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お下書房コミュの第9話 えびちゃんの恩返し

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みつめていたいよ

あなたの呼吸のひとつひとつを

あなたの動きのひとつひとつを

わからないの

わたしはあなたのものだということを

わたしの胸が痛む

あなたがどこかに行くたびに

あなたがいなくなってから

わたしは自分を見失い

傷をなおすこともできない

夢の中でさえあなたに会いたいよ

わたしはこんなにもあなたを求めているんだもの

みつを


僕はここまで彼女の手紙を読んで思い当たった。
これはあの頃、公園であの白猫を膝に乗せて
よく口ずさんでいたあの曲ではないか。
僕は手紙の続きを追った。

だましてごめんね。
悪気はなかったんです。
ただあなたに会いたくて、
あのえびちゃんという女の子の体を借りてしまいました。
彼女には悪いことしました。
あなたの大好きなあの子の体でも借りないと、
あなたが相手にしてくれないと思ったから。

あなたはまんまとわたしの策略にハマり、
一緒にいてくれました。
しょこたんの体にしようか迷ったけど、
あなたあの子だったらすぐに襲うでしょ。
しょこたんギザカワユスとか叫んで。
いちお借り物の体ですからね、
えびちゃんだったらあなたも迂闊に
手を出さないだろうと思って。

でも少しの間、あなたと人間の恋人のように
過ごせてとても幸せでした。

あなたはすごくやさしい。
相手がえびちゃんだったというのもあるけど、
もともとが心やさしい性格なのでしょう。

体を借りると、知能も人間と同じになるのですね。
あなたの口ずさんでいたあの歌。
人間の体に移ってからようやく意味がわかりました。
いい曲ですね。
わたしのあなたへの気持ちとまったく同じですから。

どうやらわたしの命もあとわずかなようです。
一匹だけではやはり生きてはいけません。
あまり食べれなくて栄養が足りないみたい。
わたしは最後にひとつだけ願い続けました。
それは孤独で淋しかったわたしと
一緒にいてくれたあなたと過ごしたいということ。

空腹に耐えながら、わたしは願い続けました。
そしたらなぜか叶ってしまいました。
えびちゃんみたいに綺麗な人と過ごせれば
あなたも嬉しかったでしょ。
だからこれはわたしの恩返し。

わたしはこの体をあるべき場所に返しにいきます。
それから公園にある自分の体に戻ります。
やっぱり最期を迎えるなら自分の体がいいです。

それじゃありがとね。

少しの間だけどあなたと愛し合えて、本当によかった。
体には気を付けて、みんなと仲良くして、長生きしてね。

さよなら


僕の彼女に対する疑問が氷解した。
胸に張りついた氷は涙となり、
溢れだして止まることを知らない。
手紙の上に涙がこぼれ落ちて、数多くの波紋となる。

僕は手紙を置いて枕を抱き締め、そして声をあげて泣いた。
こんなことなら彼女を冷たく問い詰めるべきではなかった。
彼女はただ、本当に僕と一緒にいたかっただけなのだ。
早く気付いてもっとやさしくしてあげるべきだった。
思えば僕は彼女に対して常に後向きで、
彼女の思いに真っすぐに向き合おうとしなかった。
彼女は本当に僕を愛してくれていたのに。

はじめてどれだけ僕が彼女を愛していたのか気がついた。
しかしもう遅い。
後悔先に立たず。
彼女はもう息耐えてしまうだろう。
ひょっとしたらもう・・・。
なぜ人という生き物は、手遅れになってからしか
正しい答えに気付かないのだろう。

ひとしきり号泣してから、僕は枕から顔を離した。
泣いている場合じゃない。

僕にできること、それは公園のベンチで
うずくまる彼女を迎えにいき、
この胸に強く抱き締めてあげることだ。

もし生きていたら、すぐに救い出す。
死なせてたまるか!こんなに僕を思ってくれた彼女を。

急いで帰り支度を終え、
ロビーに駆け降りて受付に金を支払おうとした。
さっきの受付嬢が僕の顔を見てゾッとする。
そりゃあれだけ泣いたらな。

代金はいただいております、
と受付嬢が引きつった顔で言った。
そうですか、僕は取り出した財布をしまおうとした。
彼女が払っておいてくれたのか。

しかし僕は財布の中身を見てゾッとした。
7円とフィリックス君ガムの当り券しか
入ってなかったからだ。
そういえば来るときに、
たまには俺が出すっつってそばをおごったんだった。
あれで使い果たしたんだっけ。

とにかく彼女の気遣いに感謝する。

旅館を出てラブリー・ウルフをリモコンで呼び寄せる。
すぐにソーサーが飛んでくる。
僕は来るなり、奴に飛び乗り、
始めからエンジンをフルスロットルにしてかっ飛ばす。

頼むから、生きていてくれよ・・・。

はかない願いをこめて、僕はソーサーを飛ばした。
行きは晴れ渡っていた空が、帰りはよどんでいた。
今に一雨来るだろう。
しかしそんなことはどうでもいい。
雨が降ろうが、雷が落ちようが、地が裂けようが、
僕は彼女を迎えに行く。
僕を愛してくれた彼女を助けに行く。

だって何もかも失ってしまったように
思っていたんだけど、雨が降れば本当に彼女が


好きなんだよ・・・

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