君島三郎・死力回復センターコミュの夏休みの夏休み

見えないようで見えてくるあなた自身のThe Secret Life。

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九月一日。
夏休みが夏休みになって帰ってきた。
ご先祖様もろくに拝まず、
縁側で仰向けに寝ころんで
すいかはまだか、などど横着をいう。
世の中が夏休みのときは
夏休みは夏休みをやってなければならないので、
夏休みは夏休みをとれない。
世の中の夏休みが終わるのを待って
夏休みは夏休みに入る。
だから夏休みには待ちに待った夏休みなのである。
夏休みは遠くにつくつく法師の声を聴きながら、
夏休みがまだいまの夏休みではなく
夏休みが夏休みらしかった
遠い夏休みを想いまどろんでいる。

ラジオ体操。
絵日記。
麦わら帽子。
草いきれ。
斑猫。
川遊び。
バタ足と嬌声。
水面を渡る風。
お盆に開く地獄の釜の蓋。
尻子玉を抜くえんこう。
謎の魔球・脱藩。
冷やしあめ。
夕立の後の夕焼け。
お大師さまの縁日。
待ち針でする型抜き。
台場での闘犬大会。
高礁から打ち上げられた大玉花火は
富士ヶ浜一面を照らした。
呆けたように開けた口に
錦浦湾を包む夜空は吸い込まれて、
ただ眠気に溶けながら家に帰った。
あの頃父も母も若く、
夏休みは幼かった。

夏の終わりの夏休み。
夏休みもいつしか愛惜の意味を知り、
夏の後に秋が来ることの訳を覚った。
だからもうこの夏休みには
夏休みの宿題はない。

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人に道無し、命に根無し。

君島三郎●「死力回復センターML」2004/9/6