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フェイト T. ハラオウンコミュの【SS】 なのはA`s After 1-1

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 1−1


 無限の広がりを錯覚させる、空色の地平線。その地平線から視線を引き、足元の砂の存在を思い出すことで、この場所は、膨大な平面の上にただ砂の造形を施しただけの空間である事を再認識する。日光に似た光は直上から注ぎ、僅かな起伏には陰もない。
 無尽蔵である砂丘のクッションに、疎密波である音は殆ど吸収されてしまい、耳が痛くなるような静けさが漂う。
 だが、クッションの許容を超えた衝撃波だけは、その空間に居る全ての者の体へ伝わり、あたかも体に直接振動を加えられているかのように感じさせた。
 大気を切り裂き、高硬度の物体同士が衝突し、響き合う、独特の轟音。
 それらを奏で、操るのは、遙か上空を自在に飛び交う二人の姿だった。前者が急接近しては間合いを置き、再び急接近を試みる一方で、後者はほぼ自らの位置を変えずにそれらを受けては流す。
 後者は無駄な動きを一切見せずに、相手との間合いを適度に保ちつつ、相手の優勢を押さえ込もうと懸命であった。言い換えれば、防戦一方の、苦戦。

「今日も、押されているな」

 二人が飛び交う様子を、仁王立ちに腕組みの姿勢で見詰めているバリア・ジャケットの青年。クロノはモニター越しに見る後者の戦い様を、独白で評した。砂丘の空間とは隔てられた薄暗いモニタールームの中で、その表情が訝しげになって行くのを、側に座るなのはは見逃さなかった。

「エイミィ。シグナム側のデバイス応答速度を、五ポイント下げてくれないか」

「また、五ポイントも?もう一五ポイントも下げてるのに。それじゃ試験運用の規定外だよ」

 操作卓に着座するエイミィが、クロノの指示を受けてキーを操作し始めると同時に、そう言い返した。

「良いんだ。今日の試験運用メニューはもう終わっている。ちょっとした想定外運用だ」

「はいはい、五ポイント、マイナス、と」

 エイミィは気の抜けた言葉で了解し、操作卓のキーを入力し終えた。
 すると、前者の攻勢が緩むと共に、後者の動きが若干自由になる。しかしそれでも体勢を変える迄には至らず、相変わらず前者の優勢は明らかだった。前者とは、今まさにデバイス反応速度を落とされたシグナムである。

「魔力換算で五〇万の差を付けて、この様子か。デバイスの問題以前に、術者の問題だな、これは」

「ほえ……。今日はクロノ君も辛口なの」

 このところ久しかったクロノの表情と言葉に対し、なのはがふと漏らした一言を、彼は聞き逃さなかった。

「僕、も?」

「あ、ううん、なんでもないの」

 こういう時のクロノが決して不機嫌ではない事は、はのははよく承知していた。だが、日中のアリサ達との出来事をを引き合いに出す気にはなれず、首を引っ込めた。

「術者交戦、ターン6開始から二十分経過、と。いい加減潮時じゃないかな、クロノ君」

 データ収集の為、忙しく操作卓を叩くエイミィがクロノを促した。通常のデータ収集は凡そ五分。十分すぎる時間が経過していた。

「よし、そろそろ終了のアナウンスを…」

 モニター隅のタイムカウントを見て肩を竦めたクロノは、そう言いかけて、言葉を遮られた。それは―――

『そこまでだ、テスタロッサ!』

 あれほど激しい攻勢の主導権を握りながら、息一つ乱さぬシグナムの、喝にも似た声だった。
 その声を引き金にして、両者はそれまで展開させていた魔法陣の輝きを消失させた。緊張していた場の空気が、徐々に周囲の気温を取り込んで緩やかに解放されていく。
 焼けた砂上に降り立ったフェイトは、肩で大きく息をしていた。バルディッシュとは異なる形状をしたストレージ・デバイスを両手で構え、眼前に立つシグナムを見据える。
元来軽量なはずの自身のバリア・ジャケットすら、今の彼女には重たく感じた。

「どうした、テスタロッサ。私を上回るスピードが、お前の持ち味だろう」

 フェイトとは対極の姿にあるシグナムが、同型のストレージ・デバイスの先端をフェイトに向けた。

「ごめんなさい、シグナム」

「いや、謝る事ではない」

 フェイトの言葉にそう返すと、シグナムは使用済みのカートリッジを排莢し、デバイスを待機状態へと変形させた。

「むしろ私は、スピードを生かさぬお前の戦い振りが不思議なだけだ」

 変形したデバイスは、鈍赤色に輝く一握りの宝石に似ていた。それを握り締め、シグナムは続ける。

「私が使ったカートリッジは二発。それに対してお前は六発だ。それに当然気付いているだろうが、デバイスの応答速度でも、そちらが有利なシチュエーションになっている」

「……私の完敗、ですね」

 悔しさとも自嘲ともつかぬ面持ちのフェイトもまた、カートリッジを排莢し、デバイスを変形させた。彼女のそれはシグナムとは色違いの、深い黄金色を呈していた。

「今更、戦いのスタイルを変えようという訳でもあるまい。訳を聞かせてくれないか」

「いいえシグナム、」

 フェイトは小さく首を振り、

「敗者に、語る権利はありません」

 手の中にあるデバイスを握り締めた。

「お互いに、不慣れなストレージ・デバイスが足枷になっているのは解っている。私はアームド・デバイス、お前はインテリジェンス・デバイスの使い手だ。だが、仮に今のお前が手慣れたバルディッシュを使って挑んだとしても、今の状態では私に太刀打ちできないだろう」

 シグナムの言葉を、フェイトはただ無言で受け止めるしかなかった。
 ほんの数日前まで互角の勝負を演じていたはずの二人に生じた、大きな戦力差。その芽生えに気付いたのは、フェイトが先だった。最初は僅かな兆候。それが今日の結果に結びつくまでに、大した時間はかからなかった。

「一時の気の迷いという事もあるだろう。お前は、お前の道に自信を持つべきだ」

 自分への自信。
 フェイトは心に凝りのようなものを感じた。
 「自分」という言葉に、砂礫を藻掻くような、無力感を覚える。
 定まらぬ焦点を漂わせるフェイトに、シグナムはきびを返すように背を向けると、モニタールームで聞いているであろうクロノの名を呼び、砂丘の空間から出るためのゲートを開かせた。

「……シグナム」

 今まさにゲートをくぐろうとしているシグナムを、フェイトが呼び止めた。

「この勝負、次こそは」

「期待している、テスタロッサ」

 シグナムは口元を僅かに緩ませると、そのままゲートの外へ消えた。




「フェイトちゃん、お疲れさまっ!」

 ゲートをくぐると、真っ先に出迎えたのはなのはだった。バリア・ジャケット姿のフェイトと違い、普段着のなのはは、御丁寧にタオルを片手に用意していた。

「なのは、来てたんだ」

 フェイトはバリア・ジャケットの砂塵を大まかに払い落とすと、なのはの差し出したタオルを受け取り、額に浮かんだ汗を拭った。

「お疲れさま。データ収集、バッチリですよぉ」

 操作卓を片手で叩きつつ、エイミィも労いの声を掛ける。モニタールームに既にシグナムの姿はなく、先程まで居たはずのクロノの姿も消えていた。

「試作品のストレージ・デバイスなのに、AAAクラスの魔導士が扱うとが化け物みたいなデータを叩き出して来ちゃってさ。いつも開発グループが喜んでるよ」

「ありがとう、エイミィ」

 フェイトは右手の中にある、待機状態のデバイスを、操作卓の側にある収納ケースの中へ納めた。鈍い黄金色をしていたそれは、まるで色素を吸い取られるように深い蒼色へと変色した。隣のケースには、シグナムが使用していたデバイスが収納されており、同じく深い蒼色をしている。

“Setting All Cleaered, Now Engage Data Reduction Mode. ”

 無機質な電子合成音が、デバイスの初期化完了を告げた。

「わ……!デバイスの色が。エイミィさん、どうして?」

 ケースに収まった、まるで宝石のようなデバイスを見て、なのはが興奮気味に訊ねた。

「おおっと、良い質問だねっ」

 エイミィはまるで自分が開発者であるかのように、得意気な様子を見せた。操作卓のシートから身を乗り出し、なのはが顔を寄せる収納ケースに、同じように顔を近付ける。

「これが、時空管理局が開発中の新型ストレージ・デバイスなのは、知ってるかな?」

「あ、はい。フェイトちゃんから少し聞いてます。本局務めなのに、模擬戦ばっかりやってるって」

「あはは、そっか。やっと執務官補になったのに、確かに模擬戦ばかりして貰ってて、悪いなーとは思ってるんだけど」

「ううん、そんな事は……」

 舌を出しておどけるエイミィに対し、フェイトは返答に困った。クロノを指導官として執務官補の本局務めが始まって数ヶ月。しかしこれといって大きな事件が発生していない日々の中で、今与えられている仕事は、別段不満を抱く内容ではなかった。

「そうだ。この先は、座学を受けてるフェイト執務官補にご教示頂こうかな」

「え、私が?」

「そうそう。これも仕事、仕事。退屈な座学で蓄えた知識を、どーんと披露ですよっ」

 親指を突き出してフェイトに次の句を促すエイミィに、フェイトは記憶の中にある情報を整理し、ゆっくりと語りだした。

「なのはは、氷結の杖、デュランダルを覚えている?」

「デュランダル……。闇の書事件で、クロノ君が使ってた杖の事?」

 懐かしい名前に、なのはは目を丸くして不思議そうな顔をしている。

「そう。そのデュランダルも、いまここにあるデバイスも、同じストレージ・デバイス。このデバイスは、デュランダルをベースに開発されたものなの」

「ほえ……」

 フェイトは続ける。

「管理局の武装隊が使っている杖も、デュランダルと同じ、ストレージ・デバイスでしょう?」

「うん。私もたまに戦技訓練の時に使ってるよ。でもこのデバイスみたいに、カートリッジシステムは付いてないけど」

「そう、いま管理局で正式採用されているデバイスは、ただのストレージ・デバイス。だけど闇の書事件の後、カートリッジシステムの力が管理局内で話題になったらしいの。特に、武装隊員の間でね」

 フェイトはどこから取り出したのか、ミッド式カートリッジをなのはと自分の視線の間へ割り込ませた。二人が使用しているカートリッジと同じ、鈍い真鍮のような輝きを発しているが、大きさは幾分小さい。

「これだけ有用なカートリッジシステムだから、自分たちのストレージ・デバイスにも登載してほしい、そういう要望が武装隊サイドから出たの」

「ほえー。確かに魔力は簡単に上げられるけど……逆に扱いづらくなったりしないのかな?レイジングハートがカートリッジ式になってからしばらくの間は、少し違和感があったけど」

 なのはは眼前のカートリッジとフェイトの間で、焦点を交互に移動させている。

「うん。最初は私達と同じカートリッジを使って実験していたそうだけど、やっぱり術者の魔力とのバランスが悪かったみたい。試作を繰り返していく内に、カートリッジはこのサイズに、そしてベースとなるストレージ・デバイスは素性の良いデュランダルが選ばれたの」

 なのはの視線の先にある蒼色の結晶が、きらりと輝く。エイミィが操作卓を弾く度に、その結晶は何度も瞬いた。

「だから、デュランダルと同じ蒼色をしてるって事?」

「ええと……そうとも言うかな。デュランダルは氷の魔法式がプログラムされていたけど、今開発中のこのデバイスは、術者の扱う魔法式や特性に合わせてリプログラムが出来るの。だから見た目……容れ物は同じでも、中身は全く別物なんだよ」

「その通りっ」

 大きなモーションで操作卓のキーを一押しし、エイミィがその先を続けた。目の前のモニターには、二つのデバイスから吸い上げられている戦術記録が、ずらずらと羅列されていく。

「フェイトちゃんの場合は、機動性が命の戦い方だから、リプログラムをそれに合わせていくと、デバイスの色も変化していくわけ。スピード重視にセッティングすれば、さっきみたいな黄金色になるわけよ」

「じゃぁ、私やシグナムさんみたいに、パワー重視のセッティングをすると?」

「その場合は、赤色に近付いていくの。レイジングハートのようにね」

 フェイトはそう言うと、バリア・ジャケットを解除し、掌にバルディッシュを握った。澄んだ黄金色をしたバルディッシュを見て、なのはは胸元に提げているレイジングハートを取り出した。こちらは、澄んだ紅。

「スピード重視だと、まるでバルディッシュみたいだね。インテリジェント・デバイスじゃないから、喋ったりしてくれないけど。私は、レイジングハートも、バルディッシュも、両方好きだから、なんだか自分達のデバイスに似てるみたいで嬉しいなー」

 “Thank you, Master.”

 待機状態のレイジングハートの言葉。なのはは微笑み、それを胸元へしまい込んだ。

「今日のフェイトちゃんのデバイスは、スピード一辺倒の極端なセッティングにしてたから、ますますバルディッシュに似てたかもね」

 データ収集の完了を確認したエイミィは席を立つと、二人に休憩を勧めた。なのはは頷いてフェイトの方へ顔を向ける。
しかし、フェイトの面持ちは、あまり晴れやかではなかった。

「やっぱり今日のセッティングは、スピード一辺倒、だったんだね」

「ううーん。隠してた訳じゃないんだけど、クロノ君がどうしても極端なセッティングで試験をしてみたいって言うからね。スピード一辺倒でどれだけの性能が出せるか見たかったらしくて」
「そう……。シグナム側のセッティングは?」

 相対するモノへの、至極当然な疑問。その問いに、エイミィは間を置いて答えた。

「今日のシグナムは、今まで通り、ややパワー重視のバランス型だったよ」

 今まで通り。その言葉がフェイトに現実を突き付ける。対する自分は、自らの持ち味を最大に活かせる、スピード型の極みとも言えるセッティング。それだけ有利な条件にありながら、先程の有様を呈した自分に、不甲斐無さを感じた。
 ここ数日で、明らかに解る、戦技の低下。一連の試験を通して見てきたエイミィを始め、モニタールームに居た全員が、それを感じざるを得なかった。
特に長年、パートナーとして側にいたなのはは、如実にその変化を感じていた。それは戦技教導官補としての見解でもあった。
 バルディッシュを手にしたまま、フェイトは何か心当たりでもあるように、少しだけ下唇を噛み締めた。

「まぁなんていうかな……。ここ連日でお手伝いしてもらっていたから、フェイトちゃんも疲れが溜まっているじゃないかな?今日で試験のフェーズ2は終わりだし、フェーズ3が始まる頃には、いつものように戦えますよっ、きっと」

 フェイトの意図する所を察したのか、エイミィがフォローを入れる。

「考えすぎなの、フェイトちゃん」

 なのはも同じく、話題を逸らそうと、頭の中を巡らせた。

「そういえばエイミィさん、クロノ君はリンディさんの所へ?」

「うん、まぁ報告じゃないかな。まったく、お兄さんとして労いの一言でもかけてあげればいいのにねぇ」




 Continued to 1-2...

コメント(1)

うわぁ・・・・・これからの話がすごく楽しみだ・・・・・。(//∀//)

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