【トラルファマドール式弔辞】 「わたしはトラルファマドール星人から多くのことを学んだが、なかでもいちばん重要なのは、ある人が死ぬとき、その人は死んだように見えるにすぎない、ということである。過去では、彼はまだ生きているのだから、葬儀の場で泣くのは愚かしいことだ。過去、現在、未来のすべての瞬間は、常に存在してきたのだし、常に存在しつづけるのである。たとえばトラルファマドール星は、ちょうどわれわれがロッキー山脈をながめるのと同じように、すべての異なる瞬間を一望のうちにおさめることができる。彼らにとっては、すべての瞬間が不滅であり、彼らはそのひとつひとつを興味のおもむくままにとりだし、ながめることができるのである。一瞬一瞬は数珠のように画一的につながったもので、いったん過ぎ去った瞬間は二度ともどってこないという、われわれ地球人の現実認識は錯覚にすぎない。トラルファマドール星人は死体を見て、こう考えるだけである。死んだものは、この特定の瞬間には好ましからぬ状態にあるが、ほかの多くの瞬間には、良好な状態にあるのだ。いまでは、わたし自身、だれかが死んだという話を聞くと、ただ肩をすくめ、トラルファマドール星人が死人についていう言葉をつぶやくだけである。彼らはこういう、「そういうものだ(So it goes)」。