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カープファン物語連載中コミュの悪ガキたちの物語 (その?) (連載第2回)

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 昭和40年代前半というと、「所得倍増計画」「高度経済成長」といっても広島はまだのどかなものだった。
ちょっと郊外に出れば、道路の回りは田圃だらけだったし、バスの停留所や国鉄の駅の近くを埋め立て宅地化するのがせいぜいだった。
 家だってどんどん建つようなことは無くて、埋立地にしても空き地のまま1〜2年は草も伸び放題に放っておかれるのがざらだった。
今のようにフェンスで囲まれて誰も入れないなどということも無かったから、遊び盛りの小学生低学年の子供たちにとっては格好の遊び場となっていた。
 この頃各家庭には洗濯機、冷蔵庫と並んでテレビが急速に普及し出していて、番組もチャンネルもあまり多くは無かったが、男の子が関心を持つものといえば、漫画かスポーツ。といってもプロレスか野球をやっているくらいなものだった。
 プロレスは人と人とが殴りあうし、血が流れたりするものだから、当時の白黒テレビでも大人は良くても子供は「教育上良くない」とか言われて見せてもらえないことも多かったので、暑い夏の夜ともなると、もっぱらプロ野球のナイター中継を観るということになるのであった。
 その影響なのか、空き地では鬼ごっこやかくれんぼにも飽きた小学校中学年からは、男の子は学校が引けると日が暮れるまで、休みの日などは日がな一日、各自ぼろグローブ、ぼろバット、擦り切れた軟球ボールを持ち寄って三角ベースの草野球をいつ終わるとも無く延々として遊ぶのであった。
 地元球団広島カープの当時の選手と言えば、セカンド古葉、ショート今津、サード興津、レフト山本一義・・・といった面々で、中でも古豪広島商業高校から法政大学に進み、今やカープの4番打者となった山本一義選手が、その頃の広島の野球少年たちの憧れのスターであった。
 そんな時、子供たちの中の誰が調べてくるのか、町内に何人かカープの選手が住んでいるというのだ。その家の大体の場所を聞いて、2〜3人の仲良しメンバーで自転車部隊を作り、近くまで行っては近所で聞き込み探しあげて目指す選手の家をつきとめる。
そして待ち伏せしてお目当ての選手が家から出てくるのを待って、出て来た所を用意していた帳面にサインをもらう・・・。いつからともなくこんな遊びが大流行することとなった。

 「山本一義選手が祇園長束の高台にある団地に住んでいる!」という噂を少年たちが聞きつけたのは暑い暑い夏休みの最中だった。
 少年たちの住んでいる所から長束は少し遠かったし、山を切り開いた団地の上まで上っていかねばならなかったから、途中で一服入れる必要があった。当時飲み物はビンのラムネくらいで自動販売機の缶ジュースなんて気の効いた物はまだ無かったから、バナナ一本かりんご1個を当時はやりの5段変速切替ギアつきの自転車の荷台にくくりつけたバッグに入れて、大田川の新庄の川土手まで来た辺りで一息入れてこれを食べるのだ。
 ヒーコラ言いながら坂を登った少年たちは、目指す山本一義選手の家の前に着いた。
 クリーム色をした2階建ての大きな家だ。今までに行ったカープのどの選手の家よりも大きい。さすがわれらがカープの4番打者の家だ。
さて家は突き止めたものの誰も正面から呼び鈴を押す勇気のある者はいない。それどころか子供のすることだから、一体中にお目当ての選手がいるのかどうかもさっぱり判らない。
 待っても待っても誰も出て来ないし、家の中もシーンと静まり返っている。待ちあぐねた子供たちは、家の前に自転車を停めて、終いには、
 「オーイヤマモトカズヨシさ〜ん」
 「おったら出てきんさーい」
それでも何の音沙汰も無いのでとうとう
 「ヤマモトカズヨシ、お前の母さんデーベーソー」
 「やーいヤマモト、おったら出て来ーい」
などと面白がって滅茶苦茶に騒ぎ立てだした。
 その時、勝手口がスッと開き、中からひょこっと姿を現したのは紛れも無い山本一義選手その人であった。
 「こらーっ!うるさいぞ。赤ちゃんが寝てるのに起きるじゃないか」
 けっして怒鳴る訳ではないが、低く厳しいひと言だった。
子供たちは恐る恐る近づいて、
 「すみません。サインして下さい」
頼み込むと勝手口から身を乗り出したまま、ささっとサイン帳にペンを走らせた。
 「もう騒いだらいけんぞ!」
 カープの4番打者に会ってサインまでもらったことが嬉しくて、以後そのサイン帳は家宝となった。
 ついでに学校で言い触らしたため、以後山本邸に続々と子供が押しかけたのは言うまでも無い。

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