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forget-me-notコミュの二十年目の初恋12−YO−

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第十二章〜事実〜
 翌日だった。俺が信じられないような事実を聞かされたのは。

 健二との食事もほどほどに済ませ川ちゃんの店を後にした俺達は家路に着くことにした。健二に実家まで送ってもらい「じゃ、またな。」そんな簡単な挨拶をして健二は去っていった。去って行く車を見送り自分も家に戻った。
 玄関を開け家に入ると昼間同様に愛犬のラルフがさらさらの尻尾を右に左に振り回し楽しそうに出迎えてくれた。真っ先に出迎えてくれるこんなにカワイイ生き物が俺は大好きだった。
 ラルフを抱きかかえ居間に入ると両親がソファーに腰掛けテレビを見ていた。
 「お帰り。何しに帰ってきたの?」
 母親の言葉に「いや別に・・・。」と声を返したが二人は俺の言葉を無視し、テレビ番組を見て大爆笑していた。子は鎹ってか・・・。昔の人は上手い事言うものです。とんだ鎹だ、俺は。
 そんな両親を尻目に俺はラルフとしばらくジャレあった。昼間は若干眠そうな顔をしていたラルフは元気いっぱいだった。俺が出て行った後十分すぎるほど眠ったのだろう。
 ラルフとジャレあって数分したころ携帯がなった。
 誠一郎からだった。
 「もしもし。」
 「おう、何してんの?」
 「別に。家にいるけど。」
 「あ、そうなんだ。健二に会った?」
 「会ったよ。メチャクチャ久しぶりだったから面白かったよ。」
 「そっか。明日帰るんだろ?何時に帰るの?」
 「夕方には電車乗ろうと思ってるけど。」
 「そっか。じゃあ昼飯一緒に食おうぜ。」
 「おう、わかった。」
 「じゃあ昼ごろ迎えに行くわ。」
 「あいよ。じゃ明日な。」
 電話を切って待っていたラルフと再びジャレあった。今か今かと電話中に待ち構えていたラルフは勢いよく俺に飛びついて俺の手のひらを無邪気に舐めまわしている。電話中に待っていてくれるような優しさを持っていて空気の読めるこの愛犬が俺は大好きだ。
 かわいい犬がいて、家族がくつろいでいて、こんな家が妙に居心地がいいのはやはり幸せだからなのだろう。
 しばらくすると一日中動き回った疲れが一気に眠気に変わり俺は少し早い時間だったが眠りに着いた。

 翌日、休日にもかかわらず珍しく早く起きてしまった。早く起きたといっても九時過ぎだが、自分にしては上出来といえる時間だ。普段の休日は昼過ぎまで寝ている事が多いからなんだか清々しい気分になった。
 自分の部屋がある二階から居間のある一階に降りていくとすでに家には誰もいなく、またラルフと二人きりの状況になった。ラルフはというと昼間はずっと寝ている犬だから、チラッと俺を見ただけで再び眠りについてしまった。
 特にやることもなく、誠一郎は昼過ぎに来るという事なので時間はまだまだたっぷりとある。とりあえず風呂に入り、コンビニに朝ごはんを買いに行き家でテレビを見ながら朝ごはんを食べた。
 いくら実家にいるとはいえコレでは一人暮らししているようなもので、いつもと何も変わらない。
 とりあえずダラダラと時間をつぶし何とか昼まで時間をつぶす事に成功した。
十二時を回ってしばらくたったころ携帯の着信音が鳴り「ついた」そのたった三文字のメールが誠一郎の到着を知らせた。
 いつもこんな感じのメールで到着を知らせてくる。電話でワンギリでもしたほうが手っ取り早いのではないかといつも思うのだが。
 準備をして外に出て誠一郎の車に乗り込んだ。適当な挨拶は毎度の事で車は走り出した。「行きつけの店があるから。」そう言って誠一郎はチラッと俺を見てニヤついた。
 嫌な予感がする。昨日の今日だとさすがにピンと来るはずだ。分かりやすいほどの単純な行動に妙な期待感を持ちながらも車は行きつけのお店に着々と向かっていく。
 車が走り続けること数十分、誠一郎は車を止め「ついた。」と一言だけ言葉を発し車から降りた。到着したその場所には昨日見た情景と全く同じ駐車場が広がっており、昨日見た看板、昨日見たアメリカンテイストなお店が聳え立っていた。
 そうです。川ちゃんのお店なんです。
 やはり期待は裏切られなかったようです。こんな単純な友人達が俺は大好きだ。
 見た目は重そうだがあっさりと開いてしまう、ややこしい扉を開けて店に入ると、前日に引き続き川ちゃんが登場した。
 「なんや、また来たんかいな。」相変わらず鼻につく関西弁で出迎えられ、今の言葉に腑に落ちない顔をした誠一郎に「実は昨日も来たんだ。」と告げるとがっかりとした様子でつまらなさそうな表情をした誠一郎を嘲笑い俺は店内を進んだ。
 さすがに休日の昼時になると店も忙しいらしくカウンター席はいっぱいで俺達はしかたなく窓際のテーブル席に向かい合って腰掛けた。昨日にもまして忙しそうな店内はせっせと働く従業員達が、今にも悲鳴を上げそうな勢いで働いている。儲かっているんだなぁと一際感心してしまった。昔の川ちゃんからは想像もできない光景に、人が時と共に成長していく様をまざまざと見せつけられたような気になった。
 テーブルの上に置いてある無駄に分厚いと思うメニュー表をぺらぺらと捲りながら二人で眺め、大きな文字で書かれた料理名の中から適当な物を注文して、店員が持ってきてくれた無駄にデカイコップに程よく注がれた水を一口飲んで一段落した俺は、木でできた硬い背もたれに背中をもたせかけリラックスして外を見た。
 席の横に並ぶ大きなガラス張りの窓から良く晴れた空から照らされる太陽の光は安らぎを与えてくれているかのように心地よい気持ちにさせてくれた。
 「どうよ、最近?」
 誠一郎の一言で眠りかけていた脳が目を覚まし目の前にいる誠一郎と話をするための脳に切り替わった。
 「別に、どうもこうも何も無いけど。」
 「つーかさ、何で帰ってきたわけ?」
 そういえば彼にまだ話していなかった。基本的には人には話さないで置こうと思っているのだが、一番古い友人で俺の一番の理解者であるのは彼である事に間違いはない。そんな彼にはこの間あったことは話さなくてはならないという衝動に駆られ、俺の身に起こった身の上話の一部始終を話す事にした。
あの時の始まりからこの間の終わりまで。俺が感じたこと。その後の由美に対する自分の気持ち。
 話し始めてしばらくして食事が運ばれてきて、食べながらも話を続けて、食べ終わっても話し続け、気がつけば一時間以上の時間が経過していた。
 誠一郎はただ相槌を繰り返しほとんど黙って聞いているだけの状態だった。
 二杯目の食後のコーヒーが飲み終わるころ、俺の話は終わった。
 残り少なくなっていた真っ黒なコーヒーを一気に飲み干し、「そうか、それはそれは。」そう言って彼はコーヒーのおかわりを注文した。そしてこちらに向き直ると、ふっと小さく笑った。
 「若いなぁ。」
 人には忘れてはいけない若さがあると思う。大人になるということがそれを忘れさせ、人を傷付け、そして自分自身をも傷付けてしまう。大きな傷跡は治らないものだが、小さな傷跡は治るもの。治せばいいさ。お前にその気があるのなら。
 彼はそう言った。
 三杯目のコーヒーを口にしてから彼は俺の話のことを聞いてくることは一切無かった。「会社の上司こんな奴で」「あそこの飯は美味い」とか、「親父が来年で定年だ」とか。そんなことを長々と話していた。
 関心がないわけではない。コレが彼なりの優しさなんだと俺は認識している。
ただ聞いてほしくて話したわけではない。何かアドバイスが欲しくて話したわけでもない。慰めてほしくて話したわけではない。ただの報告といえば聞こえは悪いかもしれないが、結局はそういう事になってしまうだろうか。だから別に彼の態度に対して憤りを覚えることも無い。理解できるし納得している。自分の考えを押し付けたりはしない。「俺とお前は違うから」彼はいつもそう言っている。 ただ自分の哲学を聞かせてくれるだけ。それ以上は何も言わない。そんな人間なのだ。
 気がつけば店に入ってから二時間半近くの時間が経過していた。最高点をとっくに通過した太陽は少しずつ明日に向かって沈んでいく。一日の最高気温を指し示す時間も過ぎ去り、ゆっくりと黄昏の時間へと変わっていく。
なんだか眠くなってくるこの時間帯、目の前には古い友人「誠一郎」がただひたすらに喋り続けていた。
 その後もくだらない話は続きに続き気がつけば夕暮れ時を迎えていた。賑わっていた店内も一時の休憩とばかりに夜に向けて静かな動きをしていた。疲れきったバイトは入れ替わり新しい顔が夜に備える。
 「そろそろ帰ろうか。俺電車あるし。」
 時間も頃合を迎え、満足感も満たされてきた俺は誠一郎に帰宅を切り出した。
 ちらりと俺を見て、流すように外に目をやり、途端に誠一郎は俯き加減に何かを考えているような仕草を始めた。
 何か気に障るような事でもしただろうか。いや、何もしていない。覚えが無いと言うかそんな時間はどこにも無かったはず。今の言葉がショックだったのか?俺が帰ってしまう事が辛いのか?そんなに俺のことが好きなのだろうか?そんな訳無いか。コイツは何を考えているんだろうか?何故考え込む必要があるのかわからない。
 「あ〜の〜、話さなきゃいけないことがあるんだよね。」
 くだらない事を考えていると誠一郎がおもむろ口を開いた。
 「なんだよ。」
 何か言いづらい事を言おうとしている。もぞもぞと腰を細やかに動かしながら、頭をぼりぼりと右手の爪を立てて掻いていた。手入れのされていない髪型は、気にする事なく頭を掻く事ができるものだった。三杯目のコーヒーは最後の一口といえるくらいの量しか残っておらず、誠一郎はそれを一気に飲み干した。
 「いや〜実はさ〜、・・・俺結婚するんだよねぇ。」
 明るく、楽しく、剽軽に滑稽な事を突然口にした誠一郎にしばらく見とれてしまった。何を言っているのだろうか、この人は?冗談にしてはつまらないし、本気にしては軽薄すぎる口調だった。
 「なにが?」
 「いやだから、結婚することになったんですよ。」
 事実なのか?俺を騙そうとしているのか?いまいち理解はできなかった。突然すぎる告白は混乱を招いた。本当のことなのか?
 「ちなみにだけど真実ですよ。理解してね。」
 その後数分この話が本当のことであるという詳説を受けこの話がどうやら本当のことなのだととりあえず納得した。それでもまだ信じられない気持ちと頭の中の混乱は収まる事は無かった。まだ信用できない。
 「ほんとに本当なわけ?」
 「ホントに本当です。」
 「あー・・・そうなんだ。」
 「おめでとうは?」
 「あっ、あ〜、おめでとうございます。」
 流れのままにとりあえず言ってみたが、俺は心ココに有らずな俺は呆然と誠一郎の顔を眺めていた。
 「これまたちなみになんですが、子供もできちゃった。はっはっはっ。」
 「はぁっ!!!」
 「んじゃっ、そろそろ時間ですし行きますか。」
 「いやっ、ちょっと待てよ。」
 誠一郎は待つことも無くそそくさと会計を済ませ、「今日は俺のおごりな。」とだけ言って店から出て行った。後を追うように俺も急いで店から出た。
駅までの車中詳しく話を聞きたがったが、店から駅までの道のりはさほど時間もかかることなく到着してしまった。気が動転していて何から聞いていいのか分からぬままに誠一郎と別れる事になってしまった。
 「じゃ、またな何かあったら電話しろよ。」とだけ言って誠一郎は駅を後にしていった。走り去る車を見届けてというよりも虚ろな目で眺めている自分がよくわからぬまま帰る事になってしまった。
 「電話しろよ」って、するに決まってんだろ。
 帰りの電車は時間どうりにやってきて時間どうりに送り届けてくれた。なんだったのだろうか今回の帰省は。心を癒すための帰省だったはずなのに、逆に動転して帰ってくることになってしまっていた。辛かった気持ちはもう消え去っていた。一応目的は果たせた形にはなっていたのだろうか。
 帰りの電車は無心の自分がただただ景色を眺めているだけの時間だった。

                                つづく

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