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言の葉の積もりゆく処コミュの【05.透明】1.異世界への入り口

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5.透明
  05.1.異世界への入り口
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19751587&comm_id=1684031
  05.2.事の起こり
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19751796&comm_id=1684031
  05.3.月と透明な影
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19752182&comm_id=1684031
  05.4.妖を打ち破れ
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19752576&comm_id=1684031
  05.5.解決と真相
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19753110&comm_id=1684031
  05.6.透明なものは
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19753157&comm_id=1684031



 珍しく御神に呼び出され、私、里見藤緒は所在無げに駅舎の片隅に立ち尽くしていた。懐中時計を取り出してみると指定の時間はとうに過ぎている。どうせ待ち合わせに間に合わないのであれば、いつものカフェで待ち合わせる方が良いと思うのだが、なかなか言えない。それが私の気の小ささであり、器の程度なのだろう。
 もう季節は冬から春に向かって駆け足で通り過ぎようとしていた。小春日和と言おうか。この時期にしては強い日差しが透明な毛布のように私を包み、風に冷やされる体を暖めてくれていた。
「里見」
 呼びかけられて振り返れば、片手を上げた御神が悠々と向かってくるところだった。
 いつものように黒の中折れと黒の上下、白いシャツを着た首に巻いた赤いネッカチーフ。違うところと言えば、いつもより靴が磨かれている事位だろうか。
「待たせて済まない。急な用事で出るのが遅れてしまってね。家のほうに電話してみたのだが、誰も出なかったのでそのまま来た」
「ああ、それは済まない。午前中は出版社と打ち合わせをしていたのでね」
「立ち話もなんだ。待たせたついでで悪いが、歩きながら話そう」
 言うなり、御神は先に立って歩き出す。
「どこへ行こうというのだい? 珍しいじゃないか」
 あわてて追いかけながら聞くと御神はいつもの笑みを浮かべた。
「なに、話の種に困っている作家先生に一つご提供しようと思ってね」
「なんだ、これから君の仕事に付き合うことになるわけか」
「まぁ、そういうことだ。悪いが話を合わせてくれ」
 道々話を聞いてみると、どうやらこれから立場ある方の屋敷へと行くらしい。元々は御神の友人のところに行った話が、廻りまわって御神に来たということで、御神自身もあまり話の内容をつかんでいないということだった。
「兎に角、君は記録係ということで触れ込んでおいたから、そのように頼むよ」
 気がつくと大きな門の前に立っていた。


 大きな門だった。黒々と輝くその門は外敵を一切門の内に入れまいとする意思の塊の様に見えた。その脇にある通用口もけして小さくは無いのだが、門の大きさからすると圧倒されている。
 視線を巡らせると、その門から始まり敷地を囲う塀も石造りの立派なものだった。その上には泥棒除けだろう鉄の杭が天を向いて立ち上がり、猫一匹とて登っては居なかった。
 門の前には手に長い棒を持ち、軍服の様な拵えの洋服を着た青年が、直立不動で立って私達の方を値踏みするように見据えている。
 坊主頭だが、顔立ちの整った青年だった。顔の部分部分にめりはりがある。その気の無い私ですら彼の立ち姿に色気を感じたくらいだ。女学生や、男色家が見れば一目で恋に落ちるだろう。
「御神と申します。奥様にお取次ぎ願いたいのですが」
 一歩前に出ると、御神は門番にそう声をかけ、さらに何事かを囁くように言っていた様だが、そこまでは聞き取れなかった。
「少々お待ちを」
 門番の青年は表情を変えることなく、訪問客と知って通用口の中に入っていった。扉が閉まると木と木がぶつかる様な音がした。閂を掛けられたのだろう。
「いいか、話を合わせてくれ給えよ?」
 御神が小声でそう言うが私はあまり聞いては居なかった。
 しばらく待たされて、再び通用口が開いた。出て来たのは先程の青年と、少し頭の禿かけた初老の男性だった。青年に比べるとのっぺりとした顔つきだが、服装を見る限りは一分の乱れもない。しっかりと頭を下げると、良く通りそうな低い声を発した。
「執事の木村と申します。御神様、奥様がお会いになられるそうです。さ、お連れ様もこちらに」
 青年は一つ頭を下げると門の前で再び直立不動の姿勢をとった。私も慌てて頭を下げ返し、するりと通用口に消えていく御神の後を追って、中に入り込んだ。
驚いたのは敷地に入ってからも延々と続く道だ。車でも入れるようにと整備された道が林の奥へと分け入っていく。
「馬車でも仕立てた方がよかったかね?」
 先に立って歩く木村氏を気にしながら、囁く御神の軽口すらも規模が違う。屋敷の屋根はちらりと見えているというのになかなか距離が縮まらない。
「こちらで働かれるのも大変でしょうね」
「いえ、既に数十年お使えしておりますので、もう慣れました」
 御神と木村氏の会話を追い掛けるように足を速めるのだが、油断をすると置いて行かれてしまう。
 数分も歩いたろうか。ようやく見えた屋敷は私の想像を超えていた。歩けど歩けど距離が縮まらないはずで、私の住んでいる一軒家などこれに比べれば掘っ立て小屋、いや、犬小屋のようなものだった。
「もう少しでございます」
 木村氏の声に促されるようにさらに歩を進める。西洋から運んできたかのような煌びやかな佇まいで、侘び寂びと言ったものは感じられない。全くの豪華絢爛が形となっているようだった。
 きっと、その雰囲気に圧されてしまったのだろう。まるで異世界への入口に立たされているような気がした。


  05.2.事の起こり
  http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=19751796&comm_id=1684031

コメント(3)

リンクが切れてるよー。05.2に飛べませんがな。
>satoo
指摘ありがとうございます!
直しておきました(^^

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