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FFXI_NovelコミュのEpisode5 "Politics"

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Episode5 "Politics"

とっぷり。
という音が聞こえてきそうなくらい見事に夕日が沈むころ、12人は無事にジュノに帰還を果たした。
北方へのサンドリアの遠征は完全に失敗に終わっていたが、世間はそれをまだ知らないようで、この12人を除いてはその話題を口にするものはなかった。夜空にはいつものように星がきらめいて、一部の冒険者を除いて人々は家路についていた。
いつものたまり場から教会に入って、帰還した12人がめいめい話し始めた。たまり場でいきなり話し始めなかったのは、話の内容が内容なので、周囲に配慮をした結果である。LS内外かかわらず、個人レベルから国家レベルまで、秘密の話は教会の中でするのが通例だった。
北の大地でそれだけの大軍が全滅した、というニュースの大きさにしてはメンバーたちの動揺は大きくなかった。ある程度奇想天外な事柄に慣れてきている、ということもあるのだが、半分はまだその現実をよく理解していないからであり、半分は本当に関心がなかった。
「妙だな。それだけのことがあれば大ニュースになっていてもおかしくないのに。トリビューン紙の見出しのどこにもそんな記事はないよ。」
 と、エル。トリビューン紙にしても、他の報道媒体にしても、どこもこの情報を伝えていない。
あれだけのことが表に出てこないということは、相当しっかりした情報の操作が行われているに違いなかった。そしてそれは疑いもなくサンドリアの動きゴンなのだろう。おそらくは帰還した兵士や騎士たちは厳重に口止めされているのだろう。しばらくの沈黙の後、瞑目したままカフィが言った。
「わざわざ隠すほど、被害が大きかったということだろうな。これはもしかすると、大きな動きになるかもしれない」

 カフィの心配はほぼ当たっていた。同じころ、サンドリアの王宮内ではこの問題への対策が議論されていた。王家への事実報告をどうするかについて、騎士団と宮廷の文官一派の意見が割れていたのである。文官側は政務一切を取り仕切り、王家の補佐をするのが仕事だが一方で対外交渉の窓口でもある。騎士団は政治の枠組みとは別個に王家の指示のもと国家防衛に従事し、遠征などの軍事行動を提案する。これらの2つの組織の外側に教会の勢力があり、大聖堂を頂点とする教会組織は政治・軍事両面について外からの意見としてアプローチする。こうした複雑な役割分担がサンドリアの特徴でもあった。
 この時の議論は文官側と騎士団側の間でなされ、教会には王家への報告のタイミングで同時に通達するということで両者の合意がとられていた。この前提に基づいているので、いくぶんか話は単純だったが両者の意見が全く正反対をむいているために、議論の落としどころの探りあいになっていた。
 騎士団側は、結果は結果としてそのまま王家に報告するべきだと主張した。逆に文官側はいたずらに王家に心配の種を持ち込むことを避けるべきだと主張し、対策を明らかにしてから王家に報告するべきとしていた。場所はサンドリア中心部のドラギーユ城に近い民家の2階で、数人のエルヴァーンがテーブルを囲んでいる。
「つまり、王家に隠しておけと?」
エルヴァーンの女性騎士が吐き捨てるように言った。豪奢な鎧に身をつつんだ彼女は、その身なりからして高位の騎士であることが窺い知れる。
「クルリラ、そうではない。何の対策もなしに結果だけ報告するのがそもそもおかしいと言っている。」
 答えたのは中年にさしかかったエルヴァーンである。およそ表情というものを備えない顔をしている彼は平服で、政府の高官というよりも街中の宿屋の主人といった風である。
「宰相、そんなことを言っていたら手遅れになるかもしれませんよ。我々は現場を見ています。あのおぞましい光景を。それに、事実として我が騎士団はほぼ壊滅しました。今のままでは機能しませんよ」
別の騎士が言った。騎士団にはめずらしく平服の彼は、松葉杖をつき、肩で息をしながら話している。北方遠征のリーダーであった彼は全身に傷を負って帰ってきた。
「だから、どうしろというのだ。何がしたいのかもなしに報告しても仕方あるまい?」

ばん。

明らかに何かをかばった物言いに、クルリラと呼ばれた女性騎士がテーブルを叩いた。
「宰相は恐れているのでしょう!騎士団に口出しして、ご自分が提案した遠征が失敗したのですから。責任を問われるのがそんなに怖いのですか?そんなことがサンドリアの危機管理を先延ばしにするほど重要ですか!」
荒っぽい議論に慣れている宰相は、ぴくりともしなかった。うなづきながら聞いていた彼は、少し顔を上げて口を開いた。
「何も恐れてなどいない。だいたい失敗の原因が企画そのものにあったのか、騎士団の実行の仕方がまずかったのかも分からないのに、責任の話など誰もしていないと思うが?」
クルリラは両手の平を上に向けて肩をすくめた。
「まあそれはいいとしましょう。いずれにせよ打ち手を決めなくてはなりませんね。サンドリアは多くの騎士を失いました。これは世界の勢力均衡を大きく狂わせます。」
「何が言いたい?」
クルリラはかまわず続けた。
「言うまでもなく、4国のバランスですよ。今までは我がサンドリア、ウィンダス、バストゥークの3国が政治的にも軍事的にもバランス良く存在していて、どの国もジュノに手を出そうとはしませんでした。どこか1国が動けば他を刺激します。また、ジュノを攻略して疲弊した自国の守りが手薄になります。しかし今はどうでしょう?」
部屋の外で物音がして、クルリラはここで一度言葉を区切った。どうやらこの家の主人が戸締りを始めたようだ。クルリラは立ち上がり、テーブルの上にあるいくつかのグラスを4つだけ残して他をとなりのテーブルに片付けた。三つのグラスを三角形の形に配置し、ひとつだけ背の低いグラスを中央に置いた。2つのグラスには水が半分づつ入っていて、一つのグラスには水が3分の1だけ入っている。クルリラは三角形の頂点のグラスの水を半分ほど飲んでまた同じ位置に起き、話を続けた。
「わがサンドリアが勢力均衡を崩してしまいました。するとバストゥークが動きます。」
クルリラは水が一番多く入ったグラスを手にとって、中央の背の低いグラスに近づけた。
「彼らはジュノを目指すか、あるいは」

キン・・・

手にもったグラスを、今飲んだグラスに当てると、高い音がした。

「サンドリアを目指すかもしれません」

 バストゥークとサンドリアの間には歴史的な溝がある。サンドリアが昔ながらの剣と魔法を基本とした考え方をするのに対して、ヒュームが中心となっているバストゥークは科学の力、鋼鉄と火の力を中心とした考えを持っている。また、バストゥークの政体が、国民によるガルカ族の差別を解決しきっていないこともサンドリア王家の嫌悪感を買っていた。
 こうしたイデオロギーや政情を背景に、サンドリアとバストゥークの国境では小競り合いが絶え間なく行われていた。もともと国籍を重視しない冒険者にとっては2大国のいさかいなど「どうでもいい」話ではあったが。

「北方遠征で発見したあの闇の勢力が迫っている今、バストゥークとまで争っているわけないはいきません。バストゥークと関係を修復するのか、あるいは」

今度はサンドリアのグラスを持って、中にあった水を、まだ触れていない4つ目のグラスにすべて注いでしまった。

「ウィンダスと結ぶのです」

しばらくの沈黙があった。
最初に口を開いたのは宰相だった。

「騎士団が外交に口を出すのか?」
「道理を説いたまで」
「ふん・・・しかしいずれは」
宰相が、バストゥークのグラスを持ち上げた。彼は一気に中の水を飲み干した。
「こうありたいものだな」

議論は出尽くした、という思いだけは一致していた。彼らの中で案がまとまり、後はこれを王家に説明するのみ。
大きな流れが始まりつつあった。宰相は無言で上着を着込み、無言のまま部屋を後にした。
彼の部下がそれに続き、負傷した騎士も痛々しい姿のまま一礼して去り、部屋にはクルリラ一人になった。

「ウィンダスか・・・」

彼女の思いは仮想敵国より、これから手を結ぼうとしている魔法の支配する連邦国家に向いていた。

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