かけはし学会コミュの羽入とポスト・モダン

はじめに
　二〇〇二年に竜騎士07（07th Expansion)が発表した『ひぐらしのなく頃に』(1)は、「泣きゲー」「萌えゲー」といった分かりやすいレッテルとは裏腹に、実はいわゆる「ポストモダン」論へのきわめて「批評的」な作品だった。以下の議論では、その批評性の意味と、そこで顕在化したポストモダンについて論じる。なお、本論ではネタバレへの配慮は行っていないので、読者はあらかじめそのことを承知されたい(2)。

１　否定神学的
『ひぐらしのなく頃に』（以下『ひぐらし』）の舞台は、昭和五八年初夏、某県鹿骨市の寒村、雛見沢村である。主人公の前原圭一は都会から雛見沢村に引っ越し、そこで出会った「竜宮レナ」「園崎魅音」「北条沙都子」「古手梨花」らと「部活」と称したゲームをし、日々のどかに暮らしている。しかし、過去に雛見沢で起こったダム建設反対運動と、その後に毎年続く「雛見沢連続怪死事件」によって村の印象や、友人らの態度が変わっていく、というストーリーになっている。
　さて、『ひぐらし』はゲームと称しているが、一般的なノベルゲームと違って選択肢が存在しない。公式見解では「推理することを楽しむものであって、ゲームである」(3)というが、私たちはここに『ひぐらし』の畸形的な点を見出すことが出来るだろう。本論の行く先を予告するならば、「竜騎士07の思惑と作品間の齟齬にこそ、『ひぐらし』「出題編」が隠蔽しようとしたものが現れてくる」だろう、というものだ。

　ではまず簡単に、『ひぐらし』が舞台となった昭和58年とはどういう年だったのかを確認しておこう。昭和五八年とは一般的にジャン・ボードリヤールの言説に代表されるような、記号の戯れ的「消費社会」としてイメージされる(4)。例えば、北田暁大が八〇年代を「無反省」と規定し、「内面なき自意識――内面形式の契機となる思想との折衝を断念し、｢私｣を記号的に粉飾することに拘泥する――に彩られた形式主義である」(5)としているように、ヘーゲル‐コジェーヴ‐フランシス・フクヤマ的な「歴史の終わり」の後の人間は、自己の内面に正当化の根拠を持たないため、外面を戯れることに終始するというような世界観だ。
　こういった世界を浅田彰(6)は「否定神学的」だと評した。「否定神学」については、多少長くなるが必要な議論なのできちんと確認しておこう。この議論は基本的にオブジェクトレヴェル／メタレヴェルの二位相の問題として思想史的にまとめられたものである。ここで補助線としてウィトゲンシュタインを使おう。ウィトゲンシュタインは『論理哲学論考』において、「思考可能なもの」（オブジェクトレヴェル）と「思考不可能なもの」（メタレヴェル）を峻別していた。ウィトゲンシュタインはそこで事象の総体を「世界」と呼び、全事象がそれぞれ対応する命題表現（論理像）を持つと規定した。思考はそれらの命題群を扱い、命題群は世界を写す。ここでは世界の限界、思考の限界、論理の限界が厳密に一致する(7)。哲学はその限界内を動くが、しかし「命題は現実をすべて描写しうる。しかし、現実を描写するために命題が現実と共有せねばならないもの――論理形式――を描写することはできない。論理形式を描写しうるには、われわれはその命題とともに論理の外側に、すなわち世界の外側に立ちうるのでなければならない」(8)という言明に現れているように、論理自体はメタレヴェルに属する。このようにオブジェクトレヴェルをメタレヴェルが規定した後に、「語りえぬものについては、沈黙せねばならない」(9)とメタレヴェルに対しての言及を禁止することによって完成する。ここまでが「形而上学システム」としてまとめられた図式である。
　では、「否定神学システム」とは何か。ここからはクリプキが七〇年に行った講義『名指しと必然性』を参照しよう。簡単に解説するならば、これは固有名についての議論である。クリプキがその講義で批判したフレーゲ／ラッセルの記述理論では、固有名を「確定記述」つまり定義付けの束として捉える。つまり名「竜宮レナ」があの少女を指すことができるのは、その名が「雛見沢村の住人」「可愛いもの好き」「栗色の髪に青い目」云々という諸性質の束を短縮したものだと考える。しかし、例えば「竜宮レナは可愛いものが好きなわけではなかった」(10)という新事実が判明したとする。記述理論にしたがえば、そのとき私たちは「『可愛いもの好き』は可愛いものが好きなわけではなかった」という命題をもつこととなる。これは一方ではA≠Aであり有意味ではないが、他方では「竜宮レナ」に関する経験的な知を随時修正することができるという意味をもつ。ここで「竜宮レナ」は「可愛いもの好き」という確定記述とは等置されないことがわかる。なぜなら、この反実仮想（可能世界の導入）という思考実験は原理的に複数の性質についても拡張可能なので（竜宮レナはAもBもCもDも行わなかった……）、結局、名「竜宮レナ」はつねに有限数の確定記述の束には還元されないことが判明するからだ。ここで、固有名は確定記述に還元されない、ある剰余が宿っていることがわかる。
　さて、「形而上学システム」においてまとめたオブジェクトレヴェルとメタレヴェルの区別と、確定記述と固有名の剰余は対応している。ならば、どこで区別されるのか。それは「否定神学システム」においてはメタレヴェルを思考の対象として扱うという点である。ハイデガーはそれを「二重襞Zwiefalt」(11)と呼び、それが思考対象（オブジェクトレヴェル）と思考形式（メタレヴェル）が折り重なる特定の存在者「現存在Dasein」だと主張したものであり、またフーコーが『言葉と物』の第九章において「経験的／超越論的二重体」と呼んだものである(12)。以上の図式はハイデガー哲学を受け継いだラカン派精神分析において精緻化された。ラカン派は世界を想像界、象徴界、現実界の三つとして区分した。教科書的には、想像界がイメージとして認識される世界、象徴界が法と言葉の世界であり、現実界が到達しえない物自体とでもいうべき現実の世界となる。では、先ほどの図式に重ね合わせよう。まずラカン派の世界はシニフィアン（言葉）に覆われている（象徴界）。それゆえ世界は形式化可能である。そして現実界、「不可能なもの」はその世界が形式的決定不可能に陥った地点に顕れる(13)。この決定不可能な点は象徴界の穴として表現され、二重襞性は直中に穴の開いた主体という形となる。否定神学システムとは、構造の剰余によって構造事態を安定化させる欠如の循環運動のことを指す(14)。
　浅田彰は、東浩紀らとの鼎談「トランスクリティークと（しての）脱構築」において、次のように言っている。

浅田　だから、「否定神学はなぜかくも好まれるのか」という東さんの問いに対するひとつのざっくばらんな答えは、われわれが資本主義のなかにいるからだということですよ。貨幣というゼロ記号がブラック・ホールとして欲望の整流器になっているような社会では、知の形態においてもそのような虚焦点をもった否定神学が支配的になる。(15)

『ひぐらし』が舞台とする昭和五八年はこのような「否定神学システム」によって捉えられる世界である。では、この見取り図からはどういった面が見えてくるのだろうか。
　周知のように『ひぐらし』は連続殺人ノベルと題されているように、推理小説的である。ここではまず、推理小説に関する論考を見ていきたい。
田中純は「逆説都市」において、ジョーン・コプチェクを用いつつ、推理小説は「殺人」という象徴的現実に統合することの出来ない外傷を、正常な象徴的現実に再統合する構造として論じている(16)。ここでは不可能な殺人、及び屍体が、正常な因果律を破る空虚な中心として扱っている。また、ジジェクは「探偵の役割は、ここでもやはり、まさしく、全体に浸透して自由に浮遊するこの罪悪感を単一の主体のなかに位置づけることによって他の人々の無罪を証明し、その袋小路を打破することである」(17)とし、否定神学システムと同型の議論を展開している。
あるいは、モニター‐プレイヤーという関係から、作品内で起こる殺人事件もスペクタクル的に起こっているというような解釈もできる。例えば、ジジェクや蓮實重彦が映画に対して言及するように、モダンな主体は映画のスクリーンを見るような形でイメージされていた(18)。そのような世界をギー・ドゥボールは「周囲をスペクタクルのスクリーンに限られた平板な宇宙のなかに閉じ込められ、そのスクリーンの背後に己れの生を強制的に追放させられてしまった観客の意識は、自分の商品や自分の商品の政治について一方的に語る虚構の対話者しかもはや知ることはない」(19)と、全ての経験がシミュラークル化してしまったというようなボードリヤール的ともいえる世界観を提示する(20)。ここで推理小説‐スペクタクル‐消費社会が交差する。そして、ここに見える風景は、上記の枠組みを正確に反映している。
さて、キャラクターの面からも取り出すことができる。『ひぐらし』で最も印象的な場面のひとつに竜宮レナというキャラクターの態度が豹変するというシーンがある。物語の前半において竜宮レナは朗らかな少女として描かれているのだが、嘘をついた圭一を糾弾する坂のシーンでは、今まで見せなかったような態度を取る。その中でも徴候的なのは、「圭一くんに内緒や隠し事があるように、…レナたちにだってあるんだよ？」(21)と、今まで見せなかった未知の内面が示唆される。結局、その内面は解答編である「罪滅し編」まで解きほぐされることはなく、以後竜宮レナは「実際には何を考えているのかわからない」という「不気味さUnheimliche」をもったキャラクターとして描かれることになる。これは、竜宮レナに特に顕著であるが、園崎魅音（詩音）、古手梨花などにも見られる特徴であり、ひいては作中の展開にもみられる構造である。どういうことか。一例としては物語冒頭では雛見沢村はのどかな村として描かれているが、綿流し以降にはさも「村ぐるみの犯罪」が起こっているかのごとく、不気味な一面を現してくる。あるいは、作中で北条家は「オヤシロ様の祟り」を中心として村において差別的な扱いを受けている。しかしながら、「皆殺し編」において明らかになったように、実際は誰一人として差別的な感情を持っていないにも関わらず、差別的な行動をすることによってあたかも差別が存在しているかのように機能している。これはジジェクがスターリニズムのイデオロギーを考察した構造と一致する。どういうことか。例えばスターリンの偉大さをたとえ誰も信じなくても、スターリニズムはあたかも全員がそれを信じているかのように機能し続ける。このように無を中心とした構造についてジジェクは現実界の論理として纏め上げている。(22)
以上のように、一面から見れば『ひぐらしのなく頃に』という作品は「否定神学システム」という枠組みをもって考察することができると言える。しかしまた、「データベース」というモデルを持っても考察できることを予告しておこう。

２　データベース的
　そもそも「ポストモダン」とは何か。解説書はすでに多く出版されているので、ここでは私たちの議論に必要なかぎりのポイントで押さえておこう（以下この節は、「ポストモダン」の理論的説明に親しんだ読者は読まなくてもよい）(23)。

二〇〇一年に出版された東浩紀の『動物化するポストモダン』では一九六〇~七〇年代以降の社会を指していう「ポストモダン」の本質が日本のオタク系文化によく現れているとし、現状を考察した消費論である。ここでは図式的な展開だけを追っていこう。
簡潔にまとめればこうだ。近代までは私たちの意識に映る表層的な世界があり、他方にその表層を規定している深層＝大きな物語があった。しかし、ポストモダンにおいては大きな物語という深層が消滅し、データベースという別種の深層が現れてくる、というものである(24)。東の考えでは、ポストモダンは浅田彰の「リゾーム」のように、表層の記号だけが多様に結合していく世界ではない。表層ではまるでリゾームのように偶然的に見える世界ではあるが、実は深層において規定された、決定論的な世界なのである(25)。
では、どのようにして変化したと論じているのか見ていこう。まず、大きな物語の凋落の後のポストモダンとはどういうことか。「大きな物語の凋落」とはフランスの哲学者、ジャン＝フランソワ・リオタールが提出した概念である。リオタールによればこうだ。ポストモダンはまずなによりも、モダンという時代の文化を根本的に規定していたさまざまな価値への不信感として現れる。「自由」や「革命」、「人間の解放」、そして「精神の生」というような物語は、人間にとっての普遍な価値の物語として、モダン時代の理論と実践とを「正当化」する役割を果たしてきた。そういった正当化のための「メタ言説」が機能しなくなるのが「ポストモダン」なのである(26)。極度に単純化していえば、全員が信じることのできるような価値観はもう存在しなくなってしまったのだ、というものである。これはアイロニカルな態度が全面化したローティの議論とも重なる(27)。その日本の例として東は、高度経済成長という国民全員が信じることの出来る価値観が頭打ちによって衰退し、代理としていい学校からいい会社という流れを見越した受験戦争が登場するも、バブル崩壊によって消えていくさまを重ね合わせている(28)。そういった単一の価値観を喪失した社会を語ったものの多くは、リゾームのような価値の紊乱、多様性の社会、記号の自立的な運動で動く社会となると予測している。例えばボードリヤールはオリジナルとコピーの区別が消滅し、そのふたつの中間である「シミュラークル」が全面化することで、消費社会においては目的のない・超越性に依拠しない社会が到来するとしていた(29)。シミュラークル(simulacre)とは真似る(simul)ことであり、根拠のある真似ではなく、ただ真似ることだけが自己目的化したような状況を指す。これをシミュラークルの増殖と呼ぶ。同様の観点は他にもレヴィ＝ストロースの『構造人類学』（邦訳七二年）やロラン・バルトの『神話作用』（邦訳六七年）『零度のエクリチュール』（邦訳七一年）、デリダの『グラマトロジーについて』（邦訳七二年）、フーコーの『言葉と物』（邦訳七四年）といった、記号の自立性に着目する構造主義的な文学・哲学理論などにも見ることができる(30)。これらをまとめるならば、表層的には記号の戯れの層があり、深層的にはデータベースがある二層構造が東の指すデータベースであるといえる。単純なところを取り出すのならば、「オタクは物語に意味を求めず、フェティッシュを動物的に消費する」というものだ。

　では、以上の「データベース的」枠組みから『ひぐらし』を捉えるとどうなるのか。まず、物語の導入部における竜宮レナは「…は、はぅ～…か、かあいぃよう…」(31)などと、動物的な消費をしているように見える。これもほとんどのキャラクターに当てはまることであるが、それらの姿は宮台真司が女子高生を「傷つくような内面を持たない」と評したような存在に見える(32)。また、殺人事件以外のコメディ的なシーンでは、時代設定を完全に無視したようなネタが使われている(33)。この無節操さは、例えば「自分の作品も他人の作品もパーツの集合体であり、要素の組み合わせの時点で区別しない」というデータベース的価値観によるものとでも解釈すべきなのだろうか。この点については現時点では答えを留保し、後述することにしたい。さて、『ひぐらし』の消費のされ方は、漫画同人誌を見る限り動物的に消費されている面が否めないと言える。他方の自分の推理を交換し合うといった状況を、「人間的」と評する者も多いだろうが、ここはあえて北田暁大が「繋がりの社会性」(34)と呼んだ状況としても読めることを指摘しておきたい。
　さて、ここではまだ強調したい点である「ゲームの構造とデータベース」には触れていないが、それは後述することにしたい。とりあえずではあるが、『ひぐらし』は他方、「データベース」モデルによって考察できることを確認した。
　ここで賭けられた問題は「ふたつのモデルの差異」を明確にすることで、より包括的なモデル作りをすることである。その指標として私たちは『ひぐらし』という作品の畸形性、羽入というキャラクターの特異性が重要になってくると考える。「何故『ひぐらし』はこのような奇妙な構造を持っているのか」、私たちはいまだその問いの入り口に到達したにすぎない。それに答えるためには、『ひぐらし』の「地図」をより精密に、複雑に、そしてより図式的に描いていかねばならない。その作業は次節で展開される(35)。

３　郵便的
　さて、私たちは『ひぐらし』における二つの面を取り出してきた。一方が否定神学システムとしての面であり、他方がデータベースとしての面である。そしてここで、最後のモデルを導入したい。それは、東浩紀が「郵便的超越論性」と呼んだモデルである。どういうものか。東が探るデリダの議論は、主に固有名の剰余がどこからくるのかという問題に重なる。先ほどの例で言えば、名「竜宮レナ」の訂正可能性から複数の反実仮想（可能世界）が構成され、そこから逆に諸可能世界に共通する名「竜宮レナ」の実体を探し求めようとしたときはじめて、ひとは固有名に「剰余」があるかのように錯覚する。しかしもしその訂正可能性がコミュニケーションの場によって規定されるのであれば、その根拠は固有名そのものにではなく、むしろその伝達過程のなかに見出されねばならない。伝達過程ついてははデリダがフッサールの『幾何学の起源』に対してつけた長大な序文から追うのが良いだろう。幾何学の唯一性はその歴史の唯一性により保証され、それはまた起源へのたえざる遡行可能性、つまり歴史の純粋性により保証される。しかしデリダはそこに、「フッサールが言うのと逆のことを言えはしないだろうか。非‐伝達と誤解とは、文化と言語の地平そのものではないだろうか」という問題提起を挿入する(36)。かりに幾何学的明証性が文書によって伝えられるものだとすれば、その伝達は必然的に純粋なものではありえない。エクリチュールは発信者（現前的主体）の統御を定義上逃れるものであり、それゆえつねにメッセージを歪めうるからだ。ここでデリダは「……であったかもしれない」歴史という位相を導入する。これは記述理論における可能世界と同型の議論であるといえる。前期デリダの脱構築においてはここから根源的な差異に向かい、記述理論と同様に剰余を発見する。しかし、後期デリダにおいてはここから違う戦略をとっていく。ここからはより議論をわかりやすくするために言及対象をラカン‐ハイデガー的な二重性にしよう。上記のように、この二重性は対象を一度解体しつつも、それをまたメタレヴェルで承認してしまう。この図式に抵抗するために、デリダは唯物論的観点から、その問題点を「不可能なもの」の単数性に見出す。どういうことか。デリダが八〇年に出版した『葉書』の第二部、「真理の配達人」と題された論文でデリダはつぎのように述べている。

　　主体はきわめて分割されているが、ファルスは決して分有されることはない。細片化はファルスに関わりのない事故である。少なくとも象徴界によって構築された保証にしたがえば。そしてまた、細片化に抗して理念的哲学を築く、去勢の仮説についてのある言説によれば（原注16）。
　　（原注16）私たちがここで分析しているものは、今日、精神分析の最も厳密な哲学であろう。より正確には、最も厳密なフロイト的哲学、おそらくはフロイトの哲学よりも厳密で、哲学の歴史との諸交換においてより厳密に統御されている哲学であろう。
　　　手紙の分割不可能性についての、むしろ細片化に到達不可能なその自己への同一性についての（「手紙を細切にしてみたまえ、手紙はもとの手紙のままだ」）、また同様に、分割を容認しない当の「シニフィアンの物質性」（手紙）についての、この命題の射程をここでいくら強調してもし過ぎることはないだろう。どこからそれを仕入れたのか？細片化された手紙は単純かつ明快に破壊されてしまうことが可能である。[……]。

手紙は必ずしもつねに宛先に届くわけではない[pas toujours]。そしてそれが手紙の構造に属している以上、それが真に宛先に届くことは決してなく、また届くときも、〈届かないことがありうるということ〉[pouvoir-ne-pas-arriver]が手紙をある内的な漂流で悩ませている、とそう言うことができる。
手紙の分割性は、それが場を与えるシニフィアンの分割可能性であり、したがってそれに従属しそれを「代理」する諸々の「主体」「登場人物」「位置」の分割可能性である。(37)

簡単な解説も含め、いくつかの点を確認しておこう。第一にファルスとはラカン派における現存在とほぼ同じである。しかし、現存在と違う点はその二重性を支える実体的性質を持たないということである。『存在と時間』は上述のように、特異点（現存在）の持つ二重性を実体的に、人間という事物の性質から導き出した。しかしラカン派は、その種の実体論すら完全に破棄している。そこでは思考の限界（現実界）は思考対象の集積（象徴界）の直中に空いた亀裂、「欠如」として示されている。そしてその欠如の存在は、ゲーデルの不完全性定理により保証される。存在者の総体は決してひとつのレヴェル（平面）に閉じえない。ハイデガーが「現存在」と呼んだ亀裂、つまり「ファルス」は、その数学的不可能性の構造的表現として規定される。ファルスは現存在とは異なり、その二重襞性を支える実体的性質を持たない。まず、この理念的なファルスの概念を、ラカンは「『盗まれた手紙』についてのセミネール」において「手紙」という物質的なメタファーを持ち出し、分割不可能であるとしている(38)。第二にこの「手紙」というメタファーによってラカンは「どこにも届かないことによって、逆説的にどこにも届かないという位置に届く」という手紙の効果を見出す。この手紙とは上記のファロスと理論的に同義であり、超越論的シニフィアンの構造を持つ。では、デリダの指摘を見ていこう。先ほど見たようにラカン的な主体は実体的性質を持たない。ここからデリダはその転倒を図り、まず「物質性」は実際には分割不可能性から演繹され、一個の理念化に対応するものであること、そしてその分割不可能性は経路に逸脱可能性を持たないことが前提とされていることを指摘する(39)。「手紙はつねに宛先に届く」とラカンは述べる(40)。デリダが最も注意する点がそこにある。デリダに言わせれば、手紙は「届かないかも知れない」。手紙はばらばらになってしまうかも知れないからだ。東はこの両者の差異を通じて、まずデリダの脱構築を二つに分けることを提案する(41)。一つは今までも見てきたような形式化の果てに決定不可能な点を見つける脱構築。これを東は便宜的に「論理的脱構築」と名付ける。そして、その「論理的脱構築」に抵抗するために採られた「郵便的脱構築」。そのためこちらは「不可能なもの」が分割され、そしてその経路もまた逸脱可能性に侵されることになる。どういうことか。「郵便的脱構築」（郵便＝誤配システム）における「不可能なもの」、デリダが「幽霊revenant」と呼ぶ観念は二つの契機（前期的と後期的）で支えられている。第一に手紙＝シニフィアンの誤配可能性。これは、前期デリダの隠喩対立（声／エクリチュール）から導かれる。例えば「署名　出来事　コンテクスト」におけるコミュニケーションの失敗可能性は、いまだ声‐意識(フォネー)（上記で言えば、形式）の統御から逸脱するもの（引用可能性）として捉えられている。したがってこの論文は一部で『葉書』の問題系を予告しつつも、いまだ前期のパースペクティヴに属する。そして第二に、幽霊、つまり「死んだ＝行方不明なdead」存在が潜在的に存在し続けうる空間。その空間は「ユリシーズ・グラモフォン」では電話網に接続された無数の留守番電話を、また「送付」では行方不明の郵便物が蓄積されるDead Letter Officeを隠喩として語られている(42)。ここで導入された幽霊＝経路の逸脱可能性とは私たちの考えでは、すべてのシニフィアンに必然的に取り憑く確率的誤配可能性、誤配されるであろう可能性（約束）と誤配されたかもしれない可能性（デッド・ストック）の組み合わせに他ならない。ここで、「郵便的脱構築」は図式的には否定神学システムにおける「不可能なもの」の複数性と、経路の確率性を導入したものになる。
　さてしかし、東によれば「大きな物語の凋落」は「象徴界の凋落」と同義であり、シニフィアンの論理学たるヘーゲル哲学以降の上向きの経路は失効したとされる(43)。ここで私たちは、「大きな物語の凋落」によって「郵便的超越論性」が脅かされないことを示したい。
　ポイントだけ押さえることにしよう。ひとつは「内耳」の概念から導き出される。エクリチュール＝郵便空間の位相をデリダは、別の場所で「内耳」にあるとしている。「『内耳の現象』としての音声幻聴、『声と現象』は銘文から偽の終わり近くにいたるまで、その現象においてこそエクリチュールの問題を導入していたのだ。無論ひとはつねに『内耳性めまい』を、ありふれた何でもない病気の名前として、つまりある特殊な器官の局所的問題として考え、自分を安心させることもできるのだろうが」(44)。ここで「内耳」と訳されたフランス語labyrintheはまた「迷宮」、つまり郵便空間をも意味する。声‐意識(フォネー)の中心化装置（耳）が起動する以前に、それよりも内部に、つねにすでに郵便空間（内耳）は侵入している。複数のセリーとリズムはそこで衝突する。つまり、「郵便的超越論性」は局在化＝超越論性による安定化作用が起こる前の空間、フッサールの現象学（超越論的シニフィエの哲学）やハイデガーの哲学（超越論的シニフィアン）が前提する条件そのものが成立しないエクリチュールの位相に存在する。もうひとつはSorgeの概念から導き出される。ハイデガーは『存在と時間』において、「世界」のなかにある事物、つまり声‐意識(フォネー)の統御下にある存在者を、ZuhandenseinとVorhandenseinという二つのカテゴリーで処理することを提案した。それらの語は通常は「用具的存在者」「客体的存在者」と訳されているが、あえて直訳すれば「手のもとに[zu]ある存在」「手の前にある[vor]存在」となる。つまりハイデガーは、「手」への近さと遠さの組み合わせで、内世界的存在者の総体を捉えようとしたわけだ。そして彼の考えでは、あらゆる存在者は最終的にはZuhandenseinのカテゴリー（用具性）に帰する。「用具性は、『即時的に』存在するものとしての存在者の存在論的‐カテゴリー的規定だ」からである(45)。対照的にVorhandenseinとは、その頽落態、より詳しく説明すれば、世界との原初的関係性(Sorge)が欠けたことによってZuhandenseinが「もはやただ客体的にしか存在しなくなったもの」にほかならないとされている(46)。東浩紀はこの関心をクラインの管の循環構造＝否定神学的循環構造と同じであるとしている(47)。そしてまた、VorhandenseinとZuhandenseinとのあいだに広がるエクリチュールの位相＝郵便空間をこそ考慮すべきであって(48)、ハイデガーが指摘したようなテレコミュニケーションによる「遠隔性の除去Entfernung」(49)は問題にならないとした。ここから、セキュリティ社会＝環境管理型権力における生政治において「大きな物語」が必要とされなくなったとしても、デリダ的な超越論性は語れることが示されたといえる。

　しかし、データベースはそのデリダ的な超越論性を隠蔽する。東浩紀は『サイバースペースは何故そう呼ばれるか」において以下のように言っている。

　空間の成立は悪魔祓いを前提とする。ネットワークが「空間」と見なされ、情報の束が場所理論的に(topo-logicalに)配置されるためには、まず最初に何ものかが祓われ、ネットワークの場が均され整えられる必要があるのだ。(50)

　ここで本論の立場を明確にするならば、郵便的超越論性は大きな物語の凋落が起こっても変わらずに扱うことができたが、さらにその幽霊を「悪魔祓いconjuration」することでデータベース的世界は存在しうる。そして、『ひぐらし』その隠蔽されたものを前景化させる非常に徴候的な作品であるといえる。
　否定神学システムとデータベースの間には「大きな物語の凋落」と「再魔術化」というメタ否定神学システムのような関係が出来上がっていると言っていい。どういうことか。ベンヤミンは『複製技術時代の芸術』において、アウラの消失を論じたと一般的に理解されているが、実はその後に「技術のアウラ化」を論じたものとしても読むことができる。リッツアはこれをEnchanting a Disenchanted Worldにおいて再魔術化と呼び、ウェーバーの規定した脱魔術化としての近代に対置させている。
　ここで私たちは、否定神学システムとデータベースが相補的な関係であるとし、『ひぐらし』の二面性はそこから要請されたものだとしたい。また、同時に『ひぐらし』が隠蔽したものは、データベースにおいて隠蔽された「郵便的超越論性」であるということを確認していく。
　どういうことか。『ひぐらし』の作中は昭和五八年であるが、その理由は携帯電話がない時代にしたかったためだと竜騎士07は言っている(51)。しかし、この隠喩の指すところは徴候的である。なぜか。この「電話」という隠喩は、デリダにおいて理論的に重要な位置を占めるからだ。
デリダの整理によると、ヨーロッパ哲学において「声voix」の隠喩は一般に、意識の同一性を保証する作用を指示するために用いられている。簡単に確認しておこう。例えばひとは「私は考える」という言表を発しつつ、また同時にその言表を聴き取ることができる。この同時性自体は言うまでもなく、声と耳とが持つあたりまえの感覚的特性にすぎない。しかし近代ヨーロッパにおいてはこの特性は拡張され、意識一般の範例として採用された。そのモデルは哲学史的には、「私は考えるcogito」の聴取がただちに「私は存在するsum」、つまり「『私は考える』と発話した私は存在する」、というメタレヴェルの命題をただちに保証するというデカルトの着想により開かれたと考えられる。経験的自我（言表を発する私）と超越論的自我（その言表を聴き取る私）、オブジェクトレヴェルの自我とメタレヴェルの自我とに単一の「主体」がたえず二重かされ、しかもその二重化の運動によってのみ同一性を保つというモデルを近代哲学は作り上げたのだが、その二重化を可能にするものこそが「声」の構造だった(52)。
つまり、現象学批判をテレメディアの問題系と接合するために。「声(フォネー)phonē」にエクリチュールの特徴である接頭辞télé(53)を付加することで構成された「電話téléphone」の隠喩は、主体が自らの同一性を維持するために用いる「自分が話すのを聞く」回路（声‐意識(フォネー)）につねにすでに媒介性や他者が侵入しているさまを、ある意味できわめて経済的に名指している。しかしその隠喩は他方で、あえて文字どおりに受け取られる必要があると思われる。前章で強調したように、後期デリダは非世界的存在（不可能なもの）を捉えるため「郵便」の隠喩を重視している。不可能なものはネットワークに宿る。それゆえ声‐意識(フォネー)の回路が純粋のままでいられないのは、そこにつねにすでに諸メディアが接合されているからである。「送付」に収められた擬似書簡でデリダが（ブルームのように）いつも電話をかけるのは、そのさまを描くためだ(54)。
　電話は主体の現前性を脱臼する。それは『ひぐらし』においては、まるで世界が単一であるかのように錯覚させるために機能する。例えば、『葉書』の中でデリダは次のように書いている。

　　デーモンが電話をかける[appelle]、ソクラテスは電話を取る、待って、フロイトに代わります（なんという違いだろう、きわめて重要な時差だ）、そしてデーモンはフロイトに話す、直接、彼岸から、彼自身に『待って』という幽霊のように、hold on、もう一度糸巻きを戻して、切らないで、今ハイデガーに代わりますから(55)

　デーモンとはソクラテスのデーモン[démon]であり、先述の悪魔祓いも当然その悪魔をイメージしている。ただ注意すべきは、そのデーモンはデリダが読み替えた幽霊だということである。どういうことか。ヘーゲルはソクラテスのデーモンを主体的精神の萌芽、「神託という外的関係から個人への、また自由の完全な内面性への[……]移行の過程にあるもの」として捉えていた(56)。デーモンから精神が生まれ、以後の哲学史はその自己展開として捉えられる。しかしデリダは異なる。彼は精神の起源に辿りつかない。精神は伝わらない。かりにそれが伝わるとすれば、それはもはやソクラテスの死、プラトンによる父殺し（エクリチュール）を媒介にするほかない。だがそのとき精神(Geist)は幽霊(Geist)であり(57)、私たちは必然的にその反復可能性＝複数性に苛まれるだろう。ここから私たちは、携帯電話を排除したのは、悪魔／幽霊を隠蔽したかったからなのだという結論が導き出せよう。

４　羽入的
『ひぐらし』世界は郵便的にできている。しかし、「出題編」はそれを容赦なく排除する。ここで私たちはその足跡をゲームという構造からたどる道を取りたい。

　簡単に分類しよう。小説に代表されるようないわゆる「物語」は、単数的に構成されている。そこでは物語と世界が一致し、読者は基本的に物語のメタレヴェルを意識する必要がない。しかし、ゲームにおいては複数的な物語がそのまま提示される。例えば、世界ひとつに対して複数のシナリオが用意され、プレイヤーは選択肢によってその中から任意の未来を選ぶ。ここで象徴的なのが「純愛」を強調する類のゲームである。なぜか。それは主人公はプレイヤーの選択肢に従って対象キャラクターと「純愛」を繰り広げるが、その純愛は攻略可能なキャラクター全員と繰り返されるといういささか滑稽な事態を引き起こすからだ。ここで起こる物語間の齟齬を、東浩紀は「水平的な乖離」としている(58)。ここで東は、プレイヤーの経験と複数的な物語を一致させるメタフィクション的物語を高く評価する。しかし、これは「否定神学システム」と同型の議論を展開しているように思える。なぜか。それは世界／プレイヤーという構図は経験的／超越論的二重体のように複数的な経験をひとつの形に纏め上げるからだ。ならば、私たちは『ひぐらし』考察をこの地点で留まることはできないと考える。
『ひぐらし』は複数的な世界があり、その世界がまるで「単一の世界」であるかのように錯覚させる働きによって構成される。どういうことか。『ひぐらし』は選択肢がない代わりに「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」……と「単一の世界」における「選択肢ごとのシナリオ」を用意している形を取っていると一般には認識されているし、作者もそう言っている(59)。しかし実際は、前編までの記憶を引き継いだ世界でシナリオが展開しており、前章までの記憶をキャラクターのレヴェルにおいても引き継ぐという構造になっている。これは東が分析した桜坂洋の『All You Need Is Kill』とは一線を画す構造だと言っていい。なぜか。それは『All』では構造上プレイヤーは一人しか生まれないが、『ひぐらし』では「皆殺し編」に顕著なように、何人ものキャラクターがプレイヤーのレベルにあがっているからだ。
　ここで、「皆殺し編」から登場した「羽入」というキャラクターを導きの糸としたい。では、羽入とはどういうキャラクターなのか。まず、羽入の特徴としてゲームの中に存在するが、古手梨花に知覚される他に、ゲーム世界に干渉する術を持たないというものがある。これはプレイヤーの隠喩であることが容易に想像できる。一般的にゲームは選択肢という小さな二重体性のおかげで、プレイヤーは物語に対して介入する力を持つが、『ひぐらし』においてはその選択肢がないため、プレイヤーは物語に介入することができず、惨劇を待つしかない。一方羽入も、その作品世界内にいながらも、物理的に干渉する力を持たないために、たとえ古手梨花が目の前で殺されても助けることが出来ない。しかし、世界をメタフィクション的に認識するこの「無力なプレイヤー」は「プレイヤー」ではない。ここから私たちは複数的な主人公／プレイヤーの出会いの場としてのゲームという、オブジェクトレヴェルとメタレヴェルが溶解したような構図を取り出すことができるだろう。
『ひぐらし』はゲームの様々な箇所でこの二位相の峻別を無視する。例えばそのひとつが前述のコメディシーンにおける無節操さである。ここでは昭和五八年という作品の時代設定は一顧だにされず、発売時のネタが使用されている。ここでプレイヤーは本来、オブジェクトレヴェルとメタレヴェルの溶解に悩まされるはずである。あるいは、「罪滅し編」において鷹野三四が自分のスクラップブックを持って、雛見沢の歴史を考察するシーンがある。しかし、ここで言及されているような内容は、インターネット上のウェブサイトや掲示板で推理されていたものも含まれており、作品をメタレヴェルから考察する推理を、作品内において言及するという捩れた構造を見せる。顕著に現れている例としては「皆殺し編」の最初で、古手梨花と思われる存在がプレイヤーに対して話しかけるシーンがあることである。さて、これらの構図は、東浩紀が分析した『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』における幻覚剤、キャンDとチューZの区別に対応する(60)。簡単に解説するならば、キャンDではこちら(da)とあちら(fort)が明瞭に区別され、その交代運動が起きるが、チューZは両者の区別そのものを無化する。このモチーフはディックに顕著であり、『ユービック』において主人公は、自分が非現実世界いるとわかった後も現実世界への出口を探し努力する。この試みが可能なのは「彼がそもそも世界全体が非現実＝夢だと思っていないからだ。夢には無数の穴が開いている。現実はそこから侵入する」(61)。ここから東浩紀は「象徴界の郵便化（配達間違いの増加）にともなう暗号的世界の台頭」という一般的テーゼを取り出す(62)。この地点で、ポストモダン化した世界と、私たちが確認してきた『ひぐらし』世界が交差する。何故、羽入はこのような奇妙な位置に設定されたのか？　私たちは今やこの問いに答えることができるだろう。

　ポスト・モダンの理論や作品は、実はありもしないただ一人のプレイヤーを捏造しようとしているのであり、彼らの試みは、その意図がどうであろうと、データベースに吸収され奇妙に癒着してしまうほかない。もはや、われわれは「一人二役」としての《羽入》は必要としていない。

(1) 正確には二〇〇二年以降発表中の、とするべきであろう。「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」が『ひぐらしのなく頃に』、「目明し編」「罪滅し編」「皆殺し編」そしてコミックマーケット70にて発表予定の「祭囃し編」が『ひぐらしのなく頃に解』となっている。以下では両者をあわせて『ひぐらしのなく頃に』と呼び、必要に応じて前者を「出題編」、後者を「解答編」と呼び分ける。
(2) 「萌えの手前、不能性にとどまること」『美少女ゲームの臨界点』一六二頁　著：東浩紀　波状言論(2004)
(3) http://07th-expansion.net/Soft/Prolog.htm
(4) 「すでに見たように、消費の論理は記号の操作として定義される。創造の象徴的価値も、象徴的な内面的連関も、そこには存在しない。消費の論理全体が、外面性のうちに存在しているのだ。」　『消費社会の神話と構造』一六一頁　著：J・ボードリヤール　訳：今村仁司、塚原史　紀伊国屋書店(1979)　本論では第一節・第二節と、ボードリヤールを「否定神学的」と「データベース的」の二義的に扱っている。しかし、これは相補的な構造を持っているためだと考える。第三節以降を見よ。
(5)『嗤う日本の「ナショナリズム」』一六五頁　著：北田暁大　NHKブックス(2005)
(6)浅田の著作『構造と力』は昭和五八年に発表され、ベストセラーとなった。また、東京ディズニーランドの開園もこの年だったことは印象的である。
(7) 『論理哲学論考』一一四－一一五頁　著：ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン　訳：野矢茂樹　岩波文庫(2003)
(8)同書五二頁
(9)同書一四九頁
(10)「罪滅し編」『ひぐらしのなく頃に』竜騎士07　07th Expansion(2005)
(11) 『ハイデッガー全集別巻三思惟とは何の謂いか』一八五頁以下を見よ。　著：マルティン・ハイデガー　訳：辻村公一他　創文社(1985)
(12) 『ミシェル・フーコー――構造主義と解釈学を超えて』七〇頁以下を見よ　著：ヒューバート・ドレイファス、ポール・ラビノウ　訳：鷲田清一他　筑摩書房（1996）　また、デリダも同様の読解が可能であると、間接的なかたちで示唆している。「フロイトに公正であること」『批評空間』第?期第二号、一五八‐一六二頁　著：ジャック・デリダ　訳：石田英敬　太田出版(1994)
(13) ラカンはこの図式をゲーデル的不完全性を意識して立てている。例えば『ジャック・ラカンの書』一四四頁　著：小笠原晋也　金剛出版(1989)
(14)『存在論的、郵便的』九五頁　著：東浩紀　新潮社(1998)
(15)「トランスクリティークと（しての）脱構築」『郵便的不安たち』三七六頁　著：東浩紀　朝日新聞社(1999)
(16)「逆説都市」『10+1』第10号　一七頁　著：田中純　INAX出版(1997)　
(17)『斜めから見る――大衆文化を通してラカン理論へ』一一六頁　著：スラヴォイ・ジジェク　訳：鈴木晶　青土社(1995)
(18)『精神分析の四基本概念』一四〇頁　著：ジャック・ラカン　編：ジャック＝アラン・ミレール　訳：小出浩之　新宮一成　鈴木國文　小川豊昭　岩波書店(2000)
(19) 『スペクタクルの社会』一九五頁　著：ギー･ドゥボール　訳：木下誠　ちくま学芸文庫(2003)
(20) 『消費社会の神話と構造』一七七頁
(21)「鬼隠し編」『ひぐらしのなく頃に』
(22) cf. Slavoj Žižek, The Sublime Object of Ideology, Verso, 1989, p. 124ff.
(23)『存在論的、郵便的』一二頁　著：東浩紀　新潮社(1998)
(24)『動物化するポストモダン』五二頁　著：東浩紀　講談社現代新書(2001)
(25)『OK？ひきこもりOK！』二三七頁　著：斉藤環　マガジンハウス(2003)
(26)『ポストモダンの条件』八頁　著：ジャン＝フランソワ・リオタール　訳：小林康夫　風の薔薇(1986)
(27)『偶然性・アイロニー・連帯』一五四頁以下を見よ。　著：リチャード・ローティ　訳：斉藤純一、山岡龍一、大川正彦　岩波書店(2000)
(28)「波状言論」第21号　「crypto-survival noteZ」第19回　著：東浩紀　波状言論(2005)
(29)『消費社会の神話と構造』三〇二頁　著：ジャン・ボードリヤール　訳：今村仁司、塚原史　紀伊国屋書店(1979)　同頁に「超越性も目的性も目標ももはや存在しなくなったこの社会の特徴は、「反省」の不在、自分自身についての遠近法の不在だ」とある。この「反省」の不在という観点はコジェーヴによるヘーゲル読解と共鳴する。
(30) 『嗤う日本の「ナショナリズム」』九五頁
(31) 「鬼隠し編」『ひぐらしのなく頃に』
(32)しかし、内面を持っているのは前節に見たとおりである。
(33)例えば「目明し編」における前原圭一の「固有結界」。また、知恵留美子というキャラクターは『月姫』(TYPE－MOON)のキャラクターがそのまま出ており、これは一般的にコメディとして捉えるべきなのだが、『ひぐらし』においてはメインキャラクターとほとんど区別されていない。
(34) 『嗤う日本の「ナショナリズム」』二〇六頁
(35)『存在論的、郵便的』一三七頁
(36) 『幾何学の起源』一一七頁　著：エドムンド・フッサール　序説著：ジャック・デリダ　訳：田島節夫、矢島忠夫、鈴木修一　青土社(1980)
(37)「真実の配達人」『現代思想』八二年二月臨時増刊号、八五、一〇五頁　著：ジャック・デリダ　訳：清水正、豊崎光一　青土社(1982)
(38)『エクリ ?』二四頁　著：ジャック・ラカン　訳：宮本忠雄、竹内迪也、高橋徹、佐々木考次　弘文堂(1972)　「一通の手紙を細かく千切ってみたまえ、それは今あるところの手紙であり続けるだろう」
(39)「真実の配達人」八二頁
(40)『エクリ ?』四七頁　これはセミネールの最後の言葉でもある。
(41)『存在論的、郵便的』九一頁　また、この議論はデリダ自身による脱構築の区分、そしてゴードン・Ｃ・Ｆ・バーンの区分の二つと重なる。Jacques Derrida, Force de loi, Galilée, p. 48. およびGordon C. F. Bearn, ”Derrida Dry:Iterating Iterability Analytically” in Diacritics 25 : 3, 1995, pp. 22-23. を見よ。
(42) La carte postale,p.136ff.
(43)『郵便的不安たち』四五頁　著：東浩紀　朝日新聞社(1999)
(44) Jacques Derrida, Marges, Minuit, 1972, pp. ⅹ-ⅹⅲ.
(45)『存在と時間　上巻』一六八頁　著：マルティン・ハイデガー　訳：細谷貞雄　ちくま学芸文庫(1994)
(46)　同書一七二頁
(47)『存在論的、郵便的』二八六頁　著：東浩紀　新潮社(1998)
(48)　同書一八二頁
(49)『存在と時間　上巻』二三四頁
(50)「サイバースペースは何故そう呼ばれるか」『Inter Communication』第二三号　一四三頁　NTT出版(1998)
(51) http://naderika.com/Cgi/log_cbbs/logcbbs.cgi?mode=all&namber=24&space=0&type=0&no=1#24
(52) 『存在論的、郵便的』一五六頁
(53) cf. Marges, p. 369ff.
(54)『存在論的、郵便的』一六二頁
(55) La carte postale, p. 36
(56)『イロニーの概念』著作集第二〇―二一巻、下巻二一頁　著：キルケゴール　訳：飯島宗享　福島保夫共　白水社(1966)
(57)ドイツ語Geistのこの両義性は、デリダのハイデガー読解において大きな役割を果たしている。『精神について』参照。
(58)「ゲーム的リアリズムの誕生」『動物化するポストモダン・２』『ファウストVol.6 SIDE-A』東浩紀　講談社(2005)
(59) 例えば東浩紀「動物化するポストモダン・２」。作者の発言としては「皆殺し編」本編やのスタッフルーム。
(60) 「サイバースペースは何故そう呼ばれるか」『Inter Communication』第二四号　一七七頁　NTT出版(1998)
(61)同雑誌　第二三号　一四八頁
(62)同雑誌　第三〇号　一六八頁