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微笑み同盟・微睡み同盟コミュのフィリピン紀行01

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一章

見上げる天ひとつ

一日目
五月8日(火曜日)

 その前夜、丑三つ時をとうに過ぎても、旅支度は遅々として進まなかった。すでに大枚はたいたというのにやる気のない倦怠感、面倒くさい。ただ、その理由は病気で鬱だからではない、その日買ってきた竹内君にとってのバイブル「地球の歩き方」にある「携行品の最終確認を!」の◎の数が二十を超えていたからだ-------彼はそんな風に、長い電話越しに言い訳をしていた。
 各種取り揃えた電気製品の充電だけは何とかこなしつつ、睡眠薬が効いてきて、普段と変わらない大幅な朝寝坊。パートタイムが午前中だけの彼の父親、竹内博夫が、結局全ての荷物を詰め終えた。入浴もだらだら済ませると当然近場のバス停に間に合うはずもなく、竹内君はやはり、博夫の運転で豊橋駅に到着した。
 ゴールデンウィークが明けたばかりだというのに、列島各地で真夏日を記録している。自称「バックパッカー」の竹内君は、いつものTシャツ半ズボン、そしてサンダル姿。冷房など効くはずもない安宿を巡る予定であった。格安ノースウェスト機内が、上空では寒いほどであることも知らない。また外見が軽装なのはいいが、彼は買ったばかりのA4ノートパソコンで重装備された、立派なスーツケースを片手にしていた。
 空港行きの馬鹿でかいバスは、彼の貸切だった。車に酔うはずもない、自分の運転中でさえすぐに居眠りに就く文にとって、セントレアは限りなく近かった。
 引きこもりの彼は唯一の長電話相手である永沢大に遅れること一年、空港内の厳重な警備員にたびたび声をかけられ,またデジカメを手放すことを知らず、出発前にもはや、完全なおのぼりさんであった。なにしろ、各施設と、ねーちゃん達がホスピタリティ大盤振る舞いで、きれいなこときれいなこと!!
  そんな文の上機嫌をぶち壊したのが、出国管理官のメガネババアであった。文も目はかなり悪く、そのときはパスポートを片手に、ただ女性であろうというだけでその管理官のゲートを選んだ。彼は旅慣れないということもあり、すべての書類が挟まれたパスポートは分厚かった。

「チケットわぁ?」
なんと居丈高で無愛想な言い方だろう、と不愉快に感じながらも、おのぼり気分全開モードが続く文はあたふたしていた。
「あーーー、これ、ですよね?」
両者のあいだにあったしばしの沈黙を破ったのは、女であった。
「それは旅行代理店の渡航案内でしょう?これよ、これ!それにこのマニラ発のチケット出してどうすんのよっ、帰りたくないわけ?」

<きっとやりがいを見出させず、面白くもない仕事なんだろうな・・・>
ゲートをくぐった彼は、そんな「ご苦労さん」という言葉を心の中で彼女にかけていた。

 憮然とした心持は引きずりつつも、<久しぶりのおのぼりだ、うん、ここからは気分全快だ>ノースウェスト機内で、彼の心は心なし弾んでいた。しかしそこはそこ、格安航空会社。文らの担当乗務員は
「ほらよ、枕、枕。」
「ヘッドセット、ヘッドセット。」
モンゴロイドの訛りが強いその言葉遣いに対して、誰でも憮然となるのは自然なこと。
 発音といい、好対照なのが機長のそれだ。発声からして物腰穏やかで、敬語の使い方も心地よい。スタッフ全員差異は無いはずなのに、「乗客の生命財産を預かっている」という責任感と誇りまでもが響くように、文の耳には感じられた。 
対して味はしょうがないにしても夕食を配膳する女性乗務員の応対、いやサービス精神の欠如といおうか、更に、着陸前に備品を回収する例の
「ヘッドセット、ヘッドセット」。客のサンダルを蹴ってもどこ吹く風という早歩きでのサービスは、文を暗澹たる気持ちにさせた。着陸前は突然忙しくなる事情もあろうが、ごみの回収にいたってはもはや、早歩きで無く競歩であった。
「ガベッジ、ガベッジ」
文は思った。
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“Thank you, sir”
までは求めない。が、せめて
“please”
の一言があってもいいのではないか。
更に言えば、アテンダントはサービス業の典型例であるから、笑みを浮かべつつ悠然と歩き、
“Duty free, duty free!”
も客を睨み付けるのではなく、せめて無表情、いや、三波春夫の精神を輸出したい、ところで、海外のマクドのメニューには「スマイル0円」が無いのかな?
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結局、マニラ到着までの四時間は、文に憮然とした気持ちを抱えさせたままでの不快なフライトだったが、いい迷惑は周囲の乗客達であった。彼らは決して忘れることは無い、名古屋の離陸時に文がした実験を。<ぼくの携帯、どこらあたりで圏外になるかな?>
乗務員が文を怒鳴ったのは、恐らくネイティブでも聞き取れないただの怒号であった。

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