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霧生ヶ谷市役所企画部考案課コミュの中編(前編):魔法少女は唐突に舞い降りる

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※※※忠告※※※
・女体化注意
・苦手な方、意味の分からない方はUターンプリーズ
・ギャグ?です
※※※※※※※※

OK?








 日向大樹、十一歳の小学六年生、男。
 動植物の声が聞こえるという不思議な能力の所持者である。
 生まれも住まいも霧生ヶ谷市とは異なるが、友人の一ノ瀬杏里が霧生ヶ谷市へ転校したことを機に度々遊びに来るようになった。
 不思議や怪異という類の噂・伝承が絶えない霧生ヶ谷市にて、幾度かの不思議との遭遇経験あり。
 しかし元々彼自身が不思議な力を持っているせいか、はたまた性格によるものなのか――その不可解な出来事も彼なりに理解、納得し、むしろ一般の霧生ヶ谷市民よりもよほど馴染んでいる節がある。

 ――もう一度確認する。
 日向大樹、十一歳の小学六年生、男。
 そう、れっきとしたXY染色体の持ち主である。
 生まれてからこの十一年間、一度として「女」になったことはない。あるはずがない。

 だというのに。


「……ない……」

 その呟きはあまりにも感情が込められていなかった。普段感情豊かな――豊かすぎると言ってもいい――大樹には珍しく、側にいた猫は優雅に首を傾げてみせる。

「どうした、大樹」

 流暢に人語を操る猫がただの猫なはずもなく、つやつやとした毛並みが美しいこの白猫は俗に言う「猫又」だ。普段はただの一匹の猫として放浪しているので正体を知っている者は決して多くない。その数少ない者の一人である大樹の異変に、白猫――シロはのんびりとながらも気を配ってくれたようだった。
 シロは二本の尾を緩やかに揺らし、ことさら不思議そうに大樹を見上げる。

「性別が変わったくらいで何を驚いているのだ?」
「ああぁぁああやっぱり変わってんのこれ!? うぇええ!」
「だから何を驚く必要が……」
「驚くに決まってんだろバカぁー!」

 思い切り叫んだせいで酸素が足りなくなり、大樹は荒々しく息をついた。森の中だったため驚いたらしい何羽かの鳥が木々から飛び去っていく。しまった、興奮しすぎた。
 大樹は改めて自身の体を見やった。鏡がないので顔は分からないが、頭をかきむしると普段より髪の毛が多い気がする。というより明らかに長くなっている。夜中に伸びる日本人形じゃあるまいしいつの間に伸びたというのか。しかも何よりまず、男として大事なものがない。ついでに胸もそんなにあるようには思えないが正直そこはどうでもいい。あれ、これ、トイレどうするんだろう。

「何でだよ……意味わかんねぇし……」

 クラクラとする頭を押さえながら何とか記憶を振り返ろうと試みる。元々のメモリー量がさほど多くないので気を抜くと色々なものが抜け落ちそうではあるが――まあ、今日が始まってからそうたくさんの時間は経っていない。許容範囲だ。

 まず、朝。
 不思議をたくさん見つけた方が勝ちだという遊びを杏里の提案により行うことになった。参加者は杏里と大樹、そして兄の春樹という代わり映えのないメンバーだ。
 開始するなり意気揚々と家を飛び出し、北区のうどんロードで日向ぼっこ中だったシロと遭遇。
 しばし雑談に花を咲かせた後、何の予定もないというシロを連れて散策再開。
 しかし地元ではないので街に詳しくない大樹は、自分の能力の関係もあって自然の多い森で情報収集を試みることにしたのだ。
 そうしてシロとそこまで深くないはずの森――どちらかというと大きな自然公園に近い――をウロウロすること数十分。
 なんか人の少ないところに来たなぁ、などと思いながらお昼ご飯の心配をし始めた頃……
 シロがピクリと耳を立て、どうしたのかと尋ねようとした瞬間、真後ろで奇妙な物音がした。
 ――そして今に至る。

「……うん、何で?」

 振り返ってみたもののさっぱり分からずに首を傾げる。するとシロは退屈そうに欠伸をした。ちょっとひどい。もう少し心配してくれたっていいのに。

「だから、そう驚くことでもなかろう」
「驚くって!」
「そういう種類の怨鬼なのだ。性別が変わるだけで大した害悪はない、むしろその程度の奴で良かったと喜んでおくといい」
「……オンキ?」

 シロの言葉に大樹は数度瞬いた。聞き慣れない単語である。しかし、どこかで聞いたことがあったような。

「……オレ、どうすりゃいいんだ?」
「放っておけば一日程度で戻ると思うぞ」
「一日……」

 一日、ずっとこのままなのか。
 確かに怪我をしたわけでもないし怖い思いをしたわけでもない。する暇もなかった。マシだ、と言われてしまえば大樹には反論できない。それでも納得できるかと問われればそんなに簡単なことでもないわけで。

「ううう、もうお嫁に行けない……」
「むしろ行けるようになったのではないか」
「……シロ、細かいことは気にしちゃダメだぜ!」
「人間にとって結婚とは一大イベントだと耳にしたが」
「え、うー、まあ。そうかもだけど」

 よく分からない会話を続けているとふいに木々をかき分ける音がした。女になるという不可解な出来事が起きたばかりだったので大樹は反射的に肩を跳ねさせる。また何かあるのか? あっちゃうのか?

「あれ〜?」

 しかし聞こえたのは、大樹の緊張とは真逆なほどの間延びした声だった。
 大樹はやや拍子抜けしてその影を見つめる。
 背の高い、緑色の髪をした少年だった。最近では物珍しく着物のような――しかし特殊なのか、今まで大樹が見たことのあるふつうの着物とはどこか変わった形をしている――身なりをして、表情には緩んだ笑みが貼り付けられている。

「……かーら?」

 ぽつり、と大樹は呟いた。
 加阿羅。大樹が以前、森で迷子になったときに出会った友人だった。そのときは彼が森を抜けるまでの道のりを案内してくれたのだ。
 ヘラリ、と少年は笑う。

「うん、そうだけど〜? 君は〜?」
「え……おれ、オレ大樹だぜ! 前に会ったの覚えてないかっ? えと、そりゃ夜遅かったし暗かったけどっ……」
「大樹くん? 大樹くんのことは知ってるけど、おれが知っている大樹くんは男の子なんだよね〜」
「う……っ」

 そうだ、今の自分は女の姿なのだった。
 分かってもらえないことにショックを受け、大樹はどう説明していいか分からなかった。おろおろと視線をさまよわせたがそれで言葉が出てくるはずもなく、しまいには俯いてしまう。――あ、やばいちょっと泣きそう。

「あー……ごめんね。冗談だよ〜」
「え」
「悲しませるつもりじゃなかったんだ。ただ、怨鬼なんてくっつけてるからちょっとからかってみようと思って〜」

 理由になっていない気がするが。
 しかしカーラが自分のことを覚えてくれていたのは素直に嬉しく、大樹はどこかホッとした。そして気づく。オンキという言葉に聞き覚えがあったのは、紛れもなく目の前の相手から聞いたことがあったのだと。

「……何者だ」

 今まで黙ってやりとりを見ていたシロが警戒気味に問う。そういえば初対面か、と大樹は遅れて思い出した。
 唸り声を上げそうなシロを見てもカーラは変わらず、むしろ一層笑みを深くする。

「おれ? おれは加阿羅だよ〜。ゲコカッパの、って言えば分かるかなぁ?」
「……なるほど、あそこの者であったか」
「え? なに? カーラって有名なのか?」
「うーん、まあ、一部ではね」

 ここまでさらりと流されてしまえば、大樹としては「ふーん?」と納得するしかない。

「で、そっちは〜?」
「私はただの猫又だ」
「まあ、それは見て分かったけど。何で猫又が大樹くんと一緒にいるのかなぁ」
「それは……」
「友達だからだぜ!」

 どう言おうか迷ったらしいシロに割り込む。むしろ大樹としてはあまり迷わないでほしかった。堂々と宣言してくれればいいのに。
 意外だったのだろう、カーラはぱちぱちと瞬いた。小首を傾げる。

「友達?」
「おう、シロも友達。あのなー不思議探しをしてたら途中でシロに会って、そんで用はないっていうから手伝ってもらってたんだぜ」
「……」

 二、三度カーラは大樹とシロを交互に見やった。それから少しの間を置き――結局相変わらずの笑顔で「へぇ〜」などと感心したようなのんびりした声を上げる。

「仲いいんだね〜」
「おう!」
「……で、大樹くんは何で怨鬼にくっつかれてるわけ?」
「うっ」

 痛いところをつかれた。正直忘れかけていたというのに。
 しかも以前、大樹はカーラに助けてもらっている。そのときも怨鬼に追われていたので、今こうして怨鬼に――大樹にはよく分からないがカーラの言葉を借りるなら「くっつかれている」というのはどうにも決まりが悪かった。
 しかし誤魔化したところで事実が変わるわけでもない。

「えっと、これには深い事情ってやつがあってだな」
「うん」
「朝から色々あってだな」
「うん」
「……気づいたらこうなってました?」
「まあ、そんなことだろうと思ったけどね〜」
「うぅ……。……あ! そーだ! な、カーラはこれ、どうにかできないか!?」
「え?」
「だってそーゆうの詳しそうじゃん!」

 なにせ彼には前回も怨鬼から助けてくれたという実績があるので、大樹の期待は当然ながら膨らんでいく。
 しかし意気込む大樹に対し、カーラは困ったように頬をかいた。

「うーん、でもそういうのはどちらかというと加濡洲の方が得意なんだけどなぁ〜……。まあ、でもレベル低い奴だし。うん、どうしてもやってほしいならやってもいいよ〜」
「ホントかっ?」

 希望が見えて思わず表情が輝く。助かった、これで解放される!

「じゃあ、少し離れてー?」
「おう!」

<……て……>

 ふと何かが聞こえ、大樹は動きを止めた。きょろりと首を巡らせるがそれらしきものは見当たらない。

「……シロ、何か言ったか?」
「いや」

 シロは怪訝そうに瞳を細めた。嘘をついている風ではない。気のせいだったのだろうか。
 大樹は釈然としないままカーラの指示した場所へ足を踏み出し、

<やめてぇええええええええええ!!!>

 耳元でものすごい悲鳴を放たれ、思わずすっ転んだ。

「なっ、誰だよ!? つーか何!?」

 あまりの声量にクラクラする。耳はもちろん頭も痛い。

<やめてぇええ! せっかく憑けたのよ! せっかくの身体なのよ! 消さないでぇええ!>
「ちょ、うるさっ……響く……っ」
<……あら?>

 ふいに声のトーンが落ちた。
 ――が、決して止まったわけではなく今度は畳みかけるように言葉が降り注いでくる。

<あら? あらあららら? もしかしてあたいの言葉が聞こえる? ねえ、もしかして聞こえちゃってるの?>
「はぁ……? あんなに大声で聞こえないわけねーだろ! まだ頭の中がキンキンしてるし! ……ん?」

 素直に文句を言った大樹はふいに疑問を感じた。声は聞こえる。うるさいほどに話しかけられているのだからそれは確かだ。――が、自分は一体「何」と会話をしているのか。
 周りを見ても姿は見えない。人間でもなければそこらにいる鳥の声でもない、木々たちの声でもない。
 途方に暮れてきょろきょろと見回していると、ポカンとした表情のカーラ、シロと目が合った。

「……大樹くん、一つ確認したいんだけど〜」
「へ?」
「大樹、怨鬼と話せるのか」
「……へ?」

 何? 何??

「え、オンキって……」
<そうよあたいよ! あんたが話せる奴で良かったわ! あたい奇跡に感謝しちゃう!>
「だぁ! だからうるさいって!」

「……間違いないみたいだね」

 カーラが笑みを苦笑じみたものへと変える。シロはふむ、と低く唸った。

「大樹は変わったものと話せるからな。怨鬼と話せてもさして驚く必要はないかもしれん。歌いながら近づいてきたこいつには気づかなかったようだが……」
「憑かれて初めて聞こえるようになったのかも〜?」
「なるほど、ありそうだ」
「なあ! だから二人して何なんだよ!」

 勝手に納得し勝手に話が進んでいく。大樹一人だけが置いてけぼりだ。しかもその間は常に浮かれた歌声が耳元で鳴り響いているというオプション付き。もはや訳が分からなくて泣きたくなる。
 大樹が不安に駆られて声を上げると、一度互いに顔を見合わせた二人――一人と一匹――は、小さくため息をついた。

「う〜ん、分からないかなあ。今大樹くんが聞いている調子外れの歌声はさ……」
<あたいの美声が調子外れって何よ、失礼しちゃうっ>
「うるさいな、もう。……それ、大樹くんに憑いてる怨鬼なんだよ〜」
「……え」
「だからお前は怨鬼と話しているんだ。分からないか?」
「え、その、あれだろ。オンキって妖怪? みたいなやつ……」
「ああ」
「うぇい!?」

 奇妙な驚きの声を上げて大樹は周りを見渡した。

「え、だって、ど、どこ!? どこだよ!?」
「そっか、姿は見えないんだねぇ〜。肩に足組んで乗っかってるよー?」
「みぎゃあああ!?」

 何それ怖い!
 ほぼ反射的に肩を手で払う。しかし当然そこに手応えらしきものはない。

<んま、人を虫みたいに払うなんて失礼な坊やだこと>

 囁かれて鳥肌が立つ。かなりのタイムラグはあったもののようやく実感してきた。自分は何かに憑かれているのだ。女になったということを抜きにしてもその事実だけで寒気がする。

「うわあん!? カーラ、カーラ! 何とかしてくれ!」
「落ち着いて〜。まあ、すぐに……」
<いやあああ! だからちょっと待ってってば! あたいの話を聞いてぇえ!>
「……はなし?」

 叫ばれ、大樹は気休め程度に耳を押さえながら問い返した。大樹としては今すぐにでも解放されたいのだが、ここまで必死になられるとやはり気になる。何より平和に済むのであればそれに越したことはない。

「何だよ、話って……」
<うふ、人の話を聞ける子はあたい好きよ>
「お、おう。で?」
<あのね、あたいには夢があったのよ>
「……ゆめ」

 ゆめ。ユメ。夢?

<その夢を叶えたくてあたいはこうして人に憑いてるの。あたいの仲間にも無念を晴らしたくて彷徨っているのがたくさんいるわ。まあ、大抵憑いたところであたいたちのことが分かる人はいないから好き勝手に遊ぶだけで終わ……げふんごふん、残念な結果に終わることばかりなんだけど。だけどあんたはあたいの声を聞いてくれた。これは奇跡かもしれないわ。ねえ坊や、あたいの夢を叶えてくれないかしら>
「えっと……叶えたら戻してくれんのか?」
<ええ、約束するわ>
「……」

 初めこそテンションがいやに高かったものの、こうして改めて話してみれば、相手の声音は思ったよりも落ち着いている。これがもし脅してきたのであれば大樹は不信感しか抱けなかった。迷いなくカーラに何とかしてくれることを頼んだだろう。
 しかし、大樹は「お願い」には弱いのだ。できることなら叶えてやりたいと思ってしまう。

「大樹くん、あまりそいつを信用しない方がいいと思うけど〜?」
「わたしもカーラに同感だな」
「う、でも……」

 先ほど、相手は「消さないで」と叫んだ。
 大樹にはカーラの対処方法がどのようなものなのか分からない。しかし霊的なものであるならば、それはいわゆる「除霊」などと呼ばれるものに近いのだろう。実際に相手は消されるのかもしれない。そして消されたりしたら確かに嫌だよなぁ、と大樹は思うのだ。

「……んとさ。お前の夢って何なんだ?」
<叶えてくれるの!?>
「え、あの、お、おう」

 聞いてからにしようと思ったのだが勢い込まれて思わずうなずく。
 すると姿は見えないが、見えたとしたら表情が思い切り明るくなったのであろう弾んだ声が耳に響いた。

<あんた素敵だわ! 男の中の男ね! 今は女の子だけど!>
「おまえのせいだろ!?」
<いいじゃない可愛いんだから!>
「良くねぇよ!?」
<それであたいの夢はね……>

 え、無視!?
 ショックを受ける大樹をよそに相手は声高々と宣言する。

<魔法少女になることなのよ!>

コメント(1)

修正しなければならない点がいくつかありましたので一度削除しました。
さり気ないようでいて、割と大事だったりそうじゃなかったり……そんな感じでちょこちょこ修正されていますが、根本は変わっていません。
というわけでもう一度上げなおしです。

なお、本作品は、『曖昧な境界』や『迷子の猫又さん』が前提になっています。
読んでいない方でも分かるといいなと思いつつ、どうしても一部、不親切設計になっておりますのでご了承ください。

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