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みんなにやさしい自作小説コミュのREKIRIMA(10)

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先日リザードによって負わされた傷は自他ともに驚く回復力を見せ、二日で完治してしてみせた。

「精霊達がレイ様を助けようとした事に違いありません!」

マナは両手で握り拳を作り妙に息巻きながら言ってきた。

レイ自身眠っている間や起きている間中、ずっとそばに精霊達の気配を感じていたのでマナの言っていることはあながちはずれてもいないと思うのだった。




第十話 黒い咆吼(1)





〈〈傷の完治した翌日の朝〉〉



ウッドコロニーを囲むように群生している樹海より上り出た朝日が窓より差込む。

陽光は、身を包み込む安らかで落ち着いた雰囲気の部屋から明るく活気に満ちあふれた雰囲気の部屋へと作り変えていく。

・・・今、レイの部屋にはあの日【コマ】の管理人・『おばちゃん』のはからいによって住むことになったマナと、起こそうとしてくれるのだがマナでは結局起きないために最終的に起こしてくれるキースがいる・・・



「・・・キースさん、やはりそれはあんまり・・・」

遠慮がちに口を開くマナ。哀しそうな視線の先には今だ締まりない笑みを浮かべて寝ている青年がいる。

「いや、あまり気にしない方がいいです。せっかく貴方が毎日起こしに来てくれているというのに毎度起きれないこの馬鹿がいけないので・・・」

しかしキースはそう言うと、肩に担いでいたハンマー(その側面部に百tとでも書けそうなほどに巨大な)を握りしめベッドの上の人物へと一気に振り下ろす。

その動作に全くためらいはない。

   ズガァッ! ミシッ・・・

勢いよく振り下ろされたハンマーは狙い違わず標的を押し潰す。

ベッドは軋みを上げてハンマーの一撃を食らった人物をその中へめり込ませる。

「ぐ、ぐるじぃ・・・」

しばらくすると、ベッドの中に身を沈めていた人物が苦悶の声を上げて這い出てくる。

純粋な黒髪をぼさぼさにして寝ぼけている目をしきりにこすりながら、青年=レイは起き上がる。

「う〜ん・・・キース、毎度ながら酷い・・・」

抗議がましくジト眼で見やるがキースは全く気にした様子はない。

「いや、君は最近打たれ強くなってきているから別に構わないだろう。その証拠に君のコメントは『痛い』ではなく『苦しい』だ。明らかに痛みではなく呼吸困難を訴えている・・・」

「いや、冷静に分析されても・・・」

眼鏡に手をかけながら冷静に話すキースにげんなりした視線を送るレイ・・・

「それより朝ですよ! 早くご飯を食べに行きましょう」

さすがに三度目は平常心で流すことができたマナがレイに話しかけた。

・・・キースがレイをいつも通りたたき起こそうするのを初めて目撃した時のマナは必死でレイを守ろうとしたのだが・・・



「突然何を!? ・・・まさかキースさんが刺客だったのですか!! ・・・レイ様ここは私に任せて早くお逃げください!!」

必死にレイを背にかばいながらマナには不似合いな無骨とした杖を両手で握りしめる。

「いやマナさん、これは「問答無用です!!」

・・・・・・

その日レイの部屋の壁に穴が開いた・・・



「レイ様?」

回想に入っていたレイを、不思議そうに覗き込んでくるマナ・・・

「ん? ああ、今行くよ」

レイは慌てて意識を戻すと寝間着の上着を脱ぎ始める。

「・・・君は少しくらい羞恥心というのを持ったらどうなんだ?」

マナの目の前で着替え始めるレイを溜め息混じりにキースが咎める。

キースの言葉に視線をやるがマナはにっこり笑って受け止める。

「私のことは気になさらずに続けてください」

「だって」

さして気にした風もないレイは再びキースに視線を移す。

「・・・(マナさんの方も少し世間ずれしているな)」

キースは再び長〜い溜め息を吐いた。

「さっさとするんだぞ・・・」

そう言って部屋を出ていくキース。

「?」

キースの不可解な態度にレイはマナと顔を見合わせる・・・

「?」

が、マナもレイと同じような疑問符を浮かべていた。



着替えを終えて身支度を整えたレイはマナを連れてドアを開ける。

いつも通り、入り口のすぐ横に立っていたキースはこちらを確認すると「行くか・・・」と先を歩き出した。



〈〈食堂〉〉



食堂に入ると、すでに席についていた紫髪の女の子に自然と目が移った。

女の子の方も入ってきたレイ達に気づくが、すぐに興味なさそうに視線を朝ご飯に戻す。

「おはよう〜」

「はいはい、身体はもう大丈夫なの?」

「おかげさまで〜」

「そっ」

レイは女の子=メイアと同じテーブルの向かいの席に着く。

マナは当たり前のようにその隣の席に座る。

先を歩いていたキースは空いていたメイアの隣の席に座っている。

「それにしてもメイアがここに住むだなんて知ったときは驚いたよ」

三日前去り際に意味深な質問をしてきたメイアの姿を思い出す。

「そお? ここアル学に近いしあんた達もいるから・・・まあチームメイトとしては同じ所にいた方が何かと便利かと思って。まっしかたなくよ。し・か・た・な・く♪」

口の端を小さく上げ知らぬまに微笑んでいたメイアはなるほどと頷いているレイを視界の端に見止める。

(アル学まで歩いて四十分・・・距離で言うならもっと近い寮は他にもあったはず、別に無理に固まって住まなくとも任務の時だけその場にいればいいだけ・・・)

メイアの隣で静かにご飯を食べていたキースも実はレイほどではないがメイアの急な引越しには驚いていた。

(それほど家にいたくはないという訳か? それとも僕らと一緒にいて何かメリットでも感じたか・・余計な詮索はやめておこう。彼女に対して失礼だな・・・)

キースは黙々と食べ物を口に運び続け、途中思い出したように水を飲む。

「それじゃこれからはみんなでアル学に行けるんだよね? 楽しみだな〜」

「そんなこといいから。ほら、さっさと食べなさいよ。食べ終わったら行くんでしょ?」

「んおう! そうだった」

思い出し慌てて食べ始める。

半ば飲み込んでると言った方が正しいレイがいきなりビクリと震えて硬直した。

(は〜、情けない・・・)

キースは予想できていたレイの変化に呆れて溜め息が出る。

青い顔になり始めて自分の胸を必死にバンバン叩いているレイに、マナが慌ててコップを差し出す。

「レイ様!? お水を!」

差し出された水を死にものぐるいと言った様子で受け取り口に流し込むレイ・・・

「ふー、危なかった〜。ありがとうねマナ」

「いえ、これも私の役目ですから」

やっと落ち着いたレイに笑顔で答えるマナ。

(喉詰まらせた主人を助けるのが役目って一体どんな存在ですか?)

キースは朝から溜め息を連発している自分にも溜め息をまた一つしながら心の中でマナに突っ込んだ。

「・・・そんな急いで食べなくとも今日は君が早く起きれたから余裕はまだある」

この『情けない主人』であるレイにキースのあきれた声が届く。

それにホッとしたレイは「それでは」と言う感じで何気ない談笑を交えながらご飯を味わい食べ始めるのであった。



「ごちそうだまでした。じゃあ、十分後に玄関で!」

食べ終わるや否やそう言い残してレイは軽やかな足どりで自室へと戻っていく。

その後ろを例によってマナが付いていく。

(そんなに楽しいことかしら・・・)

メイアはウキウキと言った様子のレイの背中を見送りながら苦笑する。

何気なく隣に目を移すと、キースも同じような表情を浮かべていた。

(よくよく考えてみたら、私レイの性格は分かってきたけどこいつの事は今のところレイの保護者兼ツッコミ役としか分かってなかったわね・・・この前の任務でも助けてもらったし・・・ここは、礼を言っとくべきよね・・・いちよう・・・)

「・・・ちょっと」

そう思ったマナは思い切って話しかけてみた。

「? 何か?」

キースはいたって普通に答えた。

「いや、あ、あいつ元気になってよかったわね」

(そうじゃないでしょう〜〜〜!?)

いざ言おうとすると、何となく気恥ずかしくて違う事が口から出てきてしまった。

自分が何でこんなに上がってしまっているのか分からないがとりあえず胸中で叫んだ。

「? ええ、そうですね。あいつは昔から無茶ばかりするんで・・・本当によかった」

キースは落ち着いた声音で答えるとコップの水を飲む。

いきなり何の偽りもない本心(と感じられた)と普段の態度に疑問を感じたメイアは思わず聞いてみた。

「・・・あんたってなんであいつにたいしてあんなきつい言い方するの?」

意外なことだったのかキースは戸惑った表情を浮かべると、やがて苦笑しながら言った。

「あいつは小さい頃から他人のことばかり気にしているんでね、『少しは自分のことを考えろ!!』って思うんです。だからでしょうか。あいつに対してだけはつい言葉が厳しくなってしまう・・・」

「ふ〜ん・・・意外と友達想いなのね」

「意外とは心外ですね・・・べつにいつもそう言うわけではありませんけど」

眼鏡に手をかけながら答えると、キースはさらに探るような眼差しでメイアに聞いてみた。

「他にも何か言いたいことがあったんじゃないですか?」

その仕草にメイアはどきりとしながら、平静を装って口を開く。

「よ、よくわかったわね。私の考えてること・・・」

「まあ、何となくですが」

キースはやはり落ち着き払っていた。

(なんと言うか良くて感情豊か、悪くて単純な奴と長い間一緒にいるからでしょうか。割とわかりやすい人の考えてることは想像がついてしまう・・・)

思わず苦笑してしまいながら内心確信しているキース。

(あ、あ、あ、焦るな・・・この前の礼を言うだけなんだから・・・別に深い意味なんてないんだから! ここは落ち着いてかる〜く言っちゃうべきよ!!)

一方メイアはなぜか動悸が早くなる自分の身体に手を当てながらゆっくり深呼吸して、言い放った。

「こ、この間はよくも助けてくれたわね。おかげで元気してますよ! この借りは倍返しだからね!!」

いつの間にか握り拳を作って宣言したメイアは、自分自身何を言っていたのかよく分からなくなっていた。

「・・・・ぷ」

「!?」

呆けた表情をしていたと思ったら突然キースが噴出し、声を上げて笑い始めた。

もはやメイアは羞恥とやり場のない怒りで紅潮していく。

「あはははは、そうですか。では期待して待っています。く、はははは・・・」

メイアの口上を聞き終えたキースは思わず吹き出しながら苦しげに手を振り答えた。

「ちょ、ちょっと笑うなー!」

恥ずかしさに頬を赤らめながら取り繕おうとすればするほど笑いを引くのに気づかずに、お腹を抱えて身を震わさせているキースの背中をメイアはとにかく一心に叩きまくった。



〈〈レイの部屋〉〉



鼻歌混じりに支給された剣やら本やら何やらを鞄に詰め込む。

「昨日送られてきた教科書に〜、この前もらった剣だろう〜・・・って剣は鞄に入れるより腰に差していった方が楽じゃん!」

「レイ様、楽しそうですね」

一人突っ込みをしているレイを微笑みながら見守るマナ。

「ああ、だって今日からみんなで登校できるんだよ?」

微笑むマナに笑って答えるレイ。

「それで、その「アル学」には私もついていってもよろしいのでしょうか? もしだめなら・・・困りますけど・・・」

わずかに表情を曇らせたマナにレイは声だけかける。

「気にしない気にしない! ガイン教官もあれで結構いいトコあるから。事情を話せば大丈夫だって!!」

大仰に手を振って不安と払い飛ばすようなジェスチャーをしながら、レイは陽気に言った。

「レイ様がそうおっしゃるのなら」

レイの言葉にマナの曇っていた表情が即座に晴れる。

その変化に内心ホッと胸を撫で下ろすとレイは支度を終え、鞄を背負う。

「それじゃ行こっか?」

「はい!」

腰に差した剣に多少戸惑いながらも鏡の前で軽くポーズを決めると、マナを連れて部屋を出ていく。

「女の子と一緒に歩く」と言うことにさりげなく胸を躍らせながらレイはスキップに近い歩調で階段を下り、玄関へと移動する。

レイが玄関近くまで来たとき、すでにキースとメイアの二人は玄関入り口に立っていた。



「遅い!」

レイがマナを連れて出てくるのに気づくと開口一番メイアは腰に手を当て言い放ってくる。

「えっ?だって十分後にって言った気がするけど・・・」

(確か部屋を出るときは予定より早かったはずなのに・・・)

驚きながら返すレイをメイアは相手にしない。

「普通は五分前行動よ!」

大威張りな態度でメイアは胸を反らして言ってくる。

「ご、ごめん」

つい勢いで謝ってしまうレイ。

「わかればいいのよ」

「くす、それじゃ行きましょうか・・・」

満足そうに言うメイアを確認してなぜか思い出すような笑いを漏らしながらキースは切り出すと、一人先頭を歩き始める。

その後をなぜか顔をうっすら赤くしたメイアが拳を振るわせながら走って追いかける。

いつの間にか二人が仲良く(そう見えた)なっているのに、いつのまに? と思わなくもなかったが、まあいい。とレイもマナと一緒にその後に続く。

アル学に続く道はいつも通り、否。いつも以上に明るく暖かかった。

陽気に歩いているレイたちにおばちゃんが一人話しかけてくる。

そのおばちゃんは、前から良く話しかけてきてくれる近所の優しいおばちゃんであった。

「おやレイ君、おはよう。今日はずいぶんと楽しそうね〜? そちらのお嬢さんがたのおかげかしら?」

おばちゃんは何やら意味ありげに笑う。

「今日からアル学に行くことになったんだ!! で、この二人はオレの新しい友達!」

レイはもちろんおばちゃんの笑みの意味に気づくことなく元気よく答える。

威勢のいい紹介に、会話に参加していなかったメイアとマナも慌ててそれに合わせる。

「へ? あっと・・・メイア・リトライトです」「マナ・ルーンです」

礼儀正しくお辞儀をする二人。おばちゃんはうんうんと頷くと、レイににじり寄る。

「それで、どっちがレイ君の本命なんだい?」

「お、おばちゃん!?」

意地悪そうに「イヒヒ」と笑うおばちゃんに頬を染めて困るレイ。

「もしかして二人とも? んもう〜、最近の若い子は気が多いんだから。イッヒッヒ・・・」

「そ、そんなんじゃないんだってば!! ・・・もう行くよ!」

なおも意地悪そうに笑い続けるおばちゃんに何を言っても止まらないと思ったレイは拗ねたようにそう告げて足早に逃げ出し始める。

「がんばるんだよ〜」

果たしておばちゃんはどちらに対して「頑張って」と言ったのか・・・

アル学のことに対してか、それとも・・・

「あの人誰?」

いつの間にか隣に来て歩いているメイアが怪訝な表情で問い詰めてくる。

先程のおばさんの言葉はもちろん二人にも聞こえていただろう・・・

「近所の色恋話が大好きなおばちゃん。いつもはあんな事言ってこないのにな〜・・・」

そう言ってメイアとマナを見やる。

「・・・なによ?」「・・・なんでしょう?」

レイの視線に気づいた二人はそろって不思議そうな表情を浮かべる。

「あ、いや・・・(やっぱりこの二人がいたからだよね〜・・・オレ今まで女の子と歩いた事ってマリとぐらいだし、それに二人とも周りから見てもやっぱり可愛いから・・・おばちゃんのセンサーに引っかかるのもしょうがないか・・・)」

小首を傾げて顔を見合うメイアとマナ・・・なぜかマナの仕草にレイは動悸が早くなるのを感じた。

(・・・可愛い・・・)

メイアと不思議そうに話しているマナは、見惚れているレイの視線に気づくと柔らかな微笑みを返してくる。

!!!

いきなり鈍器で頭を殴りつけられたような気がした。

そして、なぜだかわからないが非常に恥ずかしく、また照れくさくなってしまい赤面した顔を慌ててそむける。

自分でも怪しすぎるこの態度を誤魔化すように淡々と歩き続けるキースの横を並んで歩き始める。

「キ、キ、キース?」

「?」

もちろん話題になるようなことなんて思い浮かばない。

今はただ自分の身に宿った炎のように熱い何かを紛らわそうと口を開くだけだ。

「きょ、今日はいい天気だよね・・・この分だと時間までにはアル学に着きそうだし、いやホントいいことずくしだ。あは、あはははは・・・」

あきらかにわざとらしい会話に思わず乾いた笑いが込み上げた。

「? ああ・・・」

様子のおかしいレイにいぶかしげな視線を送るがレイはただ乾いた笑い声を上げるだけだ・・・

思わず、メイアとマナの方を振り向くが当然二人からは「?」としか返ってこない。

何か変な物でも拾い食いしたか? と半ば本気で思い始めるが、すぐに考えるのをやめる。

(まあいいか・・・問題ないだろう・・・)

あくまで冷静にレイを見据えたキースはたわいない話に「ああ、・・・」と適当に相槌を打つだけにしておいた。

そんな奥手なレイと、それに無頓着なマナ。マナといつのまにか親しく話をしているメイアとレイの隣で一人静かに目的地に目指して歩いているキース。

一行はアル学にはなぜか予定よりもずっと早く着くのだった・・・



〈〈アル学ホール入り口〉〉



アル学に着いた四人は入り口をくぐりホール入り口へと移動した。

ホールに入ろうとした四人は、そこでホール奥からこちらに向かって歩いてくる自分達の担当教官を見止めた。

「ガイン教官! おはようございます!!」

レイは三人を代表して大きな声で挨拶をする。

「おう、身体の方はいいようだな・・・」

「はい! もうこの通りぴんぴんですよ!」

言いながらレイは両手をぶんぶん振って見せた。

「ほう・・・そいつは丁度いい・・・」

その時ガイン教官はなぜか邪悪な笑みを浮かべる。なぜかその笑みに背筋が寒くなるレイ・・・

「・・・で、そっちのは?」

いくらか間をおくとガイン教官はレイの後ろに控えていたマナに視線を移す。

「あ、ええと、マナは・・・」

レイはガイン教官の笑みに怯えながら簡潔に説明する・・・



「・・・それで、貴様の従者としてここにいるという訳か・・・」

レイの大まかな説明とマナがいくらか補足した事でガイン教官はあの初任務での事と、目の前にいる少女の事はだいたい把握した。

ガイン教官はいくらか考え込むような仕草をしたがすぐに続ける。

「まあ、別に構わんだろ。戦力が大いに越したことはないしな・・・」

「しかし、ガイン教官。試験もしていない彼女を今後も僕達と一緒にいるのは何かと危険ではありませんか?」

キースはこの『実はよく考えてない教官』を初任務の時嫌と言うほど思い知らされたので、いささか慎重になっていた。

無論キース本人に「気にしすぎじゃない?」と言ったところで「用心に越したことはない」と言ってのけるであろうが・・・

「実力の方は大丈夫だろう? 従者となるために育てられてきたのだったな?」

「はい」

「ならだいたいの技術は身につけているだろう。戦闘のことに関しても、な?」

「はい」

挑戦的なガイン教官の問いにもはっきりと答えるマナ。

キースはこの二人のやりとりを聞いて思わず溜め息を吐いた。

(もうだめだ・・・このお気楽小隊の先が行きが不安だ・・・)

「・・・わかりました。それで今日は何をしたらいいんですか? 教官」

げんなりとしたキースは多少投げやりに言うと、眼鏡に手をやり気を取り直す。

「ふ、ではこれから出発だ!!」

再び獰猛な笑みを張り付けたガイン教官はキースの問いに「打てば響く」といった調子で即答してきた。

「これから!?」「これからですか!?」「これからですって!?」「・・・」

それにレイ・キース・メイアは敏感に反応する。

特にキースの表情からは「またか!?」という感情がありありと見て取れる。

「そうだ、これから俺が解決してこようとしていた任務だが、まあ丁度いい。貴様等も手伝え!」

ガイン教官はそう言うと三人の首に目にも止まらぬ早業でロープを縛り、そのまま強引に引きずっていく。

唯一捕まらなかったマナだが、引きずられていくレイについていくので問題はなかった・・・



〈〈ウッドコロニー周辺の樹海〉〉



レイは森の中に作られた通行用の道を楽しげに歩いていた。

その隣を当然のようにマナが付き従っている。

「・・・それで今回の任務の内容とは何ですか?」

二人を視界に入れながら、キースは溜め息混じりに先頭を歩くガイン教官に尋ねた。

「ああ、今回はある区域に突然出現した『魔獣』を殲滅する。」

「魔獣を!?」

さらりと言ってのけたガイン教官にキースが驚きの声を上げる。

「魔獣って?」

どうやらすごいってことらしいだけは伝わったが、それ以上はレイには伝わってこない。

当然のように聞いてくるレイに、キースは頭痛を覚えた。

「・・・分かりやすく言うと魔獣って言うのは魔物の中でも特に強いグループにいる奴らのことだ。魔物の強さを「A・B・C・D」の四つの等級で分類しているのは分かるか?」

「ん〜・・・! ああ、そう言えばガイン教官がそれっぽいことを前にちらっと・・・」

わずかに黙考したレイは、ひらめいたように手をぽんと叩く。



・・・魔物の中でも繁殖能力がかなり高いトカゲタイプだ。間接攻撃などの類はないD級の魔物・・・



「言っていたような・・・」

「・・・それで魔獣と称される魔物のすべてが「A・B」級に分類されている。他に補足するなら「A・B」級には魔獣の他に『神獣・妖獣』と称され分類されているものがいる。いずれも強力な魔物で殲滅するのなら理想とする戦闘方は一対複数・・・」

そこまで言うとキースはガイン教官の方を向く。

「・・・そんな強力な魔物を今回は【殲滅する】と言うことですか!!?」

「ああ、そうだ。よく知っているな」

感心しながら答えたガイン教官が振り返って目を合わせる。

「この三日間無駄にしてきた訳じゃありませんから・・・それにしてもこの人員でですか? 僕達はまだ素人ですよ!?」

「前回もそんなことを言っていなかったか?」

戸惑いを隠せないキースは思わず声を荒げるが、ガイン教官は涼しい顔をして痛い一言を告げる。

「そ、それは・・・」

口ごもるキースはいったん目を伏せると気まずそうにレイと目を合わせる。

「? 今回も大丈夫だよきっと」

しかし、レイには事の重大さが伝わっていなかった。

軽い目眩を覚えたがキースは軽く頭を振ると、諦めたように溜め息を吐く。

「・・・それで基本的に今回僕達は何をしていればいいんですか?」

(その内容次第で僕達の生存率が違ってくるだろう・・・)

「貴様等は俺の戦闘のサポートだ。貴様等がエレメントを使って援護し、隙ができた時点で俺が決める。そんな感じだ。後は現場に置いて臨機応変!!」

(だめだ、不安が無くならない・・・と言うか増えていく・・・)

何で自分がこんなに困らなくてはいけないのか・・・キースは自問すると仲間である三人に視線を移す。

「・・・? 何よ? 私がいるから大丈夫よ」

最初に目の合ったメイアは根拠のない自信で身を固めている。

次にマナだが、彼女の表情からはわずかに不安の色が見て取れる。

(数少ない味方だな・・・)

自嘲気味に笑うと残った「〜年来の親友」に顔を向ける。

「?」

(だめだ・・・これは・・・)

わずか二秒でキースは判断を下した。

(ああ、そうだ。この周りの連中のおかげだ! 教官はアレ出し、仲間はコウだし、結局現状を考えるのは常人である僕だけじゃないか!?)

レイに少しでも頼ったりすると、その辺りから崩れていきそうで怖い・・・

こんな気さえしてくる自分がキースはどこか哀しかった・・・



一方レイは何かが頭の隅にひっかかっていた。

「あの、『突然出現した』っというのはどういうことなんですか?」

キースはどうやら標的の強大さに気をとられているようだけど、レイにはなぜだかこっちの方が気になった。

「・・・ああ、この魔獣というのは前から別の場所で確認されてきた奴でな・・・こんな見境なくやる奴じゃなかったんだが―――」

「狙われるほどのことをしたのでしょ!?」

信じがたいのかガイン教官が濁していると、キースが続けた。

レイの眼にはキースがとてもつらそうに映ってみえた。

「・・・所詮相手は魔物です。一時おとなしくしていても、結局は人の敵です・・・」

沈痛な面もちのキースを一瞥すると、ガイン教官は口を開いた。

「・・・奴は近くを通った商人を殺した、事件のことはすぐにこちらにも届いたので至急殲滅命令が出た・・・」

「キース・・・」

「レイ・・・大丈夫だ、君みたいに一人で突っ走ったりはしない」

普段とは違う雰囲気に気づいたレイに皮肉混じりに返すとキースは無理に笑って見せた。

「まあ、安心しろ。俺がいる限りはそう危険なことにはならんからな!」 

ガイン教官は暗くなったキースを笑い飛ばす勢いで豪快に笑って見せた。

(前にもそんなこと言ってなかったっけか・・・?)(前回もそう言ってたはずですが?)(どうせ危険になるんでしょ?)(ほっ・・・)

幸か不幸かおかげで暗い雰囲気は消えていった。

代わりに前回の経験のある三人からは半眼で白い眼差しを注がれることになったが・・・

「な、なんだ? その目は・・・さっさと行くぞ!!」

あまりの視圧に珍しくたじろいだガイン教官は視線から逃がれるように再び先頭を歩き始める。

その背中を追う三対の疑念の眼差し・・・

レイ達はこの時確かにチームとしての妙な一体感を感じていた・・・(泣)



〈〈深い樹海の中〉〉



「そろそろ襲撃されたポイントに着く、各自警戒を怠るな! 奴は鼻がいい。縄張りに入った時点で駆けつけてくるだろう」

延々と歩き続けていたガイン教官はやっと立ち止まると四人に振り向き口を開いた。

「鼻がいいって・・・どんな奴なのよ?」

説明不足の教官を持ったことに慣れ始めている自分を自覚しながらメイアは質問をする。

「・・・まあ、でかい犬だな。さして問題はない。」

「犬・・・ですか、種族は?」

あきらかにおおまかすぎる説明に溜め息を吐き続きをうながす。

すると答えかけたガイン教官が不意に腰の剣へと手を運ぶ。

「・・・それは自分の目で確かめるといい、来るぞ!!」

ガイン教官の言葉と四人の右側にあった木々が引き裂かれるのはほぼ同時であった。

!!!!

ガイン教官は突然のことに動けない四人を庇うように立つと、木々を引き裂きこちらに向かって飛んでくる不可視の衝撃波を剣で斬りつける。

ガギィィン!!

力と力のぶつかりによって、衝撃波はガイン教官のいる地点を中心に周囲を激しい突風で吹き荒らし掻き消える。

「お前らは後ろに下がれ!!」

大声で叫ぶとガイン教官は油断無く剣を衝撃波の飛んできた方向に構える。

言われたとおりガイン教官から離れるように移動しているとそいつは現れた。



  ガァァァァァァアッ!!



確かに、それは四本の足で大地に立ちしっぽを立て、大きな犬歯をぎらつかせながら唸り声を上げている。。

その姿は犬に似ていると言えなくもない。

しかし・・・犬と呼ぶのにそれはあまりに異形すぎた。



それの全身は鎧のような荒い剛毛に覆われ、漆黒の闇を思わせる体毛が闇光りしている。

それの肢体は鋼のような身体をどっしり支え大地を堅く踏みしめている。

それの犬歯は、凶悪な口におさまりきらず古代種のサーベルタイガーを思わせる風に二本突出し、見た者に恐怖を駆り立てる光を見せている。

それの瞳は鮮血のように赤く染まり、見つめたものを瞬時に恐慌状態におく眼圧を放っている。

そして、それが魔性の者である証のように額に一つ・前足後足の肩に当たる部分に計四つの角のような突起物が生えていた。

犬というよりは狼、狼というよりは魔物、否、魔獣であるということを纏っているオーラが物語っている。



(これが犬ですって!? 一体どういう神経してんのよ!?)

あまりの迫力に数歩後ろに下がる。

レイ・キース・マナも、同じように無意識のうちに後ずさっていた。

感じたことは全員同じらしい・・・

「・・・久しいな」

魔獣から溢れ出てくる迫力にも物怖じせず、再会を懐かしむような感じさえする口調でガイン教官が口を開いた。



   ガァァァルァァァッ・・・



魔獣が答えるように一際大きく唸ると、ガイン教官にその紅い凶眼を向ける。

「キサマハ、アノトキノ・・・ニンゲンカ・・・」

「よく覚えてたな。用件は分かっているな・・・」

「・・・ダカラドウダト、イウノダ」

魔獣は鼻で笑うように言い返すと、遠吠えをするように空を大きく仰いだ。

「キサマラニンゲンヲ・・・シンジタワレガオロカダッタワーーー!!!」



グルァァァァァアアアッ!!




「うっ!」

魔獣の遠吠えは空気を震わせ辺り一帯に響き渡る。

レイ達はそのあまりの声量に耳を塞ぐ。

「何を勝手なことを! 協定を破った貴様が言うことかーーー!」

唯一魔獣の叫びに動じていないガイン教官が負けじと吠える。

そして、その言葉を合図に戦闘は始まった・・・



   第十話(1)完

                              第十話(2)へ・・・   

コメント(1)

やっと戦闘がはじま・・・りそう(苦笑)
次回か!! 次回だ!!
よ〜し、テンションが上がる〜。
みんな飛べ! 走れ! 立ち上がれ〜(笑)

この作品を考えていた中で最初から考えていたシーンが
やっと始まる・・・
あやつに出会えてよかった(意味深)

ここまで読んでいただき本当にお疲れ様です(苦笑)

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