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十二鳥コミュのデンジャービュー・2

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その日、無機質なコンクリートで造られた高い塀の外へ、ひとりの男が連れ出された。

夜が明け始めたばかりの静かな時間帯である。

その男は高い塀の外に一歩、二歩と踏み出すと、おもむろに立ち止まって空を見上げた。

そして深々と息を吸い込み、またゆっくりと吐き出す。

「塀の外も、空気は中と変わらねえな」と、独り言をつぶくと、門の前に立つ門衛ふたりに振り返り、まるで軍人のように背筋を張り手足を揃えて、深々と頭を下げる。

「お世話になりやした!」

そう言って、あとは振り返ることもなく、故郷の街へと歩き出した。

この男、やはりああいう塀の中から出てくるだけあって、普通の人間とは身から出る雰囲気が違う。

服装もやはり「そういう類いの人間」という、何だかある意味で独特なものだ。

黒いワイシャツは、しっかりとアイロンがけされ、襟がバリッと立っている。
若い当時お気に入りだった、赤茶色のチノパンは、今でもサイズがぴったりだ。

と、ここまでは普通の服装である。

だが、そのズボンに挿しこまれたベルトはあまり良い趣味とは言いがたい。

白いテカテカと光るエナメル質のベルトだ。
それを若い時分のあの頃より、深い位置で締めている。

長い間、規則正しい生活を強いられたおかげで、腹は少しも出ていない。
むしろ若い頃より引き締まりを感じる。

そして靴も独特である。
やはりテカテカと黒光りする、ムダに先の尖った少し趣味の悪い革靴で、塀の中にいる間に知人が差し入れしてくれた物だという。

胸ポケットに入ったサングラスも金で縁取りされた、『そのスジ』の人間には似合いすぎる代物だった。


ーーもう何年、故郷を留守にしただろうか。

男は電車に乗り、車窓から流れ行く景色を観ながら、ぼんやりと物思いにふけった。

あの塀の中へ入れられたのが、二十歳の時。
そして男は、今年三十四歳になった。
丸十四年の月日が流れたのだ。

一家はどうなっているだろうか……。
オヤジは達者だろうか。
アニキは二年前に若頭になったって手紙にあったな……。

けど、いまはみんなどうしているのか、一年前から急に手紙も面会も来なくなった……。

こいつは「お勤め帰り」の俺が、若い衆にちょっと喝を入れてやるしかあるめえな。

きっとオヤジやアニキには、俺の所へ行ったことにしてるんだろう……。
何せ遠い所だったからな。

ああ、突然帰ったら、みんな、どういう顔をして迎えてくれるかな……。

などと、男は朝一番の特急列車の中で、心のどこかに妙な期待を持ちつつ、一人ぶつぶつと呟いた。


ーーこの男が故郷の土を踏んだのは、太陽もまだてっぺんに昇りきらない午前中のうちだった。

駅の改札を抜け、辺りを見回す。

その景色には正直、驚いた。

男がいた頃もここはそれなりの市街地だと思っていたが、いま目に入る光景は、あの頃とはまったく違う。

昔は高いビルなどといえば、四階建ての雑居ビル程度しかなかったが、今はそれ以上に高い小綺麗なビルがいくつか見えるし、駅前など小さな交差点だったが、今は立派なロータリーになっている。

駅から路上に降りる階段の隣にはエスカレーターがあり、その下には車椅子専用のエレベーターまである。

街並みそのものが、大きく様変りしていたのだった。

「へえ、変わったもんだね、我が故郷も。若い頃に行った東京にも負けちゃいねえな……」

男はなんだか気持ちが昂揚してきた。

街が発展する陰には、必ず自分たちのような日陰の稼業を生業(なりわい)にする者たちの働きがある。

この分なら『一家』も、それなりに拡大しているはずだ、と気持ちが昂ぶった。

男はその勢いを胸に、大きな鞄は肩に担いで、居ても立ってもおれず、小走りに駆けだした。

そしていつの間にか、はしゃぐ子供のように、その『一家』がある場所へと飛ぶように向かったのだった。


ーーだが。

男が若い時分にいた『一家』は、影も形もないコインパーキングの駐車場になっていた。

……あれ。こいつはいけねえ。
しばらく留守にしてるうちに、道を忘れちまったかな。
もう一本、向こうの路地だったか?

男は再び走り、さらに向こうの路地を目指した。


ーーしかし。

ない。

改めて来た路地は明らかに違う。ここは昔のままの風景だから、確かに違うことが分かる。

……おかしいな、やっぱりさっきの場所のはずだ。

男は一度首をかしげ、記憶を探ったが、さっきの場所には何もなかった。

キツネにつままれるってのは、こういう事を言うのだろうか、と何だか釈然としないまま、三たび走り出す。

もしかしたら、思いっきり記憶違いをしているのかもしれない。

そう思って、彼はもう周辺の路地すべてを見廻りはじめた。

ここも違う。

ここじゃねえ。

こっちはもう別の住所じゃねえか!

と、そこで気づいた。

ーーあ、そうだ、住所だ!街並みが変っても住所は変わらねえはずだ!

ニシキ町の二丁目二番地!

二の並びで覚えたんだから、こればっかりは間違いねえぜ!

男は電信柱などの番地表示を丁寧に指差し確認しながら、ニシキ町の二丁目二番地へ向かった。

ーーだが、しかし。

やっぱりない。そしてやっぱりニシキ町の二丁目二番地は、最初に見たコインパーキングの駐車場になっていた。

べっ……、べらぼうめ!いってえこいつは、どういうわけなんだ!

息が切れ、男はついに路上に座り込んでしまった。

もう気持ちの昂ぶりはない。
それどころか、まったく訳の分からないこの状況は絶望としかいえない。

気がつけば朝食すら摂っていない男は、空腹もあり、ひどく気持ちが滅入ってしまった。


ーーだが、そこで再びあることに気づいた。

街の発展である。

この発展の仕様なら、もしかしたら「一家」はどこかに移転したのかもしれないのだ。



あの頃はこの辺りの雑居ビルを使用して、一階が「キュッシング会社」二階が「雀荘」三階に「ピンクサロン」で、四階が「一家」の事務所だった。

もちろん、これらテナントの経営は、いわゆる「シノギ仕事」として、全て「一家」が行っていた。

だが、これほど小綺麗になった街なら、一家も街の発展にともない、新しい「ビルジング」を構え、もっと質の高い「シノギ」をしているのかもしれない。

きっとそうだ。そうに違いない。

男は沈んだ気持ちを、再び期待に膨らませ、立ち上がった。

すると、いままで座り込んでいた彼の後ろには、食堂が建っていて、その店の入り口が開いた。

そこは昔ながらの、丼物とラーメンが美味い「侠岐軒」という中華食堂である。

店から出て来たのは、少し痩せ気味の顔に、深いシワのある初老の店主だった。

「あれ……、もしかして、劉(りゅう)さんじゃないか?」

「……どちらさんダイ」

店主は男をチラッと見ただけでそっぽを向き、店の入り口に暖簾(のれん)を掛けた。
なんだか、やさぐれた感じの店主で、あまり人当たりの良い雰囲気ではない。

「なんだよ!俺だよ、津本ッスよ、津本健吾(つもとけんご)!
梅垣一家のツモ健だよ!」

そういうと、劉さんと呼ばれた店主は、一瞬ぼんやりしたが、すぐに思い出したのか、
「やあ!?健チャン!津本の健チャンなのかい!こんなに立派な大人にナッチャッテ!」と、一転して温和な人柄に変わった。

劉さんは津本と名乗った男を抱きしめ、背中をぽんぽんと優しく叩くと、「懐かしいネ!まあ、入ってヨ、サアサア」と店の中へ招き入れた。


店内は、八人ほどが座れるL字に厨房を囲んだカウンターと、四人掛けのテーブル席がふたつという、こじんまりしたつくりになっている。

壁にはズラッとならんだ二十五種類のメニューと、水着の女性が大ジョッキを手にポーズをとる色褪(いろあ)せたビールメーカーのポスターが貼ってある。

ポスターの女性はソバージュヘアで、いつの時代のものか分からない。

厨房内の大きな換気フィルターは油とホコリにまみれていた。

「ああ……、久しぶりだぜ。相変わらず汚ねえ店だな」

「はは、汚ないのはメシが美味い証拠ダヨ」と劉さんは笑い、津本をカウンターに座らせると瓶ビールの栓を一本抜いた。

「さあさあ、出所祝いダヨ。グッとやってヨ」

小さなグラスを津本に持たせて、なみなみと注ぐ。

「や、劉さん、酒は一家に戻って、オヤジから受けたいんだ……」

津本がそういうと、劉さんは鳩が豆鉄砲をくらったように、目をパチパチとさせた。

「え……、一家って、梅垣一家の事カイ?」

「そりゃそうさ、俺ッチが一家といえば梅垣一家しかねえよ。俺には本当の親も家族もねえんだから」

そう聞くと劉さんは、厨房のまな板に両手を着き、がっくりとうなだれた。

「……健チャン、知らなかったんだネ。梅垣オヤブンの一家はもうナイのヨ……」

「ーーはっ?」

今度は津本が豆鉄砲をくらったような顔をした。

だが、気をとり直して、
「……ま、またまた、劉さんも冗談が上手くなったね、このクソジジイ。
事務所が無くなったのは知ってるよ、今まで、この店の前で見てたんだから。
でも、だからって、俺にドッキリ仕掛けようったって、そうはいかねえ。
おおかた繁華街の裏あたりに新しい事務所でも構えたんだろ?無くなるなんて、そんな馬鹿な話しは……」

津本は劉さんの顔を見ながらそう言った。

だが劉さんは、ますます心苦しい表情になっていく。

「……な、なんだよ、やめてくれよ、そんな顔。分かったよ、驚いたよ、劉さんの演技にまんまと内心は驚かされたよ!
だからもう、そういう冗談やめてくれ、な!」

津本はカウンターから身を乗り出して、劉さんの肩を揺さぶる。
しかし、劉さんは、静かに首を振った。

「健チャン……。この街、変わっただろ……」

「あ、ああ……」

「エキマエの再開発に企業の誘致……。健チャンが刑務所へ入っている間にいろいろあったんダヨ……」

「そ、それが何だい、いろいろあったのは見れば分かるよ。
でも、それと一家が無くなる事とは関係ねえだろ。むしろ再開発だ、何だとなりゃ、裏でいろんな根回しすんのは、俺たちの役目じゃねえか。
土地の確保だの、敷地の権利だの、土建屋の取りまとめだのよ……」

「……そこなのヨ、健チャン」

「そこ……?そこって、どこさ?」

「その裏での根回し工作のことヨ。
街の再開発は三年前に、完了したのネ。けれど一年くらい前に、『再開発の裏に暴力団の暗躍があった』と、地元の新聞記者が記事にしたのヨ。
……最初はたいした話題にならなかったけど、あとになって記事を目にした、どっかのお偉いサンが、『とんでもない』ってテレビで発言したのネ。
そしたら警察署が慌てちゃって、お役所と大々的に暴力団排除条例を施行したのヨ!」

劉さんは声をひそめながらも、語尾を強めて話す。
話しがここまで来ると、さすがの津本にも、それが劉さんのドッキリ的な作り話でないと分かった。

「ぼ、暴力団排除条例……」

そういう条例が出来たと、刑務所にいる間、シャバで情報通だった新入りから聞いたことはあった。

だが、津本はたいして真に受けなかった。
暴力団の排除などは、その運動も含めて昔からよくある話だったからだ。

そして、そうした排除運動が功を奏した例はほとんど無かった。

「健チャン、どうやら今回ばかりは訳がチガウよ。警察署の署長サンも、新しい人だし、市長サンも新任で当たりが強かったのヨ。みんな、追いたてられたり、逮捕者も出てネ……。親分サンの一家は去年、瓦解(がかい)したノヨ……」

劉さんは油で黄ばんだ白い仕事着の袖で、ちょちょぎれる涙をぬぐった。

「ワタシも、親分サンの事務所ビルの前で商売してたカラ、いろいろお世話になってたデショ。
雀荘に出前したり、会合で仕出し弁当出させてもらっタリ……。ところがそれを知った警察なんかガ、ウチの店まで来て、今度何か差し入れたら、商売許可ツブしてやルって、ヒドく怒られタのヨ……」

劉さんの店は、他の客が食事をしている営業中に、こうした強硬的な『指導』を受け、暴力団関係の店という噂が広まってしまった。
もちろん劉さん自身カタギの人間だが、噂というものは真偽に関係なく広まるものである。
その結果、
今では客足が離れ、閑古鳥が鳴く状態になったという。

しかし、そんなふうに、つらつらと身の上話をする劉さんの言葉は、今の津本の耳に入らなかった。

自分も帰る場所を失ったのである。
何も考えられずに、ぼんやりとしてしまった。

「他にもネ、聞いてよ健チャン……」とまだ話を進める劉さん。

だが津本は、「あ……、劉さん、わりい。俺ちょっと用事があった。また来るわ……」と、これ以上思いがけない話を聞くのが耐えきれずに、フラフラとした足取りで店を出てしまった。


ーーぼんやりと変わってしまった街を歩く。

津本は、そんな中で十四年前の二十歳だった頃を思い出した。


その当時、この街には彼の所属していた梅垣一家の他に、もうひとつ久米島組という組織があり、この頃は互いに激しい対立の日々を繰り返していた。

ある日、津本はオヤジの梅垣純五郎から呼び出しを受け、この対立の終止符となるべく鉄砲玉として送り込まれた。

その鉄砲玉として送り込まれる時のことである。

「おめえが、きっちり役目を果たして来たなら、『勤め』を終えた後に必ず幹部として迎えてやる」

津本は、親分の梅垣純五郎に肩を叩かれ、実弾の入った拳銃を渡された。

「おめえにしか出来ねえことだ……。俺はおめえなら、必ずやれると信じている」

当時の津本は一家の末席に身を置く下っ端中の下っ端だったので、親分から直々にこうした言葉をかけられたことは、人を殺す恐怖以前に、舞い上がる気持ちの方が優(まさ)った。

そして死ぬ気で久米島組の本邸に「カチコミ」を仕掛け、見事久米島親分の命(タマ)を奪り、刑務所へと送られたのである。

津本はその間、「出所したら幹部」という言葉を心の拠(よ)りどころにして、勤勉実直に十四年の刑期を勤めた。

ーーそれがである。

突然、一家は無くなったと言われても、どうしていいのか分からない。

自分の十四年という長い月日と、敵ながら、人ひとりの命をムダに奪ってしまったのである。

やってしまった過去にいまさら後悔しているわけではない。
そういう世界で生きてきたのだから。

ただ何とも言い難い虚無感が湧き出して、それが次第にやり場ない怒りに変わった。

殴りてえ……。なんでもいい。
思いっきり、ブン殴ってやりてえ……。


ーーそんな時。

駅近くを通ると、前方からバカ騒ぎする不愉快な笑い声が聴こえてきた。

声の主は若者の一団である。
見たところ、五、六人ほどいるらしい。

ファストフード店の前に座り込む彼らの周囲には、路上であるにも関わらず、バーガーやポテト、飲みかけのドリンクが、汚なく散乱している。

辺りを通行する人たちは、彼らが突然立ち上がって、わざとぶつかりそうにしたり、タバコを投げ捨てたりするので、道のはじを歩かざるを得なかった。

それを見た途端、津本の顔がさらに険しさを増した。

フラフラだった足取りは、エンジンでもかかったように、ズンズン歩幅を広げていく。

まるでスピードのあるラッセル車のようだ。

ーーそして。

津本は、路上の一番手前に座り込む若者の足を、思いっきり踏みつけた。

いや、踏みつけたというより、『踏み潰した』という表現が間違いない。

バーン!という何かを叩きつけたような音が辺りに響き渡るほどの激しさだった。

やられた若者は、声すら出せず、痛みと驚きで、これでもかというほど、瞳孔(どうこう)が開いた。

ーーだが、やったのは津本なのに、なぜか彼は前転して転んだ。

「ああ、痛え……。急に足が飛び出してやがるんだもんなあ……。転んじゃったよ。
こりゃあ、肩がイカれたなぁ。脱臼かな、いや骨折したかも、しれねえ……」

わざとらしく右肩を押さえ、痛がってみせる。

だが、そんな様子など関係ないかのように、足を踏まれた若者の仲間が津本を囲んだ。

踏まれた若者は声すら出せず、のたうちまわっている。

「オッサンぶっ殺すぞ!」と彼らのひとりがスゴむ。

他のふたりは、すかさず津本の腕を掴む。
まだ『痛がる芝居』をしている最中だというのに、それには目もくれない。

さらに出てきた他の若者が、いきなり津本の腹にヒザ蹴りを叩きこんだ。

さすがに効いたらしく、津本の身体がくの字に曲がる。

ーーしかし。

その曲がった態勢のまま、腕を掴んでいるふたりを、抱き合わせるように衝突させた。

そして腕がほどけた瞬間に、ヒザ蹴りを入れた若者の髪を掴み、下に向けて引っ張ると、尖った革靴で思い切り若者の顔面を蹴った。

いや、これはもう蹴ったというより突き刺した、が表現として近い。

やられた若者は鼻血を噴き出して仰向けにふっ飛ばされた。

「邪魔だよ、てめえら。俺の腕折れたけど、どーしてくれんの?」

さんざんやっておいて、津本は自分のケガを主張する。

ちなみにさっきは右肩を押さえていたが、いまは左腕を押さえている。

彼にとって、そこはどっちでもイイらしい。

気がつけば辺りは、人だかりが出来て騒然としている。

「ヤクザだ……、ヤクザがファンクスに暴行してるよ……」

「まだこの街にヤクザいたんだ……。警察呼んだほうが良くない?」

そんなヒソヒソ話が耳に入ってくる。

津本はこれで、ようやく我に返った。

警察を呼ばれるのは、まずい。
非常にまずい。
何せ彼は今日出所してきたばかりなのだ。

津本の顔に冷や汗が流れた。

若者たちは、のたうちまわる者や、蹴り飛ばされて動かない者もいる。
気がつけば、凄惨(せいさん)な雰囲気がぬぐえない。

見れば見るほど、津本の顔から滝のような気まずい汗が流れ出る。

「て……天下の往来で、我が物顔で人様に迷惑かけるガキどもを、許しちゃおけねえ!警察が放っておいても、俺の良心が許さねえ!」

突然、正当化したような言葉を吐き出す津本。
いつからか掛けていた、ガラの悪いサングラスを胸ポケットにしまい、周囲に向けてキメ顔までつくる。

すると人だかりも、なんだか必死な津本の雰囲気に、苦笑いを向ける。

ーーだが、事態はこれで収まらなかった。

残る若者ひとりが津本の背後で、二つ折りのナイフを手にしていた。

群衆が「あっ!」という顔になったが、突然のことに誰も上手く声が出せなかった。

周囲にキメ顔を向けている津本は、そんな様子に気づかない。

ナイフを手にした若者は、そんなマヌケな津本目掛けて突進する。

その足音でようやく振り返る津本。
だが、気づくのが遅すぎたか。


ーーダメだ、避けられねえ、刺される!

津本の身体は目の前に迫る危機をスローモーションに感じながらも、身体が固まり動くことができなかった。

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