ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

FFXI_NovelコミュのEpisode11 "橋"

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Episode12 "橋"

天晶暦 1002年

「こんなところにこんな図書館があったんだねぇ」
エルが埃を被った本で埋め尽くされた部屋で驚きの声を上げた。
 冗談半分にナナー・ミーゴから約束された条件をつかまえて、彼らはウィンダスの地下水路の一角、隠された図書館に来ていた。
「ここは目の院の先の院長、カラハバルハ様の研究所だったって言うよ。」
分厚い本に目を落としたまま、ヒビキが言う。
「召喚魔法を極めたカラハバルハ様、僕の心の師匠さ・・・うふふ・・・・」
薄笑いを浮かべながら、次々にページをめくっていくヒビキは、はたから見るとただの気持ち悪い召喚マニアだが、彼も高位の召喚士である。元々召喚士を志していた彼は、個人的な事情で最初は黒魔法を修めた。たまたまウィンダスの少年学校で黒魔法の成績が良かったために、当時学校で地位の高かった黒魔道士になるべく、半ば強引に進路を決められてしまっていたのだった。しかし元々召喚士を志していた彼はその進路を快しとせず、学校で教えられる黒魔法をすべてマスターした翌日にウィンダスを飛び出した。そしてジュノでPozの仲間にめぐり合ってから、当時は誰も見向きもしなかった召喚士としての訓練を始めたのだ。召喚士の絶対数は少ない。彼はそうした召喚士の互助のための組合を形成し、その世話役をも務めている。そうした彼の毎日は忙しいものだったが、物事の合間を見ては召喚の古典を紐解き、独自の研究を進めていた。
 しかし、去年の秋口にバストゥークとの戦争が始まり、Pozはジュノから退いた際にそうした世話役の仕事にとられる時間は開放され、これは彼にとって好ましい環境の変化だった。ウィンダスに移ってからというもの、それぞれの院や古老の家を訪ねては召喚のヒントを得た。かつての少年学校の指導者たちはヒビキが黒魔法でなく召喚士の道に進んだことを知って最初は落胆していたが、彼の今日の召喚士としての熟達ぶりを知るにつれ、その価値を認めるようになってきていた。
 そして今日はついにこの研究室に至ったのである。十分に時間を得て、彼の研究のスピードは今までになく上がっていた。
「ふーん。しっかし難しい本ばっかりだなぁ。これなんて何百ページあるんだ・・・?」
なにげなく本棚から分厚い本を取り出そうとするエル。横幅が40センチほどで、背表紙がぼろぼろに擦り切れて読めない本である。
「あれ、なんだこれ、ひっかかって取れない・・・」
「おいおい、丁重に頼むよ・・・ここにある本はどれもが貴重な・・・」
「本棚から出せなきゃ読めないでしょう。あっ!」

ずるっ

40センチの重みが本棚を離れ、宙に舞う。両手で引っ張り出そうとしていたエルが背中から地面に落ちる、と同時に40センチの本の両脇から本がばさばさと地面に落ちていく。その表紙に本棚の梁の部分が崩れ、その上段と下段の本が崩落する。ばさばさばさ。エルの体の上に本が降りかかる。
「あぶべぶ、痛い!」
「あーあー、何してんのエル・・・うん?」
この騒ぎを聞きつけて、隣の部屋にいたイセとムアラが駆け込んできた。
「あーエルなにやってんの!ご本がぐちゃぐちゃじゃないの!」
「さすがに 自重 したほうが」
エルが本の下から顔を出す。
「あたたた・・・悪い悪い。気をつけないと・・・」
散乱した本をどかしながら起き上がると、イセが今崩落した本棚を覗き込んでいる。
「ひどいもんだろ。棚が古すぎて腐ってるんだ」
エルが話しかける。
「へぇ〜。向こうにもいっぱい本があるんだね?」
向こうって・・・?ここは研究室の中でも一番奥にあたる部屋である。「向こう」など存在しない。
「向こうってなんだ?」
「ほら、ここ」
イセが指で指してみせたのは今崩落した棚である。今まで本で覆われていた部分がぽっかりあき、本来ならば壁がのぞいているはずである。しかしそこに見えたのは壁ではなく、空間であった。それも、この研究室の1室、いや、2部屋以上はあろうかという広い空間。
「なんだぁ?向こうにも部屋があったのか?」
この会話を聞いて、ヒビキが本を閉じて寄ってきた。
「何してんの・・・?おお、、、?これは?」
言うや、ヒビキは飛び上がって本棚の裏の穴を越えて向こう側に飛び降りた。
「あっ、ずるい。私もいくよう。」
無邪気な彼女は鍛え上げられたエルヴァーンの肉体を持っている。右手で本棚の左端を掴み、一気に引き寄せた。さらに多くの本が崩落し、エルとムアラの体の上に降り注ぎ、それと同時に本棚が

ぎいっ

といやな音をたてて軋み、次の瞬間には粉々になった。結果として本棚と構造物があった空間は「向こう」の部屋との通路になった。但し、その通路は貴重な資料類で舗装されている。
「踏まないで〜!」
ヒビキが顔色を変える。どれもこれもあとで読もうと思っているらしい。かまわずエルとイセとムアラが踏み込んでいく。エルは黒魔法、ムアラは白魔法の本を探しにきたのであろう。しかしイセは何を探しているのだろうか。エルヴァーンの戦士で、斧の使い手である。本で読むようなことは特にないはずの彼女は、しかしエルを真似て本棚の本を手にとっては戻している。
「何探してるのイセ?」
「あ、お、斧の本とかないかなと思って?」
「バカだなー。ここは魔法の研究所だよ?だいたい斧の本なんて見たことないって・・・」
「うー、だってエルもムアラたんもヒビキんも本に夢中でつまんないんだもん!」
「やれやれ・・・。じゃあそっちにウィンダスの歴史の本があったはずだから、それでも読んでなさいね」
エルが言うと、ムアラが歴史の本を持ってきた。
「イセさん これなら 楽しめるかもしれませんよ」
小さなムアラから本を受け取る。
「うーん、まあいっか。」
イセはそのへんに積んである本に腰掛けて本をめくりはじめた。少年学校の教科書レベルの本なのだが、むつかしい顔をして読んでいる。おそらく内容はほとんど頭に入っていないのだろう。
 その日は遅くまで4人が研究所にこもりきりになった。もっとも、大穴をあけてから30分とたたずにイセは眠り始め、皆が帰る時間になってようやく起こされたのだが。
 あくる日からしばらくの間、4人の遊び場はこの研究所になった。他のメンバーが思い思いに訓練や準備作業をしている間、「研究」と称してこの研究所にこもっていたのである。もともと自由な集団であるPozのこと、集団行動でない限りは、それぞれのメンバーがやろうとすることに特に干渉はない。ひとたび集団行動をとることになれば光の速さで統制が効かされるが、こうした自由な時間は何者にも束縛されず、すべてはそれぞれのメンバーの判断に任される。

 「研究」が始まってから1ヶ月以上たったある日も、4人は研究所の「向こうの」部屋にいた。
「エルこれ見て!こんなの見たことない!」
ヒビキが部屋のさらに奥にある本棚から一冊の本を持ってきた。
「カラハバルハ様は、30年以上前に神子様に、『自然に宿る魔法力から魔法を生み出す魔法術は、もう行き着くところまで行き着いている』と主張して召喚術を研究しはじめた。でも違ったんだ。」
ヒビキは目を輝かせている。
「ホルトト遺跡の力を使って昇華された魔法と、その力を封印した禁書がこの研究所にはあると言われていた。あくまで噂だけどね。けどそれはあったんだ。実際にここにある。」
「この本がその禁書だってのかい?」
「カラハバルハ様は召喚だけでなく、やはり魔法術の研究も続けていたんだ。自然に宿る魔法力と、魔術を極めた魔道士の力を最大限に発揮できる魔法を求めて。」
「ってことはこれは魔法なんだね?召喚じゃなく。」
「そうさ。それも黒魔法だ。この大地の魔法力だけでなく、太陽や月や星の魔法力を利用する方法がここに書いてある。」
「ええっ。宇宙まで使うってことかい。そりゃ凄い・・・」
「今までの魔術の発想とは全然違う魔法になるよ。どうだい。これを研究してみないか?」
幾多の黒魔法を極めてきたエルだったが、いまさらまた別の次元の魔法が出てくるとは想像だにしていなかったし、いまさら他の魔法を学び取る気もしていなかった。しかし生来の好奇心の強さと、魔法に魅入られた者特有の不思議な吸引力にはかなわなかった。
「そうだね。ウィンダスにいるうちに勉強しちゃおう!」
「ようし。それなら僕も召喚術の研究に戻らせてもらうよ。」
ヒビキは既に何種類かの召喚術の資料を見つけていた。高位の召喚士の彼にとって、研究所の資料の多くは既に知っていたことの係累だったが、1日に何度か、まったく思いもよらなかった情報に行き当たるのである。
「僕がこいつを呼び出したら、みんなびっくりするぞう。ふふふ・・・」
時々不気味な笑いを浮かべるヒビキであった。
多くのほかのメンバーはウィンダスで訓練の日々を送っていた。ナナー・ミーゴから割り当てられたのはホルトト遺跡の一角と水路の一角だったが、そこでカーディアンやモンスターを相手に腕力を試す者、メンバー間で試合をしてみる者、人数を募ってサンドリアやジュノへ使いに出るものなど様々だった。
 メンバーたちがカフィの指導のもと展開していた訓練は、これから始まるであろう大規模な作戦に向けて、以前の6人一組の構成、またそれを3つ束ねた18人編成の上に、さらにその18人をいくつか束ねた部隊編成を行うものだった。18人を最大とする一組を「隊」と呼び、全体を5つの隊に分けて編成した。
 1番隊。Poz全体の進行の先頭に立つ部隊である。物見役のシーフ職と、会敵の瞬間に先制攻撃を与える黒魔道士を主に編成されている。ロックがリーダーを務め、全体の舵を取る重要な部隊となる。偵察にあたるのは腕利きのシーフ、ミスラのラビンとタルタルのビケリンである。
 2番隊。会敵一番、肉弾戦を挑む部隊である。防戦になった際には全体の盾となり、敵の戦力を大きく削ぐ役割を担う。ヒメがリーダーを務め、騎士やモンクが配されている。
 3番隊。多くの敵をひきつけて戦う、コア戦力。エルがイセに尻を叩かれながらリーダーを務める。
 そして4番隊。最終防衛線である。カフィがリーダーを務め、他の部隊が戦いきれない相手すべてを相手どる、本当の意味での殿軍になる。
 1番隊から4番隊は、時には0番隊などが編成されることもあったが、何年かの後には誰ともなく伝統の編成と呼ばれ、黒魔道士は1番隊に編成されていること、戦士であれば4番隊に編成されていることが名誉とされるようになった。

 そんな中、ナナの手を経てもたらされる日々の情報は、世の中が決して良い方向に向かっていないことを示していた。バストゥークによるジュノの統治は日に日にその凶暴性を高め、かつての自由都市の面影はどこにもなかった。
 もちろん、ナナがもたらす情報は若干の脚色を含んではいたが、おおよそ事実に基づいたものである。バストゥークの民族浄化運動は引き続き行われ、春を待たずにジュノの地下にもぐった住人を一斉検挙、処刑するという噂も流れていた。

 Pozの一行がウィンダスに着いてから数ヶ月もたったある日、ウィンダスにもたらされた情報は人々に衝撃を与えた。バストゥークで捕らえられたタルタル、エルヴァーン、ミスラがジュノに送られたというのである。さらにその情報によると、近いうちにジュノの地下勢力の逮捕者とあわせて公開処刑が行われるという。もっとも公開といっても戒厳令下のジュノなので、バストゥーク軍の間にしか公開されることはない。
 今回の情報が今までの噂話のレベルを超えているのは、実際に大勢の人間がジュノに連行される姿が目撃されたからである。事態は急を告げた。ウィンダスの各院は再度ジュノへ突撃するべきだと主張し、ソロムグへ急使を派遣した。サンドリアは騎士団を再編してジャグナーを越えさせ、ジュノをウィンダス軍とはさむようにして包囲した。こうした動きはバストゥークによる大移動を阻むには遅く、バストゥーク本国から送られたタルタル・エルヴァーン・ミスラの一団はジュノに収容されてしまった。
「と、いうわけで、バタリアに行ってもらうよ」
Pozのメンバーが久々に集合している。ナナー・ミーゴから全体への通達があるというので全員森の区の裁縫ギルド前に集合したのである。
「バタリアは勢力混在地域だよね。ウィンダスはどうするつもり?」
シキが質問する。
「ウィンダスはソロムグ側からバタリアに移動する。ジュノに対して包囲攻撃を加えながら移動するんだ。バストゥーク軍をひきつけたままバタリアに入ったとき、君たちはソロムグ側から大橋をわたって欲しい。」
「大橋を渡るだって!」
目を丸くしてエルが叫ぶ。
「自殺するようなもんでしょ?大橋にはバストゥークの弓矢隊や銃士隊がいて、ウィンダスの正規軍も渡れなかったって言うじゃないか!」
「そこが付け目なのよ。その正規軍が大橋の守備隊をちょこっとくすぐって、それから移動する。彼らがついてきて、手薄になったところを皆に叩いて欲しい。」
「そんなにうまくいくかねぇ。」
ロックが口を挟む。
「もし当てが外れたら、それこそこっちが全滅だぜ」
「その場の判断は全て任すよ。ただ時間がないんだ。ウィンダスの正規軍はバタリアでサンドリアと合流して決戦を挑む気だ。すぐに決着がつくような気はしないよね。そうしているうちにジュノで同胞たちがひどい目にあわされてしまう。」
「それで私たちに・・・。まあこれはチャンスってところね」
ユリの目が邪悪に光った。
「ここでもうひと働きしておけば、後々のいい交渉材料になるわ。次はどんな特典がつくんでしょうね♪」
「りょ、了解してもらったってことでいいね。カフィ。」
「そのようだ。。。」
諦め顔でカフィが頷く。大橋を渡るのもギャンブルだが、渡った先に待ち受けるものがなんなのか、想像もしたくない。バストゥーク兵で埋め尽くされた町に冒険者の一団がなだれ込んで、なにができるのだろうか。想像される戦闘とその結果としての惨劇。バストゥークの兵士とその家族にとってのそれと、わがPozにとってのそれを、今は想像するまい。
 かくして再びウィンダスから進発することになった一行である。翌日、「森の区のチョコボ厩舎前に集合」という連絡を受けたメンバーたちが続々と集結してくる。よう、やあ。声を掛け合って笑いあうメンバー。チョコボ厩舎の前に輪が広がっていく。
「1番隊みんな揃ってるかー!」
「いないぞー」
「ヘイキチ、緊張感なさすぎだって!」
「がはは。全員揃ってるぜぇ」
口では気安い掛け合いをしているが、表情には一様にどこか緊張感を含んだメンバーたちである。60人近いメンバーが揃って点呼をしている。皆最低限の装備をし、身軽ないでたちである。そんな喧騒のわきで、チョコボ厩舎の横にいる一人の暗黒騎士に気付いた者はいなかった。あるいは気付いても目の前の忙しさにかまけて目をとめていなかった。こういうときに余計なものに鼻を突っ込むのはこのタルタルである。
「あれぇ。そこで何してるのかな?」
キララが話しかける。
「あっ、あのっ、いや、何でもないです」
ヒュームの暗黒騎士である。見ればまだ年若い女性。首から上は素顔だが、体は漆黒の暗黒騎士の鎧に包まれている。
「そんなやる気満々のいでたちで、何でもないってことはないでしょう?」
ファイフがにやにや笑いながら横から口を出す。
「べっ、別に、やるき満々なんてことないんですよ!」
「へぇ〜。それで、ここで何をしてるのかな?」
「バストゥークのスパイだったら、大変なお仕置きが待っているのですよ?」
二人の小さなタルタルがにじり寄る。
「べっ、別に、一緒にいきたいなんて言ってませんよ!」
「ぷっ」
「キャハハハハハ」
からかうつもりはなくてもからかってしまうのが無邪気なタルタルの特性であろうか。こうして仲間に引き入れられたメンバーは数知れない。
「キララ、フィフェ、何してるんだ。あ、セリ?」
「か、カフィさん!」
セリ、と呼ばれた暗黒騎士が顔を上げた。
「こんなとこでどうした。バストゥークに戻ったんじゃないのか?」
「バストゥーク、、、。あんなところにもう戻るもんですか。仲間もなにも皆、軍に連れて行かれました。いやになってウィンダスにきたんです。そしたら、Pozの人が集合してるっていうから、カフィさんもいるかと思って。。。」
「そりゃあ、いるわな。」
ヘイキチが横から会話に加わってくる。
「殿がいなきゃ始まらないしな。で、誰だあんた?」
「これはセリ。バストゥークの暗黒騎士だが、ウィンダスに流れてきたらしい。以前、ザルかバードに冒険したときに会ったんだったな。」
カフィが紹介する。
「確か仲間とはぐれて一人で凍えていたんだよなぁ?」
ロックが口を出してくる。部隊の編成が終わってヒマになったのだろうか。
「べっ、別に一人でも帰れたんですから!」
「へえ。会ったときには確か涙と鼻水でグチャグチャだったと思ったがな。ははは。」
「い、言わないで!」
「方向音痴は治ったのか?」
「ぐ・・・それはまだ・・・」
「まあいい。それで、何しにきたんだ?」
こうして、さらに一人の仲間が増えることになった。セリを加えた一行はウィンダスを進発、ソロムグのウィンダス野営地を目指した。道中には特に変わったことはなく、ほぼ予定通りの日程でアジドとセミが指揮するウィンダスの野営地に到着した。
 到着したその日のうちに作戦会議が行われ、前にナナから説明のあったとおり、ウィンダス本体がまずジュノの大橋を攻撃し、そのままバタリア方面に向かう。それを待ってPozの遊軍が大橋を突破する作戦が確認された。相変わらずアジドが遊軍を見る目は冷ややかだったが、作戦の鍵を握る存在には大いに期待していることが伝わった。作戦会議にはカフィ、ロック、エル、ヒメが出席していて、改めて事の大きさをかみ締めた。
 作戦会議が終わった後、ひとつひとつの決定事項を確認しながら4人がPozの幕営に向かって歩いているとき、一人のミスラが近づいてきた。ナナー・ミーゴであろうか。夜も遅くなった原野で、4人はミスラの存在に気付いて足を止めた。
「宜しくお願いします。冒険者の皆さん。ウィンダスが、いや、この世界全体が皆さんに期待しています。」
近づくにつれて明らかになった顔は銀髪のミスラ、セミ・ラフィーナであった。
「セミさん。明日から俺たちを見る目が変わるぜ?」
ロックが軽口を叩く。
「先の会議でも言いましたが、大橋を渡るところまでは、それも大変なことですが、あまり心配をしていません。」
「軽く言ってくれますね・・・」
ヒメが軽くむっとする。セミはかまわず続けた。
「大橋を渡った後、待ち受けるバストゥークの軍勢の攻撃を支えきるのは難しいと思います。本体は急いでバタリアからジュノ上層に突入しますが、サンドリア軍と連携をとって動くために少しの遅れが出るかもしれません。難しいのはわかっているのですが、なんとか持ちこたえて下さい。少しの辛抱です。」
「上層の教会まで競走ですよ。」
カフィが言う。
「そうとも。教会は俺たちの場所だ。早く帰りたいからね!」
ロックが続ける。
「ちょっと、そんなこと軽く言うなよ・・・」
エルが心配そうに言う。
「頼もしい冒険者たち。では、次は教会で会いましょう。サンドリアのエルヴァーンたちも必ず連れて行きます。」
そこからは言葉は発せず、お互いに目を見合わせる。少しの間があって、エルがため息をつきながら右手の甲を差し出す。
「はぁ。じゃあ・・・教会で!」
ロックとヒメがエルの手の甲の上に手のひらを置く。
「おう、教会で!」
セミが黙ってそれを見つめている。と、カフィがセミの右手をとって3人の手の上にかさね、自分の左手を重ねた。またしばしの沈黙があり、セミがその沈黙を破った。
「教会で。」
5人の目が再び焦点をあわせると、それが合図となって散っていった。こうしたやりとりを遠くから見守る影がもう2つあった。ひとつは小さな影。ひとつはか細い中背の影である。二つの影は暗闇の中で拳をあわせ、これもお互いの居所に散っていった。

コメント(2)

 ついにジュノへの反攻作戦が実行に移される。

 翌日の朝は早かった。夜襲を是としないウィンダス軍は日の出と共に行動を開始した。まずこれまでも繰り返したように、ジュノの大橋へ突撃する。果たしてバストゥーク軍はいつものように弓矢をもって応戦する。ここでいつもと違う工夫があった。少しの犠牲をはらったのである。ウィンダス軍はいつにも増して大人数の突撃を敢行。周囲から撃ち掛けられる弓矢や鉄砲によるダメージが増えていく。今までは浅い突撃をして寄せては返す、という攻撃をしていたのだが、今回は一斉に後ろを向いて退却した。いや、退却というよりも潰走したのである。
 もう一つの仕掛けがあった。この日を迎える前にウィンダスは一人の捕虜を出していた。ある日の攻撃で逃げ送れた兵士がバストゥークに捕縛されたのである。この捕虜が、次回の突撃の日にちと、その突撃はウィンダス全軍で行い、それが不退転の決意のものであること、これが失敗した場合はあまり想定されていないが、失敗した際には全軍ウィンダスにとって返すことになることを白状していた。もちろんこの兵士はウィンダスの本当の作戦など知らされてはいない。
 こうした状況を頭に入れたバストゥークの防衛指揮官はウィンダス軍に対して追撃を指示した。ジュノの大橋と港区の入り口に配置された兵士たち、およびジュノに駐留する防衛隊の本体の多くをウィンダス軍の追撃にあてたのである。
「かかれ!」 
 号令一下、追撃のスピードはさすがに速かった。ウィンダス軍が潰走していく。追うバストゥーク軍。ウィンダスの殿はミスラを中心とした足の速い部隊である。追っ手の攻撃を巧妙にかわしながら走っていく。ミスラたちの足は速い。追ってくるバストゥーク軍兵士の前後左右に現われ、あるときは軽い攻撃を加えていき、あるときは一目散に逃げていく。規律の厳しいバストゥーク軍だが、いつしか気付いたときには細長い行列でバタリア方面に誘導されていた。昼を待たずに主戦場はソロムグからバタリアに移っていく。バタリアとソロムグの境目にある胸壁の周辺が最大の激戦地になり、剣戟と魔法の炸裂する音が耳をつんざく。
「引くよ!」
ウィンダスの主力、と思われた一団はバストゥーク軍の主力が迫ったと見るや、バタリア方面にさらに後退した。この時点で、戦いの中心は完全にバタリアに移った。
「そろそろ行くか!」
こちらはPozの一隊である。遠くに見える戦雲がバタリアに移っていったのを見届け、作戦通りに号令がかかる。1番隊を先頭にし、2番隊と3番隊が並列に続き、最後に4番隊が続く陣形である。ロックが先導役を務め、会敵後の戦術はカフィの号令下、各部隊で行われることになっている。
 1番隊、2番隊、3番隊が進発し、4番隊が動こうとしていた。
「いよいよっすね。」
4番隊のタルタル侍、アパタイが言う。
「気楽にいくことだ。」
ハルネはいつもどおりの表情。
「なんすかハルネさん!なんでそんな落ち着いてられるんすか!やっぱスゲェなぁ」
「作戦通りにやるだけだ」
ハルネの心中は、実は穏やかではない。バストゥークはコダックのカタキになる。
「ジュノはどうなっているんでしょうね」
マツリが言う。
「どんな風になっていても、元通りにしてやるさ!行くぞ!」
カフィの号令で4番隊が進発していった。約60名の一団が駆け足でジュノの大橋に迫る。
「作戦は成功らしいぜ!」
ロックが叫ぶ。大橋の守備隊はあっけにとられるほど少なかった。ウィンダスの狙い通りである。1番隊の黒魔道士が次々にバストゥーク兵士の動きを止める。2番隊、3番隊が殺到して兵士たちを倒していく。4番隊が通るときには、相手にすべき敵が見当たらない状態だった。
「まさか俺たちが最初に大橋を渡れるとはな」
1番から4番までのメンバーたちは次々に橋を渡っていく。港区の入り口をくぐる。そこに現われた景色に、メンバーたちは目を疑った。そこに見えてきたのはかつての栄華をほこったジュノの港の町並みではなかった。露天商たちは姿を消し、代わりに破壊の痕跡が見える。
「ひどいなこりゃ」
誰もが思ったことを代表してロックが言う。小規模とはいえ戦闘をこなした後だが、全く乱れが無い。呆然とした一瞬を、バストゥーク兵士の叫び声が切り裂く。

「ウィンダス!」

ウィンダスと交戦中だったために、こちらが冒険者の集団だろうがお構いなしである。兵士が叫ぶと、脇にいた兵士が港区と下層の間をつなぐ階段に走る。状況が変わった。まばらな兵士たちを押し倒す行進はここで止まった。1番から4番の隊形をもう一度整え、前方から迫るであろう兵士たちに備える。セミと約束したのは上層の教会前だったが、たどり着けそうに無いな。カフィは口に出さずに考えた。遠くからバストゥークの騎士たちが迫る。あっという間に人垣が築かれる。見えるだけで100人を越える兵士たちである。アジドたちのバタリアからの突撃は失敗したのであろうか。

「蹴散らせ!」

バストゥークの指揮官と思しき騎士から号令が下ると、戦闘隊形をとったバストゥークの先頭が一斉にPozの1番隊に向かって走り出す。1番隊の黒魔道士たちはそれぞれ詠唱を始める。2番隊、3番隊のメンバーたちはそれぞれ剣や弓矢を構える。彼我の間、わずかに50歩。天晶暦1002年の初春、戦争の世界は最初の均衡を崩そうとしていた。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

FFXI_Novel 更新情報

FFXI_Novelのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング