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十二鳥コミュのマキシマス篇  偉大なる道/第八幕

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《ボスと組織〈前編〉》


幻想の世界から我に返った黒猫。

再び強さを求める心に戻った為か、彼の五感はこの日、冴えに冴えまくった。

〈カサッ〉という、音とも言えないような音が耳についた。

(足音・・・)

相手は極力気配を消しているようだった。
元々、猫に限らずだが、多種の動物の足の裏には肉球があり、何処を歩いても足音は立ちにくい。
よって動物たちには、相手の気配などに、特に優れた『勘』がある。
だが、今日の黒猫は気配では無く、その〈音〉足り得ない音を聴き取った。
「誰だ・・・、コソコソしてると痛い眼にあうぜ」
黒猫がそう問い掛けると、ゴミとして捨てられてあるのか、錆び付いた一斗缶の陰から白と黒のマダラ模様をした猫が現れた。
「・・・ほぅ、大した勘だな・・・。全く気配を殺したつもりだったがな」

「ヘッ!勘じゃねぇぜ。足音だよ、足音!
テメェは気配殺す前に、その歩き方を変えな。野性の猫が足音立てたら狩りのひとつもままならねぇぜ。
オメェ雀とか野鳥捕まえた事あるか?」

黒猫は思い切りからかった。
今日は誰と勝負しても負ける気がしない。


「うぬぬー!舐めんなよ小僧!誰に物を言ってるか知ってるのかっ、俺こそはこの町のNo.4!
『狂気のタクゾウ』さまだぞ!」


「・・・ふーん。」

秋のカラ風が虚しく吹いた。


「あれ・・・?、オイ小僧!俺は狂気の・・・」

「分かった、分かったキョーキのタクゾウさんね・・・。
だがよ、アンタが言う小僧ってのは誰の事だよ」
「なにぃ、小僧ってのはテメェの・・・・・・」
黒猫はさっきから寝転んだ体勢でいたが、気怠そうにゆっくりと立ち上がると、タクゾウの前に進んだ。
「あ、あれ・・・」

生後一年以内の動物の成長は草木の如く早い。
『男子三日会わねば刮目すべし』の言葉通り、ひと月あれば、見違える事もしばしばある。
その中でも特に黒猫は、別格の成長を魅せていた。
「うぬぬ・・・、No.3のハナシと違うじゃねぇか・・・。
どこが〈坊や〉だよ・・・。この野郎、ブンタまでとは言わないが、アキラ辺りと互角の体格してやがる・・・」


『狂気のタクゾウ』
生後二年でNo.3のブンタと同い年。

黒猫よりも小さかった・・・。
「どうだい、タクゾウさん。最近は少し運動不足なオレと遊んでみませんか?」

更に近付くと互いの目線は上からと下からの目線になっていた。

黒猫は自分の身体が大きくなった事にあまり気付いていないが、それだけに、タクゾウの事は小さく見えていた。

「何だ!舐めんなよぉ!そんなオドシでビビるとおもってんのか!舐めんなよぉ!」

黒猫は別に舐めてはいない。
それどころか何時不意の攻撃を受けても、すぐに反撃を取れるように、全身の力は隅々まで充実させていた。
要はタクゾウに対して、舐めるを通り越して、丸呑みに呑み込んでいたのだ。

「よ、ヨォーシ・・・!
ヤってやる!ケチョンケチョンにして、ゲボ吐かしてやる!
いいか!ケチョンケチョンにして、ゲボだかんな!」

遂に覚悟を決めたか、タクゾウは全身の毛を総立ちにして攻撃体勢にはいった。
「い、いくぞっ!」

「うん、どっからでもドウゾ!」
傍目に見ると幕下力士と横綱の取り組みの様にしか見えなかった。

ところがタクゾウは、突然地鳴りの様な声をあげた。
「うぉぉう!いえぇぇい!」

「な・・・、なんだ!?」

それは黒猫の身体が揺れるかと思うほどの怒声である。
「うぉぉう!いえぇぇい!」

「お、オイ・・・。」
タクゾウは奇声を発する。
「うぉぉうっ!!」

「・・・・・・・・・。」どうやらタクゾウは必死に気合いを入れているらしい。
「うぉぉうっ!いえぇぇ・・・」

(う・・・・・・いつまでやる気だチキショー。
コイツは確かに『狂気のタクゾウ』だぜ・・・)

黒猫はすっかりテンションが落ちた。

「ヨ、ヨシ!いくぞ!
ゲボ吐かして・・・!」

「タクゾウ・・・!止めねぇかっ」
ようやくか、と黒猫が身構えたところで、突然誰かの制止が入った。

「誰だ!邪魔するな、この野郎!」
散々じらしたくせに、いざ止めが入ったら、タクゾウの威勢は元通り良くなった。
だが、黒猫とタクゾウが振り返った視線の先にいたのは、No.3のブンタだった。
「オッサン・・・」
黒猫はたった一月会わないだけだったが、この死闘をした相手が妙に懐かしい友達の様に感じた。
「坊や、見違えたな。
あっと言う間にデカくなった・・・」

2匹の間には最早ムダな闘志はない。
一度死闘を演じた彼らには、膨大な上辺だけの会話よりも通じ会う心があった。
もう互いにぶつかりあう相手ではなかった。

「な、何しにきたんだ、No.3」
タクゾウが彼らの空間に首を突っ込む。
「なんとか言え、オレ何か今、スゴい疎外感だったぞ!
アンタ何しに来たの!
勝負の最中に!」

「このバカ野郎!」
ブンタはタクゾウの頭を一発小突いた。
「誰が坊やとケンカして来いと言ったんだ!
ボスはオメェに坊やを連れて来いと言ったんだ!」

「アイテテ・・・、そうだ、すっかり忘れてた」
「全く、やっぱり最初からオレが来るべきだった・・・」
ブンタは取りあえず話がややこしくなりそうなので、タクゾウを先に帰らせる事にした。

「すまねぇ坊や、ヤツはあれでも気は悪い奴じゃねぇんだ。
ただチョイと頭がな・・・。許してやってくれ」

ブンタは神妙に頭を下げた。
No.3のブンタは礼を重んじる男だというのは、何となく雰囲気で黒猫にも分かる。
だが前後の会話と、この気を使う態度。

黒猫はブンタの目論みが見えずに、急に不快感が増した。

「・・・ボスがオレに何の用だい」

黒猫は発した言葉と共に心の壁を作った。

考えてみればブンタはボス直属の兵隊。

月に何度か深夜に行われる野良猫たちの公園集会にも参加しないで、ただ自由一匹を気取る黒猫の味方である筈がなかった。
「坊や、来れば分かる」
「チッ、なんだよそりゃ!お呼び出しってか!
行ってやるよ、考えてみれば俺はNo.3のアンタに手を出したんだもんな。
確かブチ猫に聞いたハナシじゃ、一生追われる身になるんだもんな」

黒猫は何やら裏切られた気分で一杯だった。

ボスの制裁が怖い訳ではない。

闘うのなら大いに結構である。

だがブンタがボスの遣いなのが面白くない。

友情のような物も確かに感じていた。
互いを認め合いもした。
少なからずその強さに尊敬もある。
そんな男が組織の下に入り、自分を連れて行こうとする現実が気に入らなかった。

はっきり言って不愉快だった。

「坊やよ・・・、お前は何か勘違いをしている」
ブンタは静かに言った。
「ハハッ!そうだね、確かに勘違いしてたよ。
あんたにはガッカリだね!」
「そうじゃない」
「じゃあ、なんだよ!
何かあるならハッキリ言えよ!」
黒猫は悔しさから、つい語気が荒くなった。

「俺は言葉で説明するのは苦手だ。
だがお前がボスに会えばきっとわかる!
ボスの気持ちが!
幼いうちに親を亡くしたお前なら・・・!」

「な、なんだと・・・、
どういう事だ、それは・・・」
黒猫は、全容も見えぬまま、ただ彼の言葉に驚愕した。



どうやら黒猫にはまだ想像もつかない野良猫たちの姿が、組織の下にぼんやりと見える。

ボス・・・。
その男の兵隊となったブンタ。

あとは黙って彼の元へ行くことしか、取るべき道は思い浮かばなかった。





《ボスと組織〈後編〉》


黒猫がブンタに案内されたのは、この町の川沿いに位置する公園だった。

「オッサン、俺はあんたの言葉が気になってここへ来た・・・」

「あぁ・・・」

「言っとくが、俺は母親の話しには過敏すぎる所がある・・・」
黒猫はただならぬ面相で、ギロリとブンタを一度睨み、話しを続けた。

「誰に俺の過去を聞いたかしらねぇが・・・
先ず、この手の話しを俺にして、くだらねぇ用事だったらオッサンと言えども覚悟しろよ・・・」

その言葉と同時にブンタは黒雲の『世界』に覆われた。

(なるほど・・・ブチ猫から話しは聞いていたが、事この話しを出すとなったら命を賭けなきゃならんらしいな・・・)

ブンタはひとつ深呼吸をすると、黒雲の世界におくする事も無く、「着いてこい」と一言吐いて、歩みを進めた。

奥へ進むと、恐竜を形取った滑り台が見えた。
そこは野良猫たちが『山城』と呼ぶボスのネグラだった。

「黒猫・・・、ボスはな・・・」

「言うな、言わなくていい・・・
俺が直接話しを聞く」

そう言うと黒猫は滑り台に向かって駆け出した。
だが、滑り台の降り口から一足飛びに駆け上がろうとした瞬間、二匹の猫が行く手を塞いだ。

「待て、誰であろうが、ボス以外に山城を登る事は出来ねぇぜ。
此処で待ちな・・・」
行く手を塞いだのは、あまり見かけない三毛猫の牡と、もう一匹はさっき顔を合わせたばかりのNo.4、狂気のタクゾウだった。
「どけ・・・ザコに用はねぇ」
「ザコ?・・・フッ、舐められた物だ。
知らない様だから教えてやる。
俺はこの町でNo.2を張ってるタツオってもんだ。
そしてそっちが・・・」

「知ってるさ、キチガイのナントカだろう」

黒猫は挑発するような、または威圧にも似た睨みを入れた。
「くっ・・・、誰がキチガイだ。舐めた口を叩くとケチョンケチョンにしてゲボ吐かせるぞ・・・!」
今にも尻に尻尾が入り込みそうなほど気臆れしながら、吐き出すように、ようやくの勇気で言い返すタクゾウだった。
「フン、この様子だとNo.4は使いもんにならねぇが、No.2の兄さんが一匹で俺を止めるかい?」

No.2と名乗った男はセリフの割に小柄な体格で、黒猫に敵う相手ではない事は明白だった。

「どうする?さっさと退くか、それとも気を失うほど吹っ飛んでみるか?」

手加減無しの威圧だった。
だが、それでもNo.2は一歩も退かず、それどころか、スッと眼が据わった。
あくまで冷静で冷ややかな眼光が光る。
まるで、喧嘩は力だけではない、体格の差は問題では無い、
そう語る様な眼つきだった。

「へぇ、流石はNo.2ってだけはあるか・・・。オモシレェ、見せてもらうぜ、アンタのチカラ!」
黒猫は再び一足飛びの跳躍を出そうと身構えた。

が、その時、頭上から声が響いた。
「ほう、なるほどねぇ・・・、噂通りの威勢の良さだ」

黒猫が声のする方向を睨むと、『山城』の頂上にNo.2と同じ毛色の三毛猫の姿があった。

(こいつがボス・・・)
黒猫はすぐに悟った。
別に取り立ててオーラがあった訳では無い。
見た目の体格等から考えれば、ブンタの方がデカイ。それどころかタクゾウにさえ劣るかもしれない。
強いて言なら、『山城』の頂上にいるので、そうだと分かっただけの事。

だが、どこか雰囲気だけは、その辺りの奴らとは別物だった。
太陽の光りを背にしていたが、この雰囲気はやさしい暖かみのある『世界』に近い感覚だった。


「どうした?黒の坊や。
ボーッとしちまって、俺の顔に何か付いてるか」

ボスのやんわりとした口調が、黒猫の過去の記憶を呼び覚ました。


『ワシの顔になんぞ付いちゅうか』

思い出したのは、あの土佐犬マキシマスの言葉だった。

(そうか・・・、それだ。このボスとやらは、あのマキシマスのオッサンと似てやがる)

黒猫はブンタの言葉と、このボスが持つ雰囲気に俄然興味が湧いた。

「オイ、俺を無視するな。それにボスの御前だぜ、挨拶ぐれぇしねぇか」

No.2は、黒猫の気が自分を前にして、ボスにのみ向けられているのが面白くなかった。

「まあ待てタツオ、坊やを呼んだのは俺なんだ。
そう、邪険にするな」
黒猫を阻むNo.2をボスが宥める。
その言葉が尚更黒猫の警戒心を解いた。
「黒の坊や、気にするな。此処へ来い、上がって来て構わん」

ボスがそう言った瞬間、No.2とタクゾウが、飛び込む様に再び黒猫の前に立ち塞がった。

「ボス・・・!いくらアンタの命令でも『山城』の頂上だけは駄目だぜ!」
No.2もタクゾウも声を揃えた。

ボスが自分を此処へ呼んだ真意がようやく分かる。
黒猫が最も待ち望んだ瞬間をまた二匹が遮った。

「何なんだテメェら!自分とこの大将が言ってる事だろうが!
何だってそんなに執拗に邪魔しやがるんだ」

黒猫が今の所、ボスに敵意無い事は、明らかだった。
喧嘩を仕掛ける訳でも無いのに、彼等がここまで阻む理由が黒猫には判らない。
「オイ、ブンタのオッサン、こいつ等を何とかしてくれ!
このままだといい加減、俺もキレるぜ!」
黒猫は話しの分かるブンタに助け舟を求めた。

だが・・・。
「坊や、『山城』を登るのは諦めろ・・・」

それは余りにも意外な言葉だった。
「なっ・・・、オッサンまで何言ってんだよ!
俺はボスにケンカを売りに来た訳じゃねぇんだぜ!
だいたいアンタだって俺を呼びに来た者だろう!
俺はボスと話すのにコイツ等が邪魔だって言ってるんだよ!」

黒猫の反論にブンタはゆっくりと頷いた。
「それはもっともだ。
お前の言ってる事は分かる。
だが、『山城』の頂上には登るな・・・」

やはりブンタですら、頑として依然譲る気配は無かった。
「何でだよっ!いい加減にしとけよ、この野郎!!」

黒猫は合点のいかない話しに益々語気が荒くなってきた。
次の言葉次第では、この場の統べてを敵に廻しても、全員を殴り倒す事にも成り兼ねない。

「退け!たかだか縄張り一つでガタガタ騒ぐな!」
苛立つ黒猫が怒鳴った瞬間、更なる怒声が飛んで来た。
「黙れ小僧!
『山城』の頂上はボスにのみ許された特別な場所なんだ!
俺たちのこの町で、頂点に立つ者の絶対の証なんだ!!
それ以外は、何であれ誰であれボス以外はけして足を踏み入れる事は許されん!」

そう叫んだのはタクゾウだった。

さっきまでの黒猫に対する怯えた様子は微塵も無い。
その気迫こそが如何にボス以下の彼等にとって、『山城』という玉座が尊い場所であるかは、黒猫にもようやく察する事が出来た。

「・・・チッ、どうすりゃいいんだよ」

黒猫は珍しく素直に引き下がった。
「待て、黒の坊や・・・、どうやら俺の言葉が軽率だった、俺が地に降りよう。」
言なりボスは、ストンと『山城』を降りた。
「許せ、お前達・・・、オレが無神経だった」
ボスはNo.2やタクゾウに向かって頭を下げた。

そしてまた彼等も同じ様に頭を下げた。
「すみませんボス・・・」
その光景は、我が身一匹で生きて来た黒猫にとって、異景であり激しい衝撃だった。

(今・・・、ゾッとしたぜ。もしもオレが敵に廻ったら・・・、
こいつ等は、ボスを含めて四匹じゃねぇ・・・。
巨大で分厚い一枚岩だ・・・)

黒猫は初めて見る今までに無い「チカラ」に、恐れと興味を抑え切れずにいた。

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