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君島三郎・死力回復センターコミュの野菜がライバル。

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老女が言う、
「ほんとだよ、
 わたしたちはそれがわかるまでに二年かかった。
 難しいのは愛しあうことではなくて
 愛しあっていることを知ることなんだよ」
女の子は言う、
「…でも、マダム・アデール、
 恋愛には理解するのがそんなに難しいことが
 なにかありますの?」
……トリスタン・ツァラ『愛・賭け・遊び』

合コンで知り合って一ヶ月、
つき合ってると信じ切っていた彼が
突然私の前から姿を消した。
勤務先を訪ねるとポスト昇進を蹴って
田舎の伊豆に帰ったという。
なんでも家業の農家を継ぐらしい。
OL生活もなんとなく慣れてきた二年目、
好きなひととずっといっしょにいることだけが夢の私が、
ふられた訳も聞かずにすんなり別れることはできない。
ソッコー彼の実家を訪ねた。

村はちょうど祭りの最中だった。
彼は畑でお婆さんとキャベツの世話をしていた。
彼は不機嫌そうに私をちらっと見ただけで、
仕事の手を休めることはなかった。
お婆さんは私のことをさほど気に止めもせず、
畑仕事を手伝わせた。
お気に入りのブーツはたちまち泥だらけ。
東京では汚れるのが嫌で
土なんか踏んだこともなかったけれど
いまは不思議と気にはならなかった。
ひとときでも彼の世界の住人になれたことがうれしかったから。
畑いじりの最中、彼と私はひとことも口をきかなかった。
それでいて彼が農業を嫌々やっているのではないことは
なんとなくわかった。
収穫したニンジンを彼の家の井戸で洗う。
葉っぱの中から毛虫が飛び出した。
私は悲鳴をあげた。
「夜盗虫だよ。ウチは農薬使ってないから
 虫にもおいしい野菜なんだ」
お婆さんは笑った。
その毛虫を「かわいい」ともいった。
なるほど、オーガニックってそういうことなのか。
「この娘さんをバス停まで送っておやり」
日は西に傾きはじめ
そう広くない県道を私を後ろに
彼はめんどくさそうに歩いた。
「どうして私とつきあったの」
「……、断るのがめんどうだったから」
そんな理由ってあるの!

好きなひとに二度もふられた。
思いこみが激しいのは私の悪い癖だ。
私は彼と彼の言葉を私自身に都合のいいように
取り込んでいただけだったんだ。
最終のバスが来るまであと半時間。
バス停でお婆さんからもらったパセリを
泣きながらかじった。
パセリは苦かった。
苦かったけどなぜか甘くもあった。
良薬口に苦し、というけれど
ほんとうにいいお薬は
苦いだけではないようだ。
彼もまたいまの私にとってはいい薬なのだろう。
そう思うと彼がエンゲイジしたもののいのちが
なんとなく伝わって来る気がした。



「死力回復センターML」2004/05/31

コメント(3)

ポップな中にも、近代文学的な要素や映像的な描写をそれとなく組み込むという、君島三郎氏独特の手法にはかなり影響受けまして、私もよく使わせてもらってます。。
こういうの好きだなぁ。。
深キョンのNHKドラマ「農家のヨメになりたい」ネタです。
思い出した。それを君島風にメタ咀嚼した感じでしょうか。
引用がきいてますね。。
引用の絶妙さもまた片岡さんならではのワザですよね。
恐れ入ります。。

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