれ落ちたもの






「みなさん! これから魔物との戦闘が始まります。早く家の中へ! 戦闘が始まってからは危険ですのでしばらく家から出ないようにしてください!」


すれ違う人全員に聞こえるよう叫びながら走りつづける。


突然の事に慌てふためく村人だが、指示には素直に従い急いで家の中へと駆け込んで行く。


「レイ様、これで一通り完了したようですが・・・」


小さな村だったので三十分とかからず端まで来る事が出来た。


マナは周囲から人の姿が見えなくなったのを確認すると第一段落終わりとレイに話しかける。

「うん、とりあえずしばらくはここにいよう・・・もしかしたらこっちにも現れるかもしれないし・・・」


村の入り口で辺りを見回しながら言う。


「そうですね・・・どうしました?」


自分の主の意見を素直に肯定する、と落ち着き無く辺りを見回しつづけるレイに首を傾げる。


「ん・・・いや・・・」


珍しく言いよどむ姿を不思議に感じて顔を覗きこむ。


「?」


首を傾げて覗きこんでくるマナに苦笑するとレイは両手が見えるように出した。


「・・・任務はこれが初めてじゃないし、魔物との戦闘も初めてじゃないのにさ・・・なんでだろう、すごく恐いんだ・・・」


よく見ればレイの両手は小刻みに震えていた。


「・・・はじめて人の命がかかってるって実感してるんだ、今までは教官やキースがそばにいてくれたからよかったけど、今回は違う・・・オレ達の後ろには戦う事の出来ない人・『守らなきゃいけない命』がある・・・不安なんだ、ちゃんと守れるか・・・ちゃんと守りきれるかさ、不安なんだ・・・」


レイは震える両手を見ながら自嘲気味に笑った。


「情けないな―――」


「レイ様」


ふわりと温かい感触に包まれた。一瞬何が起きたのかわからなかった・・・


震える両手をマナが優しく握り締め、ゆっくりと落ち着いた声が耳に響く。


「レイ様は一人ではありません・・・あまり気負わないでください。レイ様の隣には私がいます。そばで支えます。それに村の人々を守るのはレイ様だけではありません。私やキースさん・メイアさん・ヴェインさん・・・・たくさんの方がレイ様のそばにいます。御自分一人で背負わないで、どうか私達を頼ってください」


優しい笑みだった・・・


まるで包みこむような、温かい太陽のような微笑・・・


いつのまにか両手の震えは止まっていて柔らかい感触が伝わってきた。


「・・・ありがとう・・・」


「いいえ」


いつのまにか暗い不安は取り除かれて、先程まで悩んでいた自分が小さく思える。


「ははは・・・そうだよな! オレだけじゃなくてみんながいるんだもんな? ・・・全く何抱え込んでうじうじしてんのか。オレってやつは、カッコ悪くて笑っちゃうな・・・」


苦笑しつつ明るくなってきた心に協調するように無理矢理大きく笑う。


「いいえ、レイ様はそれだけ他の方のことを考えていらしたんですから格好悪くなんてありません。むしろとても立派だと思います!! もしレイ様を格好悪いなんて言う人がいたら私が怒ってみせます!」


レイの手を握りながら片方の手で握り拳を作ると何やら息巻いて宣言する。


「うん、ありがとう・・・」


つられて笑顔で頷き返してマナの手を握り返す。


気付けば堅く握られた手の上で、ニコニコと微笑みながらこちらを見上げる光の精霊がいた。手のひらサイズの女の子の姿をした精霊は楽しそうに握り合っている手の上に座ってこちらを見ている。


(・・・あ!!!)


その無邪気な笑顔と合った瞬間にレイはマナの手を握り締めている事に気付き顔が一気に紅潮する。


突然のレイの変化にマナは小首を傾げる。


その仕草によってさらにレイが恥ずかしくなったのは言うまでもない・・・


恥ずかしいのだが、いきなり手を離す事も変だし格別離したいわけでもなかったのでそのまま鼓動をばくばくさせていると、不意に精霊が真剣な面持ちで森の一端を睨みつけた。


         ・・・いる・・・


それまで上がりっぱなしの頭に慣れ親しんだ声が響くと、レイは瞬時に切り替える事が出来た。


(魔物・・・?)


         ・・・うん・・・


問いかけにもしっかりと答えた精霊は手の上をジャンプして肩に移動する。同じくレイも森の中がよく見えるよう精霊の視線を追う。


「・・・!! 何かいます!」


森の中を凝視するレイにただならぬものを感じたマナが同じように気配を探り始めるとすぐに顔色を変えた。


マナの警告にもレイは落ち着いて頷くと腰に携えていた剣に手を運ぶ。警告が来る以前から精霊を通し森の中に潜んでいる邪気を敏感に感じ取っていたからだ。


「数は・・・一・・・ニ・・・三・・・三匹だけ、か・・・?」


精霊が周囲に気を配り正確な数を教えてくれる。


「きっとキースさん達の方に現れるのが本隊で、先に私達や村の方を混乱させるための先発隊・・・ではないのでしょうか?」


真剣な表情で導き出された答えにレイも同意する。


「うん、オレもそう思う・・・もしかしたらキースが思ってる以上にあっちは統率されてるのかも(どうする・・・このまま村の中央広場まで誘き寄せるか? ・・・いや、精霊の言う通りだとこの辺りにこの三匹以外はいない。ならこの三匹を殲滅してキース達の援護に回った方がいい・・・)マナ!」


「はい」


「手早く片付けて、みんなのフォローにまわる!」


「はい!」


一片の不安も抱かずにゴブリンを殲滅してのける事を受け入れるマナの返事に心強さを感じつつ剣を抜き構える。


「ギィィィッ!!」


すでに存在がばれている事に気付いたゴブリンは奇声を上げながら茂みの中から飛び出す。


事前に教えられていた通りさほど大きくない。せいぜい百三十センチ程度の、頭に小さな角を生やした鬼がそれぞれ棍棒や石器を手にして唸りながら跳びかかってくる。


醜悪としか表現できない赤黒い体躯から目をそむけることなく捉えると、振り下ろされる棍棒を剣で受け止める。


ギンッと甲高い音が響く。助走も加えた上での一撃を受け止められたゴブリンはギィギィ、と構わず鳴き続ける。


(・・・よし、力ならこっちの方が・・・)


ジリジリと押し返し始め思わず勝利を確信するが、突然横から別の一匹が跳びかかってきた。


(しまった!!)


目の前の一匹にかかりっきりだったため、そいつからはがら空きの横腹が見えていた。


「レイ様!!」


その武器にしては殺傷力がうかがえない棍棒が身に届く直前すぐそばでマナの声が聞こえ、跳びかかってきたゴブリンが一刀両断される。


「得意の集団戦です。目の前にばかり気をとらているとすぐに別のものが襲いかかってきます。とりあえずこれでニ対ニになりましたが油断しないでください。」


いつのまにか紅玉のみで飾られた細身の剣を手にしているマナはゴブリンの返り血を一振りして払いレイと背中合わせになるようにして立つ。


「あ、ああ・・・」


マナの凛然とした声はなぜか耳の奥まで届かなかった。


なぜか切り捨てられたゴブリンの死骸から目を離すことが出来ない。


(血が・・・だくさん・・・死んだ・・・? ・・・そうだよな・・・オレ達は魔物を殺すために来たんだからな・・・殺したんだ・・・)


今ここは戦場だ。生きるか死ぬかの・・・


茫然と考えこんでいるレイをつばぜり合いしていたゴブリンが当然見逃す事はなかった。


「ギィィィッ!」


突然拮抗していた一方の力がなくなった。集中力を欠きたたらを踏んでしまった今のレイが次に反応したときにはすでに目の前を小さな拳が迫っていた。


ガツッ!!


鈍い音と共に後ろに弾かれマナにぶつかる。


突然の衝撃にバランスを崩したマナを嘲るように発声するとゴブリン達は背中を向けて村のほうへと跳んで行く。


「レイ様!」


去っていくゴブリンを確認してから目を離すと慌ててレイの方を振り向く。


浅くだが口の中が切れていた。口中に鉄の味が広がる。


「ッ痛・・・」


疼くものを吐き出すように唾を吐くと血の混じった唾が出てきた。


「大丈夫ですか?」


「ああ、ごめん・・・追いかけなくちゃ・・・みんなが・・・」


慌てて立ちあがるとちらりと切り捨てられたゴブリンを見て、遠くで跳ねているゴブリンを追いかけ始める。


何処か哀しい瞳をしている主に心配そうな表情を浮かべたが、とにかく今はそばにいようとレイの隣を走り始めた。





(ジンジンと痛い・・・)


流石にゴブリン達は見た目通りすばしっこくなかなか追いつかない。


(口切っただけでこんなに痛い・・・死んじゃったらもっと痛いよな・・・)


焦りと不安とはまた別の何処か遠い所でレイは考えていた。


(あいつらだって好きで襲ってるわけじゃないはずだ・・・きっと襲う事でしか他に食べていく事が出来ないから・・・)


         ・・・それは・・・ちがいます・・・


(えっ?)


何とかならないかと考え始める思考に精霊の声が響く。


         ・・・彼らは・・・・生きるために・・・人を襲うのではありません・・・


(じゃあどうして・・・?)


突然話し掛けてきた事よりもその内容のほうがよほどレイには気がかりだった。


         ・・・分かりません・・・


(え?)


         ・・・彼らは生れ落ちたその時から明確な殺意を抱いて育ちます・・・


(そんな・・・でもヴェインは・・・)


         ・・・あの魔物のように自我の強い魔物は少ない・・・ほとんどの魔物は・・・人だけでなく全ての存在に憎悪を抱いています・・・・


(・・・そんな・・・)


絶句するレイを哀しげに見下ろすと、精霊は小さく続ける。

・・・だから・・・目的を見誤らないでください・・・何の為にここにいるのか・・・何を成す為にここにいるのかを・・・若き剣・・・


「ま、待って・・・」


次第に薄れゆく精霊に慌てて手を伸ばすが、届く前に虚しく掻き消える。


「オレは・・・何の為に・・・?」


「レイ様?」


走りながらも常にレイの事を意識していたマナが心配げな声をあげる。


(・・・オレは任務で・・・村に魔物が出たからをその殲滅をする為に・・・)


         ・・・本当に? ・・・


心の中で再び反芻される。


         ・・・何を成す為にここにいるのかを・・・


「オレは―――」


「・・・レイ様!!」


突然マナの切迫した声が耳に届いた。


マナの視線を追うと、その先でゴブリン達が突然一軒の家のドアを壊し始めていた。


「・・ーーん・・・ぇーーーん・・・」


耳を澄ませると家の中から小さな泣き声が聞こえる。


どうやら子供の泣き声を聞きつけたゴブリンがその声に刺激されたようだ。


「・・・オレは―――」


さらに足へ力を込め、今より一歩先へ、一歩でも前へ早く駆け出す。


光り始める両足がさらに残光を生み出し、レイの体が前へ前へと加速していく。


全力で走っているのに全く追いつけないスピードで駆け出したレイを驚きながら追うマナ。


その瞳には光り輝く道を作りながら駆けるレイの姿が映っていた。


「―――みんなを守るために!! ここにいるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


叫びながら手に持っていた剣を投げる。




ついに、ドアが破壊され中から住人達の悲鳴が聞こえる。今まさに襲いかかるであろう醜悪な鬼を前に誰もが最悪の想像をした瞬間だった。


―――その時一条の光の矢が鬼を貫いた―――


鬼は悲鳴をあげる事すら出来ず文字通り一瞬で消滅する。


「ギッ、ギィィィッ!?」


残ったもう一匹が不可解な鳴き声を上げ矢の飛んできた方向を慌てて振り向く。


ゴブリンの視界はめいっぱいに広がった光の拳によって覆われた。


レイは力の限り鬼を殴り飛ばす。激しい悲鳴を上げて吹っ飛んだ鬼は地面を七・八回転がった後、ゆっくりと血の一滴残すことなく消滅していった。


「・・・これで、おわった・・・のか?」


レイは一息ついて落ち着くと両手両足を覆う光に目を移す。


(・・・ありがとう・・・)


優しく微笑むと、光の精霊達も揃って笑顔で返してくれた。


とりあえず地面に突き刺さっている光の矢となっていたもの・・・剣を回収しながら他にゴブリンが本当にいないか周囲を探る。と扉を壊された家の中から女の子の鳴き声が聞こえてきた。


(恐かっただろうな・・・)


それもそうだろう・・・魔物と言うのは常に恐怖の対象とされ子どもや大人問わず全ての人間の天敵とされているのだ・・・子どもが泣き出してしまうのはそれはある意味正しい行動である・・・


レイは光り輝く自分の両の手足に驚かれ、もしかしたら怖がられるかもしれないがそれでも泣き声のする家へと歩み始めた。


「・・・もう大丈夫よ。魔物はみんな逃げてったから」


中から優しげな大人の女性の声がした。


家の中へと躊躇いがちに入っていくと、泣きじゃくる少女とそれを抱きしめた女性のあやす姿が目に入る。


「あの・・・」


「?」


抱きしめたまま女性がこちらに顔を向けると驚きに身を震わせる。


「あ、いや、その・・・すみませんでした。怖がらせてしまって・・・あと扉守れなくて・・・」


「え、ええ・・・いえ、いいのよ・・・」


女性は本当にすまなそうに謝る青年の態度に、光り輝く手足よりも驚き微妙な返事をする。


「その・・・ごめんね。もう泣かなくても大丈夫だよ? 悪い魔物は全部倒したから・・・」


泣きつづける女の子にも謝る。


と女の子が顔を上げ赤い目のままこちらに視線を移す。


(あ・・・泣かしちゃうかも・・・)


光り輝く両手を抱きかかえてすばやく精霊達にやめるよう言おうとするが、それより先に女の子の鳴き声が耳に響いた。


意外な位置で・・・


「うわぁ〜〜〜〜〜〜ん!! ありがとう天使様〜〜〜〜!!」


女の子は女性から手を離すと必死な様子でレイの腰に跳びつく。


「・・・こ、怖く、ないの?」


今だ輝き続けている手足を庇いながらすがりつく少女に戸惑いを隠せない。


「だって・・・ひく・・・天使様だよ? 手とか足とか光っててかっこいいよ・・・ひく」


「て、テ、天使様?」


「うん・・・ひっく・・・ドアどんどん叩かれてね、壊された時もうしんじゃうんだと思った・・・ひく・・・だから神様にね・・・『助けてください』・・・て祈ったの・・・ひく・・・そしたらね・・・窓の向こうでねお兄ちゃんが現れて魔物を追っ払ってくれたの・・・ひく・・・だからお兄ちゃんはミホのお願いを聞いてくれた神様が連れてきてくれた天使様でしょ? ・・・ひっく」


震えながら顔を摺り寄せる少女の体はとても小さかった。小さくて軽くて儚くて・・・とても温かい存在がレイの体にしがみついていた。


この子を自分は守った・・・守る事ができた・・・


その存在を確かめるようにレイは戸惑いながらゆっくりと女の子を抱きしめ返す、しっかりとした感触がその両手に広がる。


知らず知らずのうちに一雫の涙が頬をつたった。


「・・・ぅ・・・ぅうう・・・ぁぁぁ・・・」


頬を流れる涙は気付けば止めど無く溢れ出し、少女の顔へも伝う。


「・・・? どしたの? 天使様お腹痛いの? 大丈夫?」


少女は自分を抱えてくれる青年の変化に驚き泣いていたのも忘れて頭を撫で始める。


「・・・ぁぁぁ・・・あり、が・・・とう・・・ぅぅ・・・」


・・・こんな情けない自分に守らせてくれて・・・ありがとう・・・


さっきまで泣いていた少女が今では不甲斐ない自分を慰めている。その優しさがたまらなく心地よくて暖かかった。


「レイ様! ・・・!!?」


やっと追いついてきたのか慌てた様子のマナが家の中へ入ってくる。とその場に広がっていた光景に思わず凍りつく。


「ぅぅ・・・マナ・・・オレ・・・オレ・・・」


「どうしたんですか!? 何があったんですか!? 大丈夫なんで・・・!?」


泣き崩れている主に駆け寄ると、その時にいたってはじめてレイが少女を抱きかかえている事に気付く。


「お姉ちゃん誰?」


マナの顔がひくりと引きつる。


「な、な、なにをしてるんですか!!?」


会話をしている最中も止まることなく撫で続けている少女に驚き半分・羨ましさ半分で叫ぶ。


「ふぇ・・・ミホはただ、お兄ちゃんがお腹痛そうだから・・・だから・・・ひく・・・」


マナの大きな声に驚き再び涙ぐむ少女に今度はマナが慌てる。


「わっ、や、ちょちょっと待ってください!? それは駄目です。反則ですよ!? 同じ女性として正々堂々・・・」


泣き出す少女と慌てふためくマナのおかげでちょっとだけ我に返れたレイが急いで涙目をこすりいつもの笑顔で仲裁に入る。


「・・・ほら、マナが大きい声出したからビックリしちゃっただろ? 大丈夫だよ、あのお姉ちゃんもみんなを守るためにいるから安心して、ね?」


「・・・グス・・・ほんと?」


「ほんとほんと」


泣き始める少女をレイがあやすとすぐに涙は止まり再びレイの腰にしがみつく。それを見て再びマナが顔をしかめる。


「ム〜・・・任務はまだ途中です! 早くキースさん達のバックアップに回りましょう!!」


まるで子どもみたいに頬を膨らませレイの袖を引っ張る。


「ああ、うんわかってる・・・それじゃあまた少しの間お母さんと一緒に家の中にいるんだよ?」


「天使様行っちゃうの?」


面白くなさそうにさっさと家の外へ出て行くマナに続こうとして立ちあがると、少女が不安そうに見上げる。


「うん、オレでも誰かを守る事ができるって教えられたからさ・・・それとオレは君の言う天使様じゃないや・・・」


途端に曇る少女の肩に手を置き、真正面から見つめ合う。


「オレはレイ、レイ・ジーニアス! 君の名前は?」


「ミ、ミホ・・・」


「うん、ミホちゃん。もし怖くなっちゃったりしても大丈夫だよ! 君には優しいお母さんがそばにいるんだ。だから恐いのなんかに負けないで必死に戦おう! きっと、他の子達も戦ってるはずだからさ!」


「レイ様ー!!」


「は〜い!」


なかなか出てこないレイに焦れて外からマナの呼ぶ声が聞こえてくる。苦笑しながら答え少女の頭にぽんと手を置く。


「お姉ちゃんも待たせてることだし、もう行くね? オレもできることを全力でやるから・・・ミホちゃんも一緒に頑張ろう!!」


「・・・うん!」


一緒、というのが良かったのか、少女は不安そうな表情を消して嬉しそうに頷いてくれた。

それが嬉しくてレイも笑顔で頷き返し傍らで見ていた母親に一礼すると外で待っているマナの元へと駆け出す。


「・・・嬉しそうですね・・・」


出てきたレイを見るなり言葉にとげの生えたマナに睨まれる。


「ま、まあね・・・どうかしたの?」


「いえ、別にたいしたことじゃありません・・・急ぎましょう・・・」


「う、うん・・・」


何でマナが怒っているのかは分からなかったがこれ以上怒らせてはまずいと、レイは素直に従いマナと並んで走り出した。


(・・・あれ? 主はオレじゃなかったっけ? まあいいけど・・・)


触らぬ神(=マナ)に祟りなし・・・大人しくしているのが一番無難だ・・・


走りつつもそんな事が脳裏をよぎったのだった・・・






   <<ゴブリン殲滅予定地点>>


広場に辿り着くと腕を組んだメイアと少し離れたところでおどおどしているキャシーの姿があった。


「あら、遅かったじゃない? なにかあったの?」


メイアのとこまで歩いていくと、軽い口調でメイアが口を開いてきた。


「ああ、ちょっとゴブリンが出てきてさ・・・」


「ふ〜ん、やっぱりそっちも出たんだ・・・」


「えっ?」


思わず聞き返す。


「やっぱりってそっちにも出たの?」


「ええ」


事も無げにさらりと流す。


「どうせそんな事だと思ったのよ・・・私達のところにもゴブリンは出てきたんだからきっと他のところでも出てると思ってたわ。で何匹出てきたのよ?」


「三匹」


「ふふん!」


レイが答えたその瞬間メイアが自慢げに目を光らせる。


「私達のとこには十一匹出てきたわ! もちろん全部私が返り討ちにしてやったけどね!」


両手を腰に当てて胸を張るメイアに苦笑する。


「ホントに?」


「え、ええ・・・本当です。立った一人ですごい殺陣を繰り広げてました・・・殴る、蹴る、投げる、焼く、etc、etc・・・私なんかが入り込める隙間なくて・・・おかげで女性恐怖症が前より一段と酷くなりました・・・」


苦笑しながら同行していたはずのキャシーに聞いてみると、本気で怯えてびくびくしている。


(どんな惨状だったんだろ・・・)


実際遭遇したくはないが、ちょっとだけ好奇心がうずいた。


レイと話せて少しだけ安心できたのかホッと一息つくキャシーをレイのすぐ隣からマナが睨む。


「ヒッ」


(まだ機嫌悪いみたいだな〜・・・)


マナから注がれる眼圧に気付いたキャシーが小さく悲鳴を上げる。慌ててレイがマナを引っ張ってメイアと会話をさせる。


「と、ところでヴェインはいないみたいだけど知らない?」


「私達が来た時にはもういなかったみたいだし、あんた達の方にも行ってないなら・・・あいつのとこにでも行ったんじゃない?」


思い出したのか心底不愉快そうな顔をして南地区の方角を指差す。


(そっか・・・メイアや俺達のとこにもゴブリンが現れたのなら南地区に現れても不思議じゃないよな)


レイがなるほどとメイアの指差す方向に思わず視線をやると、一人の青年が立っていた・・・


「な・・・」


「「「「な?」」」」


見れば下を向いてて表情は分からないが全身をぶるぶる震わせて立っている。


「なんなんだよあいつらはーーー!!」


服がかなりボロボロに裂けている。


「こんなの聞いてないぞ!? この僕はあの眼鏡に・・・






「君には一番広い地区を一人で担当してもらいます」


「はあっ? 何でこのぼくが貴様等庶民の言う事を聞かねばならないのだ! その上何故一番面倒な地区をこの僕一人に割り振る!? おかしいだろ!」


眼鏡男はいきなりイケシャーシャーと切り出してきやがった・・・


「今回この人数だけでやり抜かなければいけません。だから一人一人の負担もかなりきつくなるので、しょうがないんですよ・・・」


眼鏡男はずれてもいない眼鏡を手で押し上げながらやはり率直に言ってきやがった・・・


「だからなんでそこでこの僕なんだ!? あの庶民にやらせておけばいいじゃないか!? 大体なんでこの僕が一人でなどと・・・メイアと組ませろ!!」


当然受け入れがたい役回りに猛反発したさ・・・


しかし眼鏡男は平然と腕を組んだまま・・・


「いいですか? レイに任せず貴方に任せるのは【優秀な貴方】にしかできないからです・・・この役はとても重要なものです・・・それに安心してください。地区は広いですがこの地区で戦闘になる確率は低いので・・・」


「やれやれ、全くしょうがない奴らだぜ」


本当にしょうがない・・・庶民はいつもこの僕の手を煩わせるのだからな・・・まあ優秀なこの僕にして見せれば簡単な事だろう・・・


了承してやったこの僕を眼鏡男がにやりと笑っていたがまあ許しやる・・・凡人が美しいこの僕に見惚れて微笑むのは良くある事だからな・・・


・・・こうして優秀なこの僕は最重要任務に移るのだった・・・






「・・・って、言われたからやってやったのだぞ!? なのになんだ現実は!? 話が違うじゃないか!? いきなり二十匹ちかくゴブリンどもが襲いかかってきやがったぞ!?」


垂れ下がる袖を振りまわして抗議するリッチを冷めた目で睨むメイア。


唯一慌てた様子をしたレイが思わず詰め寄る。


「!? じゃあ村の人達はどうなったの? みんな避難し終えたの?」


「ええ〜い! 近寄るな庶民!! うっとおしガハッ!」


飛んできた石がリッチのおでこに当たる。


「たく・・・使えないわね。急ぐわよ!」


「ちょ、ちょっと待った! ・・・そうだ! あれは一体何なんだ!?」


舌打ちして駆け出すメイアを止めようと届くはずもない手を伸ばしながらリッチが慌てて逃げて来れた理由を思い出す。


「何がよ!?」


何を言っているのかわからずメイアが苛立った声をあげる、がそれでもリッチはレイを睨みつけていた。


「貴様の連れていたあの犬だ!!」


「えっ?」


思わず面食らうレイ。


「ゴブリンが現れたと思ったら、五分と経たずに走ってきてすごい勢いでやつらを狩っていったぞ!? ・・・ヒィ!!」


問い詰めようと腰を浮かせたリッチが近寄ろうとした瞬間何かに気付いて無様な声をあげた。


何かと思い振りかえるとそこには多少血のついたヴェインが立っていた。


「ヴェイン!? 大丈夫だったのか?」


毛に付着する血に慌ててヴェインに駆け寄る。


「(オチツケ、コレハヤツラノカエリチダ・・・アノテイドノザコ。コノママノスガタデモモノノカズデハナイワ)」


―――さすがは魔獣―――さらにヴェインは気をつかってくれたのかリッチ達には聞こえないよう小声で答えてくれた。


「(じゃあ、村の人達は?)」


「(アア、モンダイナイハズダ)」


ヴェインが何気なくいってくれた事実が胸に響く。


「っ〜!! ありがとう!」


思わずすでに恒例化してきたご褒美の全身撫でまわしの刑(?)をはじめる。


「(フ、フン・・・)」


ヴェインのほうも慣れたのか抵抗せずにされるがままでいてくれた。


こうして二人の主従関係(?)が円滑になっている時、もう一つの主従関係は険悪なまでになり始めていた。


「ぅう〜・・・レ〜イ〜さ〜ま〜・・・」


どんよりとした陰気な物を含んだ声がすぐ後ろから響く。


「マ、マナ・・・どうし・・・」


あまりの陰気さに体が振りかえる事を拒絶したため「ギギギ」という擬音が聞こえてきそうな動きで振り向く。


「(なんでわたしのあたまをあのこにやったみたいになでてくれないんですか? なんであのこにやったみたいにわたしをだきしめてくれないんですか? なんであのこにやったみたいにわたしにあまえてくれないんですか? なんでわたしをそのいぬにやったみたいになでまわしてくれないんですか? なんでわたしにかまってくれないんですか? なんでわたしじゃないんですか? なんでわたしをむしするんですか? なんでわたしをほめてくれないんですか? なんでわたしいがいのひとにやさしくするんですかぁ〜・・・・・・・・・)・・・レ〜イ〜さ〜ま〜・・・・・・・・・」


マナには言うことができなかった。


自分は一介の付き人なのである。主が何をしようと付き人には一切関係ないのである。

と言うか主の行動に何か言う事の方が畏れ多いのである・・・が、


「(そんなにこどもがすきですか? さっきのおんなのこといいおとこのこといい・・・あまつさえそれはいぬですよ? それでほんとうにいいんですか? そういえばめいあさんともてをつないでいましたね・・・? そんなにみんなにやさしいはずなのに・・・どうしてわたしにはそんなにかまってくれないんですか? そりゃわたしはただのつきびとですけど・・・ですけどですけど、それでもれいさまにあってからはそれはもうれいさまのことだけをいっしんにかんがえてるわけなのですよ? わかりますかぁ〜? わかりますよねぇ〜? わかってくださいぃ〜! おねがいしますぅ・・・・・・・・)・・・・・・・・・・・・レ〜イ〜さ〜ま〜・・・・・・・・・」


マナには言う事が出来なかった。


そしてマナには限界が来ていた。


客観的に見ればレイは別にマナをかまっていないわけではない・・・むしろその逆でかなりマナのことを考えているのだが・・・度重なる衝撃の光景が続いたためにマナの意外にも(!?)多い独占欲が暴走を始めたのだった。


「(そんなにわたしってかげがうすいんですか? そんなにわたしってれいさまにとってろぼうのいしのようなそんざいなんですか? そんなにわたしってちいさいものですか? わたしにとってれいさまはそれはそれはおおきなそんざいなんですよ? もうたとえるならくうきですよ? くうき! いや、あってとうぜんあってあたりまえのそんざいなわけではないのです! なくてはひじょうにこまる〜というものでして、それはもういきていくうえでひつようふかけつのそんざいなのです、はい。れいさまのいないせかいなんてもうわたしにはかんがえられないんですから!! わたしのきもちわかります? わかりますよね? わかってくださぁ〜い・・・・・・・・・)・・・レ〜イ〜さ〜ま〜・・・・・・・・・」


マナには言う事が出来なかった。


しかしそのあまりにもたくさんの感情を込めた眼差しに見つめられてレイは一人冷や汗をかいていた。


「(う、目で語っている・・・)・・・ま、マナ? え、ええと・・・その・・・」


あまりの眼圧にさすがのレイも口篭もる。


(リッチ君は論外だし、キャシーはすでに怯えている・・・メイアは止めるどころかニヤニヤしてる。ヴェインまで微妙に震えてるし、マナとなにかあったの?)


その雰囲気に飲まれて半分泣きそうになっているところでついに(空気の読めない)勇者が立ち上がった。


「おいそこの凡人! この僕を無視するんじゃない! そいつは一体何者だと―――」『タダの犬ですっ!!!』「はいっ! す、すみません!!」

勇者=リッチャー・クドイ・・・一言いい終えることすら許されず轟沈・・・


恐るべきはあのリッチに思わず謝らせたマナ。一声で震えあがらせたマナ・・・二本の角と邪悪な翼が幻視で見えてきそうなマナ、である・・・


「(ク、クルゾ)」


思わず呆気に取られていた一同だったが、ヴェインがレイに囁き我に帰ったレイが広場の入り口・北地区への入り口へと目を向けこちらに近づいてくるキース達に気づくことで空気が変わった。


「!! 来るよ! 気をつけて!」


レイはとっさにマナの手を取り庇うように動く。言われて気付いた一同も同じように各々武器を構えて油断なく待ち構える。


「う、うぅぅ・・・ぼ、凡人この僕を守れ!!」


先程の戦闘でトラウマになったのかいざ近づきつつあるゴブリンの群れを見て足がすくんでしまったリッチが声をあげる。


「わかった、ちょっと待って」


高圧的に言われたにもかかわらずにレイは素直に頷くとリッチを庇うように動く。


せっかく自分をかまってくれていたのに躊躇なくリッチの方へと行ってしまったレイを恨めしそうに見つめながら、マナは震えているリッチめがけて一際大きい岩石を投げつけた。


ガツンと一際鈍い音をゴングに最終ラウンドが始まろうとしていた・・・






「はっ・・・くっ・・・大丈夫ですか?」


「・・・(こくん)」


休むことなく跳びかかってくるゴブリンを全て受け流しまたは撃退しながらキースは同じく逃げに徹しているリオに声をかける。


相変わらず無口で頷き返しただけだったが、キースには頷いた気配が届いていた。


「そろそろ広場ですね・・・作戦通り行きますよ」


「・・・(こくん)」


いったんかなり激しく跳んでくるゴブリンを弾き飛ばして間合いを取ると、二人は全力で走り出した。突然加速した二人においていかれたゴブリン達が慌ててその後を追いかける。


「今です!!」


広場の入り口辺りまできた瞬間キースは炎を顕現させた。


隣を並走していたリオもすでに空気中に水の珠を顕現させていた。


二人は頷き合い同時に前方で互いの魔法をぶつけ合う、瞬間目の前を突然濃霧が広がった。


(やはり!!)


キースは予想通りの展開に笑みを浮かべながら躊躇わずに霧の中へと身を進める。


炎で水を一瞬にして蒸発させ、多量の水蒸気を空気中に撒き散らす。結果局所的にだが霧が発生した。


自分の属性と味方の属性を把握できていたからこそできた技であった。


霧を抜けると広場に出ており中ではレイ達が武器を手に待ち構えていた。


「リオ!!」


キースは休むことなく道からそれ広場への入り口の脇へ潜むと同時に叫ぶ。呼ばれた意味を理解しているリオもすぐさま動く気配がした。


そして、一拍間を置き激しい足音が道を響かせる。


霧によってキース達を見失ったゴブリン達の通りすぎる足音がしなくなるのと同時にキースは立ちあがると道の真中へすばやく移動する。すると今度は急激に霧が晴れていき視界がクリアになっていく。気づけばすぐ隣にリオが同じように立っていた。


(作戦通りですね・・・)


思ったとおり炎と水をぶつけた後では霧はリオがコントロールできたようだ。霧が水蒸気で構成されているとはいえ、元から発生しているものをコントロールできるかどうかは半ば賭けであった。


霧を一気に晴らしたリオは少し額に汗が浮かんでいる。どうやら割りと疲れるようだ。


二人はゴブリン達の退路を断つようにして立ちはだかるとゴブリン達の数を数える。


「・・・三・・六・・・七・・よし、追っかけてきていた奴ら全員かかったようですね。総計三十七匹、一気に殲滅します!」


キースの声にパニックになっていたゴブリン達が我に帰り、いっせいにそれぞれが獲物を掲げて怒り狂い襲いかかっていった。






「いい!? い、いっぱいいるぅ〜!??」


「陽動の方が多いわけないんだから当たり前でしょう!!」


突然霧が発生したかと思うと、その霧から出るわ出るわゴブリンづくし・・想像を超えた数に目を回しそうになるレイにメイアが怒鳴る。


「な、なるほど・・・(ええ〜とオレ達で三匹・・・メイア達・・いやメイアが十一匹・・・ヴェインが二十匹くらい・・・どえぇ〜!!? 全部あわせてたらもといた数って六十超えるよ!!?)」


単純計算でもって換算してみたレイが、信じられない大家族に思わず頭を抱える・・・


「作戦B決行!! お互いの位置を確認しながら撃ってください!」


ゴブリン達の出てきた道を塞ぐように立っているキースが叫ぶ。


「へ? 作戦B??? それって・・・」


聞きなれない単語に首を傾げているとキースとリオ・メイアがそれぞれ腕を前に突き出し跳びかかってくるゴブリン達に狙いを定める。


「 ・・・我が敵は彼の敵 彼が敵は我の敵 仇なす全ての者を焼き尽くせ・・・」


「・・・集え 天の子達 その戯れは一条の旋律・・・舞い散るわ儚い残光・・・」


「・・・潤す汝 渇望される汝 常に与え奪われる汝よ その真価を解き放て・・・」


「いっけェーーー!!」


キース・メイア・リオがその内に秘めたる力を解き放ち目の前の敵を一直線になぎ払っていく。一人掛け声のみのキャシーは地面に転がっている石を拾い上げ息を吹き込むように包み込み一気にそれをゴブリンめがけて投げ放っている。


ただの石であったのだからせいぜい牽制程度かと思ったのだが、レイの予想は大きく外れた。


「ギィィィッ!!!」


今まさに武器を振るおうと宙で振りかぶっていたゴブリンが石にぶち当たるとその身を宙で固定させたまま後ろへ弾き飛ばされ後方にいたゴブリンを巻き込み吹っ飛んでいく。


      「私、実は小さい頃から魔法習ってたんです」


      「へ〜そうなの?」


      「ええ、 しかもそれってかなり珍しいタイプだったみたいで試験管の先生方もみんな驚いてました」


      「おぉ〜、それはすっげぇ〜・・・」


「・・・そう言えばそんな事言ってたな〜・・・」


「す、素直に感心してないで貴様もやれーーー!」


レイの後ろで縮こまっていたリッチがヒステリック気味に叫ぶ。その声が興味をひいてしまったのかゴブリンが一斉にこちらを振り向く。


「あ〜・・・今のなし・・・てのはだめ?」


注がれる視線に苦笑して頭を掻く。一瞬間を置いてこれが答えだとでも言いたげにそれぞれ獲物を掲げ奇声を上げてレイに襲いかかる。


「う、うわそんな一斉に来なくても!!??」


一様剣を構えはしたが、七匹のゴブリンが一斉に飛び掛ってきたのだ。剣の扱いに長けた者ならば問題ないのかもしれないがレイには荷が重すぎた。


何とか剣をめちゃくちゃに振りまくって三匹ほど足を止めはしたのだが、残った四匹がくぐり抜けてくる。


思わず血の気が引いていくが目の前を黒い風が吹き抜けたと思った瞬間、跳びかかっていた四匹だけでなく足を止めていた三匹も絶命している。


恐るべき早業に何が起きたのかわからずごくりと息を呑み駆け抜けた風に目を向ける。


「ヴェ」『ぎゃーーーーーーーーっ!!?!?!?! ばばばばば化け物ーーーっ!?!?!?!」


視線の先では元の雄々しく圧倒的な存在感を放つ姿のヴェインがたたずんでいた。


レイの声を遮り喚くリッチを鬱陶しく思いながらヴェインがその凶眼をゴブリン達に向ける。

睨まれたゴブリンはそれだけで震えあがり我先にと逃げ出し始める。


「く、ここで逃がしては危険です! 全部殲滅しますよ!!」


「わかってるわよ!」


ヴェインから遠ざかろうとするため必然的に他の入り口に立っているキースやメイア達の負担が激しくなる。焦りながら怒鳴り返すメイア。


突然正体を顕わしたヴェインによってゴブリンだけでなく、驚愕を隠せないリオとキャシーの二人が再起動するまでの間キースとメイアがさらにきつくなる。


何とかその不条理な存在を受け入れる事ができたリオはキャシーより早く立ち直ることができ慌てて防戦に加わる。が、キャシーのほうは間に合わなかった。


「・・・集え 天の子 『ギィィィッ』


ついに詠唱が間に合わないメイアに血走った目のゴブリンが獲物を振り上げ殺到する。


「メイアーーーーーっ!!」


脳裏をよぎる最悪の光景に頭の中が真っ白になる。


「何よ?」


「え?」


叫ぶレイに普通に返す言葉があった・・・


「ふっ―――」


ゴブリンが両手で握った石器を振り下ろしてくる。

がそれは詠唱を途中で止めて半歩横に動く事で紙一重よけ、同時にがら空きとなっているゴブリンの顎へ強烈なアッパーを叩きこむ。


「ハッ―――」


飛んでいくゴブリンには目もくれず、即座に別の方向から棍棒を腹めがけて薙ぎ払ってくるゴブリンに意識を向け、一瞬の躊躇いもなく全力で跳躍する。イメージ通り斬撃を飛び越え片足をたたみ込んだまま空中で体制をひねる。


突然目の前で回転するメイアを不思議そうに見送っているゴブリンの頭が次の瞬間カウンターで決まった蹴りによってちぎれそうなほどのけぞりそれについていくように体が吹っ飛んでいく。


「(でました、得意の廻し蹴り・・・)」


キースは戦慄しながらその様を見ていた。


ゴブリンに背を向けた瞬間キースにはメイアの体がぶれて見えた・・・それはあまりに洗練された動きによって抱え込んでいた膝がすばやく解放されゴブリンの頭蓋をかち割るほどのせられた遠心力と踵を鋭利な刃物のように繰り出した蹴りのせいであった。

そのあまりにすばやい蹴撃に思わず敵味方問わず息を呑む。


・・・飛び後ろ廻し蹴り・・・


もはや地に降り立つまでメイアを追撃する勇気を持つゴブリンはいなかった・・・


「・・・次はどいつ?」


メイアに殺到しかけたゴブリンが一瞬にして二体の同胞を地面に伏した女に本能的な恐怖を感じ、思わず全員が一歩下がる(レイとリッチも・・・)。


   ((こ、恐っ!!))


怯えあがるゴブリンと二人・・・


それもそうだろう・・・ヴェインを恐れるのは明らかに圧倒的な力の差が見えているからだ。纏うオーラが違えば放つ妖気も桁外れ・・・戦えば一瞬で殺されてしまうのはすでに自明の理だった。


では、この目の前の女は何者であろう? 今までこれほど気味の悪い者を見たことがない。

圧倒的なプレッシャーを感じさせるわけでもなく、魔法の威力も確かに強力だが躊躇うほどのものでもない・・・ではなぜか・・・そう・・・この女は腰に剣を差していながらそれを一度も使っていないのだ。


振るわれるのは己が肉体のみ・・・にもかかわらずその拳で、その脚で、ゴブリンは一撃の下に静められている・・・


過去これほどの悪夢に遭ったことがない・・・


「ギ! ギィィィッ!!」


ジリジリと近づいてくるメイアに警戒して声を掛け合うと予想外な事に全匹メイアに背を向け全力で逃げ始めた。


「! ちょ、待ちなさい!!」


本人ですら思いもよらぬ展開に戸惑い慌てて追いかけるが、やはり出遅れたために追いつけない。


逃げ場のないゴブリン達の向かった先は・・・


「・・・なんとなくわかりますけどね・・・」


キースが溜息をつきリオが油断なく剣を構えている北地区の侵入してきたコースだった。


「ギィ、ギィィッ!!」


残された道はここだけとゴブリンは怒涛勢いで流れ込んでくる。


「このままだと・・・非常にまずいですね・・・」


「・・・」


何処か他人事のように考えながらキースとリオは必死に迎撃し続ける。


放つ炎と槍のような水柱はその一撃一撃で数体のゴブリンを屠りさっていく・・・


しかしそれでもゴブリン達は止まらなかった・・・否、止まれなかった。後ろから雷撃を放って近づいてくる女に接近戦を挑まれたら最後・・・と完全に本能が語っていたからである。


いやでもゴブリンが退けないのも頷ける。


ついに炎弾と水槍の合間、詠唱中のキースに三匹のゴブリンがその射程におさえる。水槍に貫かれ体液を撒き散らしながら止まらず飛びかかってくるゴブリンに舌打ちし、剣で迎撃を試みようとするが間に合わない。


自分自身の血によって赤黒く塗れた石器や棍棒を振りまわし殴りかかってくるゴブリンを通し、全ての魔物に決して引くつもりはないと瞬きもせずに睨みつける、すると唐突にゴブリンの身体が宙でぐわりと歪む。


「!?」


同じく驚いているリオが目を瞬かせて目の前の光景に立ち尽くしている。


「ギ・・・」


不可視の黒い衝撃波を受け宙に固定されたゴブリンはぐしゃりと潰れ鮮血を滴らせながら後方に吹っ飛ぶ。突然の咆哮に驚き慌てて飛びかかるのを止めたゴブリン達もキースとリオの間からまたたくまに飛んでいく衝撃波の前にあっけなくその身を物言わぬ肉塊へと変える。


キースはゴブリンが潰された事によって生まれた二つのクレーターに目をとられながら、ゆっくりと背後にいるだろう魔物に動揺を悟られないよう努めて声をかけた。


「・・・助けてくれとは誰も言ってない」


「フン、イチイチシツコイヤツダ、タダノキブンダキニスルナ」


ヴェインは二人の間を悠々と通りすぎると残り少なくなったゴブリンの群れへと歩を進めていく。


その背中にリオが無言で剣を構えなおすの見て、溜息をつきながら手で制する。


「・・・敵ではありません・・・」


無愛想に告げ、キースが剣をおさめる。


その姿をやはり無言で見ていたリオが、キースに習って同じく剣をしまうと今だヴェインに怯えた様子のキャシーの元へと歩み寄っていった。






「終わった・・・の?」


ついに逃げ惑う最後の一匹をヴェインが踏み潰し、広場からゴブリンの姿が消えた。メイアはその事実を確認するように呟く。その問いに返すものは誰もいなかったが次第に任務成功という実感が広がっていき頬の筋肉が弛緩していく・・・


「だ〜〜〜っ!! 終わった〜〜〜!!」


「やった! 無事任務完了!!」


メイアの声を皮切りにレイが続き、リオ、キャシー、リッチはそれぞれ安堵の息を漏らす。


「まだはっきり終わったわけではありません。とはいえ・・・」


キースも達成感が胸に広がっていて言葉にも咎める色は少なかった。


「レイ様ーっ! ・・・すみません! 援護することが出来ず・・・処罰はどのようなことでもお受けいたします」


「いや、そんないいよ。オレは実際こうしてここにいるわけだし・・・そんな気にしないで? ね?」


「ですが・・・」


「オイ」


涙交じりに謝罪するマナに困惑していると犬の姿に戻ったヴェインが近寄ってきた。


「ヒィッ!!」


「あ、リッチ君・・・」


犬の姿に戻ってもすでに正体がわかっているからかヴェインから急いで遠ざかる。


「よわったな〜・・・」


これから帰りも一緒にいることになるのだから、いつまでもこれでは困るのにと戸惑いキース達に顔を向けるが、キース達はリオ達にヴェインの事を説明していた。


(・・・と言う事は・・・リッチ君の説得は・・・オレ・・・?)


「リッチ君・・・」『お兄ちゃーーーん!』



とりあえずあまり刺激しないようヴェインに動かないでと言いリッチの方へと近づいていくと、彼の後方・南地区の方から走ってくる少年の姿に気がつく。

その少年は・・・ゴブリンが接近しているのに気づいたとき一緒にいた少年だった。

「あ、家から出ちゃ駄目って言っただろ〜!」


途中後ずさりしているリッチを通りすぎて駆け寄ってくる少年の笑顔につい言葉から力が抜ける。


苦笑しながら近づいてくる少年に向かって手を伸ばす。


少年の無邪気な様子に場から緊張が一気に解けていく。


後一メートル・・・そのわずかな距離の中に大きな影が突如割って入ってきた。


影・・・ゴブリンによく似た姿をしているがその大きさが明らかに違う。

体長はおそらく4メートル以上、教本にのっているゴブリンとはまったく違う

おそらくゴブリンの亜種だろう・・・

誰かがその影を認識するより早くその化け物は大地に降り立ち、レイの目の前で少年を掴み上げる


レイは突如目の前に現れた、大きな山に反応する事ができずただ見つめる事しかできなかった。

そしてそれを理解するよりも早く魔物は唸り声を上げ南地区へと駆け抜けて行く。


「お兄ちゃーーーーん!!!」


遠ざかっていく大きな背と少年の悲鳴に我に帰り慌ててその後を駆ける。

緊張の緩んだ瞬間唐突に発生したことで全員が完全に出遅れる形となってしまった。

それでもいち早く反応したキースが魔法を魔物に放とうとするが少年が奴に捕まっている事を思いだし慌てて中止する。


「クドイ君!!!」


キースが魔物の逃走コース上にいるリッチに呼びかける。


リッチはガクガク振るえる両手で剣を構えるが、完全に腰の抜けているリッチには魔物を止める力はなく、剣を振ることさえかなわず道端へ弾き飛ばされる。


再びもとの姿に戻ったヴェインが一気に駆けるが、追いつくまで数秒かかる。


         ・・・お兄ちゃん僕達を守るために来てくれたの?・・・


レイは唇を噛み締めながら必死に追いすがった。


         ・・・ああ、君達はオレ達が守って見せるよ!・・・


(あの子と約束したんだ!!)


レイの切迫した感情に精霊達が即座に反応して目覚める。

両足が光の燐光を纏い始め、次の瞬間には駆け抜けていったヴェインを抜きさる。

その尋常でないスピードの中にあっても戸惑うことなく受け入れる。


(みんなを守るって)


迫りつつある魔物の背を睨み、レイの意思にノヴィスが答える。


「・・・光りの粒子よ その無限の形を変え今一条の軌跡となれ!!」


頭に浮かび上がる祝詞を読み上げ魔物へ向けて掌を向ける。

読み終わると同時に光の矢が手先の宙に顕現し魔物へ向かって飛来する。


―――その時、魔物に矢が届く直前レイの耳に少年のくぐもった声が確かに届いた・・・


魔物が全力で逃げるために掴んでいる手に力が入り少年を圧迫したのだ。

間髪入れずに矢が魔物の左肩に突き刺さり、同時に光の粒子が傷口からこぼれ瞬時に肩から左腕を爆発消滅させる。


いきなり身体の五分の一近くを失った魔物は悲鳴を上げて少年を空高くほおり投げ、報復すべく振り返る。


「ザコガ!!」


そこへすでに目の前に迫ったヴェインが魔物の残った腕を噛み切り両手を失った魔物の顔面へ特大の衝撃波を放つ。

為すすべなくぐしゃりと生々しい音を最後に魔物は地面に倒れこんだ。


一方瞬時にヴェインと役割分担したレイは落ちてくる少年をその手で受け止めていた。


少年の体からは考えられないほどの血が流れ出し、骨が所々砕けているようだった。

内臓その他の器官も損傷が酷いのか時折血を吐き出している。


信じたくもない現実・・・受け入れがたい事実・・・レイは泣きそうになるのを必死にこらえて自分に出来る事を探す。


「ノヴィス!! 俺の望む力を顕わすと言ったよな? 頼む! ヴェインのときと同じようにこの子も治して!!」


           ・・・それは・・・できない・・・


「なんでだよ!?」


返ってきた言葉は身を切るより辛い内容だった。


           ・・・魔物は元より魔力との親和性が高い、が人間はそうではない・・・我が主よ・・・主の力を他の人間に注げばたちまち反発し合い体が持たないだろう・・・


「そんな・・・なんとかできないの!??」


レイの声はもう恫喝でしかなかった・・・


「マナ!?」


たまっていた涙が溢れ出し、泣きながら自分の従者へ顔を向けるが辛そうな表情で顔を横に振られた。


「ヴェイン!?」


自分よりも圧倒的に長く生き、さまざまな知識を持つ護衛獣へと顔をずらすが無言で顔を背けられた。


「・・・キース・・・」


そして昔からいつも頼りになる存在であった親友へと視線を移す・・・しかしキースも悔しそうに拳を振るわせることしかできなかった。


「誰か・・・この子がぁ・・・」


吐血によって口の周りが赤く染まっている少年を両手で抱きながら泣く事しかレイには出来なかった。


「お・・・にぃ・・・ちゃ・・・ん・・・」


「うぅぅ・・・ぅぅぅ・・・ふぐぅ・・・ぅぁぁ・・・・」


「・・・痛・・・い・・・よぉ・・・い・・・たい・・・よぉ・・・」


苦しげにうめく少年に両手で揺らめく燐光がゆっくりと伝っていきその身を淡く包み込み始める。

少年の体を保護するように移った精霊達が申し訳なさそうな顔で顔を横に振る。


         ・・・私達には痛みを和らげる事しかできません・・・


レイの感情を敏感に感じ取っているのか精霊達も皆一様に悲しい顔で舞い踊る。


「・・・・・・お兄・・・ちゃんの・・・腕・・・温・・・かい・・・・・・」


「・・・ぅうぅ・・・ごめん・・・守って、あげられなくてぇ・・・ごめん・・・」


精霊達のおかげで痛みが薄くなってきたのか、少年が力なく微笑む。

こんな事になってしまっても無邪気に微笑み続ける少年にレイは一層涙がこぼれる。


「何で・・・泣いて・・・るの? ・・・お兄・・・ちゃんは・・・約束・・・守ってくれた・・・よ? ・・・怖いの・・・から・・・僕を・・・ちゃん・・・助けて・・・くれた・・・ゴホゴホッ・・・」


「違う・・・ぅぅ・・・」


咳をすると少年の口から真っ赤な血が吐かれる。


「僕を・・・助けてくれて・・・あり・・・が、と、う・・・・・・・・・・・・・・・」


少年の身体から力が抜け、顔がゆっくりと横を向いていく。鼓動が小さくなり荒い呼吸音が聞こえなくなっていく・・・そして小さな命が一つ失われていった・・・


「・・・・・・違う・・・・・・・・・・・・オレは・・・・・・・オレは守れなかった・・・・・・・・君を・・・守る事ができなかったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


少年の骸を手に抱いたままレイは空に向かって叫んだ。悲痛な叫び声は聞いていた全員の胸に酷く響いた。


「・・・・・・・守るってぇ・・・オレが守るってぇ言ったのにぃ・・・約束したのにぃぃぃ・・・・・・・・・・・・」


いっそ少年に恨まれたほうが良かった。

その方がよほど自分にはふさわしいのだから・・・

だが少年は恨むのではなく最後までレイに感謝しながら死んでいったのだ・・・『助けてくれてありがとう』と・・・最後まで純粋であった少年の命を救う事ができなかったという事実がレイをなにより責めたてる。


「・・・オレは・・・自分が憎いよ・・・・・・・聖光の者だとか、任務を他の同期の人よりこなしてたとか・・・浮かれてたんだ・・・・・・他の人より自分は何かができるんだって、何かをする力があるんだって・・・でも・・・」


「レイ様・・・」


少年を抱きしめ身を震わせるレイにマナが哀しい眼をしたまま声をかける。


「でもオレには、ボクには何もできなかった!! みんなに守られて、みんなの足引っ張って、偉そうに自分は何でもできると思ってたのに、この子一人守れなかった! 約束一つ守れなかった! ・・・冷たくなってくこの子の痛みを和らげる事すら精霊にしてもらって・・・ボク自身この子に対して何もできなかった・・・・・・ボクの慢心が、この子を殺したんだ・・・・・・ボクが・・・この子を・・・ぅぁぁ・・・」


レイには泣き叫ぶ事しかできなかった。

自分の無力さに嘆き苦しむ事しかできなかった。

たとえそれがどれほど無意味であっても、過去でいかに学んでいようとその手の中にあるものは現実であり、容認しがたい事実であった。


それでもレイにはそれを受け入れる事しかできなかった。泣いて、喚いて、自責して・・・それを受け入れる事しかできなかった。


悲しみに沈むレイにかける言葉を誰も持ってはいなかった・・・なぜならその光景は立ち尽くす者全員の心情でもあったからであった・・・






・・・・・・・・・それが、一行が最も最初に経験した任務の実情であった・・・例え魔物討伐が専門のアルカイック士官養成学校の士官であっても一度任務が始まれば、必ず多数の被害者が出る・・・それは戦闘を行う士官に限らず、巻き込まれた住民たちも含まれる・・・いかに強力な士官がいようと魔物発生の報告は後を立たず全てに手が回らないのが現状であった。


客観的に見れば魔獣の手を借りたからといっても今だ新人である士官がたった七人で総計七十にも及ぶ数の魔物を殲滅したのだ。

それを考慮し出た被害者が一名と考えればそれは信じられない奇跡であり功績であった。

だがそれを素直に喜ぶ人間はこのチームの中に誰一人として存在しなかった・・・






               第十一話(2)完・・・


                                            第一二話へ・・・    

コメント(1)

・・・もう何も語るまい・・・お疲れ様です(苦笑)

今回は、ええ。不本意ながらこういう結果をとらせていただきました。

ええ、大変不本意ですが、成長を書く上ではどうしても
はずせないと思ったんで・・・

それでも仲間を・・・するのはいやなんで・・・

だったらと仲良くなった人を・・・しました。

・・・泣かないで・・・君の存在絶対忘れない(レイが)

君の分も強く生きるからね(レイが)

・・・ここまで読んで・・・もらえるんだろうか?(苦笑)

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