中国コミュの世界聖火リレー　　2008年04月10日　宮崎日日新聞社

最悪回避の対中外交を望む

　返還前の沖縄から空路で鹿児島まで運ばれた東京五輪の聖火を覚えている。

　本土での第１走者は女性だった。白を基調にしたランニングシャツとパンツ姿で手には炎と煙を吐くトーチを手にしていた。トーチを高く掲げた瞬間の姿に胸がじんとなった。

　４４年前の１９６４（昭和３９）年。あの時と同じ火に憎悪と抗議の意志が向けられている。

　北京五輪の世界聖火リレーに対する抗議行動が相次いでいる。ロンドンでは聖火を奪おうとしたり、消火剤をまき散らしたりする妨害行為が発生。パリでは抗議の市民が沿道に殺到した。主催者側は聖火トーチの炎を消し、リレーを打ち切るという事態になった。

■国威発揚の色彩濃い■

　チベット暴動への中国当局の対応を批判する市民や人権団体が起こしているのだが、平和の祭典の行事としては極めて異常である。

　中国政府は危機感を強め、「崇高な五輪精神を冒涜（ぼうとく）し、五輪を心から愛する全世界の人々への挑発」と批判している。伝わってくるチベット情勢を見聞きする限り、今の中国がこのような高邁（こうまい）な表現を使って、自己を正当化し、抗議行動に走る人たちを非難する資格があるとは思えない。

　なんのための聖火リレーの世界展開なのか。実現はしなかったが、台湾を通過する構想や、世界最高峰チョモランマ（英語名エベレスト）の山頂に持ち込む計画もあったという。聖火リレーの通過地点の選定は政治的な選択でもあった。つまり、国威発揚的な色合いが濃いということだ。

　商業的な動機もある。４年前のアテネ五輪で初めて世界聖火リレーが採用されたのは、国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）の国際的なスポンサーが自分たちを売り込むための世界的ＰＲ活動に、うってつけのイベントと判断したからだ。今回は三社が聖火リレーのスポンサーになっている。

■判断の甘さ混乱招く■

　こうした思惑が背後にあるにもかかわらず、ＩＯＣは五輪機運が開催都市だけでなく、世界の各都市で高まるのなら反対理由はないと、お墨付きを与えた。その判断の甘さが混乱を招いた。

　だとしても、４カ月後に北京で世界の若者が笑顔で集えないような事態になるとすれば、五輪運動にとって大きなマイナスになる。

　東京五輪で聖火ランナーを務めた県内在住者は、五輪のたびに聖火ランナーが手にするトーチに関心を寄せる。そして、五輪が政治や商業主義によって蹂躙（じゅうりん）されることを憂い、「スポーツと政治は一線を画すべきだ」と訴える。

　今回、聖火ランナーとしてエントリーした人たちも、それぞれの思いを込めながら担当区間を走ろうと考えているに違いない。

　２６日には長野市でも聖火リレーが行われる予定だ。チベット情勢をめぐる怒りや憤りは理解できるが、聖火ランナーへの危険を伴う行為は容認できない。日本政府も英仏のような事態を招かないように、チベットと北京五輪の両方を視野に入れ、適切な対中外交を行うべきだ。
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