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言の葉の積もりゆく処コミュの【05.透明】2.事の起こり

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5.透明
  05.1.異世界への入り口
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19751587&comm_id=1684031
  05.2.事の起こり
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19751796&comm_id=1684031
  05.3.月と透明な影
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19752182&comm_id=1684031
  05.4.妖を打ち破れ
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19752576&comm_id=1684031
  05.5.解決と真相
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19753110&comm_id=1684031
  05.6.透明なものは
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19753157&comm_id=1684031



 通された部屋でも驚かされた。
「応接室でございます」
 木村氏が開けた扉の先は西洋の王城の一室を思わせた。高い天井に据えられた照明は、本で読んだことがあるがシャンデリアと言うものだろう。何十何百といった硝子細工の結晶だ。木村氏に促され、御神が預けた帽子をかける帽子掛けも、なにやら細かい彫刻が施されていた。
 窓の一部には色硝子が使われており、差し込んだ陽光を様々な色に染め上げている。壁際の暖炉には僅かながら薪がくべてあり、風に冷やされた体を暖めてくれた。よく観察してみると、家紋だろうか、何かの花が金で彫刻されていた。花弁の大きな、見たことも無い花だった。
「こちらにお掛けになってお待ちください」
 木村氏に勧められるままに、ふかふかのソファというものにも初めて座った。高級な座布団を何枚も重ねたといえば分かって貰えるだろうか。さらに足元の絨毯は品の良い、暗い赤でまとめられていた。所々に施してある金糸を使った縫い取りが、その品のよさを引き立てる。
 木村氏が出て行ったのには気が付かなかった。我ながら恥ずかしい限りだが、初めて上流階級の生活の一端に触れ、興奮していたに違いない。
「里見。頼むから、そう落ち着きの無い態度はやめてくれないか?」
 多少の笑いを含んだ御神の声に我に帰る。確かに、探偵の助手というにはあまりに落ち着きが無かったかもしれない。
 慌てて座りなおすと、記録係らしく帳面を取り出した。なに、この部屋の内装について書き記しておくだけでも今後の作品で使えるかもしれない、などという貧乏くさい発想から来たものだ。
 少しは待たされることを覚悟はしていたが、屋敷の住人が戻ってきたのはやはりそれから暫く経ってのことだった。だからこその庭の描写があり、部屋の描写ができたのだが。
「お待たせして、申し訳ありませんわね、御神様」
 流れている時間が違うのではないかと思うほど、ゆったりとした声とゆったりとした仕草で入ってきたのはこの屋敷の女主人だろう。明るい青い色のドレスを着こなし、絹だろう白い手袋をした手には軽そうな扇を持っている。
 年の頃は40に手が届くか届かないかといったところか。私達よりも少しばかり年上のように見える。だが浮かべる表情や振る舞いは10代の少女のようだった。
「いいえ。どうかお構いなく、奥様」
 御神は深く頭を下げると、差し出された手袋の上からキスをした。その光景すらも一幅の絵画のようだ。
「ご紹介させて頂きます、奥様。今回、記録係を勤めてくれる里見君です。里見君、こちら華京院家第16代当主浩伸公の奥様。頭を下げるくらいはしたまえよ。手にキスとまでは私も言わないからね」
 その台詞に誘われたように珠を転がすような奥様の笑い声がし、私は慌てて直立不動から、ようやく頭を下げた。正直、どのようにすれば良いのかわからなかったから、御神の軽口は私にとって救いの船のようだった。
「ご機嫌よろしくて、里見様」
 奥様は軽く小首をかしげ、長いドレスのスカートを抓むと会釈をされた。なんと言ったら良いかわからず、私は再び頭を下げた。
「ところで、奥様」
 御神の声はやはり助け舟のように聞こえた。
「今回はどの様な御用の向きでいらっしゃいますか?」
「まぁ、御神様。立ち話もなんですから、どうぞお座りになって。里見様も」
 勧められるがままに私は座り直し、御神も私の隣に腰を下ろした。
「木村、人払いを」
 奥様が一言言うと木村氏は頭を下げて退室し、重苦しい扉の向こうに消えた。おそらく、人が近づかないよう扉の前に立っているのだろう。
「他言無用でお願いいたします」
 そう前置きすると奥様はゆっくりと話し始めた。それまでの華やかな雰囲気はその息を潜め、彼女の眉間のしわに彼女の苦悩が見て取れる気がした。そこに居るのは娘のために悩む、一人の母親だった。


 他言無用でお願いいたします。
 実は、お話というのは我が家の娘の身の上に起きた事についてなのです。
 我が華京院家には当主である浩伸公を除いて男子がおりません。けれど、子宝には恵まれて三人の娘がおります。
 長女の一十美、次女の二美子、三女の三夜子の三人。二美子と三夜子はまだまだ子供でございますが、一十美は女学校も出て、すでに縁談の話が持ち上がっております。
 お相手は、さる華族の次男の方。もちろん華京院家を継いでいただくための婚姻です。梅雨が明けてからと進めておりました。もちろん一十美も相手の方にお会いして承諾し、なんら問題なくお話が進むばかりのはずでした。
 ところが。
 十日程前のことでございます。朝になって一十美が部屋から出てきませんでした。寝坊などする子ではありませんでしたから、心配して部屋まで行ったのですが、鍵が掛けられていて開きません。扉を叩いても返って来る声はなく、耳を澄ましてようやく聞こえたのは一十美のすすり泣く声でした。
 そうこうしていても埒が明きませんので、木村に斧を持ってこさせ、扉を破って私のみ中に入りました。女の勘と言いましょうか。娘の身体に何かあったに違いないと思ったのです。
 中に入りますと、一十美はベッドの真ん中に座り込み、泣いておりました。
「どうしたの、一十美。悲しいことでもあったの?」
 私は隣に座り、問い詰めてしまわないようにゆっくりと声を掛けました。
 一十美はゆっくりと首を振って、またすすり泣くのです。何か言っている様なので耳を口元に近づけてみると、ごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝っていたのです。
 私はその肩を抱き、ゆっくりと抱きしめようとして気付きました。シーツを赤く染めるその染みに。
 一十美はようやく口を開きました。
「ごめんなさい、お母様。ごめんなさい」
 およそ言葉にはなっていませんでしたが、私にはそう聞き取れました。
「いいのよ。何があったか、今は言わなくていいの。だから、ゆっくりお休みなさい」
 私がそう言うと一十美は安心したように私にもたれかかり、泣き疲れたのかいつしか眠っておりました。
 私は信用の置ける屋敷の者に部屋の片づけを任せ、一十美を私の居室へと連れて行きました。
 目が覚めて落ち着いた一十美から聞いたのは、こんな話でした。


  05.3.月と透明な影
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